「さっさと出て行けええええ! この愚か者おおおお! いくらポーションを飲んでも治らんだろうがああああ!」
「お、おやめください! エラブル様! いてっ! 物は投げないでくださいって!」
医術師へ向かって、灰皿やペーパーナイフやらを投げまくる。
街で一番有名という話だったが騙されたようだ。
咳は全く治まらないし、熱だって下がらない。
目はかすむ、腹は痛い、頭は痛い、胸は痛い……もはや、健康なところを探す方が大変だった。
「貴様にいくら払ったと思っているのだあああ! どうして治せないのだあああ! 貴様は本当に医術師なのかああああ!」
「エ、エラブル様! 私にもどうにもできないほどの病なのでございます! こんなに消えない瘴気は、初めてでございます!」
「黙れえええ、黙れえええ、黙れええええ! 貴様の無能の言い訳をするなあああ! 瘴気など、どこにもないではないかああああ!」
こいつの調合するポーションはやたらと高く、2週間で2500万エーンも払った。
いや、クッテネルングの分もあるから、合計5000万エーンだ。
効果はないどころか、体調はより悪化している。
ものすごい大損をしてしまった。
この医術師のせいだ。
「貴様のせいでさらに具合が悪くなったじゃないかああああ! どうしてくれるのだああああ! この詐欺師めええええ!」
私は医術師の首を締め上げる。
だが、全然力が入らなかった。
「ひいい、命だけはお助けを!」
医術師は大慌てで走り去る。
まったく、医術師の風上にも置けないヤツだったな。
「ゲホッ! この街にはろくな医術師がいないのかああああ!? 使用人んんん! 私が呼んだらさっさと来ないかああああ!」
「も、申し訳ございません、エラブル様! この街にさっきの医術師以上の方はいないかと……! てめえがそんなんだから、治るもんも治んねえんだよ。このデブキノコが」
「何か言ったかああああ!?」
「いえ、なんでもございません!」
おかしい、あれからさらに体の具合が悪くなっている。
いくら高価なポーションを飲んでも、一向に良くならないのだ。
いったい、どれだけ質の悪い風邪にかかったというのだ。
騒いでいるとクッテネルングが来た。
私以上に体調が悪いようで、死んだゴブリンのような目をしていた。
「ち、父上ぇぇぇ……医術師はぁぁぁ……?」
「あんなヤツ追い返したわあああ!」
「エ、エラブル様、お手紙でございます。例の盗賊団の方たちからです」
そこで、使用人が手紙を持ってきた。
少しだけ気持ちが晴れる。
ユチの殺害が完了したのだ。
「ふんっ、さっさと渡せえええ」
奪い取るように手紙を受け取る。
クッテネルングもワクワクした様子だった。
「やれやれ、クソユチが死んだと思うと楽しくなるなあああ」
「クソ兄者の死にざまは、どんな感じかなぁぁぁ?」
私たちは嬉々として手紙を読んでいく。
だが、読み進めるにつれ怒りが抑えきれなくなってきた。
「なんだ、この手紙はああああ!」
「どういうことだよぉぉぉ!」
盗賊団にしてはやけにキレイな字でこう書いてあった。
なぜか言葉遣いも、初対面の時からは想像もつかないほど美しい。
【依頼は中止いたします。ユチ様にお会いしましたが、大変素晴らしい人物でございました。出会っただけで天命を受けました……この人の元で働けと。私たちの心が美しくなるのを感じました。私はきっと、ユチ様にお会いするために生まれてきたのでしょう。というわけで、私たちはユチ様に人生を捧げます。さようなら、デブキノコ様】
「ふざけるなああああ(ぁぁぁ)!」
クッテネルングとともに、手紙をめちゃくちゃに破り捨てる。
はらわたが煮えくり返るほど腹立たしい。
デブキノコだと! ふざけるな! 私ほど見目麗しい男など、この世に二人といないだろうが!
私に対する暴言もそうだが、何よりも……。
「ゴミユチの元で働くだとおおおおお!? 人生を捧げるだとおおおおお!? 寝言は寝てから言えええええ……ゲホッ! ゴホッ! ガッハァ!」
「なに、クソ兄者の仲間になってるんだよぉぉぉ! ちゃんと仕事しろぉぉぉ……ガホッ! ゲッヘェ!」
「あいつらに払った1000万エーンが無駄になったではないかああああ!」
高価なポーション代と合わさると、恐ろしいほどの損失だ。
おまけに、セリアウス侯爵の代わりになりそうな取引先も決まらない。
こ、このままではまずいぞ。
「ゲホオオオッ! れ、例のヤツは来ているのかああああああ!?」
私はいつものように使用人を怒鳴りつける。
「は、はい! いらっしゃっています! もう部屋の前までご案内いたしました……って、あれ? どこに行った?」
使用人の後ろには誰もいない。
マヌケな顔でキョロキョロ辺りを見ていた。
「この愚か者おおおお! 誰もいないではないかああああ! 私を舐めているのかあああ! 死刑にするぞおおおお!」
「お、お待ちください、エラブル様! 確かに、さっきまでここに……!」
「貴様が今回の依頼人か」
気が付いたとき、私の背後にそいつはいた。
びっくりして心臓が止まりそうになった。
漆黒の暗殺者〔ジェットブラック〕。
裏では名の知れたSランクの殺し屋だ。
その名の通り、漆黒の衣服に身を包んでいる。
黒すぎて男か女かもわからん。
「お、驚かすなああああ! 部屋に入ったのなら、入ったとそう言えええええ!」
「うるさい。殺人の依頼と聞いているが?」
ずいぶんと偉そうなヤツだ。
その不敬な態度をへし折ってやろうとしたが、威圧感がすごくて諦めた。
「こ、この男を殺せええええ!」
私はユチの似顔絵を机に叩きつける。
「…………フンッ、マヌケそうな顔だな」
「そいつは私の愚息、ユチ・サンクアリだああああ。今はデサーレチで領主をやっておるうううう。そいつの首を持ってこいいいい」
「デサーレチね……ずいぶんと辺鄙なところだ」
いつの間にか、クッテネルングは姿を消していた。
あの臆病者が。
「それとAランク盗賊団〔アウトローの無法者〕も、なぜだかユチの仲間になったようだああああ。そいつらも一緒に殺してこいいいい!」
「わかった。容易い御用だ」
「貴様のことを信用していいんだろうなああああ? 決して安い金ではないぞおおおお!」
こいつに支払ったのは盗賊団どもの時の5倍、5000万エーンだ。
しかも、全額前払いときた。
我がサンクアリ家はそこら辺の金持ちとはわけが違うが、さすがに無視できる金額ではない。
ポーションのこともあって、そろそろ負担がのしかかってきた。
「わかっている、私はプロだ。金さえ払えば、どんな仕事でも確実に達成する。今までの依頼達成率は100%だ」
「よい結果を期待しているぞおおおお」
その直後、すでに“ジェットブラック”は消えていた。
気配がないどころか、音すらしなかった。
さすがは、手練れの暗殺者だ。
私は安心する。
これなら、ユチを殺すことは簡単だろう。
さて、祝いの高い酒を用意しておかんとな。
クソユチめ、覚悟しろ!
ゲホオオオオッ! ガッハアアアアア!
「お、おやめください! エラブル様! いてっ! 物は投げないでくださいって!」
医術師へ向かって、灰皿やペーパーナイフやらを投げまくる。
街で一番有名という話だったが騙されたようだ。
咳は全く治まらないし、熱だって下がらない。
目はかすむ、腹は痛い、頭は痛い、胸は痛い……もはや、健康なところを探す方が大変だった。
「貴様にいくら払ったと思っているのだあああ! どうして治せないのだあああ! 貴様は本当に医術師なのかああああ!」
「エ、エラブル様! 私にもどうにもできないほどの病なのでございます! こんなに消えない瘴気は、初めてでございます!」
「黙れえええ、黙れえええ、黙れええええ! 貴様の無能の言い訳をするなあああ! 瘴気など、どこにもないではないかああああ!」
こいつの調合するポーションはやたらと高く、2週間で2500万エーンも払った。
いや、クッテネルングの分もあるから、合計5000万エーンだ。
効果はないどころか、体調はより悪化している。
ものすごい大損をしてしまった。
この医術師のせいだ。
「貴様のせいでさらに具合が悪くなったじゃないかああああ! どうしてくれるのだああああ! この詐欺師めええええ!」
私は医術師の首を締め上げる。
だが、全然力が入らなかった。
「ひいい、命だけはお助けを!」
医術師は大慌てで走り去る。
まったく、医術師の風上にも置けないヤツだったな。
「ゲホッ! この街にはろくな医術師がいないのかああああ!? 使用人んんん! 私が呼んだらさっさと来ないかああああ!」
「も、申し訳ございません、エラブル様! この街にさっきの医術師以上の方はいないかと……! てめえがそんなんだから、治るもんも治んねえんだよ。このデブキノコが」
「何か言ったかああああ!?」
「いえ、なんでもございません!」
おかしい、あれからさらに体の具合が悪くなっている。
いくら高価なポーションを飲んでも、一向に良くならないのだ。
いったい、どれだけ質の悪い風邪にかかったというのだ。
騒いでいるとクッテネルングが来た。
私以上に体調が悪いようで、死んだゴブリンのような目をしていた。
「ち、父上ぇぇぇ……医術師はぁぁぁ……?」
「あんなヤツ追い返したわあああ!」
「エ、エラブル様、お手紙でございます。例の盗賊団の方たちからです」
そこで、使用人が手紙を持ってきた。
少しだけ気持ちが晴れる。
ユチの殺害が完了したのだ。
「ふんっ、さっさと渡せえええ」
奪い取るように手紙を受け取る。
クッテネルングもワクワクした様子だった。
「やれやれ、クソユチが死んだと思うと楽しくなるなあああ」
「クソ兄者の死にざまは、どんな感じかなぁぁぁ?」
私たちは嬉々として手紙を読んでいく。
だが、読み進めるにつれ怒りが抑えきれなくなってきた。
「なんだ、この手紙はああああ!」
「どういうことだよぉぉぉ!」
盗賊団にしてはやけにキレイな字でこう書いてあった。
なぜか言葉遣いも、初対面の時からは想像もつかないほど美しい。
【依頼は中止いたします。ユチ様にお会いしましたが、大変素晴らしい人物でございました。出会っただけで天命を受けました……この人の元で働けと。私たちの心が美しくなるのを感じました。私はきっと、ユチ様にお会いするために生まれてきたのでしょう。というわけで、私たちはユチ様に人生を捧げます。さようなら、デブキノコ様】
「ふざけるなああああ(ぁぁぁ)!」
クッテネルングとともに、手紙をめちゃくちゃに破り捨てる。
はらわたが煮えくり返るほど腹立たしい。
デブキノコだと! ふざけるな! 私ほど見目麗しい男など、この世に二人といないだろうが!
私に対する暴言もそうだが、何よりも……。
「ゴミユチの元で働くだとおおおおお!? 人生を捧げるだとおおおおお!? 寝言は寝てから言えええええ……ゲホッ! ゴホッ! ガッハァ!」
「なに、クソ兄者の仲間になってるんだよぉぉぉ! ちゃんと仕事しろぉぉぉ……ガホッ! ゲッヘェ!」
「あいつらに払った1000万エーンが無駄になったではないかああああ!」
高価なポーション代と合わさると、恐ろしいほどの損失だ。
おまけに、セリアウス侯爵の代わりになりそうな取引先も決まらない。
こ、このままではまずいぞ。
「ゲホオオオッ! れ、例のヤツは来ているのかああああああ!?」
私はいつものように使用人を怒鳴りつける。
「は、はい! いらっしゃっています! もう部屋の前までご案内いたしました……って、あれ? どこに行った?」
使用人の後ろには誰もいない。
マヌケな顔でキョロキョロ辺りを見ていた。
「この愚か者おおおお! 誰もいないではないかああああ! 私を舐めているのかあああ! 死刑にするぞおおおお!」
「お、お待ちください、エラブル様! 確かに、さっきまでここに……!」
「貴様が今回の依頼人か」
気が付いたとき、私の背後にそいつはいた。
びっくりして心臓が止まりそうになった。
漆黒の暗殺者〔ジェットブラック〕。
裏では名の知れたSランクの殺し屋だ。
その名の通り、漆黒の衣服に身を包んでいる。
黒すぎて男か女かもわからん。
「お、驚かすなああああ! 部屋に入ったのなら、入ったとそう言えええええ!」
「うるさい。殺人の依頼と聞いているが?」
ずいぶんと偉そうなヤツだ。
その不敬な態度をへし折ってやろうとしたが、威圧感がすごくて諦めた。
「こ、この男を殺せええええ!」
私はユチの似顔絵を机に叩きつける。
「…………フンッ、マヌケそうな顔だな」
「そいつは私の愚息、ユチ・サンクアリだああああ。今はデサーレチで領主をやっておるうううう。そいつの首を持ってこいいいい」
「デサーレチね……ずいぶんと辺鄙なところだ」
いつの間にか、クッテネルングは姿を消していた。
あの臆病者が。
「それとAランク盗賊団〔アウトローの無法者〕も、なぜだかユチの仲間になったようだああああ。そいつらも一緒に殺してこいいいい!」
「わかった。容易い御用だ」
「貴様のことを信用していいんだろうなああああ? 決して安い金ではないぞおおおお!」
こいつに支払ったのは盗賊団どもの時の5倍、5000万エーンだ。
しかも、全額前払いときた。
我がサンクアリ家はそこら辺の金持ちとはわけが違うが、さすがに無視できる金額ではない。
ポーションのこともあって、そろそろ負担がのしかかってきた。
「わかっている、私はプロだ。金さえ払えば、どんな仕事でも確実に達成する。今までの依頼達成率は100%だ」
「よい結果を期待しているぞおおおお」
その直後、すでに“ジェットブラック”は消えていた。
気配がないどころか、音すらしなかった。
さすがは、手練れの暗殺者だ。
私は安心する。
これなら、ユチを殺すことは簡単だろう。
さて、祝いの高い酒を用意しておかんとな。
クソユチめ、覚悟しろ!
ゲホオオオオッ! ガッハアアアアア!