「ゲッヘェェェ。ブエェェェ。こ、こんなにしつこい風邪は始めてだぁぁぁ」
全然体が治らない。
頭はいつも熱でぼんやりしているし、目はチカチカしていて、少し動いただけでものすごく疲れた。
良くなるどころか、毎日悪くなっている気がする。
どうして治らないんだ。
1日6回のおやつだって5回に減らしているし、苦い薬だって砂糖をたくさん入れて甘くして頑張って飲んでいるのに……。
でも、僕ちゃまは朝からウキウキしていた。
「今日はエフラルちゃんと初めて会う日だぁぁぁ~。実物はどんなにかわいいのか楽しみだなぁぁぁ~」
僕ちゃまの婚約者――ポリティカ男爵家のエフラルちゃん。
14歳になった時、父ちゃまが見つけてきてくれた。
まだ肖像画しか見たことないけど、僕ちゃまの好みにピッタリだった。
透き通るような白い肌に、眩しいくらいの金髪。
くるりとしたブルーの瞳が本当にかわいい。
気がついたら、デヘヘヘェェェと涎が出ていた。
「クッテネルング様、エフラル様がお着きになりました」
エフラルちゃんが着いたと聞いて、体の不調が吹っ飛んだように軽くなる。
ルンルンしながら玄関へ向かった。
こじんまりとした馬車から、妖精みたいな女の子が降りてくる。
肖像画で見たよりもずっと儚い雰囲気だった。
「ク、クッテネルング様……お初にお目にかかります……エフラル・ポリティカでございます……」
うっひょー、なんて可愛い声なんだ。
小鳥がさえずるような声って、こういうことを言うんだな。
もっと聞きたくなる。
「僕ちゃまはサンクアリ家のクッテネルングだぁぁぁ。よろしくぅぅぅ」
「は、はい……よろしくお願いいたします……」
エフラルちゃんの表情は暗い。
きっと、僕ちゃまに会うのが待ち遠しくて、待ちくたびれてしまったのだろう。
使用人たちも哀れみの表情でエフラルちゃんを見ている。
でも、もう大丈夫だ。
僕ちゃまはここにいるぞ。
「お、お父様、本当に行かなくてはいけませんの……!」
「エフラル。私も悪いと思っている。頼む、ポリティカ男爵家のために頑張ってくれ」
エフラルちゃんとポリティカ男爵は涙ながらに見つめ合っている。
まるで、今生の別れみたいな雰囲気だ。
何も今日結婚するというわけでもないのに大袈裟だな。
まぁ、僕ちゃまが幸せにするから安心してよ。
「……ぐすっ」
エフラルちゃんが涙を拭きながらやってくる。
僕ちゃまに会えて、そんなに嬉しいんだね。
「さあぁぁぁ、外でお茶でも飲もうかぁぁぁ」
「は、はい……ぐすっ」
僕ちゃまはテラスに案内する。
屋敷の部屋でお茶会する予定だったけど気分が変わった。
サンクアリ家の領地を見せびらかそう。
しかし、テラスには何の用意もされていなかった。
「コラァァァ! どういうことだぁぁぁ! ちゃんとお茶の用意をしておけよぉぉぉ!」
怒鳴り散らしていると、使用人たちが慌ててやってきた。
「ク、クッテネルング様!? しかし、お茶会はお部屋でやると昨日……!」
「なんだぁぁぁ!? 口答えするのかぁぁぁ!? 貴様をクビにしてやってもいいんだぉぉぉ!」
「も、申し訳ございません! 今すぐ用意いたします!」
怒鳴りながらもエフラルちゃんに向かって得意げな顔をして見せる。
使用人に厳しい次期当主。
カッコイイでしょ?
そのうち、使用人が大慌てでお茶やら軽食やらを持ってきた。
相変わらず、エフラルちゃんを憐れんでいるようだ。
だから、もうその必要はないんだよ。
僕ちゃまに会えたんだからさ。
一通り準備は整ったが、キャンディースティックが無い。
僕ちゃまのお気に入りのお菓子だ。
「おいぃぃぃ! どうして、キャンディースティックがないんだよぉぉぉ!」
僕ちゃまは使用人たちをめちゃくちゃに怒鳴りつける。
エフラルちゃんにカッコイイところを見せるのだ。
「し、失礼いたしました、クッテネルング様。持って参りました」
ようやく、キャンディースティックがやってきた。
「ああぁぁぁ、美味いなぁぁぁ」
僕ちゃまはキャンディースティックを、上から下まで思いっきり舐めまわす。
エフラルちゃんが釘付けになっていた。
食べ方のカッコよさに夢中になっているのだ。
「エフラルちゃんも食べるぅぅぅ?」
僕ちゃまは食べかけのキャンディースティックを差し出した。
せっかくだから少し分けてあげる。
これぞ紳士の振る舞いだ。
だが、エフラルちゃんは石像のように固まった。
「い、いえっ……! け、結構でございますわっ……! あ、甘い物は控えておりますのでっ……!」
顔の前で両手をブンブン振って断られた。
そうか、そんなに甘い物が嫌いなのか。
「クッテネルング様……肖像画を拝見してから、ずっとお伝えできなかったことがありますの……ですが、今その決心がつきました……」
「何かなぁぁぁ? エフラルちゃ~んんん?」
さりげなく近寄ったけど、さささっと身を引かれた。
そんなに気を使わなくてもいいのに。
「あ……」
「あぁぁぁ?」
エフラルちゃんは何かを言いかけたまま動かない。
何やら、覚悟を決めているような気がする。
そうだ、わかったぞ。
あなた様のことが好きで好きでたまらないのです、って言いたいんだな。
――やれやれ、モテる男は辛いなぁぁぁ。
モテる僕ちゃまだが、こんな可愛い娘に面と向かって言われたら、さすがに緊張する。
深呼吸して告白を受け止める準備をした。
心なしか体調も良くなってきた気がするぞ。
さあ、エフラルちゃん。
思いっきり僕ちゃまの胸に飛び込んでおいで。
「あ……あなた様との婚約を破棄させていただきますわ!」
…………え? 今なんて言った? 婚約破棄……?
「アハハハハァァァ、エフラルちゃんんん。そんな冗談は良くないよぉぉぉ」
僕ちゃまは紳士だから怒ったりなんかしない。
大丈夫わかっているよ。
これは貴族ギャグだよね。
エフラルちゃんは意外にもこういうギャグが好きらしい。
「じょ、冗談ではありませんわ! あなた様と結婚など……ぜ、絶対にイヤでございます!」
エフラルちゃんは、さらにキツい声で言ってきた。
至って真剣な表情だ。
ま、まさか……本気で言っているの……?
「エフラルちゃんんん、どうしてそんなことを言うのぉぉぉ? 僕ちゃまはサンクアリ伯爵家の次期当主で、<ドラゴンテイマー>のスキルだってあるんだよぉぉぉ」
「は、話し方も気持ち悪いですし、瘴気まみれで汚いですし、こんな方と結婚などしたくありません!」
「エ、エフラルちゃんんん? だから、冗談はやめてってぇぇぇ……」
エフラルちゃんまで瘴気がうんぬんと言ってきた。
長旅で幻覚を見てしまっているんだ。
キスして目を覚まさせて上げないと。
慌てて近づくけど、エフラルちゃんはすごい勢いで逃げる。
「近寄らないでくださいます!? 汚くて仕方ありませんわ!」
ど、どうしよう……そうだ!
キャンディースティックを上げて機嫌を直してもらおう。
ずいっとエフラルちゃんに差し出す。
もちろん、僕ちゃまの唾でしっかりコーティングしてね。
「ほらぁぁぁ、エフラルちゃんんん。美味しいお菓子だよぉぉぉ」
「もういやーー!」
エフラルちゃんは猛スピードで玄関へ走って行く。
だから、どうして逃げるのさ。
僕ちゃまも痛む身体を引きずるようにして追いかける。
「ま、待ってよぉぉぉ、エフラルちゃんんん、なんで婚約破棄しちゃうのぉぉぉ」
「ついてこないでー! 助けて、お父様ー!」
そのまま、ポリティカ男爵に抱きつく。
「お父様、ごめんなさい! 私もう耐えられません! この方との結婚だけはできません! お願いです、お家に帰らせてください!」
「エフラル! 私も悪かった! 辛い思いをさせてしまったな! さあ、家に帰ろう! クッテネルング殿! この話は無かったことで!」
「ちょ、ちょっとポリティカ男爵ぅぅぅ、エフラルちゃんんん」
馬車はエフラルちゃんたちを乗せると、あっという間に走り去っていく。
僕ちゃまはポツンと取り残された。
ぼんやりした頭では、何が起きているのか全く分からない。
モテる僕ちゃまがフラれるなんて有り得ない。
いったい、どうして……?
そういえば、クソ兄者を追い出してから色々おかしくなってきているような……。
その瞬間、賢い僕ちゃまは全てを理解した。
「そうだぁぁぁ! クソ兄者だぁぁぁ! 出て行くとき変な魔法をかけたんだぁぁぁ! そうに決まっているぅぅぅ! 父ちゃまも言っていたじゃないかぁぁぁ!」
今さら謝ってきても絶対に許さない。
可愛い可愛いエフラルちゃんとの結婚を台無しにされたのだ。
何があっても復讐してやるぞ!
「とりあえず、食料はなんとかなりそうだけど飲み水がなぁ」
「おっしゃる通りでございます」
畑から作物は採れるわけだが、水はどうするかな。
領民たちも喉が渇いたらキレイな水を飲みたいだろうし。
「ソロモンさん、みんなはどうやって飲み水を確保していたんですか?」
「一応、川があることにはあるのですが、ひどく汚れておりましてな。畑に使うくらいしかできなかったのですじゃ。ワシらは雨水を溜めてなんとか生き永らえておりました。ワシも身体が弱って、魔法が全然使えなかったですからな」
「そうだったんですか……それはまた大変でしたね」
ソロモンさんに案内されて、俺たちは川に着いた。
「うっ……こいつはやべぇな」
「これほど汚いクソ川は、私めも初めてでございます」
「ワシらは死の川デスリバーと呼んでおりますじゃ」
村近くの川は黒っぽい茶色に汚れていた。
まるで、大雨が降った後のようだ。
だが、見ただけでその原因がわかる。
思った通り、この川も瘴気まみれだ。
だが、これだけ汚れているとなると……。
「たぶん、上流の水源がそもそも汚れているんじゃないですか?」
「さすがは、生き神様ですじゃ。おっしゃる通り、水源地が汚れているのです。しかし、近寄ろうとすると体が動かなくなってきてどうにもならんのですじゃ。川の水源地は、あの山の中にありますじゃ」
ソロモンさんは川の上流にある山を指した。
そこもまた瘴気が漂っていてヤバそうだ。
さっそく向かうわけだが、今度こそ静かに浄化したい。
「皆さま、お集まりください! ただいまより、ユチ様が御業を披露してくださいますよ!」
「いやっ、ちょっ」
いきなり、ルージュが叫び出した。
あっという間に、領民たちが集まってくる。
そのせいで、“水源地を静かに聖域化計画”が一瞬で破綻した。
「生き神様! 御業を使われるときは教えてくださいよ! 毎日楽しみにしているんですから!」
「生き神様の御業を見るだけで、私たちは元気になるんです!」
「おい、みんな! 作業を中断して、すぐに生き神様のところへ来るんだ!」
領民たちは勢揃いして並ぶ。
みんな目がキラキラしていた。
ここまでされたら、さすがに追い返したりはできない。
「じゃ、じゃあ、俺の後ろについてきてください」
どうせなら、ここら辺も聖域化しながら向かうか。
全身に魔力をちょっと込めながら歩き出す。
俺が歩いたところは、土が潤い、草が生え、花が咲き、どんどん様変わりしていく。
「なんて素晴らしい光景だ……これぞ神の力だな」
「生き神様こそ、神様の中の神様だ」
「同じ時代に生まれて本当に良かった……」
領民たちの恍惚とした声が聞こえてくる。
そんなすごいことでもないと思うんだが……。
村の中はあらかた聖域化できたけど、いずれは外の方も聖域化しないとなぁ。
デサーレチは結構広いから、意外と大変かもしれんぞ。
しばらく歩くと水源に着いた。
「うっ……きたねえ」
「これもまたクソ水源地でございますね」
川の水源は小さな泉だった。
中心部から、こんこんと水が湧き出ている。
だが、瘴気が溜まりまくっていてもはや汚水だ。
「さっそくユチ様の御業をお見せくださいませ」
「よし」
と、なったところで、俺は少し迷った。
どうやって聖域化しようかな。
泉を丸ごと浄化しないと意味ない気がする。
「いかがされましたか、ユチ様。何かお悩みでございますか?」
「いや、どうやろうかなと思って」
「それなら良い案がございます。泉の真ん中で御業を使われるのです」
確かに、それなら効果的だ。
だが、しかし……。
「じゃ、じゃあ、みんなを向こうの方に追いやってくれるかな。さすがに恥ずかしいし」
小さいといっても、泉の真ん中は遠くにある。
服を脱ぐ必要がありそうだ。
「何をおっしゃいますか、ユチ様! ユチ様の御業を見られないなんて、悲しすぎて仕方ありません!」
ルージュが騒いでいると、領民たちも騒ぎ出した。
「生き神様! 私たちを追い払わないでください!」
「御業をぜひ見せてください!」
「一日一回は見ないと気が済まないんですよ!」
四方八方から必死に訴えられる。
「い、いや、でも服が……」
「「ユチ様(生き神様)の魅力を感じるには、服などもはや不要でございます!」」
力強い瞳で言われ断り切れなくなってしまった。
領民たちが見守る中、俺は上衣を脱ぐ。
下には何も着ていないので、もちろん裸だ。
領民たちはうっとりした感じで、俺のことを見ている。
「ああ、なんて美しいのでしょう」
「本当に神様が人間の姿になったようだ」
「いつ見ても素晴らしい肉体だ」
そのまま、俺は泉の中に入っていく。
冷たいが凍えるほどではなかった。
深さは俺の腹くらいまでかな。
湧き水が出てくるところに、一番瘴気が溜まっていた。
そこからちぎれるようにして、ヤツらは川へ流れていく。
魔力を込めていると、黒い塊が苦しみだした。
苦しそうにプルプル震えている。
『ギギギギギィ……!』
俺は早く終わらせたかった。
老若男女に見つめられているので、恥ずかしくて仕方がない。
まったく、さっさと消えろよな。
『ギギギギ……キャアアア!』
畑の時と同じように、瘴気はふわぁ……と消えちまった。
すると、すぐに水にも変化が現れた。
さっきまでの黒い汚水は消えて、透き通った水になっていく。
水の吹き出し口を丸ごと聖域化したから、そこから新しく出てくる水も聖域化されているんだろう。
瘴気に汚染された水を浄化しながら流れていく。
「みんな見ろ! 水がキレイになっていくぞ!」
「やったー! これでいつでもキレイな水が飲めるぞー! こんなことがあり得るのか!?」
「なんという奇跡なんだ!」
俺は早くこのプレイから解放されたい。
だが、まだ泉からは上がれない。
念のため、もう少し聖域化させた方が良いかもしれない。
「皆さん、ご覧いただきましたか!? ユチ様の御業は、水にも効果的なのであります!」
すかさず、ルージュが演説を始めた。
相変わらず良く通る声だ。
今度は倒れた木の上に立っている。
どうして、そう都合よく台があるのか……。
俺は半ば諦めていた。
「さあ、皆さん! 今こそユチ様のご功績を讃えるのです! 天に向かって叫びましょう! ユチ様のお名前を!」
「「うおおおお! ユーチ! ユーチ! ユーチ!」」
自分の名前がコールされる中、俺はただただ泉に浸かっていた。
□□□
「さて……」
あらかた聖域化が終わり、俺は泉からあがる。
散々晒されたので、ある意味達観の境地に入っていた。
「お疲れ様でございました、ユチ様。皆さま、大変喜んでらっしゃいます」
まわりの領民は川の水をがぶがぶ飲んでいる。
「生き神様! こんなに美味しい水を飲んだのは始めてですよ!」
「一生雨水しか飲めないのかと覚悟していました!」
「まるで生き返ったような気分になります! 感謝してもしきれません!」
ソロモンさんも大喜びで走り回っていた。
「あのデスリバーがここまでキレイになるなんて、ワシも想像できなかったですじゃよ!」
そして、みんなで嬉しそうに魚やら何やらを採り始めた。
何だかんだ俺は安心していた。
これで飲み水問題も大丈夫そうだな。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の川デスリバー
デサーレチの主要な水源。
元は非常に透明度の高い川だった。
だが、瘴気に水源地を汚染され想像を絶する汚水となっていた。
水量は多いが水深は浅く、全体的に穏やかな流れ。
何が採れるかはお楽しみ。
「ユチ様、力を抜いてくださいませ。それでは上手くできませぬゆえ」
「う、うん、そうは言ってもね……」
水源地の聖域化が終わった後、俺はルージュにマッサージされていた。
なぜか台のように土が盛り上がっている場所があって、俺はそこに連行されていた。
当然のようにパンツ以外の服も脱がされている。
まさか、ルージュのマッサージは恒例にならないよな?
いや、頑張って断れば大丈夫だろう。
まだ二回目だし定着することはないはずだ。
「生き神様! 早くこっちに来てくだされ! とんでもないことですよ!」
ルージュに無理矢理マッサージされているときだった。
ソロモンさんが大声で俺を呼んでいる。
その顔は驚きで満ち溢れていた。
「何か旨そうな魚でも採れたのかな」
「行ってみましょう、ユチ様」
「ちょっと待ってくれ、とりあえず服を……」
「生き神様! 何をやっているのですか! さっさと来てくだされ!」
服を取ろうとした瞬間、ソロモンさんに勢い良く引っ張られた。
すんでのところで俺の手は空振りする。
「ソ、ソロモンさん! ま、待って! 服!」
「そんなのいいから、早く来てくだされ!」
「服をお召しになられていると、ユチ様の魅力が半減いたします」
「そうじゃなくてね!」
結局、俺はパンツ一枚の格好で駆り出された。
高身長美人とロリ幼女に手を引かれる半裸の男。
傍から見るとただの変態だろう。
――それにしても、ソロモンさんはどうしてこんなに慌てているんだ?
しかし、川の近くまで行ったとき、その理由がわかった。
「マジかよ……すげぇな」
「これは……私めも驚きました」
川のすぐ近くの地面には、度肝を抜かすようなレア素材がどっさり積まれていた。
こりゃあ確かに、驚くわな。
<ジュエリンフィッシュ>
レア度:★7
目と鱗が宝石になっている魚。鉱石を研磨した宝石より、ずっと透明度が高い。乱獲のため数が減っており大変な希少種。肉も美味。
<ガラスクラブ>
レア度:★9
全身が特殊なガラスのカニ。このガラスを用いて作られた望遠鏡は、何十km先までも見える。肉も美味。
<リフレクティング・マジカルシェル>
レア度:★8
魔法を反射する力のある貝。この貝殻で作った鎧は対魔法力に優れている。肉は貝柱として食べるのが通。
<バフバフ水草>
レア度:★8
食べると身体能力が何十倍にも増幅される。水が極めてキレイな川でないと生息しない。
<プラチナ砂金>
レア度:★9
金の純度が100%の砂金。不純物など一切入っていない。この砂金で作られた装具は、魔法攻撃を吸収し無力化する。宝石としての価値も超一級品。
「どいつもこいつも、レア素材ばかりじゃねえか」
「あのクソ川からこんなにたくさんのレア素材が手に入るとは……私めも驚きました」
領民たちはせっせと素材を集めている。
しかも、見たところ川にはまだまだたくさんいそうだった。
さすがに取り過ぎはまずいが、採り切れないくらいあるんじゃなかろうか。
「見てください、生き神様! 夢のような光景ですよ!」
「俺だって長年生きているが、見たことねぇ物ばかりだ!」
「デスリバーからこんなに素晴らしい物が採れるなんて思ってもみませんでした! これも全部生き神様のおかげね!」
俺に気づくと、領民たちは跪き祈りを捧げ出した。
「い、いや、お祈りなんかしなくていいですからね」
「皆さま! ユチ様こそ生きた伝説! この村の守り神なのです! さあ、皆でその偉業を称えましょう!」
「「ははー!」」
ルージュがご満悦な顔で煽りまくる。
「それだけじゃないんですじゃ! 生き神様、この水を見てくだされ!」
ソロモンさんは大慌てで、小さな器を持ってきた。
中を見たが、ただの水だ。
透明でキレイだが、何の変哲もない。
「キレイな水ですねぇ」
「十分飲めそうな水でございます」
「もっとよく見てくだされ!」
ソロモンさんは、切羽詰まった感じで器を差し出してくる。
こんな水より、さっきの魚とか砂金の方がよっぽどレアな気がするが……。
と、そこで、俺たちはぎょっとした。
「お、おい……ルージュ……」
「え、ええ……」
結論から言うと、この水はただの水ではなかった。
<ライフウォーター>
レア度:★10
生命を司る水とも言われている。体力や魔力を最大限まで回復する。怪我をしたところに振りかけると全治癒する。コップ一杯飲むだけであらゆる万病を癒す。
「レ・ア・度・10!? こ、これは、あの<ライフウォーター>じゃないですか!? この水はどこから採ってきたんですか!?」
「このコップ一杯で人生を3回は遊んで暮らせますね」
病気は治ったのに、ソロモンさんはハアハアしている。
興奮を抑えきれないと言った感じだ。
「そ、それがデスリバーの水なんですじゃ!」
「「ええ!?」」
俺とルージュはめちゃくちゃに驚いた。
川の水が全てレア度10なんてありえるのか?
「ソロモンさん、そんなことあるわけないじゃないですか。そんなの伝説の神域レベルですよ」
大昔に滅びてしまった古代世紀では、“神の領域”と言われる領地ゴルドレムがあったらしい。
なんでも、“不可能が無い”と言われるほどに栄華を極めていたそうだ。
「生き神様! 川全体をよく見てくだされ!」
「川全体……ですか?」
ソロモンさんに言われ、ルージュと一緒にデスリバーをジッと見る。
「あ、あれ……? まさか、本当に……?」
確かに、よく見るとデスリバー全部が<ライフウォーター>のようだ。
つまり、この川自体がレア度★10。
とんでもない川だったようだ。
に、にわかには信じられん……。
「生き神様のおかげでキレイな水が飲めるぞー! いつも喉が渇いてしょうがなかったんだ!」
「これでもう雨水を溜める必要もないんだな! 俺はもう感慨深いよ!」
「いつでもキレイな水が飲めるなんて素晴らしすぎる!」
領民たちはしきりに感謝しながら、ガブガブと川の水を飲んでいる。
本当にこれ全部が命の水だったんだな。
デスリバーの聖域化は、飲み水の確保どころの話じゃなかったというわけだ。漢字
「ゲホッ……す、すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー?」
デスリバーを聖域化して数日後。
村の入り口で誰かが叫んでいた。
「また来客か? デサーレチには意外と人が来るんだな」
「きっと、ユチ様目当てでございます」
門のところには、全身青い人たちが立っている。
一目見ただけでわかる、ウンディーネの一行だ。
全部で5、6人のグループみたいだった。
「ウンディーネかぁ、これまた珍しい来客だ」
「デサーレチに彼女らの好きそうな物はなさそうでございますが」
「それに具合が悪そうだな」
ウンディーネたちは体が濁っていて苦しそうだ。
本来なら美しい青色なのに、暗い色合いになっている。
「あの、大丈夫ですか?」
「どうぞ、こちらにいらっしゃいませ」
俺たちが呼んでいると、みんなしてノロノロ歩いてきた。
「ゲホッ……あなたがリーダーの方ですか……?」
「俺がリーダーというか、一応領主のユチ・サンクアリですけど。あの、どうされましたか? 体調が悪そうですが」
「誠に申し訳ないのですが……新鮮なお水を分けていただけませんか? もう何日もキレイな水を飲んでいないのです……ゲホッ」
そういえば、ウンディーネはいつもキレイな水を飲んでいないと体調を崩すと聞いたことがある。
「キレイな水なら無限にありますよ! ちょっと待っててくださいね! とりあえず、俺の家で休んでてください!」
「私めも運ぶのをお手伝いいたします。あなた方はこちらへ」
ウンディーネ一行を家に案内し、俺たちは急いで水を持ってきた。
デスリバーの<ライフウォーター>だ。
「はい、どうぞ!」
「す、すごくキレイなお水ですね! い、いただきます……!」
ウンディーネたちはゴクゴクゴクッ! と勢い良く飲む。
「ぶはぁっ! なんて美味しいんでしょう! こんなに美味しいお水は今まで飲んだことがありません!」
飲み終わるや否や、ウンディーネたちの濁った感じも消えた。
向こう側が見えちゃうくらいに透き通っている。
さすがは<ライフウォーター>だ。
一瞬で体力を回復させたようだ。
「元気になったみたいで良かったですね。それで、こちらにはどうして……」
「っていうか、この水は<ライフウォーター>じゃないですか!」
リーダーらしきウンディーネがハッとしたように叫ぶ。
それに続くように、みんなきゃあきゃあし始めた。
「こ、これがあの<ライフウォーター>!? ホントだ! <ライフウォーター>って書いてあります!」
「道理で普通の水より美味しいわけですね! 飲んだ瞬間、すごい衝撃を受けました!」
「こんな素晴らしいお水が飲めるなんて、私たちはどこまで運が良いのでしょう!」
ひとしきり騒いだ後、気を取り直したようにこちらへ向き直った。
「ゴ、ゴホン……申し遅れました。私たちはウンディーネの里からやってきました。私はリーダーのネーデと申します。この度は命を救っていただいて、誠にありがとうございます」
ネーデさんはとても丁寧にお辞儀する。
残りのウンディーネたちも一緒に深くお辞儀する。
非常に礼儀正しい種族のようだ。
ルージュは満足げな顔をしている。
「どっかのクソ狐とは全く違いますね。全ての来客がこうであれば幸いなのですが」
「ル、ルージュ! 静かに! ……それで、ネーデさんたちはどうしてここへ?」
ウンディーネのことはよく知らないが、ネーデさんは俺より年上な気がする。
何となくだが。
まぁ、物腰も落ち着いているし。
自然と苦手な敬語になってしまう。
「里長の令で、王様へ謁見に向かう途中だったのであります。ですが、途中で道に迷ってしまいこちらの豊かな領地へとたどり着いた次第です」
「そうだったんですか。そりゃまた大変なことで……」
「お恥ずかしい話、ここがどこかもわかっておらず……ここは何という領地でしょうか?」
「デサーレチです」
デサーレチと言った瞬間、ネーデさんたちは固まった。
かと思うと、プルプル震え出す。
その顔は恐怖でいっぱいだ。
「ま、まさか、ここがデサーレチなんですか!? 近づいただけで体が溶けて無くなるという、あの史上最悪の土地ですか!?」
「「……えっ」」
俺とルージュはびっくりする。
ネーデさんが叫んだ瞬間、お仲間のウンディーネたちも騒ぎ出した。
「デ、デサーレチ!? 地獄に最も近いという……あのデサーレチですか!?」
「作物は育たず、水も飲めず、死にたければそこへ行けと言われるデサーレチ!?」
「溶岩の沼があるなんてウワサもありますよね!? 数多の死が蔓延っていると言われるデサーレチですって!?」
マジか……。
散々な言われようだ。
フォキシーも驚いていたし、デサーレチの評判は最悪みたいだな。
ルージュが怒る前に俺は慌てて説明する。
「と、とりあえず、落ち着いてください! ここは確かにデサーレチです。ですが、俺のスキル<全自動サンクチュアリ>でこんなに豊かな土地になったんです!」
「「そ、それは、どういうことで……」」
スキルのことを簡単に説明した。
それを聞いて、ウンディーネの一行はまた驚く。
ネーデさんが恐る恐る話してきた。
「じゃ、じゃあ、この水も元々は飲めないくらい汚れていたのですか? こんなに美味しいお水がまさか……」
ウンディーネ一行は顔を見合わせて驚いている。
まるで信じられないといった様子だった。
「良かったらお土産に持ってってください」
俺はビン詰めした<ライフウォーター>や、<フレッシュブルレタス>やら<ジュエリンフィッシュ>やらを渡した。
「こ、こんなにいただけるんですか? し、しかも、このレタスやお魚だって途方もなく貴重な物ですよね」
「たくさんありすぎて、どうしようか迷うくらいなんですよ。水なんて無限にあるし、作物も魚も採っても採っても無くならないんです」
「「い、いくら感謝してもしきれません……」」
ネーデさんたちはひたすらに感動している。
じゃあ、これで……というところで、ソロモンさんが出てきた。
きっと、部屋の外で待ち構えていたんだろう。
転送の超魔法を使いたいのだ。
言われなくてもすぐにわかった。
顔に書いてあるからな。
「ユチ殿、こちらはどちら様ですか?」
「ソロモンさんです。大賢者の」
「「うえええええええ!? あの伝説の大賢者、ソ、ソロモン!?」」
そういえば、ソロモンさんは結構有名だった。
ネーデさんたちが驚きまくるんで、ソロモンさんも嬉しそうだ。
「そなたたちを王都まで転送して差し上げようぞ」
「て……転送までしていただけるのですか……! なんとお礼を言えば良いのでしょう! どうやって王都まで行こうか途方に暮れていたのです」
「転送用の魔法札をあげますじゃ。またここへ来たくなったら破きなされ」
「「ま、魔法札もいただけるのですか!?」」
ウンディーネ一行はわいわい喜んでいる。
何はともあれ、みんなが元気になって良かったな。
「それではユチ殿。本当に本当にお世話になりました。あなた様のおかげでこの命が救われました。この御恩は一生忘れません」
ネーデさんたちは涙ながらにお辞儀をする。
「俺たちも皆さんに会えて良かったですよ。どうぞお元気で」
「ぜひまたいらしてくださいませ。王都ではユチ様の素晴らしさをお伝えください」
「あ、いや、それは別に……」
「「はい! 喜んで!」」
俺はすかさず断ろうとしたが、ネーデさんたちの大きな返事でかき消されてしまった。
ソロモンさんが転送の準備をする。
「《エンシェント・テレポート》! この者たちを王都に転送せよ!」
「「皆さま、本当にありがとうございました!」」
ソロモンさんが言うと、ネーデさんたちは消えた。
王都に転送されたのだ。
「ふぅ~、やっぱり超魔法は気持ちいいですな~」
「いつもありがとうございます、ソロモンさん」
「なに、ワシも好きでやっておりますからの」
ソロモンさんの表情は清々しい。
チラチラ荒れ地の方を見ているが、あいにくとモンスターはいなかった。
「それにしても、瘴気はどこから来るんだろう。領民はみんな良い人だから、邪な心に引き寄せられたとは考えにくいが」
「ユチ様、あちらに瘴気が溜まっている山がございます」
ルージュが示す方向に小高い山があった。
そこもまた瘴気でいっぱいだ。
ここからあまり離れてはなさそうだな。
「よし、次はあの山に行ってみるか。瘴気があっても良いことなんか一つもないからな。手当たり次第に浄化しないと」
「お供いたします、ユチ様」
ということで、俺たちは山に向かうこととなった。
◆◆◆(三人称視点)
「何という素晴らしい領地だったのでしょう」
ネーデたちは上機嫌で王都を歩いていた。
まさか、デサーレチがあれほど豊かだとは思いもしなかった。
たくさんの貴重なお土産まで頂いてしまった。
「やっぱり、どんなことも自分の目で確かめないといけませんね」
ネーデの言うことに、ウンディーネ一行はうんうんと頷く。
デサーレチはクソ土地と言われるほど、最悪な土地として知られていた。
ところがどうだ。
そこには天国が広がっていた。
伝説の大賢者であるソロモンさえ定住している。
それどころか、幻の水と言われていた<ライフウオーター>まであったのだ。
里長も聞いたら驚くだろう。
「王様にもお話された方がよろしいのではないでしょうか?」
余韻に浸っていると、部下の一人が言った。
「それは良い案ですね。ぜひ、王様方にもユチ殿とデサーレチの魅力を知っていただきましょう」
ネーデたちウンディーネの一行は、ユチとデサーレチがいかに素晴らしいかを王様や王女様に話しまくった。
そして、その話はサンクアリ家の耳にも入るのであった。
「ゲホオオオッ! ゴホオオオッ! どうして、咳がこんなに止まらんのだああああ! 早く薬を持ってこいいいい!」
いくら薬を飲んでも、ポーションを飲んでも全く治らない。
夜も眠れなくなってきたし、頭がガンガンして倒れそうだ。
「かしこまりました! 少々お待ちください……クソッ、それくらい自分でやれよな、デブキノコがよ」
「なんだああああ? 何か言ったかあああ?」
「いえ! なんでもございません、エラブル様! すぐに準備いたしますので!」
とんでもない悪口を言われた気がするが、体調が悪くてそれどころではない。
使用人が出て行くと、クッテネルングがやってきた。
目の下がクマになっていて、脂汗も滴り落ちている。
「父ちゃまぁぁぁ、さっさとクソ兄者に仕返ししてよぉぉぉ」
どうやら、クッテネルングはポリティカ男爵家から婚約破棄されたらしい。
「貴様あああ、どうして婚約破棄などされるのだあああ。相手は男爵だぞおおお。この役立たずがあああ」
「だから、クソ兄者のせいだよぉぉぉ。あいつのせいでエフラルちゃんにフラれちゃったんだぁぁぁ」
伯爵家との婚約を破棄する男爵家など聞いたことがない。
何かしら嫌がらせをしたいところだ。
だが、セリアウス侯爵との商談が失敗したせいで、そんな経済的余裕はなかった。
「それにしてもおおおお! やたらとデサーレチのウワサが耳に入ってくるなああああ!」
クソ土地から姿を変え、天国のような素晴らしい領地になっているらしい。
「そんなのデマに決まっているよぉぉぉ。あのクソ土地が栄えるわけがないじゃないかぁぁぁ」
クッテネルングの言う通りだが、一概にウソだとは言えなかった。
フォックス・ル・ナール商会の会長やウンディーネの使者など、恐ろしく地位の高い者たちが言っているのだ。
「おのれええええ。ゴミ愚息を思い出したせいで気分が悪くなったああああ」
私の天才的な領地計画に口出しするヤツを追い出して、最高の日々がやってくると思ったのに。
「ガハアアアッ! ゲフウウウッ! だから、早く薬を持ってこいいい!」
ゴミ愚息を追い出してから、ますます体の具合が悪くなってきた気がする。
正直言って、歩くだけで倒れそうになる。
く、苦しい。
本当に私の身体はどうしたのだ。
「お待たせいたしました! お薬でございます!」
「さっさと、よこせええええ!」
「僕ちゃまの分は砂糖をたっぷり混ぜろぉぉぉ」
「承知いたしました! ……チッ、なんでこんなクソどもの世話なんかしなきゃいけねえんだよ」
「「何か言ったかあああ(ぁぁぁ)?」」
「いえ! なんでもございません!」
いくら質の悪い風邪だろうが、高価な薬を飲んでいれば治るだろう。
サンクアリ家は裕福なので、まだまだ大量に手に入る。
何も心配いらんのだ。
「まぁ、いいいい。ところで、例の者たちは来たのかあああ? ……ゲホオオオッ、ゴホオオオッ!」
薬を飲んだところで声を張り上げる。
すぐにむせるのが腹立たしい。
「は、はい……! いらっしゃったのは、いらっしゃったのですが……」
使用人どもはビクビクしている。
まったく、もう少しシャキッとせんか。
「オラ、どけよ!」
「きゃあっ!」
使用人が乱暴に跳ね飛ばされた。
私の部屋に汚い男たちが遠慮なく入ってくる。
全員柄が悪く、貴族とはかけ離れた境遇の者どもだ。
「俺はリーダーのアタマリってんだけどよぉ。アンタがエラブル? 太りすぎじゃね?」
Aランク盗賊団“アウトローの無法者”。
この辺りでは名の知れた盗賊グループだ。
その優秀な鍛冶能力であらゆる鍵を造れるらしい。
古代遺跡を荒らし、貴族の宝物庫を荒らし、貴重な宝を根こそぎ奪っていた。
「にしても良いとこに住んでんなぁ。どうせ、貧乏人から搾り取ってんだろ?」
本来ならば、屋敷の門をくぐらすことさえ叶わない。
しかし、今回限りの特別な仕事のため、やむなく屋敷に招き入れた。
中でも一番大きな男がずかずか出てきた。
「おっ、いいマットがあるな。ちょうど靴に泥がついていたんだ。拭かせてもらうぜ~」
不躾な態度と高い絨毯が汚され怒りそうになる。
だが、懸命に怒りを抑える。
今から大事な取引をするのだ。
余計な争いごとは避けたい。
「……貴様の無礼な態度は見逃そうううう。ところで、デサーレチは知っているかああああ?」
「ああ、もちろん知ってるぜ。あのクソ土地だろ? なんだ? お宝でもあんのか? まぁ、俺たちはこの屋敷のお宝でも我慢できるけどよお。 なぁ、お前ら?」
アタマリが言うと、部下たちもいっせいにゲラゲラ笑い出した。
一人も上品な人間がいない。
「さすがは、伯爵家だぜ! 高そうなもんがいっぱいだしよ!」
「お土産にいくつかもらっていくか! 売れば結構な金になりそうだ!」
「ちょっとくらい無くなってもわかんねぇんじゃね?」
アタマリは部下と一緒に、ゲラゲラ笑っている。
屋敷に似合わぬ、下品な笑い声が響き渡る。
それどころか、部屋の高価な調度品をベタベタ触りだした。
これ以上荒らされてはまずい。
私は慌てて用件を切り出す。
「仕事の依頼とは、これだああああ」
私は二枚の紙を渡す。
一枚はデサーレチに追放したゴミ愚息の似顔絵。
もう一枚は、クソユチにくっついていったルージュの似顔絵だ。
「なんだよ、このクソガキは? っと、こっちの女は、なかなか美人じゃねえか」
アタマリは似顔絵をまじまじと見ている。
「その男を殺せええええ。女は好きにして構わんんん」
私は初めから、あのゴミ愚息を殺すつもりだった。
だが、屋敷内で殺すのはさすがにまずい。
下手したら失脚もあり得るからな。
そのため、辺境に追放したのだ。
運悪く、盗賊団に襲われたとなれば世論も問題あるまい。
辺境の地で誰にも助けを求められず、たまたまやってきた盗賊団に襲われて死ぬ。
こんなに不運なことがあるだろうか。
「頭! 俺たちにも女の顔を見せてくださいよ!」
「ほお! 確かに、これは上玉だ!」
「ケケケケ! 楽しみが増えたぜ!」
盗賊どもは、ルージュの似顔絵に群がっている。
あの女もまた、私の誘いを断りおった無礼者だ。
せっかく屋敷に雇ってやったというのに、その恩を忘れおって。
だから、盗賊どもに似顔絵を見せたのだ。
今さらどうなろうと、私の知ったことではないわ。
「んで、報酬は?」
ひとしきり騒いだ後、アタマリは無遠慮に言ってきた。
こいつら盗賊には品性の欠片もない。
だが、金で動く分まだ安心できる。
「前払いで500万エーン。その男の首と引き換えに500万エーン払おう」
「全然足りねえな。その倍払えや。金持ちだろうがよ」
アタマリが言うと、部下たちはまた賛同しだした。
「1000万エーンで人殺しはできんわなぁ」
「おい、オッサン。俺たちのこと見くびってるんじゃねえの?」
「伯爵家ってそんなに貧乏なん?」
盗賊団は揃ってギャハハハ! と笑っている。
ゴミ愚息の殺害依頼などで、2000万エーンも払うのは気が引けた。
しかし、こいつらは盗賊団だ。
機嫌を損ねると何をしてくるかわからない。
仕方がない金を払うか。
「……良いだろう。倍額の2000万エーン払おう。これが前払いの1000万エーンだ」
私は金をアタマリに渡す。
アタマリは律義に金を数えると、上機嫌で出口へ向かう。
「まいどあり~! じゃあな、また頼むぜ~!」
「待てえええ、わかってるだろうなあああ! ちゃんとその男を殺すんだぞおおお! さもなければ、貴様らをおおお……!」
「な~に、心配すんなよ。これでも俺たちはプロさ。さっさとこの男を殺して女と遊んだら、残りの金もいただきに来るぜ。ちゃんと用意しておいてくれよ~」
盗賊団は下品に笑いながら出ていった。
「チイイイイ、余計な出費になったな……ゲホオオオッ、ゴホオオオッ!」
まずは、この体調不良をなんとかせんとな。
と、そこで、カーテンの影からクッテネルングが出てきた。
盗賊団が来るや否や隠れていたのだ。
こいつは偉そうなくせに臆病だ。
まったく、誰に似たんだろうな。
「2000万エーンも払ったのぉぉぉ!? 僕ちゃまの新しい馬車を買うんじゃなかったのぉぉぉ!?」
「黙れえええ! それに、払ったのはまだ1000万エーンだあああ!」
ともあれ、私は愉快だった。
これでクソユチを世の中から葬れる。
見ていろ、ゴミ愚息め。
貴様はもうおしまいだ。
今さら謝っても許さないからな。
せいぜい、残り少ない人生を楽しめ。
ゲホォォォッ、ゴッホォォォ!
「さて、ここが鉱山か」
「例外なく、ここもクソ鉱山でございますね」
しばらく歩いて、俺たちは山の麓に着いた。
ルージュとソロモンさん、領民も一緒だ。
危ないから来なくていいと言ったんだが、「御業を拝見したい」ということで、みんなついてきてしまった。
「ワシらは”死の鉱山デスマイン”と呼んでおりますじゃ。見ての通り、ここも近寄れないくらい、ひどい有様なんですじゃ」
デスマインはそれほど高くはなく、小高い丘って感じだな。
そこかしこに洞窟があるような山だった。
だがしかし、例のごとく瘴気がぐじゃぐじゃに溜まっている。
空高く飛んでいる鳥ですら、山に近づけないくらいだ。
「鉱山っていうくらいですから、鉱石とか魔石が採れたりするんですか?」
「昔は採れたらしいんですがの……今はサッパリですじゃ。それどころか、近づくことさえできませんでしたな」
「そうですか。じゃあ、さっそく入ってみますかね」
「お気を付けくださいませ」
なるほど……こいつはヤバいわ。
ちょっと入っただけでわかった。
洞窟の中には目の前が見えないほど、瘴気が溜まりに溜まりまくっている。
「うわぁ……何も見えないじゃん」
「とんでもないクソ洞窟でございますね」
俺たちだけじゃなく、領民たちもドン引きしていた。
「見ろ! 瘴気があんなにたくさんあるぞ!」
「いつの間に、こんなに溜まっていたんだ!」
「お願いいたします、生き神様! もはや、あなた様じゃないと進むことさえできません!」
俺は洞窟へ入っていく。
領民たちは期待に満ち溢れた目で俺を見ていた。
いや、背中に視線がビシバシ当たって痛いんだわ。
とりま、さっさと終わらせよう。
瘴気がテリトリーに入ったところで、魔力を込める。
<全自動サンクチュアリ>発動!
『ギギギギ……!』
すぐさま、瘴気の群れがブルブル震え出した。
俺は魔力を込め続ける。
頼む、早く消えてくれ。
領民たちの視線が痛いから。
『キャアアアアア!』
例のごとく、女の子のような悲鳴を上げて、瘴気はすうう……と消えていった。
それを見て、領民たちが大喜びする。
「さすがは生き神様だ! あっという間に、浄化してしまわれたぞ!」
「こんな御業が見られるなんて、生きてて良かったよ!」
「ああ、ありがたや! ありがたや!」
バンザーイ! バンザーイ! と歓喜の声がこだました。
「ユチ様、振り返って足元をご覧くださいませ」
「え、足元?」
後ろを見ると、洞窟の地面がキラキラ光っていた。
青や赤、黄色に光っていたりする。
「なんじゃこりゃ?」
拾ってみると、キレイな石だ。
「こ、これは宝石じゃありませんかの?」
ソロモンさんが慌てて拾い上げた。
ギラギラ光っている。
「え、宝石……ですか?」
「そうでございますじゃ! まさか、ただの道にこんなにたくさん落ちているなんて!」
ソロモンさんの言葉を聞いて、領民たちも気づいたようだ。
「おい、これはルビーじゃないのか!?」
「こっちにはサファイヤがあるぞ!」
「ここにはオパールが転がってるじゃないか!」
領民たちは大喜びで宝石を拾い集める。
宝石は拾っても拾っても、有り余るほど転がっていた。
「ルージュも少し持って帰ったら?」
「お言葉ですが、私めはそのような物に興味はございません」
「あっ、そうなのね」
そういえば、ルージュはあまりアクセサリーとか着けていなかった。
宝石よりキレイなドレスとかの方が良いのかな。
「私めの興味はユチ様のみに向けられております」
「は、はい……そうですか」
落ちている宝石はどれもこれも、すでに磨き上げられているかのようにギランギランに輝いている。
しばらく歩くと、水が溜まっている場所に出てきた。
小さな湖みたいだ。
たぶん、雨水が溜まっているんだろうな。
当然の如く、瘴気が溜まりまくっていた。
領民たちもギョッとしたように眺めている。
「マジかよ、なんつう瘴気の塊だ」
「恐ろしいまでに汚染されています」
「ひでえ……知らないうちにこんなに溜まりやがって」
湖の瘴気はじわじわと、洞窟の中を這いずり回っていた。
どうやら、ここが瘴気の源らしい。
「雨水と一緒に瘴気が溜まって、山全体に瘴気が移動しているようだな」
「デスマインを完全に浄化するには、このクソ湖の浄化も必須でございますね」
ま、まさか……。
「さあ、皆さま! ユチ様の御業のお時間でございます! お集まりくださいませ!」
ルージュはまた石の上に乗って演説している。
どうしてそう都合よく台があるのか……俺はもう諦めていた。
「生き神様の御業のお時間だぞー!」
「こうしちゃいられませんわ! みんな、集まって!」
「神聖なる沐浴のお時間だ! 見逃したら一生の損だぞ!」
瞬く間に領民が集まってくる。
「ル、ルージュ。湖は結構深そうだよ」
「ご心配なく、水深はユチ様の腰くらいまででございます」
ルージュが近くに落ちていた、木の枝らしい棒を湖に差し込んで教えてくれた。
確かに、俺の腰くらいまでの深さのようだ。
というか、なんで木の枝まで落ちているんじゃい。
「水は結構冷たいかも」
「ご心配なく。適度な冷たさでございます」
俺は水の中に手を入れる。
冷たくて気持ちよかった。
「皆さまもお待ちかねでございます」
「せ、せめて、領民の前でまた裸を晒すのだけはイヤだよ」
「お脱ぎできないのであれば、私めが脱がさせていただきます」
有無を言わさず、ルージュが服を脱がしにかかってくる。
恍惚とした表情だった。
「待て待て待て! 自分で脱ぐ! 自分で脱ぐから!」
仕方がないので、俺は服を脱ぐ。
ポチャンと湖に入った。
よし、<全自動サンクチュアリ>!
魔力を込めながら湖の中を進んでいく。
ちょうど中心にでかい瘴気の塊が浮かんでいた。
『ギギギギ……!』
俺が近寄っただけで苦しみだした。
やっぱり、どんなに大きくても効き目がバッチリなんだな。
早く消えようね。
『キャアアアアアア!!』
やがて、瘴気はあっさり消えてなくなった。
わあああ! と洞窟が盛り上がる。
これでこの鉱山も自由に出入りできるな。
「「よーし、さっそく採掘を開始するぞー! 生き神様への供物を捧げるんだー!」」
領民たちはカンカンと採掘を始めた。
供物という言い方は気になるが、どんな鉱石が採れるのか俺も楽しみだった。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の鉱山デスマイン
村から少し離れたところにある小高い山。
木々は少なく、そこかしこに洞窟があるのが特徴。
それほど高くはなく、地質的にも登りやすい。
生き物が近づけないほど、瘴気に汚染されていた。
ユチのおかげで無事に浄化された。
何が採れるかはお楽しみ。
「ユチ様、もっと力を抜いてくださいませ」
「いや、ほら、もういいから」
領民たちがピッケルを振るう中、俺はルージュにマッサージされていた。
しかも、ただのマッサージではない。
パンツ以外の服は全て脱がされ、ルージュ特製のオイルによる怪しいあれだ。
地面にはマットを敷かれ、オイルを塗られ……やりたい放題だ。
これらのアイテムは全てルージュが持参してきた。
「力を抜いてくださらないとマッサージできませぬ」
「も、もう勘弁してくれ……!」
「ユチ様、いけません!」
逃げようとしたのだが、あっけなく捕まってしまった。
こ、これが元Sランク冒険者か。
有無を言わさぬい勢いだ。
ルージュはご満悦な表情で俺の体を撫でまわす。
瞬く間に、俺の全身はヌルヌルのオイルまみれになっていた。
洞窟内の僅かな明かりでも、ぬらりと艶めかしく光っている。
「お気持ちはいかがでしょうか、ユチ様?」
「は、恥ずかしいですね」
ここまで来たら、早く終わってくれることを祈るしかない。
幸いなことに、周りには誰もいない。
俺は領民たちへ強い念を送る。
来るなよ、来るなよ……?
「あっ、生き神様が裸でくつろいでいらっしゃる」
「見れば見るほど、本当に神聖な体つきだな」
「おーい、みんな。生き神様がマッサージを受けてらっしゃるぞ。見学させていただこう」
そのわずか一秒後、ぞろぞろ領民たちが集まってくる。
あろうことか、その場に座り込みだした。
採掘に参加していない領民たちは、温かい目で俺たちを見ている。
そして、石の台(これまた都合よくあった)に寝かされたパンツ一丁の俺。
だんだん、俺はいたたまれない心境になってきた。
「生き神様! 採取できた鉱石を見てくだされ! こりゃまたすごい鉱石が採れましたぞ」
洞窟の奥からソロモンさんが、ハイテンションかつ美しいフォームで走ってきた。
と、思いきや、俺たちの怪しい光景へ釘付けになる。
「……って、お楽しみ中でございましたな。これは失礼いたしましたじゃ。皆の者! 生き神様がお楽しみ中じゃ! さあ、もっと向こうの方で採掘するのじゃ! 邪魔しては悪いぞよ!」
ソロモンさんは何やら満足気な顔で洞窟の中へ戻っていく。
領民たちもハッとしたようだ。
「確かに、そうだよな。生き神様もお疲れなんだ。俺たちが近くで騒いでいたら迷惑だ」
「いつも私たちのために頑張ってくださっているのよ。たまには発散しないとね」
「さあ、みんな。生き神様はお楽しみ中なんだ。あっちに行くぞ」
みんな納得したような表情でその後を追って……。
「ちょーっと、待ってください!」
「あっ、ユチ様! まだマッサージは……!」
俺は大慌てでソロモンさんたちを引き留める。
特殊な趣味と思われるのだけはご勘弁だ。
「いかがされましたですじゃ? ワシらのことは気にせず楽しんでいただいて……」
「ど、どんな鉱石採れたんですか!? 見せてくださいよ!」
誤解を解くのはまた今度にして、とりあえず話題を逸らすのだ。
「ああ、そうじゃった! 皆の者! 生き神様に鉱石をお見せするのじゃ! 生き神様もきっと驚きますぞ!」
俺たちの目の前に、たくさんの鉱石が運ばれてくる。
「うおおお、すげえ」
「まさか、あのクソ鉱山からこれほど素晴らしい鉱石が採掘できるとは」
これまたとんでもないレア素材が選び放題だった。
<テンパレギュ石>
レア度:★7
周囲の温度を一定に保つ。石とは思えないくらい軽い。
<フローフライト鉄鋼石>
レア度:★9
この石から作られた装備や建造物は、魔力を供給することで浮遊する。加工性にも優れており、とても頑強な鉱石。
<ウィザーオール魔石>
レア度:★8
虹色に輝く魔石。この石で作られた装備品を持つと、魔力が何十倍にも増幅される。魔術の才が無い者も魔法が使えるようになる。装飾品としても価値が高い。
<ラブラヒールストーン>
レア度:★7
持っているだけで体力と魔力が少しずつ回復する石。怪我や病気も癒せる。ピンクや緑の淡い色合いが富裕層に人気。
<永原石>
レア度:★9
魔力を保存できる石。一度魔力を込めると、半永久的に同じ量の魔力を生産し続ける。石の大きさで容量は決まっている。
<ゴーレムダイヤモンド>
レア度:★10
大人の拳大くらいはある世界最高峰レベルのダイヤモンド。恐ろしく硬い上に、恐ろしく割れにくい。古のドラゴンでさえ傷をつけることはできない。これで作られたゴーレムが古代世紀を滅ぼしたとかなんとか。
「……いや、マジかよ」
デスリバーの時もそうだったが、さらに上回るほどのレア素材だ。
こんなの冒険者ギルドの人間とかが見たら、涎が止まらないんじゃないか?
どいつもこいつも、おいそれとは手に入らんぞ。
しかも、一つや二つではない。
<ゴーレムダイヤモンド>はやはり少ないようだが、それでも有り余るほど運ばれてくる。
思っていたより、デサーレチはすごい場所だったのかもしれない。
「こんな鉱山がこの世に存在するのか?」
「私めの知る限り、全世界でもここだけでございます」
俺は半裸のまま、ずっと疑問に思っていたことを呟いた。
「どうしてこんなにたくさんレア素材が採れるんだろう? 鉱山だけじゃなくて、畑も川も目が飛び出るほど貴重な素材だらけだったよな」
「きっと、ユチ様の前世の善行が結晶となって大地から出てきているのでしょう」
ルージュは自信満々な顔でうなずいているが、さすがにそれは違うだろうよ。
「ワシも考えたんですがの。元々、この土地にはたくさんの高級素材があったんだと思いますじゃ。そこに生き神様のスキルによって土地全体が聖域化し、素材の生産スピードが格段に上がっているのですじゃよ」
「へぇ~、そんなことがあるんですかね」
にわかには信じられなかった。
だが、ソロモンさんが言うのだからそうなんだろうなぁ。
「いずれ、しっかりとした調査をしてみましょうぞ。もしかしたら、この土地は世界でも特別な場所かもしれませんですじゃ」
「私めは古代世紀と深い関わりがあると考えております」
「ハハハ、そんなまさか」
二人が突拍子もないことを言い出すので、思わず笑ってしまった。
古代世紀とは、すでに失われた超文明時代のことだ。
今よりずっと、動物も植物も魔法も色んな技術も栄えていたと聞く。
空を飛ぶ城、天にも届くくらい巨大なゴーレム、深海まで行ける馬車……。
ほとんど伝説上の扱いとされているモンスターたちも、たくさんいたそうだ。
「生き神様、ルージュ殿の言うことは十分可能性がありますぞ」
「古代世紀と関係があれば、この土地は世界的にも重要な土地となります」
「いやいやいや、ありえないって。さすがに都合良すぎでしょうよ。アハハハハ」
これだけは確実に言えるが、古代世紀とデサーレチは絶対に関係ないはずだ。
まったく、二人とも冗談が下手だなぁ。
「ひいいい! 誰か助けてくんねぇかー!? おで、こんなとこで死にたくねえよー! お頼み申すー!」
「「誰か助けておくんなましー!」」
すっかり恒例となってしまった、ルージュにマッサージされている時だった。
荒れ地の方から叫び声が聞こえてくる。
「な、なんだ!? 誰かの悲鳴が聞こえるぞ!」
「行ってみましょう、ユチ様」
「よ、よし……と、その前に服っ!」
「ユチ様! そんな時間はございません!」
「あっ、ちょっ!」
半裸のまま連れ出される。
荒れ地の方で、小柄な人たちが大きなモンスターに襲われていた。
おまけに、敵はゴブリンやスライムなんかのザコではなかった。
「うおっ、Aランクのメガオークじゃねえか! こりゃ大変だ!」
Bランクモンスターであるオークの上位種だ。
魔法攻撃はできないが、その代わりに強靭な肉体を持っている。
こいつも筋肉ムキムキなので、一撃でも殴られたら大怪我をしてしまいそうだ。
「ユチ様、まずはあの者たちをこちらに呼びましょう!」
「よ、よし!」
俺とルージュは大声を張り上げる。
「おーい! こっちだー! 早くこっちに来ーい!」
「こちらに逃げてくださいませー!」
俺たちが叫んでいると、彼らも気付いたようだ。
全速力でこちらに走ってくる。
意外と足が速くて、メガオークを置き去りにしてきた。
「お、おい、大丈夫か!?」
「ぶひゃー! 助かったー! おではもう死んじまうのかと思ったぞー!」
「「わてらも助けてくれーい!」」
飛び込んできたのは、ドワーフの一行だった。
みんな小柄で立派な髭を生やしている。
先頭にいたドワーフ娘が一番豪華な格好だった。
もしかしたら、この子がリーダーかもしれん。
「怪我はないか!? 大変だったな!」
「ユチ様のお近くにいれば安心でございますよ」
メガオークは荒れ地の方からジリジリと近づいてくる。
俺たちを見て慎重になっているようだ。
だが、引き返す様子はない。
それどころか、気持ち悪くニタりと笑っていた。
「ひいいい! またあいつが来たー! お助けー!」
ドワーフ娘は俺の後ろに隠れる。
メガオークはかなり強力なモンスターだ。
何と言ってもAランクだからな。
村の中に入ったら結構な被害が出るかもしれない。
「ルージュ、ここで食い止めるぞ」
「仰せのままに。私めが処理して参ります」
あっ、そうか。
ルージュは元Sランク冒険者だった。
そういえば、彼女のバトルはまだ見たことがない。
ちょっと楽しみかも。
ルージュがメガオークに向かおうとしたときだった。
「生き神様! ワシにお任せくださいですじゃ!」
ソロモンさんがシュババババッ! とやってきた。
「ソ、ソロモンさん、めっちゃ足速いですね。畑の方にいたはずじゃ……?」
「騒ぎを聞きつけて、大急ぎで走ってきましたじゃ! あのモンスターを倒せば良いのですな! 超魔法が使いたく……いや、困っている人の助けが聞こえたのですじゃ!」
ソロモンさんはウキウキしている。
古の超魔法が使えそうだからだ。
しかし、この距離で使うのはさすがに危ない気がする。
「ユチ様、ここは私めにお任せください」
超魔法が炸裂する前に、ルージュがスッと出てきた。
不気味なほど静かな所作でメガオークへ向かう。
いつの間にか、彼女の両手には短剣が握られていた。
ど、どこから出したんだ。
『ガアアアア!』
うおおおお、メガオークの生咆哮だ。
さすがにAランクモンスターだな、結構迫力があるぞ。
しかし、ルージュは全く怖気づいていない。
静々と歩き、メガオークの目の前に着いた。
『ゴアアアア!』
すかさず、メガオークが殴りかかる。
ルージュはピクリとも動かない。
お、おい、危ないぞ!
「ユチ様の領地に無断で入ろうとするのは私めが許しません」
ルージュが音もなくナイフを振るう。
俺に見えたのはそれだけだった。
キラリと日の光を受けて、ナイフの軌跡が見えただけだ。
『グオオオオオ……オ?』
その直後……メガオークが分解された。
身体が爆発したとか、切り裂かれたとかではなく、分解されたのだ。
メガオークの体が目玉や皮、爪、肉などなど、体のパーツに分かれて地面へ落ちる。
しかも落ちるだけじゃなく、部位ごとに整理整頓されていた。
「「……え?」」
俺もソロモンさんも領民たちもドワーフ一行も、呆然とするしかなかった。
あまりにも一瞬の出来事で、何が何だか意味不明だった。
ルージュはハンカチで短剣を磨きながら歩いてくる。
ふんわりとしたメイド服にさえ、一滴の血もついていなかった。
キュッキュッと拭く音がその恐ろしさを増している。
――こ、これがSランク冒険者の実力か……。
領民たちは愚か、ソロモンさんですらプルプル震えている。
「な、なんという恐ろしい力の持ち主ですじゃ」
「ル、ルージュさんめっちゃ強いな……」
「さ、さすがは生き神様のお付きの方だ」
「エ、Aランクのメガオークがあんなに簡単に倒される……いや、分解されるなんて」
なんか、ルージュなら一人で魔王軍も倒せそうだな。
「ユチ様」
「は、はい!」
いきなり、ルージュに話しかけられビクッとした。
俺も分解されてしまうのだろうか。
ちょうどいい具合に裸にされてるし。
「素材も売れるので回収しておきましょう。後で私めがまとめておきます」
「う、うん、そうだね」
ルージュが短剣をしまったのを見て、ようやく安心できた。
「助けてくれてホントにあんがとな! おではドワーフ王国の王女ウェクトルと申すもんだ」
「え? 王女様だったんですか? これはまたお偉い方ですね。俺は一応領主のユチ・サンクアリと申します、どうぞよろしく……いてててて!」
ウェクトルさんはめちゃくちゃ力が強い。
握手しただけで手がヒリヒリした。
「まぁ、とりあえず俺の家に案内するのでついてきてください」
「どっひゃー! それにしても、すんげえ領地だなぁ! おでの国より栄えてっなー!」
「「こんりゃあ、えれーことだなー!」」
ドワーフ一行は案内されながら村を見て、めっちゃ驚いている。
感情豊かな性格らしい。
そのうち、俺の家に着いた。
「んで、ユチ殿! ここは何という場所なんかいな?」
「あ、デサーレチです」
まぁ、わかっていたが、デサーレチと聞いてドワーフ一行は固まった。
そして、その直後みんなで大騒ぎし始めた。
「ここはデサーレチだったかいな!? この世で最も死に近い土地と言われる、あのデサーレチ!?」
「あらゆる苦痛が存在しているという、あのデサーレチだってーな!?」
「死ぬより辛い苦しみを味わいたかったらそこに行け、と言われるデサーレチ!?」
ドワーフ一行はどっひゃー! と驚いている。
なんかまたリアクションの激しい来客だな。
ルージュがピキピキし始めたので、俺は慌てて本題に移る。
「そ、それにしても、皆さんはどうしてあんなところにいたんですか?」
道に迷ってしまったのだろうか。
「おでたちは探し物をしてたんよ。<ゴーレムダイヤモンド>って知ってっか? オーガスト王国の王様へ献上品を作ったはいいが、<ゴーレムダイヤモンド>だけ手に入らなくてなぁ。素材集めの旅に出たんよ。そしたら命の危険ばっかりでな! ガハハハッ」
ウェクトルさんたちはめっちゃ軽いノリで話している。
いや、そんな笑い話で済ましていいのか。
「<ゴーレムダイヤモンド>ならたくさんありますよ。使えそうなのあります?」
引き出しから適当にゴソッと出した。
「「ヴぇっ!?」」
ドワーフ一行は目を点のようにして固まる。
何度か見たような光景だった。
「「そ…………そんな簡単に出てくるのー!?」」
どっひゃー! どっひゃー! と祭りのように騒いでいた。
「他にも、<フローフライト鉄鋼石>とか<永原石>とかあるんですけどいります? というか、鉱山に案内しますよ」
「「!?」」
そのまま、デスマインに連れて行く。
彼女らの喜びようは言うまでもなかった。
ひとしきりお土産を上げて、家に帰ってくる。
「ユ゛チ゛殿! ごんな゛ずばらじい土地は初めでだ!」
ウェクトルさんたちは、涙と鼻水をダバダバ流して喜んでいた。
「あ、ありがとうございます。帰りはソロモンさんに王都まで転送してもらいますからね」
「「大賢者のソロモンまでいるだ!? 王都に転送!? この土地は天国だったかいな……グジュッ!」」
床が汚れたのでルージュがピキる。
「ソ、ソロモンさん! 転送お願いします! 超魔法使ってください!」
「ほいきた! 待ってましたですじゃ! さて、お主らには転送用の魔法札もあげますじゃ。ここに来たくなったら破りなされ」
「「そんな待遇まで……グジュグジュグジュッ!!」」
床の盛大な汚れもルージュのピキりも限界だ。
「じゃ、じゃあ、また来てくださいね」
「「この御恩は一生忘れませんだ!」」
「《エンシェント・テレポート》! この者たちを王都に転送せよ!」
「次来るときはハンカチを持ってくるようにお願いいたします」
ということで、無事にウェクトルさんたちも王都に転送された。
「それでは、ワシは荒れ地の方に行ってみますかの。まだメガオークの残りがいるかもしれんですからな」
「いや、絶対にいませんって! ちょっと、ソロモンさん!」
興奮しているソロモンさんを引き留めるのは、なかなかに大変だった。
◆◆◆(三人称視点)
ウェクトルたちは興奮冷めやらぬ様子で王宮へ向かっていた。
「姫様、これで王様へ無事に献上できまする」
「ユチ殿には感謝してもしきれんだ。ユチ殿は救世主だったんね」
ドワーフ王国とオーガスト王国は、古くから友好的な関係を結んでいた。
その印として、互いに献上品を交換するのが習わしだった。
だが、最近は近くの魔王領が慌ただしくなって、採掘計画が上手くいっていなかったのだ。
それにしても、とウェクトルはデサーレチのことをずっと思い出していた。
――あんなに貴重な鉱石の山は見たことないだ。いずれ、絶対にまた行くんだかんな。
ウェクトルたちの献上品を見て、オーガスト王と王女は歴代で最高に喜んだ。
デサーレチの話を聞いて、さらに驚き興味を抱き、彼らの話は夜まで続く。
そして、そのウワサはサンクアリ家にまで届くのであった。
「さてと、だいぶ村は聖域化できてきたな。あのデサーレチがこんなに栄えるとは俺も思わなかったぞ」
「ユチ様の御業のおかげで、目まぐるしく発展しておりますね。では、マッサージを再開いたします」
「い、いや、だから、もう……」
俺は色々諦めながら領地を見ていた。
ひび割れていた地面は消え、全て柔らかそうな草地となっている。
まぁ、畑はジャングルだけど元気が良いってことだよな。
デスリバーも日の光を受けてキラキラと輝いている。
デスマインなんて霊山みたいな雰囲気だ。
心なしか輝いて見えて、なかなかに美しい光景だった。
ここがあのクソ土地だったなんて、誰も信じられないだろう。
「へえ! ずいぶんと栄えてるじゃねえかよぉ! とんでもないクソ土地ってウワサじゃなかったのか!? ええ!?」
村を眺めていると、やたらうるさい男の声がした。
荒れ地の方からだ。
そういえば、村の中や奥にある畑や川は聖域化したが、荒れ地はまだだった。
村の入り口を境に、瘴気まみれの土地と聖域が区分けされているって感じだな。
「また来客か? 最近は良く来るな」
「いいえ、ユチ様。あの者どもは客ではないようです」
ルージュが険しい顔をして、荒れ地の方を睨んでいる。
村に向かって十数人の男が歩いてきた。
ずかずかこちらへ向かってくる。
相手を威嚇するような凶悪な服装なんだが……どうした?
見るからに商人ではないよな。
かと言って、冒険者でもなさそうだ。
「頭ぁ! あんなところに村がありますぜ!」
「まるで入ってきてほしいと言ってるみたいじゃないかよ!」
「こりゃあ、お邪魔するしかないですぜ! ちょっくら休ませてもらいましょうや!」
どいつもこいつも、質の悪そうな瘴気がまとわりついている。
ほっといたら死んでしまいそうなくらいだった。
「あんなに栄えてりゃ、旅人を丁重にもてなすのは当たり前だよなぁ! 楽しみでしょうがねえや! おい、お前ら、裸のヒョロい男がいるぞ!」
「「ギャハハハハハ! なんだよ、あいつ!」」
悪い奴アピールがすごいな、こりゃまた。
先頭にいるヤツなんか、袖のところがビリビリに引き裂かれた服を着ている。
ズボンに至っては穴だらけだ。
モンスターに襲われたのだろうか。
「こんなところに何しに来たんだろう? 商売のつもりじゃなさそうだし」
「見たところ、盗賊団の類のようです。きっと村を襲いに来たのでございます」
「ゲッ、マジかよ。盗賊団かぁ」
騒ぎを聞きつけて、ソロモンさんもやってきた。
「どうしましたかの、生き神様」
「ああ、なんか盗賊っぽい人たちがこっちに来るんですよ」
盗賊団はみんな、胸の辺りにひょこッと瘴気が見える。
邪悪な心の持ち主のようだ。
ソロモンさんは男達を見ると、ニッコリ笑った。
「どれ、ワシが超魔法で八つ裂きにしましょうかの」
「いえ、私めが処理いたします」
ソロモンさんは超魔法を、ルージュは分解の準備を始める。
「あっ、ちょっ、待っ」
領民たちもぞろぞろ集まってきた。
「いや、お二人の手を煩わす必要もありません。俺たちが戦います」
「そうですよ。私たちにやらせてください」
「なんか気持ちが高ぶってきたな」
いつの間にか、みんな筋骨隆々になっていた。
村で採れる作物やら魚やらを食べているから、自然とパワーアップしたんだろう。
盗賊団なんか一撃で葬り去りそうだ。
「では、みんなで行きましょう。私めについてきてくださいませ」
「「はーい」」
「ちょーっと待ったあああ!」
彼らの前に慌てて立ちはだかった。
裸で死ぬほど恥ずかしいが、そんなこと気にしていられなかった。
「生き神様、どうして止めるのじゃ?」
「ユチ様はお休みになられていてよろしいのでございますが」
ソロモンさんもルージュも、ポカンとしている。
本当に、どうして止めに入ったかわからないようだ。
「いくら盗賊団でも殺しはダメですよ!」
ソロモンさんは何らかの覚悟を決めた顔をしている。
「ワシはもう我慢するのやめたですじゃ」
「一番我慢しなきゃいけないとこー!」
ルージュの手には短剣が握られていた。
「さて……」
「頼むから、短剣はしまってくれー!」
領民たちに至っては、誰が真っ先に盗賊団をぶちのめすかで相談していた。
「実は私、格闘術を習ったことがありまして。最近、また訓練を始めたんですよ」
「実は俺、剣術にハマっていて。最近、巨大な岩を砕けたんだよ」
「実は僕、ソロモンさんに魔法を教えてもらってまして。最近、<エンシェント・ファイヤーボール>を覚えたんですよ」
「タンマ! タンマ! タンマ! タンマ! 殺しはダメ!」
必死にみんなを説得するが、全然戦闘態勢をやめない。
「いや、そんなことを言いましても……ワシだってそろそろ超魔法でスッキリしたいのじゃ」
「ユチ様に向かってあのような暴言。万死どころか億死、いや兆死に値します」
俺の領地で殺人事件など起きてほしくない。
超魔法なんか使ったら、あいつらが木っ端みじんに吹っ飛ぶ。
ルージュに至っては、生きたまま例のアレをやりかねない。
ど、どうすればいい。
そんなことをしていたら、盗賊団が村の入り口まで来てしまった。
「おい、お前が領主のユチ・サンクアリかよ? ずいぶんと弱そうなヤツだな」
先頭にいる男は、太陽を想像させるようなツンツンした髪型だ。
「俺たちはAランク盗賊団〔アウトローの無法者〕だ。ボンボンのお坊ちゃまでも名前くらいは聞いたことあんだろ? ええ?」
「〔アウトローの無法者〕……」
屋敷に閉じ込められていた俺でも、名前くらいは聞いたことがある。
あらゆる金庫や倉庫を破ってしまう盗賊団だ。
「名前が重複しておりますじゃ」
「クソダサいグループ名でございますね」
二人の指摘にアタマリたちは額がビキッとしていた。
言っちゃいけないことだったらしい。
「父親が直接殺しを頼むなんて、よっぽど親子仲が悪いみたいだなぁ! ま、恨むんなら自分のしょぼい人生を恨んでくれや」
何がそんなにおかしいのか、ギャハハハ! と大笑いしている。
というか、父親が殺人を依頼したってマジか。
本当に俺が邪魔のようだ。
アタマリが余裕の表情で村の敷居を跨ぐ。
「あっ、勝手に入らないでくれよ」
「へっ、俺様に命令すんじゃねえ。今からぶっ殺してやるからな。ビビッてちびるんじゃねえぞ」
同時に、その身体にくっついている瘴気が苦しみだした。
『ギギギギ……』
聖域化の効力はまだ存分に残っているらしい。
自動で浄化されていくようだ。
「こんなクソガキを殺すだけで2000万エーン貰えるなんてな。楽な商売だぜ」
「ユチ様……」
「ああ、瘴気が浄化されているな」
アタマリは何やら言っていたが、瘴気が気になってそれどころじゃなかった。
『ギギギギギギギ…………キャアアアアア!』
あっという間に、アタマリの瘴気が消え去った。
「おい、聞いてんのか!? まあいい。一発で楽にしてやるからじっとしてろよ。さあ! さっさと死…………ここで働かせてくださああああああい!!!」
突然、アタマリが叫び出す。
さっきまでのヘラヘラした感じはどこかに消え去っていた。
それどころか、ビシリと直立不動で立っている。
「え? い、いきなりどうした?」
「領主様、いや、ユチ様! どうか私ども〔アウトローの無法者〕をここで働かせてください! 我が命、燃え尽きるまでユチ様のために使います! こんなに美しい気持ちになったのは始めてです!」
ビシーッという音が聞こえそうな勢いでお辞儀する。
とてもキレイな直角だった。
「か、頭? どうしました?」
「何を言っているんです?」
「俺たちはこいつを殺しに来たんですよ?」
盗賊団もポカンとしている。
「うるせえ! お前らも早くユチ様に忠誠を誓うんだよ! ユチ様、申し訳ございません! 私の教育の不届きのせいでございます! どうか、どうか、お見逃しください!」
必死にペコペコするアタマリを見て盗賊団が殺気立った。
「てめえ! 頭に何しやがった!」
「頭が謝ることなんか、絶対にないんだよ! ズタズタに引き裂いてやる!」
「簡単に死ねると思うな!」
勢い良く村に入ってくる。
そして、彼らの瘴気も消えていく。
『ギギギギギ……キャアアアアアア!』
「「この野郎! ぶち殺してや…………俺たちもここで働かせてくださああああい!」」
いきなり、アタマリと同じく直立不動の直角お辞儀をしてきた。
あまりの急展開に理解が追いつかない。
「な、なにが、どうしたんだ?」
「おそらく、生き神様の聖域によって改心したんでしょうな」
「瘴気と一緒に彼らの邪悪な心も浄化されたと考えられます」
そんなことがあるのか?
でも、確かに瘴気は消え去ってるしな。
「ほら、もう大丈夫だぞ。辛かったよな」
「生き神様の近くに居ればもう安心だ」
「さあ、俺たちと一緒にここで働こう」
領民たちが優しく彼らの肩を抱く。
「「はい、よろしくお願いします……うっ……うっ……ユチ様に出会えて本当に良かった……!」」
(元)盗賊団たちは、泣きながら領民に連れて行かれる。
何はともあれ、危機は去ったらしい。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”Aランク盗賊団〔アウトローの無法者〕
あらゆる倉庫や金庫を破っていた盗賊団。
アタマリを頭とした十数人のグループ。
もう少しでSランクになれそうだった。
ユチの作った聖域により改心し、人生をユチに捧げることを誓う。
実態は優秀な鍛冶職人の集団。