第14話「刺客来襲ッ!!」
「ふーーー…………いい湯だ」
ギルドから出たアルガス達は、その足で町の中で居心地のいい宿屋に泊まっていた。
お値段はお手頃価格。
古びてはいるが、落ち着いた佇まいの老舗宿といったところだ。
もっとグレードの高い所もあるにはあるのだが、アルガスの庶民染みた感覚ではこういった───風呂と小さな部屋と、酒場兼食堂付きの宿くらいでいい。
なんというか、落ち着くのだ。
ほら、なんかボーイがいたり、白い服を着たシェフがいるような宿だと、かえって休める気がしないのですよ。
根が庶民なのです。はい。
そういえば……。
───バシャリと湯を顔に当てつつ思う。
「……それにしても、【重戦車】か───とんでもないな……」
街をあげて阻止しようとしていた軍団を、一撃の元に殲滅した天職……。
自分で感じただけでも、まさに最強だと思う。
───ただ、実感がない。
無我夢中で戦い、気付けば軍団を殲滅していたということ。
「───ギルドの連中に、詳しく聞かれなくてよかったかもしれんな」
あの圧倒的な力だ。
きっと快く思わない連中もいるだろうし、あるいは上手く取り入ろうとする連中も出てきそうだ。
ちなみに、詳細が聞かれなかったのは、ギルドがテンパっていたからだ。
なんせ、いきなり軍団全部のドロップ品が持ち込まれたのだ。
当然、地方の一ギルトでどうにかできる数ではない。
結局、ギルドの資金不足を理由にドロップ品の換金は断られてしまった。
少々納得がいかないものの、その代わりに「光の戦士たち」と、リズの行方を捜索してもらうことで、今日は引き上げた。
ジェイス達も、腐っても勇者の称号をもったSランクのパーティだ。
無名のパーティとは違い、とてつもなく目立つはず。
だから、探すのはそこまで困難ではないだろう。
きっと、体勢を立て直すためにどこかの街のギルドに顔を出すに決まっている。
ギルドは基本は個人経営でありながら、横の繋がりを強固に持つ特殊な商売の集合体だ。
その情報網に引っ掛かれば、すぐに居場所を特定できるだろう。
惜しむべくは、それまでジェイスにリズを預けなければならないこと。
それが無念でならない。
本当なら、すぐに荒野に駆けだしてアイツらを捜索したいが、闇雲に探しても見つかるとは思えない。
それくらいなら、どっしりと構えて行方を追う方がいい。
心配は心配だ。だが、荒野の奥地であっても、リズがいれば何とか脱出できるはずだ。
その程度の知識は、あの子に叩きこんだという自負がある。
けどな、
「───落とし前はつけてやるぞ、」
そうとも───俺とミィナを囮にし、卑怯にも逃げやがったクソ野郎ども!
「──────ジェぇぇえイスッッ!!」
バシャァァアン!!
湯に拳を叩きつけ、決意を新たにするアルガス。
※ ※
「ふぃー……いい湯だった。ミィナはもう上がったか───?」
宿の部屋に戻ると、ミィナの気配がない。
まだ風呂にいるのかと思ったが、ベッド脇に濡れたタオルが干してある。
ということは、一度部屋に戻っているのだろう。
「?? 酒──────なわけないしな」
オッサンの考えなら、風呂上りに一杯! ってやるところだが、女の子がそんなことをするはずもなし。
ずっと、奴隷小屋にいたらしいミィナが土地勘があるとも思えないので、一人でフラフラ出ていくとも考え辛い。
「……飯は、さっき滅茶苦茶食べたしな?」
風呂の前に、食堂で川魚の油浸しと、野菜の千切り、イノシシ肉のステーキに、大きなパン、そして羊ソーセージのコッテリシチューを食べたはず。
二人して腹がパンパンになるまで食べたから、またお腹が空いて食堂に行ったとも考え難い。
そもそも、勝手にどこかに行くような子でもないだろうし……。
部屋に併設されている、便桶を置いた狭い部屋(便所)にも人気はない。
おかしい──────。
「ミィ」
ヒュン!!!──────スカァン!
名前を呼ぼうとして瞬間、耳元を鋭い擦過音が駆け抜けていった。
く!?
反射的に床に伏せると、窓から身を隠した。
スカァアン! と、柱に突き立つ鋭い矢──────いや、これはボウガン用のボルト弾だ!
「ちぃ!」
暗殺者か!?
アルガスは身を隠したまま、素早く防具を身に纏う。
途中で買い揃えた新品の重装備だが、着こむのに時間がかかるのでチェインメイルと兜、そして、タワーシールドだけを装備すると、剣を腰に下げて部屋を飛び出した。
扉を開けた途端に、そこに待ち構えていた、追撃の刺客が襲い掛かる!
「ぐ───!!」
狭い場所での戦いを想定した短剣使いども。
黒い装束を身に纏い顔を隠している。
「このぉぉおッ!」
態勢の整っていないアルガスに、畳み掛けるつもりなのだ。
無言の刺客による、鋭い突きが廊下の左右から繰り出される。
しかも、身長さを活用した多段攻撃だ!
だが、
「舐めるなぁぁあ!」──ズガァァァアン!
右側の暗殺者には扉を思いっきり叩きつけ、シールドバッシュの要領で吹っ飛ばす。
そして、左側の暗殺者には本家本元のタワーシールドによるシールドバッシュだ!
ドガァァアアン!!
「ぐああ!」「ごほぅ!」
まとめて叩き伏せられた暗殺者が、ふっとび、何人かはヨロヨロと逃げ出す。
奴らは軽装だ。
それが故に、アルガスの一撃は内臓に響いたことだろう。
「逃がすか、この野郎!」
手近にいた連中の足を踏み砕き、まだ襲い掛かってくる連中を剣で貫いた。
ノロマと言われても、並みの冒険者よりも遥かに強いのがアルガスだ!
そのうち、宿の泊り客や主人が気付き俄かに周囲が騒がしくなる。
それに慌てたのか、無事だった連中が煙幕を投げつけ撤退に移り始めた。
「───っ!」
簡単に逃がすと思うなよ!!
状況から見て、ミィナはこいつ等に誘拐された可能性が高い!
最低でも、生け捕りにしないと───!!
「待てッ!!」
しかし、かなしいかな───。
アルガスの足は並み程度……!
軽装主体の暗殺者に追いつけるはずもなし。
あっという間に、闇の中に連中は消えてしまった。
「くそ!」
毒づくも、こうなっては仕方がない。
廊下で叩き伏せた連中が何人かいたはずだ。
「きゃーーーーーーー!!」
鋭い悲鳴に気付きアルガスが宿の駆け戻ると、そこには事切れた暗殺者の死体が山となっていた。
「ち…………自害しやがったのか」
どうやら、口を割るのを恐れて、自殺用の毒物を持ち込んでいたようだ。
実に徹底してやがる。
せめて正体でも───と、黒装束を剥ぐと、存外若い顔が出てきた。
全員頭部は反り上げられているが、皆顔や体のどこかに蠍の刺青を彫っている。
つまりコイツ等は───。
「やはり、暗殺者ギルド…………!」
第15話「喧嘩を売った奴ら」
多数のギルドが犇めく街の一画。
そこの倉庫街に、蠢く男達の姿があった。
「いひひひ……嬢ちゃん、覚悟しなぁ!」
厭らしい笑みを浮かべた小男が、ミィナの目の前でナイフをプラプラと揺らして脅している。
「ひぃぃ!」
お風呂に入ったあと、宿でのんびりしていたところを訳も分からぬまま誘拐されたミィナ。
彼女は、その幼い体を縄で拘束され、小さな檻に閉じ込められていた。
周囲には黒装束の男達や、小汚い恰好の男女が多数いてミィナを見下ろしている。
「───おいおい、本当にこの小汚いガキが、金貨10000枚も持ってるのか?」
「まったくだ……。どう見ても、銅貨すら持ってなさそうだぞ」
幾人かの男達は首を傾げている。
大枚叩いて雇われたものの、拍子抜けするほどあっけない任務だった。
「いや、俺は昼間見たぜ。こいつと、こいつの飼い主が魔石をばら蒔いてるところをな」
「ああ、それなら俺も見たぜ! ほらよ」
日中、門前で菓子を売るというシノギをしている柄の悪い露店商が、自慢気に魔石を見せる。
なるほど……本物だ。
「す、すげぇ」
「でけぇ……!」
「だろ? こんなのを、このガキ───いっぱい溜め込んでやがるぜ。うひひ」
それを聞いた全員が、ベロリと舌舐めずりしてミィナを見下ろす。
「で、でもよう。さすがに金貨10000枚は、ねーんじゃないか?」
ただし、中には疑い深い奴もいるが──。
「いーや、本当だ。……それどころかそのガキの異次元収納袋には魔石や魔物のドロップ品がまだまだ唸るほどあるぜ」
男たちの背後にあらわれた雇い主の言葉に、ひゅう♪ と口笛を吹く男達。
誰しも景気のいい話には心が躍るようだ。
「じゃあ、早速捌いてみるか?」
「ばーか。殺しちまったら異次元収納袋から取り出せないっつーの」
じゃあどうすんだよ? と、男達がやいのやいのと騒がしい。
「おら、ガキ!! さっさと出せッ! 出さないとブスっといっちまうぞー」
「いやぁぁあ!」
ナイフや短刀といった得物を、これ見よがしにチラつかせる男たち。
その物騒な男達の気配に当てられミィナが、ガクガクと震えている。
「ひゃはははは。ビビらせ過ぎなんだよ! 見ろ、小便ちびってやがるぜ」
「ぐひゃはははは! こりゃいい! もっとビビらせてやるぜ!」
うひゃははははは、と下品な男達が怯えるミィナをさらに脅していく。
もはや、アイテムを取り出すよりもその怯える様を楽しんでいるようだ。
一方で小汚ない男達とは違い、黒装束の男達は比較的無口だった。
小汚ない男達───盗賊や斥候などで構成される盗賊ギルドとは違い、黒装束の彼らは生粋の暗殺者だ。
専門職だけで構成された暗殺ギルドは、仕事にしか興味がない。
そして、彼らは仲間内でコソコソと話していた。
「(男を始末に行った連中が返り討ちにあった)」
「(勇者パーティにいたというのは、伊達じゃなさそうだ)」
「(頭領から追撃の指示があったので、上級暗殺者を差し向けたらしいが……)」
ボソボソと物騒極まりない話をしているが、どうやらアルガスに返り討ちにあった連中が報告に来たのだろう。
そして、さらに戦力を増強してアルガスの襲撃に向かったらしいと───。
「おい! 暗殺者ども! 話が違うぞ───アルガスの野郎はどうした! 奴の首はどこにあるってんだ!?」
薄暗い場所でヒソヒソと話す暗殺者どもが気にくわないのか、雇い主の男はランプを手にズンズンと歩くと、手近にいた暗殺者の胸倉をつかんだ。
まるで、子供のように重さを感じさせない暗殺者。
筋骨隆々の雇い主に掴みあげられた暗殺者は苦し気に唸るが、
「───落ち着け……。既に追撃は送った」
しわがれた声が背後から響き、慌てて振り向いた雇い主は思わずランプを取り落とす。
ガシャン! と割れたそこから漏れた油が一気に燃え、薄暗かった倉庫の中を明々と照らしだした。
そこに、雇い主ことあの筋骨隆々の冒険者ギルドのマスターの姿が、明々と照らし出される。
「───ほ、本当か? 聞けば返り討ちにあったそうじゃないか」
「ふん……。端た金しか寄越さんでよく言う……。空証文だったら貴様の首を貰うぞ」
ギルドマスターは昼間の意趣返しのため、大金をはたいて裏家業の物を雇っていた。
もちろん、空証文で……。
なんせギルドマスターの金はミィナが持っているのだ。
それを当てにしているのは火を見るより明らかだった。
「う……。か、金なら払うさ。だからさっさとアルガスの首を取ってこい」
「慌てるな───ノロマな重戦士の首くらいすぐに挙げてくれるわ……。我がギルド最高の使い手を送ったからな」
ニィ……と、黒装束の影の中で薄く笑うのは、暗殺者ギルドの頭領。
その顔をみて、ゾゾゾと背筋の凍る思いのギルドマスターだったが、同時に頼もしさを覚えていた。
「さ、最高の使い手──────そりゃ期待できる、」
そして、追笑するように汚い笑みを浮かべた時───。
ズッドォォォォォオオオオオン!!!
突如、倉庫の一画が吹っ飛んだ!!
第16話「対人戦闘開始(前編)」
「な、なんなんあな、なんだぁ?!」
「ぎゃああああ!! あじぃぃいい!!」
突然の爆発に、男達が慌てふためく。
「狼狽えるな!! 早く火を消せ、あとはガキを守れッ!」
そこに奥から飛び出してきた、細身の男が指揮を執り始める。
腕の刺青から盗賊ギルドの、上位のものだと分かる。
「か、かかかか、カシラぁ! ば、爆発が、爆発で、爆発した!」
「アホォ! 見ればわかる───魔法使いの強襲かもしれんぞ。早くガードを固めろッ」
カシラの指揮の元、ワタワタと動き始める盗賊ギルドの面々。
一方で比較的冷静だったのは、やはり黒装束の暗殺ギルドの手練れ達だろう。
雇い主であるギルドマスターの首根っこを掴んで素早く距離を取り、闇に身を沈める。
「───何が起こった?」
頭領と呼ばれた上位の暗殺者が、表で警戒していて負傷した部下に問うていた。
そいつは、外で運悪く爆発に巻き込まれ片腕を失っていた。
「わ、わかりません───な、何かが街からやって来て、突然倉庫が爆発したとしか……ぐふッ」
「ちっ!」
それきり事切れた部下を放り捨てると、
「───おい、貴様。他に、どこに声をかけた? アルガスとやらが魔法を使えるとは聞いていないぞ?」
今度は頭領が胸倉をつかんで、ギルドマスターを脅す。
彼の心中では、別勢力が攻撃を仕掛けてきたと思っているのだろう。
「し、知らん! そりゃ、保険くらいは打っているが……自分が巻き込まれるようなことを、するわけがないだろうが!」
それもそうだ。
「ふん! どうだか」
ギルドマスターを放り出すと、頭領は首をコキコキと鳴らす。
「ち……。まぁいい。どこのどいつか知らんが落とし前を付けてやる」
シュラン……! と鞘引く音を立て、頭領を始め居並ぶ暗殺者たちが毒に塗れた短剣を引き抜く。
「お、おい! それよりも、アルガスはどうするんだ?! おい、聞いてんのか?!」
「うるさい。お前の始末はあとだ。ま……安心しろ、アルガスは最高の暗殺者が───」
ドルドルドルドルドルドルドルドル……!
メリメリメリ───!!
突然変形し、音を立てて崩れていく倉庫の壁。
「な、なんだぁ?!」
「か、壁から離れろッ!」
そして、爆炎を潜り抜けて来た鉄の塊が、男達の前に乱入した。
バリバリ……メリメリ───ズズゥン!!
『──おい、最高の暗殺者ってのはこいつか?』
怒気を孕んだ声。
そのまま破壊の大音響が響いたかと思うと、死体をぶら下げた鉄の塊がついに全身を表す。
まるでパンでも引き千切るかのように、圧倒的なパワーでバリバリバリと、倉庫の壁を破って突撃してきた異形の化け物。
「うひゃあ!!」
その勢いに、暗殺者も盗賊たちも慌てて飛び退る。
「な、なんだぁ?!」
「ど、どこのバカが破城槌持ち出しやがった!」
「た、建物が崩壊するぞ?!」
しかし、騒ぎなど聞いてもいないかのようにギャラギャラギャラ! と、けたたましい騒音と共に巨大な鉄の塊が堂々と倉庫に乗り込んできた。
「あ、アルガスさん!!」
『よう。無事だったか!』
檻の格子に縋りつくミィナ。
彼女は、あの鉄の塊に向かって話しかけたらしいのだが……───アルガス?
アルガスだって?!
「あ、あの中にアルガスがいるだと?!」
頭領が呆気に取られていると、
『テメェがコイツらの上司か? 鬱陶しいからぶっ飛ばしてやったぜ』
アルガスが戦車砲をウィィンと動かすと、その上にぶら下がっていた全身穴だらけになって事切れた、ボロクズのようになった暗殺者がいた。
「な?! わ、ワシの手練れが?!」
その死体を見て驚愕に目を染める頭領。
『は? 手練れ?……とんだ雑魚だったぞ』
ボト……。
無造作に捨てられた手練れ(笑)はブチッと、アルガスに轢き潰され地面の染みになった。
「な、なんてことを!?」
あまりの出来事に、冷静沈着だったはずの頭領がブルブルと震えている。
よくよく見れば、ぶち破られた壁の向こうには暗殺者たちの死体が点々と───……。
どうやら、死体がここまで導いてきたようだ。
それにしたって、足の速いはずの暗殺者がこうも一方的に?
いや、そんなことはどうでもいい!!
「やってくれたな、アルガス! もう、依頼などどうでもいい! 我らの誇りのために貴様をズタズタにしてくれるわ!!」
───行けぇぇええ!!
頭領の合図を元に、一斉にアルガス───もとい、重戦車ティーガーⅠに殺到する暗殺者たち!
彼らはどこかに隙間があるはずと、短剣を手に次々に襲い掛かるが───。
『効くわけねぇだろ、ターーコ』
ガキガキガキィィイン!!
一斉に振り下ろされた短剣が全て防がれる。
「て、鉄だとぉ?!」
「か、硬い!」
必殺の一撃は全て防がれ、暗殺者どもの短剣がぶち折れる。
そして、
『───ミィナ伏せてろッ! 異次元収納袋《アイテムボックス》からドロップ品の盾を出して隠れるんだ!』
「は、はいです!!」
ニュウーと、異次元収納袋を展開したミィナが、オーガナイトの盾を取り出しその下に身を隠す。
その瞬間アルガスが叫んだ!
『Sマイン投射!! ぶっ飛べ、暗殺者ども!!』
ポンポンポンッポォン!!
軽い発射音とともに、車体の四隅にあった車外発射装置からSマインが発射された。
突然の爆音に警戒していた暗殺者達だったが、特に何も起こらないことに─────。
「な、なんだ?」
「ビビらせやがって!」
「単なる、こけおどしだ!!」
暗殺者たちの目の前には、中空に放出された小さな鉄の筒が───。
バババッバァァァアアン!!
──────炸裂した。
第16話「対人戦闘開始(後編)」
バババッバァァァアアン!!
中空で炸裂したSマインが、内部に仕込んでいた無数の子弾を周囲にぶちまけた!!
「ぎゃぁぁぁああ!!」
「うぎゃああああ!!」
「あーあーあーあー!」
一瞬にして全身を穴だらけになった暗殺者達。
直撃したものはボロボロの肉片となり、掠めただけで大量出血してのたうちまわる。
だが、ティーガー自身もその子弾を受けたというのに、傷一つない。
それどころか、跳ね返った子弾がまた周囲にぶちまけられ、倉庫の中にいたほとんどの者が負傷していた。
「ひぃぃいぃい!! 抜いて、抜いてぇぇえ!」
「目が、目がぁぁぁあ!!」
暗殺者ギルドの頭領ですら「行けぇえ!」の格好のまま、全身穴だらけになって死んでいた。
生き残ったのは僅かばかりの盗賊どもと、そのカシラ──────そして、ギルドマスターだった。
「ひぃぃぃい! ば、ばばば、化け物ぉ……!」
筋骨隆々の偉丈夫───ギルドマスターが、腰を抜かしていた。
『───よぉ。テメェ、見た顔じゃねぇか』
「あ、あああ、アルガスか?! なんで生きてる!? つ、つつつ、使えん暗殺者どもめ!!」
アワアワと腰を抜かしたギルドマスターが、ズリズリと逃げ出そうとする。
だが、それを見逃すアルガスではない!
『ほーう? やっぱり、お前が送り込んだ刺客か……。大方、金の回収を目論んでいたみたいだが。おう、ごら───冒険者ギルドのマスターがこんなことやっていいのか? ああん?』
ごらぁ?!
オラオラ口調で追い詰めていくが、ギルドマスターも諦めの悪い人物だったらしい。
「お、おい! 盗賊ども、さっさとガキを盾にしろ───」
「ふっざけんな! 何人死んだと思ってる! 端た金じゃ割に合わねぇ、このガキは俺達が代官に売り込んでやるぁ」
あっという間に見捨てられるギルドマスター。
そして、盗賊どもは檻ごと担いで逃げ去るところだった。
『お、おい、待てテメェら!!』
すかさず追撃しようとしたアルガスだが、ミィナに命中しそうで銃撃できない。
『くそ!!』
逡巡している隙に連中はスタコラサッサと逃げ出した。
大量の負傷者を放置して……。
「あ、あの野郎ども!! 俺を置き去りにしやがって───!」
『おう、ゴラ! 待てや!!』
ドルドルドルドルドルドル……!
エンジンを猛烈い空ぶかしして、アルガスは怒り心頭!
クソボケのギルドマスターに、ジリジリ迫ると、キャタピラで無残に轢断してやろうとする。
「ま、まっままっま、待てアルガス! お、俺を殺したらお尋ね者だぞッ! 街の代官だって黙ってはおらんぞ」
む……。
ピタリと止まるアルガス。
明らかにギルドマスターの方が犯罪者なのだが、奴の言うことにも一理ある。
こんなやつでも、一応街の名士だ。
そのギルドマスターが口を割ることなく、アルガスの手でブチ殺してしまえば真相の究明には程遠くなり、無残に死んだギルドマスターの死体が残るのみ。
事情が分からないものが見れば、アルガスの非にも見えるかもしれない。
「ぎひひひひ……! そうだ。それでいいんだよ! 代官にゃ高い税金と賄賂を納めてんだ、お前なんか鼻息ひとつで、ポンッだぜ!」
アルガスが動きを止めたことに気を良くしたギルドマスターは、厭らしく笑うと、よっこらせと立ち上がる。
懐から一枚の紙を引っ張り出すと、高々と指し示す。
…………なんだ、ありゃ?
───告、代官府!
アルガス・ハイデマン。この者、勇者殺しの容疑で追跡中。賞金は金貨500枚。生死問わず!───
『なんだそれは? お尋ね者───俺が?』
「そうとも!! これは明日にでも街中に張り出される高札よ! 代官殿に密告して、作ってもらったのさ!」
は?
なんで俺が勇者を殺す? 意味分からん。
っていうか、これ……ジェイスのことを言ってんだよな?
『………………ジェイスなら逃げたぞ? 軍団を放置して、街の反対にな。軍団に敵わないとみるや、尻尾をまいて───』
「知るか、そんなこと。ひひひ、保険をかけといてよかったぜ───。今頃、セリーナが代官府で準備している頃だ。そのうち、お前を捕縛しようと代官様が動きだすぞ! ついでに、あのガキを手土産にすれば代官様もお喜びに、───って、指ぃぃぃぃいい!!??」
ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
───プチッ。
「あーーーーーーーーーーー!!」
なんかムカついたので、キャタピラで足の指を引き潰してやったぜ。
っチ、それにしても街の代官まで抱き込んでやがるとは……。
しかも、ミィナを売るとはな───最初からそれが目当てか。
無駄に政治力のある奴は面倒くさい。
そう言えばここの代官は俗物で、街の民衆からスゲー嫌われていたな。
しかも、ロリコン………………。
軍団が迫っていると聞いても、代官は迎撃に向かうどころか、自分の財産を避難させるのに必死だったとかなんとか……。
ったく、どいつもこいつも腐ってやがる。
───まぁ、いい。
『だったら、代官の前で囀ってもらうぞ───そのあとでミィナを返してもらい、たっぷりとお礼参りさせてもらうからな!』
足の指を押さえて、ヒーヒー言っているギルドマスターを冷たく見下ろすアルガス。
容赦する気なんて、全く起きない。
ミィナを奪っておいて、そのうえ俺がお尋ね者とはな……。
どうやら街の御代官様も俺と戦争がしたいらしい。
いー度胸だ。
第17話「代官邸強襲ッ!」
代官の館にて、
「うふふふふ……お代官さまぁ、この話はホントでしてよ」
「うむむ……。それは、けしからん話だ! 明日と言わず、今夜にでも『触れ』を出すべきかもしれんな」
でっぷりと太った代官が、ワイン片手に真っ赤になった顔で適当なことをほざいている。
それを煽るように、セリーナは薄い扇情的な服で劣情を催させるように、代官に次々に酒を注いでいく。
しかし、代官はセリーナには全く興味なさそうにしている。
代わりに、盗賊ギルドどもが持ち込ん少女───部屋の隅で震えているミィナを、好色染みた目で見ていた。
「げぷッ……。ふーむ、勇者を殺したとなれば国家一級の犯罪ぞ。これはこの街だけに留めず、国に通報した方がいいな。どれ──」
代官は勇者殺害の話を鵜呑みにし、アルガスに懸賞金を付けた。
碌な裏付けもなしにである。
それもこれも日頃から賄賂に余念のないギルドマスターの話を信じたからだ───と、いうのは嘘で、もちろん出鱈目だと知っている。
それでもこの話に乗ったのは、セリーナの持ち込んだ金貨何千枚相当のドロップ品を貯め込んだポーターの話と、たった一人で軍団を倒したという、眉唾ものの話があったためだ。
しかも、眉唾でありながら真実だという。
それはもはや、旨味しかない儲け話だ。
代官は代官で思惑があり、ギルドマスターともどもを利用して、件のポーターも、例の手柄も独占してやろうと考えているのだ。
当然ながら、ポーターも手柄も何もギルドマスターどもにくれてやる必要などない。
うまく騙された振りをして、ポーターは脅して金を取り出し、ついでに味見する。
中々かわいい子で代官の好みだった。
そして、軍団を倒したという男は殺して存在を消した後に、手柄を代官の物にする。
と───そんな筋書きがあった。
だから、セリーナの胡散臭い話に乗った。
ついでに、アルガスを殺せば、勇者殺しを仕留めたという栄誉を国に持っていけば一石二鳥どころか、三鳥も四鳥もあり、当然ながら勲章ものだと皮算用していたのだ。
「く、国?! い、いえいえいえいえ! 待ってくださいよぉ、代官様!」
しな垂れかかるセリーナの体を受け止めながら、代官はやはり嘘だと看破した。
恐らく、アルガスという冒険者は勇者を殺していないのだろう。
国が本腰を入れて調査すれば、そんな嘘は一発でバレる。
だから、このギルドマスターの娘はこの街の代官権限までで止めたいのだ。
「ん~? どうしてだ? 待つ必要なんぞない、ほれ」
テーブルにある執事を呼ぶ手鈴をならそうと手を伸ばせば、セリーナがその豊満な体で押しとどめる。
「ま、まぁまぁ。まずはお酒でも飲んで、ね!」
なんとしてでも、国に通報されるわけにはいかないセリーナは必死だ。
色気で釣って、お酒で思考を鈍らせてと、あの手この手で阻もうとする。
そのうち代官も面倒になって来たのか、触れを早めに出すというところで一旦は落ち着いた。
(ふぅ……。危ない所だったわ。───パパぁ、早くアルガスを仕留めちゃってよ……。そうすりゃ賞金も総取り。ポーターの異次元収納袋の中身も全部私達の物になるんだから)
冷や汗まみれのセリーナはそっとため息をつく。
俗物で、スケベでロリコン。
嫌われ者の、悪徳代官の相手もしんどいものだ。
(まぁ、ここまで話が進めばあとは私達の勝ちよ! 見てなさい、アルガス……権力ってのはこうやって使うのよ)
使用人が、アルガスの手配書を大量に刷って街に持っていく姿を窓越しに眺めながらセリーヌは皮算用する。
うまく行けばギルドを拡大できるし、お金持ちになっていい男と結婚もできる。
そして、明るい未来があると─────。
「あら?…………何かしら?」
代官の館は街を一望できる小高い丘にある。
街全体が壁で覆われているため、代官邸自体にはちょっとした塀がある程度で、防御は薄い。
その代わり見通しは凄くいいのだ。
そして、夜の闇に沈む街の方から妙に黒々とした何かが…………。
「え? パパ?」
徐々に近づくそれが代官の館の明かりを受けてボンヤリと浮かび上がる。
そして、象のように長い鼻を持った馬車の先端には、脂汗を浮かべたギルドマスターが括りつけられていた。
「ぬぅ? どうした?」
酔っ払った代官が窓に近づき、セリーナとともに街の方を見下ろせば……。
「ありゃぁ、なんだ? お前の親父じゃないか?」
ガチャっと窓を開けると、眼下では屋敷の警備をしていた衛兵がバラバラと散発的に集合し、塀と門を挟んでギルドマスター達と向かい合う。
そして、衛兵たちが訝し気に問う声が代官の部屋まで届いてきた。
※ ※
「止れッ!!」
「何者だ! 恐れ多くもお代官様の館へ夜分に馬車で乗り込むとは、反逆罪で逮捕されても言い訳はできぬぞ!!」
衛兵たちは威圧的に槍を構えて、居丈高に詰問する。
「お、お代官さまぁぁぁあ!! 助けてください! コイツです! コイツがアルガスです!」
「何?」
「アルガスだって?」
驚いたのは衛兵たちだ。
なんせ、出たばかりの御触れでは勇者殺しの大悪党としてお尋ね者になった奴が忽然と目の前に現れたのだから、当然だろう。
しかも懸賞金付き、金貨500枚!!
大金だ!!
そして、馬車に拘束されているのは街の名士、ギルドマスターだった。
その言葉には重みがある。
そこに───。
「ぱ、パパぁ?」
「せ、セリーナか! 助けてくれ……! アルガスに捕まっているんだ! は、はやく助けてくれ!!」
長い鉄の棒のようなものにぶら下げられたギルドマスターは、憐れみを誘う声で叫び、ギュシギュシとロープを揺する。
筋骨隆々なのに、まぁなんと情けない姿か……。
「アルガスって、その中にいるの? 雇った連中はどうしたのよ?」
「バカ! 余計なことは言わなくていい! 早く助けろ!!」
窓を塀と門を挟んで親子でわいのわいの。
それを見ていた代官がニヤリと笑う。
日頃からギルドの報酬から賄賂を貰っている代官であったが、いっそギルドの権利を丸ごと欲しいと思っていたのだ。
その上、アルガス自らここにやってきた。
まるで鴨がネギを背負って、コンロと鍋付きで飛んできたようなものだ。
このまま、ギルドマスターを助けて恩を売り、今後も商売に噛ませるように仕向け、そしてアルガスは殺してその首を王都に送る。
そうすれば代官は英雄様だ。
もしかすると、領地のひとつも貰えるかもしれない。
田舎貴族の三男坊で冷飯を食わされた挙げ句、なんの旨味もない地方で代官をやらされるよりはよっぽど、いいと───。
「ぐふふふふ……」
そのことを思い、悪~~~い顔になる。
代官はでっぷりと太った脂肪を揺らしつつ、窓に近づくと言い放った。
「貴様がアルガスか! 馬車に籠って、街の名士を人質にするとは卑怯千万! 即刻ひっ捕らえて獄門にしてくれるわ!」
ムンッ……! と威圧感を出して朗々と語る。
だが、アルガスからの反応は意外なものだった。
『おいおい……。人の話も聞かないでいきなり犯罪者扱いか?』
「勇者殺しと交わす言葉などもたん! 貴様を討って国への忠誠を示すことが代官の職を預かったワシの務めだ!」
これでも、長年悪徳代官をやっているのだ。
当然、頭は悪くない。
『は……! くだらねぇな───俺はコイツに殺されかけたっていうのによ!』
「えええい! 黙れ黙れ! すぐさま捕らえて、その素っ首引っこ抜いてくれるわッ!」
代官の殺す発言に、部屋の隅で震えていたミィナがビックリして起き上がると、窓に駆け寄った。
「アルガスさん、逃げてぇぇええ!!」
『…………ミィナ?』
慌てたセリーナがミィナを拘束すると、部屋の奥に引っ張り込んでしまった。
『おいおい、どういうことだ? 俺の連れが何でそこにいる?? あ゛?』
アルガスの静かな怒気を感じて、さすがに代官も少し仰け反るも、そこはそれ。腐っても……───いや腐ってる悪徳代官だ。少々の脅しなどに屈するはずがない。
『よぉ、お代官ってのは、人様が世話してる子どもを誘拐する権利でもあるってのか? おい、何か言えや、ゴラぁ』
アルガスの正論にぐうの音も出ない代官は言った。
「か、構わん──衛兵! そいつを馬車から轢きずりだしてやれ、殺しても構わんぞ!
仕留めたものにはたんまり褒美をくれてやる!」
「「「おおお!!」」」
ワラワラと湧いて出てくる衛兵たち。
どいつもこいつも目を$マークにしていやがる。
ついでに言えば、全員ロクでもない連中ばかりだ。
『は。腐ってるな……。まったくどいつもこいつも……』
冒険者ギルドのマスターに、暗殺者ギルドや盗賊ギルド。
そして、悪徳代官。
ミィナがここにいるということは、常日頃から盗賊ギルドと取引があるのだろう。
代官の子飼い衛兵どももクズばっかりだ。
この街に来て、そこまで日は長くはないが、コイツ等の評判は最悪だった。
チンピラまがいの強盗はするわ、女子供に暴行を働くわ、リズをナンパしようとするわ、リズをストーカーしようとするわ、リズの風呂に侵入しようとするわ、とんでもないケシカラン連中ばかりだ。
そう言えば、どいつもこいつも顔に見覚えがある。
リズに手を出そうとした奴を追い返したことが何度かあったのだ。
当然、冒険者は自衛手段があるので自分の身は自分で守れる。
だが、この様子だと街の一般民衆はやられたい放題に違いない。
すげーーーーー嫌われている連中で、ついでにアルガスも嫌っていた。
もっとも、街から街に流れる冒険者稼業なので、立ち寄った街の事情には首を突っ込まない主義。
基本的に事を荒立てる気はないが、だが、今回は別だ。
アルガスをお尋ね者にして逮捕する気満々で、その上ミィナのことも狙ってやがる。
ギルドマスターとグルだっていうならミィナの異次元収納袋のことも聞いているんだろう。
そして、今まさにアルガスを殺そうとしている。
容赦???
───するわけねぇだろ!!
『おうおうおう、舐めた真似してくれんじゃんよ?! お? 「重戦車」舐めんなよ。ごらぁぁあああ!!』
第18話「重戦車は怒り狂うッ」
『「重戦車」舐めんな、ごらぁぁああ!』
カッ─────────!!
門を開けて群がってきた衛兵目掛けて、探照灯を思いっきり照射してやった。
夜間戦闘に使う戦車用のライトは滅茶苦茶明るい!
しかも光量を一切絞っていないので、まるで昼間になったかのような明るさだ。
「うわ! なんだ! め、目がぁぁあ」
「目が、目がぁぁあ……」
「ぐお! 照明魔法だと」
「くそ! 馬車の中に用心棒がいるぞ!」
まともにライトを直視した衛兵たちが、目を押さえて呻いている。
『よぉ、悪徳代官さまよぉ! ミィナを返してもらうぜ!』
一歩たりとも退かぬ気配のアルガスに、代官は口をあんぐりと開けたまま───。
「く、国の代理たる代官所に喧嘩を売るとは?! な、なんという愚か者だ!! ええぃ、出い! 出い!! 者ども、出会え、出会えぇぇえ!!」
代官は警備の兵だけでなく、館中の兵を強制招集。
その上、危急を告げる鐘を鳴らして街中の衛兵隊を呼び戻した。
カン、カン、カン、カン、カン、カン!!
闇に沈むベームスの街に鐘が響き渡る。
※ ※
「び、ビビってんじゃねぇ!! 突っ込め突っ込めぇぇえ!!」
探照灯を浴びて見の眩んでいる衛兵たちだったが、徐々に統制を取り戻し始めていた。
そして、館から出てきた警備兵は全員完全武装。衛兵隊謹製のハーフプレートアーマーに身を包んで、お揃いの紋章の入った盾付きの精鋭だ。
だが、後から来た連中に手柄を取られたくない門の警備兵は、目が眩んだまま遮二無二に槍を振り回す。
「おらおらおら!!」
「馬車だ! 馬を狙え! 幌の隙間から乗員を殺せぇぇえ!!」
うらー!
うらー!!
まるで子供の喧嘩のようにブンブンと槍を振り回すものだから、ギルドマスターに当たりそうで本人は木が気ではない。
「や、やめろ! 俺に当たる! やめろ!」
必死で懇願するギルドマスターだが、興奮した警備兵は一切聞き入れない。
鋭い切っ先でアルガスを貫こうと───ありもしない馬や幌を探して突きまくる。
「ありゃ? 馬がいねぇぞ?」
「何だこりゃ……鉄ぅ?!」
「くそ! 隙間だ! どっかに隙間があるはずだ!」
チクチクと刺されるのはギルドマスターばかり、カンカンと音がしても重戦車化したアルガスには一撃たりとも通りはしない!
「いで! あ、足ぃぃいい!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐギルドマスターを完全に無視して、アルガスは言い放った。
『はーい。一発は一発ね──────先に手ェ出したのはお前らだぜ』
「なろー!! 舐めやがって! 代官様の軍隊だぞこっちはぁぁあ!」
「殺せ殺せ! 金貨500枚の賞金首だぜぇ」
はッ……!!
『ヤル気で来たんだ。殺されても文句はいえねぇよな!』
ウィィィン……!
アルガスは砲塔を旋回し、砲を群がる衛兵に指向する。
「な、なんだぁ、こ、コイツ───動くぞ」
「へへ……怯えてやがるぜ、コイツぁよー」
『テメェらは万死に値する。リズにストーカーしやがったり、ウチの子を拐かしたりと───』
いっぺん、死ねッごるぁぁあ!!
「ざっけんな! 俺達ゃ天下の衛兵隊! 何をしても許されるんだよ!」
「そーだそーだ!! おらおらぁあ!」
ほう。
何をしても───か?
『───じゃあ、こいつにお伺い立てて見ろぉぉお!!』
7.92mm弾によぉぉお!!
主砲同軸機関銃発射ぁぁぁああ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
ズダダダダダダッダダダダダダダダダダ!
探照灯ごしにギラギラと輝く銃口!!
砲塔内に納められた機関銃、MG34が調子よく7.92mm弾を吐き出し、屑の衛兵どもを薙ぎ払っていく。
「うぎゃあああああ!!」
「うげぇぇぇえええ!!」
「ほぎゃあああああ!!」
バタバタと薙ぎ倒される衛兵たち。
アルガスは一切の容赦もなく、砲塔をグルグルと廻し、アホ衛兵どもを薙ぎ払っていく───。
「うわ! な。ま、魔法だと?!」
「まずい! 馬車に魔法使いが大量に乗ってるぞ!!」
「ひ、退け退け! 門扉を閉めろぉぉお!」
館から出撃してきた完全武装の兵どもが、慌てて門扉を閉めていく。
外にはまだ門の警備にいた連中が右往左往して逃げ惑っていたが、それすらも締め出す気だ。
「おい! 待ってくれ───助け」
バターン!!
『は。仲間を見捨てて逃走か? たいした軍隊だな? ええ、お代官様よ!』
門扉越しに窓を見上げれば、腰を抜かした代官が。
まさか反撃されるとは、思ってもみなかったのだろう。
しかも、門前の部隊は全滅。
「な、なんあななななんあ、なんということを! 国王より任命された代官に手を出すということが───」
『───悪徳代官を誅すことに何のお咎めがあるんだ?』
そうとも。
れっきとした理由がある───。
それでも王国がアルガスを捕縛するというなら、上等だ。
一発ぶん殴ってから、隣国にでも行ってやるさ。
リズとミィナさえいれば、この国にこだわる理由もない。
なんたって、元々は根なし草の冒険者だからな!
「ぬがーーーー! 誰が悪徳代官じゃあ! ええい! 何をしておる! 殺せ殺せぇぇえ!!」
見っとも無く分けき散らす代官。
だが、兵らは既に及び腰だった。
「お、おおお、お代官さま───あれは攻城兵器ですよ!」
「鉄の荷車だ! アルガスの野郎は、本気ですよ!」
槍が全く効かないことを見て、打つ手なしとばかりに兵が言い訳三昧。
「バッカモーーーーーーーン!! 武器庫を総浚いして、何か手を考えい!!」
バッキーーーン!
隊長格の衛兵をぶん殴って喝を入れると、代官はミィナを担いで部屋の奥にひっこんでしまった。
「やだぁ! 離してぇぇえ!!」
ミィナの悲痛な声だけが屋敷に響く──。
そして、それを聞いたアルガスが黙って見過ごすはずがない。
『───おうゴラ、待てや!!』
ギャラギャラギャラ!!
猛スピードで門扉に迫ると───……。
「ちょ──────俺がいるの忘れてるだろうぉぉおおお」
ギルドマスターの悲痛な叫びなど知った事かといわんばかりに──────!!
『突撃ぃぃぃいい!!』
「うわ! 来たぞッ!!」
「だ、だだだ、大丈夫だ! この門は鉄製──────」
バッカーーーーーーーーーン!!
『ティーガーⅠは700馬力だぁぁああ!』
ヒュンヒュンヒュン! と、ギルドマスター付きの鋼鉄製の門がすっ飛んでいき、豚のような悪徳代官の部屋にブッ刺さる!
ズッドォォォオオン!!
「ぶひぃぃぃいいい!!」
さすがに直撃はしなかったようだが、部屋がボロッボロ!!
ミィナを担いでナニしようとしてたんだか……。
ペッチャンコになったギルドマスターと、ションベンを漏らした悪徳代官。
『おうごら! 今すぐ行くからその汚ぇ面引っ提げて待ってろや!!』
第19話「討ち入りじゃーーー!」
『おう、ごらッ! 今すぐ行くから、その汚ぇ面引っ提げて待ってろや!!』
ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
履帯を激しく唸らせて、アルガスは代官の館に突っ込んだ!!
正面で盾を構えて槍を番えた連中がいようが知った事か!!
おらぁぁぁああああああ!
『───ティーガーⅠの装甲は100mmじゃぁぁああああああ!!』
ドッカーーーーーーーーーン!!
「ひーーでーーーぶーーー!?」
「あべしーーーーーーーー!?」
衛兵ごとぶっ飛ばして屋敷に突撃する。
そして、ズドーーン! と、冗談でも比喩でもなく屋敷が揺れたッ!!
『おらおら、どけどけーー!! ティーガーⅠのお通りじゃー!』
そして、戦車の巨体を引っ提げて屋敷の中に突っ込んだアルガスは、エンジンの馬力に任せてバリバリバリ! と走り回る。
「や、やめろぉぉお!!」
「逃げろぉぉおおおお!」
使用人や衛兵が泡を食って逃げ回る。
「アルガス?! あ、ああ、アンタねえ! や、やり過ぎよぉぉおお!」
どこに隠れていたのか、セリーナがボロボロの格好で逃げ惑っていた。
『何が、やり過ぎじゃボケ! お前らがぶん殴って来たんだろうが!!』
セリーナ目掛けて機関銃を乱射しようと指向する。
そのついでに、砲が壁をバリバリと破りながら屋敷の中で砲塔旋回!!
「うひゃあああ!! ちょ、ちょ、ちょぉぉおおおお!!」
セリーナが扉のドアを開けて逃げ回る。
それを追って砲塔もグールグル!! 屋敷をぶっ壊しまくる。
「い、いたぞ!」
「ば、バカ! 声が大きい!!」
その先に、でっかいボウガンを構えた衛兵の隊長や、ヤクザ者の盗賊ギルドの連中がいた。
連中は逃げようにも、アルガスが無茶苦茶暴れ回るものだから逃げ損ねてしまったようだ。
仕方無く迎撃に出たものの、バカのせいで敢えなく発見された。
どうやら、武器庫から色々持ち出してきたみたいだが──────。
「か、構えぇぇえ!!」
巻き上げ機で装填する、大型ボウガンを構える衛兵ども───。
「射てぇぇええ!!」
『───んなもん、効くかぁぁあああ!!』
ガシュン、ガシュン!!
と、大型ボウガンがぶっ放されアルガスに命中するも───ガン、ギン、ゴン、ガッキィィン!!
「ひえ?!」
「うそぉん!?」
衛兵隊長も盗賊どももビックリ仰天──。
つーか、ティーガーⅠ舐めんな!!
「どけどけ! コイツで仕留めてやるぁ!」
ここで、盗賊ギルドの親分格───カシラの登場だ!!
「さ、さっすがカシラぁぁあ!」
「痺れるぅ、憧れるぅ!!」
盗賊ギルドのカシラは、武器庫の奥にあった総鉄製のバカでっかいボウガンのお化け──────バリスタを持ち出してきた。
それを誇らしげに操作すると───!!
「賞金500枚は俺のもんだぁぁあああ!」
ドキュン!!!──────カァン♪
「───……あれれ?」
『…………はっはー。一発は一発だ』
装甲に傷もつかない……。
だけど、一発は一発。
さーて、と。
すぅぅ、
『───撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけじゃぁぁぁあああ!!』
発射!!
ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッッ!!!
室内ゆえ、くぐもった射撃音が無情に響く。
「「「うぎゃぁぁああ!!」」」
そして、射線にいた衛兵隊長も、盗賊ギルドの面々も、カシラごとまとめてミンチになる。
「ひぃぃぃいい!!」
そして、とっとと逃げればいいものを、暢気にボウガン戦を眺めていたセリーナが腰を抜かしている。
『───おうおうおう。よー、クソ受付嬢さんよ。ギルドに冒険者が来たらよぉ、言うことあんだろうが……!』
「ひは?!」
そうだ。
コイツは毎度毎度───人の顔見たら舌打ちするわ、露骨に嫌な顔するわ……。
『さん、はいッ───♪』
「ぎ、ギルドにようこそ───」
『───それが挨拶じゃ、ボケぇぇええ! 覚えとけ!!』
───蹂躙開始ッ!
ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
「うぎゃああああああああああああ!!」
スッゴイ声を出して悲鳴に次ぐ悲鳴!!
うるさい声量だけで、充分魔物に太刀打ちできるだろう。
だが、死ね。
「──────うわーーーん。お嫁に行くまで、死にたくなーーーーーい!!」
『お前を嫁に欲しがる奴が、いるかぁぁぁあああ!!』───ボケぇぇえ!!
猛スピードで通過し、牽き殺す勢いで戦車の正面装甲でゴキーーーーン! と頭をぶん殴ってやると、履帯と履帯の間に上手く潜らせギリギリで轢き殺すのを勘弁してやった。
だが、鋼鉄の塊は数センチ上を駆け抜けていく様は恐怖に違いない。
アルガスが駆け抜けた後にはボロボロの部屋と、髪の毛が真っ白になり老婆のような有様になったセリーヌがいた。
「あへ、あへ、あへへへへ」
白目剥いて涎ダラダラ……。
どうやらよほどの恐怖で──────……南無。
『ふん……。そうやって笑顔でいろッ! 受付さんよぉぉおおお!』
第20話「ミィナ搭乗!!」
ふん……。そうやって笑顔でいろッ!
受付さんよぉぉおおお!
真っ白に燃え尽きたセリーナは放置。
ギルドマスターと盗賊ギルドはぶっ飛ばした!!
ならば──────……。
……次は、代官!!
そうして、アルガスは顔を上に向ける。
ボロッボロになった一階はほとんど更地だが、さすがにこの巨体では階段を上れない。
だが、分かる。
もう見ていた──────。
もう、見えているぞ!!
代官の部屋がどこで、ミィナがどこにいたのかをッ!
顔を向ければ砲塔の仰角が上がっていく。
そして、主砲同軸機銃を指向すると──。
『返してもらうぞ! 悪徳代官ッッ!!』
ドコココココココココココココココココココココココココッッ!!
激しいマズルフラッシュが闇に沈む屋敷の中でギラギラと輝き、明るく照らし出す。
そして、射線の先はアルガスが調整したがために、丸ーく銃痕が開いていく。
まるでミシンでも縫うかのように、ボコボコ! と、一周まわって穴が空いたかと思うと──────。
ドッカーーーーーーン!!!
と、底でも抜けたかのように床が抜け上階が落ちてきた。
そこに───……。
「ぶ、ぶひぃぃぃぃぃいいいい!!」
「きゃぁぁあぁぁぁあああああ!!」
ミィナを抱えたデブ代官が叫びながら落ちてきた……。
って、おい!
何でズボン履いてねぇんだよ、テメェ!!
「ぶひッ!!」
ベチャリと潰れるように落ちてきた代官。
その脂肪の上でバウンドしたミィナがポーンと、アルガスの上に着地する。
「ふぇ?」
『無事かミィナ……服がボロボロになっちまったな』
リズから貰った大き目のシャツはボロボロだった。
だけど、体にはどこにも傷一つない。
良かった──────……。
「ぐぶぶぶぶ……ぎ、ギザマァぁぁ!! こんなことをしていいと思ってるのかぁぁぁああ!!」
このワシを誰だと思っている────!!
「ワシはなぁああ!! このベームスの街を治める偉大なる、」
『悪徳代官だろ?』
「……悪徳代官さん」
ミィナとハモりつつ、首を傾げたミィナにちょっと笑ってしまったアルガス。
「んが! だ、だだだ、誰が悪徳代官だ! 誰がッ」
いや、お前だよ。
「ふん……! まぁいい! 今すぐ謝れば寛大なワシのことじゃ、許してやらんこともない───」
『───状況わかって言ってんのか? 手ぇ、震えてるぜ?』
どうやら虚勢を張っているだけのようだが、この状況で面と向かっているだけ中々の胆力だ。
「な、なんだと!? わ、ワシの寛大な処置を───」
ワナワナと震える代官に向かって、アルガスがちょっと近づく。
ギャラララ……!
「ぶひゃあああ!?」
鋼鉄の巨体がたてる騒音に、代官は腰を抜かして見っとも無く叫ぶ。
小便をジャバジャバと漏らして後退る。
「ひぃぃぃ!! よ、よせ! わ、ワシを殺したらとんでもないことになるぞ!! 王国が黙っておらんぞぉぉお」
……今さらかよ。
ここまでやってんだ、もう退くわけないだろうが。
「わ、わわわ、ワシを見逃せぇぇ! な? い、今なら、ゆ、許してやるから───」
『バーカ。うちの子に手を出しておいてタダで済むと───』
「「「お代官さまッ!!」」」
どたどたどた!!
トドメを刺そうとしたアルガスだが、そこに大勢の声が降り注ぐ。
見れば街の方から駆け戻ってきた衛兵の部隊らしい。
それに気づいた代官はニヤリと顔を歪めると、
「が、がははははははッ! この不届き者めが、誰が貴様なんぞ許すかッ!! 貴様は拷問の末、酷い最期をくれてやる! そして、そのガキは当面はワシのペットとして末永く飼ってやるぞぉぉお! ぐははははははは!」
あーらら。
見逃すとか言ってた割に手のひら、くる~が早いのね。
ま、どうでもええけど。
『───ミィナ。俺の中に入れ』
「う、うん!!」
ミィナは慣れた様子でキューポラを開放すると、中にスルスルと潜り込んだ。
彼女の気配が視察孔付近にあるのを感じる。
たぶん、外が気になるのだろう。
悪徳代官はこれ幸いとばかり、カサカサとゴキブリのような動きで兵らの集団潜り込んでいった。
「ぬーーー!! 貴様ら遅いぞ! やれ、ぶっ殺せ!! アルガスの首をとれぇぇえ!!」
「「「ハッ!!」」」
100人ばかりの徒党を組んだ代官小飼いの衛兵部隊。
全員完全武装はもとより、なかなか練度も高そうだ。
すぐに盾で亀甲隊形をつくると、代官を内部に保護し、長槍を盾の縁でしごき始めた。
後方には弓兵もいやがる。
「「「攻撃前進ッ!」」」
ざっざっざ!!
「ぐはははははははは! これが代官の権力じゃ! これだけの戦力が、ワシの手中に───」
───ズドォォォォオン!!!
ドカーーーーーーーーーン!!
「「「あぎゃあぁぁああああああ!!」」」
情け容赦のない、アルガスの一撃が衛兵部隊に直撃した……。
第21話「俺に装填しろぉぉお!」
───ズドォォォォオン!!!
ドカーーーーーーーーーン!!
「「「あぎゃあぁぁああああああ!!」」」
アルガスは皆まで聞かずに主砲発射。
兵の集団をぶっ飛ばした。
もちろん、密集している所のど真ん中に───。
ほとんどの兵が一瞬にして爆発四散した。
破片を喰らって呻いている兵も、いるにはいるがもはや戦力としては成していない。
運よく生き残った代官はケツに火がついて転げ回っている。
「ひぃぃぃい!! あちゃあちゃあちゃ!!
な、なんちゅうことをぉぉおお!!」
知るか。
こっちのセリフじゃ!!
『はッ。どうした? 権力とやらはその程度か?』
「な、なめおってぇぇえ!! わ、わわわ、ワシの兵はまだまだおるわぃ!! さささ、さっさと来いぃぃい!!」
なるほど、なるほど。
街の警備や外の見張りを、全部放り出して代官の部隊が急行中だ。
全軍集結!───って、ところか。
そういえば、街に入る時に延々と待たされた恨みもある。
賄賂も露骨に要求しやがるし、ミィナを厭らしい目でジロジロ見ていやがったし……。
あの行列は衛兵隊の仕事の怠慢のせい。あとは賄賂をせびったり、女性にセクハラしてたりと、余計な手間をかけるのが原因だ。
ゆえに代官も衛兵隊も嫌われているのだ。
通行税も高いしな……。
うーじゃうじゃと集まり始めた衛兵隊。
全部2、300人はいるだろうか?
よほど慌てて来たのか、槍だけって奴もいるけど──────。
「がははははははは! その魔法とて、そう連発はできまい! さぁ、いつまでもつかな? んがーーっはっはっは!」
ほう。
まだまだやる気か。
俺がただまんじりともせず「重戦車」のことを調べずにいたと思うのか?
ちゃーーーーんと、ヘルプで再装填のことも調べてある。
ティーガーⅠの主砲は強力無比だが単発だ。
再装填には装填手が必要となる。
そう……。
中に誰かが乗ることが前提なのだ。
『ミィナ。聞こえるか? そこにあるヘッドセット───……黒い半欠けの輪っかみたいなやつだ。そこについてる耳あてを付けろ』
「え? うん……」
車内はエンジン音で喧しい。
今でこそキューポラの出口付近にいるから声が届くが中に入るとその限りではない。
「つけたよ? 首輪みたいなのもするの?」
『そうだ。そいつの丸い所を喉に当たるように調整しろ』
「はーい」
喉頭マイクをも装備させると、ミィナの声がぐっと近くなった気がする。
アルガスの声も、ヘッドセットを通して聞こえていることだろう。
『いいかミィナ。これから再装填を指示する』
「再装填?」
ミィナがポカンとした顔をしている気配がする。
そりゃ、いきなり言われても分からんだろうからね。
『今から言うことをやってほしい。かなり力がいるけど、ポーターをやってるミィナならできる』
「う、うん! やってみる!」
よし。いい子だ───。
『まず、車内にある酒瓶のお化けみたいな、鉄の筒がいっぱいあるのが見えるか?』
「ん? うん……綺麗───」
ん? 綺麗……?
───砲弾、綺麗か……?
まぁ、子供の感性は分からん。
『そうだ。そこにある綺麗な筒の、先端がオレンジの奴を選んで手元に持ってきてくれ』
「う、うん!!」
信管の調整はアルガスでも出来るようだが、装填だけは自動では不可能らしい。
そして今、ミィナが「ヨイショ、ヨイショ……」と抱えているのが爆発する砲弾───88mm榴弾だ。
「も、持ったよ───」
『よし、それを近くにおいて、中にある煙臭い大きな筒の横に行ってくれ』
さっき一発撃ったので、主砲は実に硝煙臭いだろう。
ミィナが顔を顰めながら、言われた通りに横に立つ。
『そこに閉塞器の開放レバーがある……。それだ。勢いよく引け!』
「う、うん! きゃあ!」
ガション!! 砲尾が開き、硝煙を纏った空薬莢が排出。
───ガランガランガラン……!
そして、黒々とした砲の中が開放された。
『よくやった! 次はさっきの筒をその穴に押し込んでくれ。勢いよく───そうだ。そこにのせて』
ミィナが「うんうん!」と、唸りながら砲弾を運び上げ砲尾にセットする。
「よいっしょッ!! ふぅ……」
『よし! あとは拳を作って、殴るように綺麗な筒を押し込むんだ! 押し込んだらすぐに手を引け』
ミィナが可愛いお手てに拳を作る。
「こ、こう?」
『そうだ。押し込めッ! 装填してくれ、ミィナ!!』
───俺の穴に突っ込め!!
「は、はい!! えい!!」
ガッ───……ション!!
アルガスの感覚に、主砲弾が装填されたことが分かる。
幼女に突っ込まれているというのは、言葉面的に非常にヤバい気もするが───うん、気にしないでおこう。
ミィナが手を引いた瞬間、半自動装填機構がガシャン!! と激しくせり上がり、砲尾を閉塞した。
この時にモタモタしていると、指を食いちぎられるのだ。大変危険……。
『いいぞ!! あとは脇に逃げて、横にあるボタンを押したら、耳を塞いで口を大きく開けていろ!』
「うん!! あー……!!」
バン! と叩くように、装填手用の安全装置を解除したミィナ!
素直に口を開けて「あー……!」と、そして耳をヘッドセット越しに覆っている!!
よし!!
装填完了だ!!!
ウィィィィイン……と、悪徳代官目掛けて砲を指向する。
野郎はビクともしなくなったアルガスを見て、ゲラゲラと笑っていやがる。
アルガスが衛兵の大戦力に、ビビッて震えているとでも勘違いしているのだろう──。
そうとも───それは、大きな勘違いだ。
「ぐははははははは! どうした、どうした! ビビッて手も足も出んと見える! ぐはーっはっはっは!」
『ハッ。ティーガーⅠは無限装軌だ! 端っから、足なんざねぇよ!』
ウィィィィイン……!
ピタリ。
「んがーっはっはっは! もう、魔法も打ち止めと見える───! ワシのような権力者に逆らったことを思い知らせてやる!! やれぇい者ども!!」
えっちら、おっちら!
「はぁはぁはぁ! おう!!」
「ぜぇぜぇぜぇ! おらぁあ!!」
息も絶え絶えに丘をかけ上がってきた衛兵ども。
全員が到達すると、気勢をはる!
「「「ひゃっはー、ブッ殺だぜぇ!」」」
非番の者や、一番遠い壁の警備についていたものらは息も絶え絶え。
───それでも意気軒昂……のはず!
とくに街から小高い丘に急行した兵らは全員が疲れ切っていた。だが代官に逆らえば後が怖いので渋々───。
『兵士諸君──任務ご苦労、さようならッ』
───発射ッッ!!
「は! まだぬかすか、ワシの勝」
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「あべしーーーーーーーーー!!」」」
第22話「真夜中の追撃」
ドカーーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「あべしーーーーーーーーー!!」」」
せっかく急行して来たというのに、兵らの大半は爆発四散。
ギュルギュルと、錐もみ状態で夜の空へとすっ飛んでいった。
代官はといえば、口をパカーと開けて茫然自失。
「──────は?」
え? なんぞ?……って顔してやがる。
「はぇ?」
……はぇ? じゃねぇ!!
『ミィナ、再装填───黄色の弾頭、榴弾だ』
「は、はい!」
そうだ!
俺の穴に、筒を突っ込めぇぇぇええ!!
「えーい!」
ガッショーーーーーーーン!! おぅふ!
「そ、装填完了」
『よし、よくやった!』
そして、アルガスは砲をさらに指向する!
未だ、続々と急行しつつある、悪徳代官の子飼いの私兵もどきの衛兵たちに!!
「な、なんか爆発したぞ?」
「はひーはひー……いいから早く行けぇ」
「ちくしょー。ナタリーちゃんとしっぽりしてたのに!」
代官の館で起こった事態など露知らず、取りあえずやってきましたとばかりの非番の兵士達。
あー、哀れ。
すまんな、ナタリーちゃん。
「ま、まさか……」
ダラダラと汗を流す悪徳代官。
「れ、連発できるの?」
『できますが、何か?』
そう言い切るアルガスに、代官が真っ青な顔で腰を抜かす。
「ぶ、ぶひぃぃぃい!! ひ、ひひひ、卑怯だぞ!! そ、そそそそ、そんな鉄の箱に入ってぇぇぇえ!!」
知るかボケッ。
子供を誘拐して、ズボン下ろしてた阿呆に言われる筋合いはない!!
「よ、よよよよ、よせ!! やめろぉぉぉおお!!」
ウィィィィイン……。ピタッ!
「「「到着しましたぁ、お代官さま!」」」
「ば、ばかもん! 刺激するなぁぁぁあ!」
『───発射ぁぁあッッ』
ズドンッッッ!!
ッドカーーーーーーーーーーーン!!
「「「ひでぶぅぅぅううううう!!」」」
「に、」
───逃げろぉぉぉぉおおおお!!
豚クソ悪徳代官が、ビョーーーーーンと飛び上がって真っ先に逃げ出す。
とは言っても、せっかくの援軍は真っ黒こげになって原型もない。
「ぶひぃぃぃぃいい!! やり過ぎだろぉぉぉおおお!!」
丘の下にはまだまだ兵の集団がいるが、その連中など目もくれずに、一目散───……って、速ーな!? あの走れる豚。
速い、速い、速い!!
───だけど……!
『……逃がすかよ! 落とし前をつけてやらぁぁあ!!』
「装填完了だよ!」
いい子だ。
『ミィナ! 装填手席について、どこかにしっかり掴まってろッ』
「はい!」
なんせ、今から真夜中の追いかけっこだ。
ドルルルルルン!!
アルガスはエンジンを全開にすると、探照灯の光を悪徳代官に指向し、捕捉した。
ビカビカと光る戦闘用のライトが、煌々と代官を照らし出す。
『《ヴィシュティキボン 》悪徳|代官、確認ッ──────戦車、前進ッ!』
ガリリリ……!!
履帯が、代官の屋敷前の地面を大きく抉る!
ギャギャギャ!!
ギャリリリリリリ!!
そして、弾かれたように全速前進ッッ!!
舗装路を時速40km/hで追撃を開始した。
「ぶひっ? ぶひひひっ?!」
もはや何を言っているのか分からない、悪徳代官どの。
ズボンはいつの間にかどこかに消えている。
だから、パンイチで走る走る!!
走るッ!!
はえーな、アイツ!!
『───うちの子を攫っておいて、タダで済むと思ってんのか、ごるぁぁあッ!!』
ギャラララララララララララララララ!!
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラ!
激しい履帯音が響き渡り、あっという間に代官との差を縮めていく。
「ま、まて!!」
「止れ! その怪しい馬車ぁぁあ!」
その間にも衛兵どもが妨害するも、主砲同軸機関銃で薙ぎ払うッ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
「「「ぶべらぁぁぁあ!!」」」
あっという間に蹴散らされてもしつこく沸き続ける衛兵ども。
代官に、よほど人望があるのか、それともお仕置きが怖いのか───あるいは、全員バカなのか……。
「バカなのかな? 死ぬの?」
『そうだ。バカは死ねッ!』
ミィナが、砲についている照準を覗き込んでいる。
ツァイス製の照準鏡は、実に明るいことだろう。
「わぁ、いっぱいくるよー」
『ふん、戦車砲で一掃する。耳を塞げ』
「はーい♪」
ウィィィイイン────行進射、開始ッ!
発射ッ!!
ズドーーーーーーーーーーン!!
アルガスの精神直結の戦車砲の命中率たるや、凄まじく正確の一言!
「「「あんぎゃぁぁあああ!!」」」
そして、直撃を食らった小集団が木っ端みじんに吹っ飛んでいく。
それを見て、顔色が真っ青を通り越して真っ黒になった代官。
「ぶひゃ? ぶひゃはぁぁぁあああ!!」
やりすぎ? やめろ?───ってか?
は!
それは88mm戦車砲に聞いてみろぉぉおお!!
コイツをお前のケツぶちこんでから、要相談じゃ!
謝れ、ひれ伏せ、媚びてみろぉぉおお!
そうしたところで、
───だが許さん!
地獄の果てまで追ってくれるわッ!!
『再装填!』
「はーい!」
ガッション!!……はぁうあ!
ズドーーーーーン!!
『再装填!』
「はーい!」
ガッチョーーーーン!……効っくぅ!
ズドーーーーーーーン!!
『再装填!』
「うん♪」
ジャコーーーーーン!……ぁあぅ!
ズドーーーーーーーーーーーン!!
「「「「あーーーれーーーー……!」」」」
非番の衛兵、門についていた衛兵、とにかく悪徳代官の子飼いの兵が続々やってくるも、鎧袖一触!
全っ部ッ、ぶっ飛ばされていく。
そして、さすがにここまで大騒ぎをすれば住民も目覚める。
当たり前だ。
そのうちに、家々に火が灯りザワザワとし始めたベームスの街。
そこを、悪徳代官がパンツ一丁で、ブヒブヒと鳴きながら、ヒーヒー言いつつ逃げ回ているのだ。
さらに、普段から悪行三昧の嫌われものの衛兵どもが、
ドカーン! ドカーン!「あ~れ~?!」と、吹っ飛んでいる。
もうそれだけで、ピーン! と来た街の住民はこれ幸いとばかりに、家々から鎌やら斧やら箒やら……物騒な物を手に続々と集結。
そして、アルガスを追いかける─────わけではなく、衛兵たちを追い回し始めた。
「ちょ?!」
「何だお前ら───ぎゃ!」
「よ、よせ!! 我々は、お代官さまの、あぎゃ!!」
普段から溜まっていた衛兵たちへの不満がついに爆発!!
まるでクーデターでも起こったかのように、ついに街中で一斉蜂起が始まった!!
第23話「奥の手」
溜まりに溜まった鬱憤が大爆発!
ついに、街中で一斉蜂起が始まった。
「うぉぉおおおお!!」
「代官をぶっとばせぇ!」
「衛兵隊を追い出せぇええ!」
うおおおおおおお!
がおおおおおおお!
憤怒の表情の住民達。
それもそうだろう。
なんたって、この代官が来て以来、あり得ないほどの重税に、治安の悪化。
税金が使われるはずのインフラはボロボロで、衛兵隊どもは横暴三昧。
今まで、暴動が起こらなかったほうが不思議なくらいだ。
アルガスらは、流れの冒険者ゆえ街の事情にそこまで詳しくなかったものの。
実は、非常ーーーーーに、この街の公的権力は腐っていた。
だから、冒険者ギルドも腐るし、暗殺者ギルドや盗賊ギルドのような裏ギルドも蔓延るというもの。
なんせ、取り締まる衛兵隊が腐りきっているのだから……。
「いたぞ! 衛兵の一等兵だ!」
「殴れ、殴れぇ!!」
「いつも、食い逃げばっかりしやがって!」
おらおらおら!!
と、ボッコボコにぶん殴られ吊るしあげられる衛兵隊。
「ぎゃぁぁあ! や、やめてー!」
多勢に無勢。衛兵隊が追い回されている。
日頃から悪さばっかりしているツケがまわってきたらしい。
それもそのはず。
代官は、この街の出身にあらず。
王国の成金田舎貴族が小金をちらつかせて、官僚から代官のポストを買っただけなのだ。
しかも、貴族の家では次男坊だったらしい代官は手切れ同然に家から追い出され、小飼の兵だけ与えられて地方に放り出されたらしい。
ゆえに、代官も兵もこの街に対する愛着なんぞあるはずもなし。
奴らにあるのは、傍迷惑な向上心だけ。
狙いは、手柄をたてて王国に重鎮として取り立てられるか、そのポストを買う金を集めることに腐心していた。
それがために横暴で、スゲー嫌われていたのだ。
だから、今日は街の住民にとっては千載一遇のチャンス。
こんな日を虎視眈々と狙っていたわけで、その日がくれば躊躇などするわけがない。
「やれやれー!」
「代官を追い出せぇ!」
「ぶっ殺せぇぇえ!」
せめて、衛兵隊がこの街の出身なら多少は事情が変わったのだろうが……。
全員が全員、代官の貴族領からきた連中。
しかも、ゴロツキばっかし───。
そりゃ、地方に行く次男坊に良い人材を渡すわけもなし。
結果はご覧の通り。
まともな戦力を、アルガスによってぶっ飛ばされた衛兵たちには成す術もなかった。
さらに間の悪いことに、集結中のはずが代官が街中を迷走しているものだから、衛兵たちも分散してしまっていた。
代官を探して右往左往。
そこを怒り狂った住民たちに取り囲まれて、ボッコボコにされてしまったのだ。
「あだ! あだだだ!!」
「や、やめろぉぉぉおお!」
「ひぃ! ちょぉお、そんなの入らない!」
ぎゃあああああああああああああああ!!
代官の権威を嵩に着て、やりたい放題していた衛兵たちはここに壊滅。
そして、そのボスたる代官も、いまや小便まみれの汗だくの、汁だく状態で半死半生で逃げ惑うのみ。
そこを、強力な探照灯で煌々と照らしながら、アルガスがその巨体で迫る!!
『来ーーーーたーーーーぞーーーーー!!』
「ひぃぃぃいいいいいいい!!」
ドタドタドタ! と走れるデブこと、悪徳代官は必死で街を覆う城壁の傍まで駆けていくと、一際大きな街の門まで何とか到達した。
そこにいる衛兵にでも助けを求めるつもりなのだろうか?
だが、せっかく到達した門には、だーーーーーーれもいない。
それもそのはず。
全軍集結の合図に、みーーーーーーんな仕事をほっぽり出して代官の館に向かったのだから……。
「ぶひ。ぶひ。ぶひッ!!」
代官は、もはや人語を話してすらいない。
『はっはー! 年貢の納め時だな。覚悟はイイか、クソッたれが!』
「クソッたれがー♪」
ノリノリのミィナちゃん。
ニコニコ笑いながら、ヒョコっとキューポラから顔を出した彼女は、一転して真面目な顔で激怒プンプンしている。
「ぶひ、ぶひ!」
何言ってるのかわからん───。
「ぶひ、ぶひひひひひひひひひひひひ!!」
ひーーーーーひっひっひっひっひ!!
あ?
『何がおかしい? 頭でも狂って──……』
「バァカめ!! ここまでくればワシの勝ちよ!」
はぁ?
「お前みたいな低能は知らんし、知らされてもおらん! これは王国より任命された代官職にだけ知らされる機密事項───」
豚クソ悪徳代官がパンツの中から何やらゴソゴソと……。
ってどこに仕舞ってるんだよ。きったねーなー……!
「みよ! この輝きをッ!」
ホカホカ、しっとり。
妙な匂いと瘴気を纏っていそうな金属のプレートを、高々と掲げる悪徳代官。
だが、それは王家の紋章が刻まれており、何やら魔力を感じなくもない。
どうも、マジックアイテムの一種らしいが……。
それを代官は、誇らしげに街の城門の窪みにバンッ! と、はめ込むと、
突如、周囲がグラグラと揺れ始めた。
そして、城門がピシピシと音をたてたかと思うと───……。
「ぐおぉおおおおおおおおお!!」
城門が、いきなり咆哮した。
第24話「ティーガーⅠ vs ゴーレム(前編)」
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!
耳をつんざく、地より響く咆哮!
同時に大地が揺れ動く───。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
『なんっだ、ありゃぁ?』
宵闇に土埃が立ち、濛々した空間に突如として現れた巨大な化け物。
そいつが土埃が煙るの中、重戦車化したアルガスの探照灯を受け、闇の中に忽然と出現した。
いや、違う……。
違うともさ───そいつは、今までずっとそこにいたのだ。
常に街を見守り、いざとなれば身を挺して街を守る──────……。
ベームスの街、本物の守護者。
「んがーーーーっはっはっはっはっはっ! 見ろッ。これが王家信頼の証、王国の戦力の本懐───」
すぅぅ……。
「ゴーーーーーーーーーーレムである!!」
「うごぁぁっぁぁぁぁあああああああ!!」
咆哮するゴーレム。
奴は、今の今まで城門に擬態していたらしく、元々門があった場所にはポッカリと歪な穴が開いていた。
レンガや整形した石材を漆喰で塗り固めた、石の人造の化け物───……それが、ゴーレム!
『ほぉ、デッカク出たな……!』
「石のおじさんだぁ♪」
ミィナだけは、キャッキャとはしゃいでいる。
子供の───この子の美的感覚はよくわからん。
彼女の美的感覚的には、あれがカッコよく見えているのかもしれない。
「んがははははははははは! 不届き者め、余裕ぶっていられるのも今のうちよ、やれぃ───ゴーレム!!」
「ぎががががああああああああ!!」
ズン、ズンッ!
巨大な石の化け物───ゴーレムは、悪徳代官の言うことを聞くらしく、ズンズン! と、足音も重々しくアルガスに迫る。
「うごるるるるるるる!!」
その手前で身を屈めると、起動の衝撃でぶっ飛んだ街の門扉を手に立ち上がった。
『ほぅ! 武器を使うのか!』
ゴーレムが拾い上げたのは城門。
そこにあった、両側に観音開きで開く城門は、実はゴーレムの盾であり武器も兼ねていたらしい。
外部からの攻撃を防ぐために、スパイクをも取り付けられていた城門は───なるほど、かなり物騒な武器といえるだろう。
両手にその盾を構えると、ファイティングポーズをとるゴーレム。
完全に攻撃態勢だ。
そして、その姿をみて───タワーシールドを構えて肉壁に徹していたこともあるアルガスは、どこか懐かしむようにゴーレムを見た。
『────……今まで街を守っていたのか』
街の守護者。
人々を守る、意思なき孤高の人造モンスター。
ゴーレム。
「ぐはははははは! 今さら命乞いしたとて遅いわい! 行けぇ、ゴーレム!」
……こんな隠し玉があるから、軍団が迫ってきても逃げずにいて、念のため財産だけを避難させたわけか。
『───だったら、初めから使え!! こーゆーもんはよぉぉぉおお!!』
ギャラギャラギャラギャラ!!
アルガスは、迫りくるゴーレムから距離を取るため後退する。
そして、小手調べに同軸機関銃をぶっ放す!
『おらぁぁああ!!』
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!!
キンカンコンキーーーーーーーーン!!
『ほぉ! 7.92mm弾を防ぐか───やるじゃないか!』
耳障りな反跳音をたてて、弾き返される機銃弾。
あの門扉の盾───さしずめゲートシールドの装甲は伊達ではないらしい。
「ごがぁああああああああああああ!!」
アルガスの攻撃を跳ね返したゴーレムが高らかに咆哮する!!
「ぐはは!! ほざけッ、不届き者がぁぁあ! 今すぐ、その鉄の箱から引きずり出して、ゴーレムの染みに変えてく───」
はッ!
機銃弾ぐらいで偉そうに!
本命は、こっちもじゃぁぁああ!!
発射ぁぁぁぁああ!!
ズドンッッッッッッ!!
「ぶひッ?!」
ドッカーーーーーーーーーーーーーン!!
『ハッ! くたばれ、石っころ───……あん?』
モクモクと、黒煙立ち昇る中───直撃し、四散させたはずのゴーレムがのそりと起き上がりやがった。
悪徳代官はといえば、直撃を見て腰を抜かしやがったが、ゴーレムが無事なことを確認すると、ニヤァと顔を変化させる。
「ぐ、ぐははははははははは! 見たかぁぁあ、これが権力!! ワシの力じゃぁぁああ! いっけーーーーーゴーレムぅ!!」
いっけー! じゃねぇっつの!
『ち……。鉄板か───やるじゃねぇか、ゴーレムよぉ』
黒焦げが残る鉄板。
さすがに無傷とはいかなかったようだが、ちょっとした凹みがある程度で貫通には至らない。
「アルガスさん!! 前ぇぇえ!」
『ぬ?!』
ゴッキーーーーーン!!
『ぐおっ!?』「はぅ?!」
車体が揺られる衝撃に、アルガスは少し驚く。
見ればゴーレムが大股で踏み込み、門扉盾でアルガスをぶん殴ってきた!
ゴワワーーーン!! と衝撃が車体を貫き、中にいたミィナが大音響と振動で目を回しかけていた。
「はぅぅ……目がまわりゅぅ~」
『てめ! ごのッ!!』
反撃に移ろうとするも、ゴーレムは嵩にかかって攻めたてる。
「ごぁっ!! ごおあああああ!!」
ゴワン、ゴン、ガキィン!!
ガンガンガンッガンッガンッ!!
連打、連打、連打!!!
そして、両手の盾で挿むように、アイアンクローっぽい──────盾撃!!
ガッキーーーーーーーーーン!!
『ぐぅぅう……!』
「ぐわーーーっはっはっは! 手も足も出んと見る」
手も足も、ねぇっつってんだろ!
「役立たずの衛兵などどーでもええわい! やれ、トドメをさせ、ゴーーーーレム!」
「ごおあああああああああ!!」
ゴーレムが両手を高々と振り上げ、アルガスを叩き潰さんとする。
タッパはゴーレムの方が上なのだ!
だが………………、
「やれぃ!!」
「ごおああ!!」
ガッキーーーーーーーーーーーーーン!!
「ぐははははははは、……ん、なんだと?」
「ご、ごあ?」
ドルドルドルドルドルドルドル……。
重々しい重低音は変わらず、ティーガーⅠはゴーレムの渾身の一撃を受けてもビクともしなかった。
それどころか、ちょろっと装甲が禿げ、車外にあった探照灯とSマイン投射器のいくつかがひしゃげただけ───。
その装甲には凹みすらない……。
『てめぇ、舐めてんのかよぉぉ……。こっちはドイツ軍製の装甲板で、こいつの正面装甲は100mm!!』
そして、
『側面で80mm──────上と下も薄くっても25mmの分厚さじゃい!!!』
そうとも…………。
ティーガーⅠの、
『───重量は57t!! チンケな石の塊が、鉄板でぶん殴ったくらいで倒せると思ってんのかぁぁあああ!!』
やんのが、ごるぁ!!!
奥歯へし折ってガタガタ言わせんぞおるぅぅあさぁあああ!
そした、ティーガーⅠの反撃が始まる!!
第24話「ティーガーⅠ vs ゴーレム(後編)」
そうとも…………。
『───ティーガーⅠがなぁ、チンケな石の塊が鉄板でぶん殴ったくらいで、倒せると思ってんのかぁぁあああ!!』
おぅ、ごるぅぁあああ!?
「ひぃ!! ば、化け物めぇぇえ!! や、やれ! ゴーーーーーレムぅぅうう!! 奴をペチャンコにしろッ」
「ご、ごごご、ごおおあああああああ!!」
呆気に取られていたのも束の間、悪徳代官もゴーレムも気を取り直して追撃に移る。
もしかすると、アルガスの強がりだと思っているのかもしれない。
「───あぅぅ……たんこぶできたー……」
ウルウルと涙目で訴えるミィナ。
さすがに、車内の振動は結構なものだったのだろう。
『すまん。他にケガはないか?』
「だ、大丈夫です……」
スリスリとおでこをさするミィナ。
見れば、そこがプックリと赤くなっている。擦ってやりたいが、手も足もないので仕方がない……。
『痛い所を悪いが、再装填を頼む』
「了解ッ!」
涙目でも、アルガスに頼られるのは彼女にとって喜びでもあるらしい。
キッと顔を引き締めると、砲弾ラックに向かう。
『弾頭は黄色じゃないやつだ───……そう、それだ! 頭のてっぺんが黒い奴を装填してくれ』
「うん!」
うんしょ、うんしょ……!!
『急げ! 俺の穴にそれを突っ込めッ!』
「いれるよー!! えいっ!」
ガッショーーーーーン!!──おっふ!
「装填完了!!」
『よし! 伏せてろッ!!』
その間にもガンッガンッ! とゴーレムの連撃がアルガスを襲う。
だが、装甲に変形も生じなければ巨体が後退ることもない。
なんたって、こいつぁぁぁあ【重戦車】ティーガーⅠだ!!
がんがん!! ごかぁぁん!!
「ぐはははははは! どうじゃ、ワシのゴーレムは!! 平伏せ、下郎どもぉぉお!」
「ごおああああああ!!」
ゴッキィーーーーーン!!
スマッシュヒット───! といわんばかりに、両手を組んで手に持った門扉盾をこれでもかと叩きつけるゴーレム。
その騒音が街中に響き、衛兵を駆逐した住民がなんだなんだと集まり始めた。
そして、皆が見守る中ティーガーⅠに残っていた最後の探照灯が破壊され、周囲が薄闇に包まれる。
パリン……ぱきっ。
光源となるのは、門扉付近でたかれていた篝火と、起き始めた街の明かりのみ。
「お、おい! 見ろッ。も、門が動いている!」
「あ、見ろッ。あそこに、クソ代官がいやがるぞ!」
「捕まえろ! いや、ま、まま、待て───な、なんだあれは!!」
手に手に、得物をもって集結し始めた住民の姿を見て悪徳代官も少し後退る。
だが、巨大なゴーレムを見て住民が怯えている様子を見て、再び虚勢を取り戻したようだ。
「───なんじゃ貴様らぁ!! 武装して集合しおって……!! 騒乱罪で縛り首にしてくれるぞ!!」
その虚勢に住民も驚く。
そして、代官の命令を聞いているらしきゴーレムにも慄く───。
その目の前で、
ガッキーーーーーーーーン!! と威嚇するように、鉄の馬車を叩くゴーレムに住民が逃げ出そうとしたその時……!
ウィィィィイイン…………!
耳に心地よい駆動音がゴーレムの下から響いたかと思うと、街の明かりと、門前の篝火の照り返しを受けて鈍く光る鋼鉄の塊が鎌首をもたげた。
そして、
「ぐははははははははははは! どいつもこいつもワシの権威に恐れをなしておるわ! ぐわーっはっははは───」
弾種、『88mmPzGr39』装填ッ──────!
「ぐははははは! アルガスよ! 貴様の攻撃はワシのゴーレムには効かんッ!! 何度やっても無駄よ無駄!! 無ぅ駄ぁ!! ぐわーーっはっはっは!!」
ハッ、ほざけ。
すぅぅ、
『───発射ぁぁぁぁああ!!』
ズドォォンッ───!!
「無駄無駄、ぐわーっはっはっは───グハー!?」
ドッカーーーーーーーーーーーーン!!
─────……ァァン。
────……ァン。
───……ン。
──……。
と、大爆発のあと、ゴーレムが────。
「ご、ごあああぁぁぁ……」
ズンッッ、と膝をつき、
ガラァァァアン!……ガラァァァン! と、巨大な穴が開き貫通した門扉盾を取り落とし、
ズゥゥゥンン…………! と、地響きを立て、崩れ落ちた。
そのあとは、腹に開いた巨大な貫通孔からサラサラサラーーと、霞のように消え落ちていった……。
「…………んんん、なぁぁ……えええええ? あえ??」
茫然と立ちすくす、パンツ一丁の悪徳代官。
…………年貢の納め時だな。
第25話「二人の勝利」
カラン。
コロン……。
あっという間に風化していくゴーレム。
その目の前には、茫然と立ちすくす、パンツ一丁の悪徳代官。
一方で、アルガスは砲口から硝煙を棚引かせていた。
『チンケな鉄板で、88mm戦車砲の徹甲弾が防げるものかよ───』
「防げるもんかー♪」
キャッキャ! と、はしゃぐミィナ。
彼女からすれば、怪獣大戦争といったところだろうか。
一番の特等席から見て、それに貢献したとなれば誇らしいに違いない。
そして、おイタされそうになった悪人がパンツ一丁で茫然としていれば胸のすく思いだろう───。
「ちょ、え? 嘘……。お、起きろよゴーレム……」
ツンツンとボロボロの石の塊をつつく悪徳代官。
しかし、奴はまだ気付いていない───自分の置かれている境遇に……。
「お、おい。見たか───今の!」
「す、すげぇぇ……魔法でゴーレムを倒した!」
「鉄の馬車───……そして、小さな女の子?」
ヒソヒソと話し、遠巻きに眺める住民たち。
重戦車化したアルガスの正体を掴みかねているのだろう。
そこに、
「あ、ありゃ、ウチに泊まってる子だぞ?」
「お、ホントだ。ギルドで見たな───確か、勇者パーティ『光の戦士たち』の奴隷だっけ」
「じゃあ、あれってもしかして─────」
ん?
なんだ?
「「「『光の戦士たち』が悪徳代官を倒した───?!」」」
ざわざわ……。
ざわざわざわざわ……!!
「勇者が倒した!」
「圧政に立ち向かった!!」
「悪の代官を討ったぞ!!」
うおおお……。
うおおおおおおおおおお!!
「「「うぉぉぉおおおおおお!!」」」
ザワつく住民たち。
そして、ミィナの姿に気を許したのか少しづつ、少しづつ包囲を狭めていく住民。
狙いは当然──────……。
「な、なんじゃ貴様ら!! わ、ワシに近づくな!! 貴様らぁあーーーーー!!」
ゴーレムの破片を手にブンブンと振り回し住民を威嚇する代官。
しかし、事ここに至って住民が止まるはずもない。
すでに衛兵隊は討たれているのだ。
ここまでくれば、もはや代官を倒すしかないという状態なのだから当然である。
「お、おい!! 今まで街を治めてきたのはワシじゃぞ! その恩を知らんのか!!」
ガクガクと震える代官は後退り、重戦車化したアルガスの装甲にペタリと体を寄せる。
「息子が処刑された───重税と賄賂を払えないという理由で、だ」
「娘を手籠めにされた───初夜権というカビの生えた法律を無理矢理持ち出して……」
「店を奪われた───衛兵どもの溜り場にするために!」
「子供たちを返せ!! 何人連れていった─────もう、どこにもいないんだぞ!」
殺せ、
殺せ──────!!
殺せ、殺せ、殺せ!!
殺せぇぇぇぇえええええええええ!!
ワッワッワッ! と、沸き立つ民衆。
「ひぃぃぃいいいい!! ち、違う! わ、ワシは悪くない……ワシは悪くない!! ッッ─────ぁアルガぁぁぁぁああス!!」
あん?
「助けろ!! ワシを助けろッ!! 全部やる! 全部だ!! 財産も女も屋敷も全部やるッ!! だから、助けろぉぉおお!!」
………………いらね。
『……自業自得だ。俺は、基本他所の街の事情に首は突っ込まん。───今回は、お前が殴って来たからやり返しただけだ』
ギルドと結託し、俺を襲ってミィナを攫った───その借りを返しただけ。
手配書なんざ怖くはないが、迷惑千万!
あとは、お前の招いた種だろうが。
「そ、そんな!! おまえぇぇぇえええ! ぎゃああああああああ!!」
代官は住民に捕らえられ何処かへ引き摺られていく。
アルガスは、そんな代官の末路になんぞクソほども興味がわかなかった。
ただ、殴られたから、ぶん殴り返しただけ───。
……一発は一発だ。
赤の他人に黙って殴られてやるほど、俺も冒険者も、優しくないッつーの。
「いやー! それにしても、お嬢ちゃんの乗ってる馬車の中の人は強いな! 一体誰なんだい?」
初老の男性がティーガーⅠの車体に触れて感心している。
それをミィナはニコニコと見下ろし、
「アルガスさんだよ!! 重戦車のアルガスさん! とーーーーーっても強いんだよ!」
アルガス……。
アルガス?!
───アルガス!!!
「そうか───【重戦車】のアルガスか! 聞いたことあるような、ないような……」
「うん! てぃーがーⅠ──って言うの!」
アルガスは、ジェイス達と違って無名の冒険者だ。
とくに「光の戦士たち」の中核メンバーは自分たちの活躍こそ喧伝するものの、アルガスの名前がそこにあることはない。
せいぜい、ギルド職員が知っている程度だろう。
だから、住民が首を傾げても仕方がない。
だが、今夜を境にギルドだけでなく街中がアルガスを知るだろう。
『光の戦士たち』のアルガス──────……改め、重戦車アルガスの名を!
もっとも、アルガスにとって『光の戦士たち』の名前なんぞ、真っ平ごめんだが……。
一応、今もパーティのメンバーであることに違いはない。
リズの手がかりを掴むためにも、まだパーティを抜ける気はなかった。
「なるほど! アルガスさんか! いやー凄い人もいたものだ。まさか、あの代官を降すとは──────はい、お嬢ちゃん」
初老の男性は、ひとしきりアルガスを誉めると、足元に落ちていたカードのようなものをミィナに渡した。
「?……ありがとう??」
ミィナは不思議そうに受けとるそれ。
「ゴーレムのドロップ品だと思うよ。アルガスさんに渡してね」
「はーい♪」
初老の男性は満足そうに去っていく。
『なんだ、そりゃ?』
「ドロップ品だってー」
ふーん?
アルガスが興味なさそうにしていると、いつの間にか、アルガスの周囲に民衆が集まりだし、彼を取り囲んだ。
「アルガス!」
「アルガス!!」
アルガス、アルガス、アルガス!!
「「「アルガス! アルガス!!」」」
よっっっぽど、代官が嫌われていたのか、目の前で奴を降したアルガスの評判は鰻登りだ。
夜明け前だというのに街中がお祭り騒ぎ、やがて夜が白み始め、消えた門の先から太陽が顔を出し、朝焼けにティーガーⅠの車体が映える。
そこに、ミィナの語ったティーガーⅠの呼称が徐々に住民に伝わり始め、皆が口々に熱狂して語る。
そして、歌い、叫ぶ!!
「ティーガー!」
「ティーガー!!」
ティーガー、ティーガー、ティーガー!!
「「「ティーガー! ティーガー!!」」」
朝焼けに赤く輝くティーガーⅠ───そして、アルガスは人生で初めて浴びる喝采に戸惑うばかり。
肉壁としてパーティを守っても称賛されず、自分を認めてくれたのは親友の娘リズだけだったはず……。
だが、違う。
今は違う──────。
ミィナがいるし、リズもどこかにいる。
そして、鋼鉄の覇者ティーガーⅠとともにある。
そうか………………。
これが、勝利なのか……!
光の戦士たち3
その頃のジェイス一行。
カッ─────────!!
照りつける太陽。
足元から漂う悪臭。
そして、飢えと渇きと疲労でジェイス達は倒れる寸前だった。
「くそ…………吐きそうだ」
「ちょっと、ジェイス! 向こうで吐いてよッ!」
「おえぇぇぇえええ!」
ジェイスの代わりに、ザラディンが吐き戻した。
しかし、吐き戻されたのは水でも食料でもなく、ただの胃液。
あまりの渇きのため胃酸が逆流しているのだろう。
そして、
「お前が吐くんかぃ───おぇぇぇええええ……!」
結局ジェイスも貰いゲロをする。
「うわ、くっさ!」
あまりの悪臭にメイベルがドン引きする。
しかし、湿った足元のせいでうまく逃げられない。
周囲には水分が大量にあるというのに、飲めないのだ。
湿地帯に迷い込んだジェイス一行は照りつける太陽と、蒸発した湿地の悪臭に苛まれ進むことも戻ることも出来ずにいた。
「あーもぅ、いやッ!! ねー、帰ろうよぉぉお!」
メイベルが半べそになりながら、キーキーと喚く。
喋る元気すら失せた男性陣に比べると、まだまだ元気そうだ。
「ぉぇぇ……。か、帰るってどこに帰んだよ!」
「そうです……。むしろ帰り道が分かるなら、教えて欲しいものです」
おぇぇぇええ……。
「何言ってんのよ! ベームスの街に決まってるでしょ? 足跡をたどれば帰れるってばー!」
湿地帯に残る足跡を指さし、キーキーと騒ぐ。
「ばーか。そうやって何日も彷徨ってるだろうが!」
「そうですよ! それにベームスなんてとっくに……!」
男性陣の意見など聞く耳を持たないとばかりに、メイベルが「帰りたい、帰りたい!」と騒ぐ。
そこに、
「──────ベームスがどうしたの?」
「「「リズ?!」」」
疲れた表情のリズが、荷物を抱えて戻ってきていた。
「お、遅かったじゃないか!」
「どこまで行ってたのよ、このグズ! 田舎者ぉ!」
「は、はやく。何か食べ物を……!」
突然元気になり、やいのやいのと騒ぎだすパーティメンバーにウンザリとした様子も隠さず、
「───うるさいわね……。偵察と食料確保が短時間で終わるわけないでしょ!」
そう言って、ポイっと丸いものを3人に投げ渡す。
「な、なんです? これは……」
物知りザラディンが、しげしげと眺めている。
やや楕円を描き、白くてツルンとしている……。
「ここらのリザードマンの卵よ……孵化しかけだから、早く食べて」
そういったとたんに、ビクビクと卵が震えだした。
「ひぃ!!」
その衝撃に驚いたザラディンがボトンとそれを取り落とし、卵を割ってしまう。
「バ───!!」
「な、ななななな、なんてことをするんですか!」
「バカッ!! 何をしているの、貴重な食糧よ! なんてことする───は、こっちのセリフよ!」
リズは構わずザラディンに掴みかかり、問い詰める。
「人がどれだけ苦労してこれを集めたと思っているのよ!」
「リザードマンなんて、食えるわけがないでしょう!」
「そ、そうだ!」
「そ、そうよ!」
ザラディンの援護をするジェイスとメイベル。
二人は、卵を気持ち悪がってリズに突き返そうとする。
「あッそう、好きにして───」
リズはまともに取り合わず、卵を取り返すとそのうちに一つを割り、ちゅーちゅーと中身を吸い始めた。
よくよく見れば何やら緑色の物体が中で蠢いているが……。
「───ふぅ。……流石にこれは食えないけど、」
プッ。と、蠢くリザードマンの幼生を吐き捨てる。
「汁だけ吸えば、水分は取れるわよ」
そう言って、どうする───と目で訴えた。
「うげ……マジかよ」
「おえ。絶対無理」
ジェイスもメイベルも全身全霊をもって拒否する。
「あ、そう。それ以外に水分を取る方法なんてないわよ───今のところはね」
それだけ言うと、リズは3人には構わずスタスタと歩き去ってしまう。
「ちょ! どこいくんだよ!」
「ねぇ、水なら足元に一杯あんじゃん! これ飲もーよー!」
「そ、そうですぞ! もう、魔力もないのです! 水の生成をするより───」
くるり。
「一回だけ言うね」
笑顔のリズ。
だけど、目が笑っていない───……。
「───好きにすれば?」
ついてくるのも、水を飲むのも……全部好きにしろといっているのだ。
リズには彼らを助ける義理など、もはや何一つないのだ。
「ぐ……! ま、待てよ!」
「ちょ、先にいかないでよ! 待ってぇ」
「おいていくつもりですか? 恩人に対してなんて冷たい……!」
軍団から逃げおおせたことを恩に着せるジェイス達。
だが、その言葉を発せばリズからは氷よりも冷たい目を向けられる。
「……恨みはあっても、恩はないわ───」
それだけ言うと、もはや語らず黙々と歩き続けるリズ。
その足取りはしっかりしており、ちゃんと目的地があるように見える。
それを見て顔を見合わせるジェイス達。
どうしようか、と悩んでいるのだ。
ここに留まっても死を待つばかり。
一か八かで歩き出しても、どこに向かえばいいのか分からない。
人気の全くない荒野で、3人は途方に暮れてしまった。
「……ジェイス殿、ここはリズに従うのが得策かと」
「そ、そうよ。あの田舎者なら、こういった環境に詳しいはずだし」
「お、おう……そうだな。どのみち、湿地の上じゃ座ることもできやしねぇ」
ここに迷い込んでからずっと立ちっぱなしの3人。
いい加減くたびれて来たし、何か食べたい……。
目の前に落ちている割れた卵と、ウゾウゾと蠢くリザードマンの幼生をみて思わずゴクリと喉が鳴る。
さっきは拒否したが、それでも食えるならと……。
リズは食料を調達に行ったと言っていた。
そして偵察もしたと……。
なるほど、見れば───彼女の背嚢は膨らんでいる。
他にも食料を見つけたのかもしれない。
そして、あの足取り。
きっと手がかりをつかんだのだろう。
文明までの道のりを───。
「お、おい!! リズ待てよ!」
「私達も行くぅ」
「わ、私の知識が必要になるはずですぞー」
そうして、今更ながらドタバタとリズの後を追う3人。
だがそれを顧みないリズ。
黙々と歩く彼女の足取りは確かであったが、彼女の背中は酷く頼り無げに見えた……。
まるで迷子の子供のように───。
※ ※
湿地帯を抜けた先、乏しい植性と岩だらけの土地に差し掛かったジェイス一行。
リズを先頭に黙々と歩いているが、彼女を除く全員が疲労困憊し、息も絶え絶えとなっていた。
いや、リズとて平気ではない。
頬がやつれ、顔色も良くない。
肉体的にも、精神的にも、彼女も疲れ切っているのだ。
水もなければ、食料も乏しい。
休む場所もない……。
照りつける太陽に、顔中にたかる虫がまた余計に疲労を増やす。
だけど、今ここで倒れるわけにはいかない……。
アルガスを───……例え亡骸だけであったとしても、彼を見つけなければと───、それだけを心にリズは荒野の脱出を図っていた。
図らずとも、それがゆえにジェイス達がついてきているのだが、好きにすればいい。
本当なら助けてやる義理もないし、むしろ憎んですらいる……。
だけど、アルガスがいれば絶対に見捨てないだろうし、きっと嫌な目にあっても許してしまう。
それくらいに懐の大きな人で、優しい人───……。
彼が怒るとしたら、身内に手を出したものだけ。
昔、リズの両親がまだ健在だったころ。リズが見ず知らずの大人に誘拐されたことがあった。
あの時のアルガスのブチ切れ具合といったら……。
誘拐そのもの───その時のことは思い出したくもないが、でも一つだけいい思い出もあった。
大きな組織の絡む誘拐事件で、当時は誰もが絶望視していたらしいが、アルガスはリズの両親とともに奮起し、なんと組織の中まで突入し彼女を救い出してくれた。
狂戦士のごとく暴れ、千切っては投げ、千切っては投げ!
獅子奮迅の大暴れ───。
とても強かった……。
とてもカッコよかった……。
とても頼もしかった───。
あの時以来───リズはアルガスを見ている。
一人の男性として、父として、兄として───……アルガス・ハイデマンという、愛しい人として。
……結局は、当時のケガなどが元で両親は他界してしまったが、それでもアルガスがいてくれた。
さほど年は変わらないというのに、無理をして両親の代わりをしようと、リズを引き取ってくれた……。
嬉しかったし、同時に救われた思いでいた。
アルガスとともに過ごせることに、喜びすら感じていた……。
いたんだよ──────……アルガス。
リズの視界が滲む。
どうしても、アルガスが死んだという事実が認められなくて……。
寄り添ってくれたあの人が、たった一人で荒野の果てで死んだなんて認めたくなくて……。
でも、アルガスなら、こんな時メソメソすることを許さない。
冒険者として大成していた彼なら、まず目的を達成するために全力を尽くす。
だから…………リズもアルガスを見倣い。全力を尽くす!!
「うぉぉおい……リズぅ!」
「ど、どこに向かってるのよぉ」
「も、もう限界です……」
うるさい連中だ。
こうなったのは、自業自得だろうに。
鬱陶しそうに振り返ると、無言で前方を指さした。
リズにはとっくに見えている。
だが、疲労困憊の彼らは気付きもしていない。
「な、なんだ?」
「え。えええ! ジェイス、見て見て」
「む、村ですか?!」
突然色めき立つ面々。
人工物の発見に驚いているようだが、別に珍しくもない。
それにここは──────。
「は、早くいくぞ!」
「そうだね! いこいこ! きゃっほー!」
「まーた、湿気た村じゃないんですか~?」
ゲラゲラと笑いながら村に向かって元気いっぱい走り出す3人。
もうリズは用無しと言わんばかり。
(馬鹿ね……。見ればわかるでしょうに──そこは、)
全力疾走していく3人だが途中で気付いたらしく、足が止まる。
まるで絶望するようにガックシと……。
「そ、そんなぁ」
「え~! 廃村じゃん」
「あぁ、先日のようには、うまくは行きませんな……はは」
また?
先日───?
………………一体なんのことだろうか?
「り、リズ! こ、こんなもののために荒野を彷徨っていたのか?!」
「そうよ! 責任取りなさいよ! 無駄足じゃない!」
「そうです! 責任を取って、その背嚢に隠している食料を我々に───」
ふん。
馬鹿馬鹿しい。
これが勇者パーティ?
冗談じゃない……。
3人を完全に無視したリズは、スタスタと廃村に向かて進む。
この3バカは無駄足だと思っているようだが、大間違いだ。
「ちょっとまてよ!」「止りなさい!」「リズ!」
無視、無視。
鬱陶しいことこの上ない。
「「「リズぅ!!」」」
「うるさい」
冷たくあしらうとリズは、武器を抜いて廃村に向かう。
無人だとは思うが、一応警戒だ。
荒野と違い、遮蔽物が多すぎるし───なにより敵対者が潜んでいる可能性もある。
探知系スキルには何も引っ掛かっていないが、隠蔽スキル持ちがいた場合、それは意味をなさない。
こんな荒野の果てにそんな手練れがいるとは思えないが、警戒するに越したことはない。
慎重に慎重を重ねて進むが、どうやら杞憂で済んだようだ。
荒れ果てた家が数件並ぶだけで猫の子一匹いやしない。
いたらいたで、3バカが食らいつくだろうけど……。
「クリア──────ここは大丈夫よ」
一応教えておいてやる。
どうせ、何のあてのない連中。
何をおいても、リズに追従しようとするだろう。
「くそ! お前が偵察で見つけたのはこの程度の物か!」
「あったま来るわね~! 廃村でどうしようっての!」
「こんなところ、何も残っていませんよ!」
あーうるさい。
「別に、人がいることを期待していたわけじゃないわ」
そうとも、最初から廃村だとあたりを付けて来ている。
そもそも、周辺には人の手が入った痕跡が全くない。
それくらいわかる。
ここも廃村になってから随分と経つのだろう。
「なら、なんで!」
はぁ。
「───こんなところでも、人が暮らしていたことがある……つまり、」
「あ!!」
ここまで言ってようやくザラディンが気付いたようだ。
これで賢者……。本当か?
「水ですか!」
ようやく合点がいったという様子。
「えぇ、きっと水源がどこかにあるわ」
でなければ人は暮らせない。
持ち込んだ水だけで村を起こすなど正気の沙汰ではない。
どこかに飲める水源があって、それがためにここに暮らそうとした。……多分ね。
どっちにしても、まともな人間ではないでしょうけど……。
「そ、そうか! お、おい! メイベル、ザラディン───探すぞ」
「う、うん!」
「お、お任せください」
ふぅ。
水源はあの3バカに任せておこう。
こっちはコッチでやることがある。
リズは武器を納めると、淀みのない足取りで偵察に出かけた。
村があるということは──────必ず文明との接触……つまり道の痕跡があるはずだと。
そして、 夜───。
広大な荒野にも夜は来る。
リズの見つけた廃村にも、例外なく夜は訪れ、今はその闇を払おうと火が焚かれていた。
焚火に周辺の人影は3人。
ジェイス。
メイベル。
ザラディンの3バカ───勇者たちだ。
「いやー……一時はどうなる事かと思いました」
「まったくだ。リズを生かしといて正解だったな」
「ほーんと、下心丸出しのくせに、ファインプレーなんだから」
ゲラゲラと笑う彼らは、腹こそ減っていたが取りあえず水をたらふく飲み、一時的にも空腹を誤魔化していた。
何よりも誰よりも、渇きが本当に深刻だったのだ。
辛うじて持っていた鍋を使って水を沸かし、井戸からくみ上げたそれを回し飲みをしている。
少々苔臭いが、解毒魔法を使えるメイベルが毒見をした。
もっとも、毒見を買って出たわけでなく、我慢しきれなかったメイベルが勝手に飲んでしまっただけなのだが……。
巧妙な男性陣はといえば、実はそれをジッと見ていたりする。
メイベルが腹を押さえて暴れ出さないかと───……。
だが幸いにも毒の類は無さそうで、メイベルは元気にがぶ飲みしていた。
そうして、ようやく水を飲んだ一行は一息をついていた。
「いやー……やっぱ、あの村に残るべきだったな」
「えー……いやよ。こんな土地に住む土着民と暮らすなんて」
「都市にも住めぬ掃きだし者の、はみ出し者、そしてあぶれ者の類ですよ。───荒野に住もうなんて連中は」
違いない、とゲラゲラ笑うジェイス達。
戦利品として持ち出した、純度の高いアルコールを回し飲みし始める。
そして、気分良く自慢話をしている所に、
「何の話?」
リズが帰ってきた。
「───お、リズじゃねぇか!」
「あらら、遅かったわね~。水飲むぅ?」
「なんでもありませんよ。ちょっとした小噺です」
ふ~ん?
「それは?」
リズが興味をもったのはアルコールだ。
そんなものは、旅荷物になかったはず……───。
「え? あー……ざ、ザラディンのとっておきだよ」
「そ、そーそーそー! こういう時に飲もうと思ってたのよぉ!」
「え、えーえー! そうですとも。さ、リズ───あなたもいかがですか?」
急に眼をキョドキョドを泳がせ始め、挙動の怪しくなる3人。
わざとらしく酒を勧めてくるが、
「いらないわ。それより───火を借りるわね」
焚火の間に入ると、火にあたり体を温める。
荒野の夜は冷える。
「あー。リズ……そのぉ」
「わかってるわよ」
ふぅ……。
ジェイス達が、やたらと期待する様な目を向けてくる。
コイツらに尽くしてやる義理は毛ほどもないけど、アルガスを思うなら見捨てるわけにもいかない。
「ごめんねぇ、大感謝~!」
「いやはや、さすがの私も荒野の食料までの知識は……」
ゴチャゴチャうるさい3バカは放っておいて、リズは背嚢を開ける。
そこに確保した食料をいくつか見繕い、木の板に並べると簡単に調理していく。
「えっと、」
「げ、」
「そ、それは……」
リズの取り出したもの。
「虫よ。結構、おいしいらしいわ」
そう言って、ウゾウゾと動く大量の虫を3バカに見せてやった。
「「「ぎゃあああああああ!!」」」
※ ※
ぎゃあああああああああ!!
3人で抱き合い、リズから距離を取ってドン引きアピール。
「何をギャーギャー言ってんだか、いらなきゃ、食べなくていいわよ」
虫を初め、荒野で見つけた動植物。
そして、廃村あとで見つけたものを順繰りに並べていく。
巨大芋虫。(何の幼虫かは知らない)
大量の毛虫。(何の毛虫かは知らない)
でっかいトカゲ。(種類不明)
リザードマンの卵。(多分、上位種)
顔の長いネズミ。(何かいい臭いがする)
棘だらけの植物。(汁がネトネト)
西瓜みたいな実。(甘い香りがする)
廃村の畑あとで見つけた、筋だらけの芋。
ハーブ各種。
岩塩と、山椒の葉っぱ。
ま、こんなとこである。
「言っとくけど、確保できた食料はこれだけよ。今後獲れる保証もないから、えり好みしたら渡さないから」
さっそく、芋や西瓜に手を伸ばそうとしている3バカに睨みを入れる。
今は日持ちするものに手を出すわけにはいかない。
特に、植物類は数日はもつはずだ。
ならば、やはり足の速いものから───。
「マジでそれ食うのかよ」
「無理。絶対無理」
「せ、せめて火を通しましょうよ!」
滅茶苦茶怯んでいる3バカを無視して、リズは調理を始める。
廃村にフライパンがあってよかった……。
食材に祈りを捧げ───。
いざ調理開始。
では、 まず食材の下ごしらえだ。
簡単に調理するなら卵から。
無精卵ならよかったのだが、恐らく全部有精卵。
なかにはリザードマンが孵る寸前の物もあるだろう。
だからこれは蒸し焼きにする。
焚火の下に空洞を作り、大きな葉っぱで包んでおいて、灰を被せて火の下に。そのまましばらく放置。
次に芋虫だが、デッカイこいつは一匹でかなりの重量。
生でも食えるというが、寄生虫などの危険を考えると火を通した方が無難だ。
だから、まずは背を割って内臓を取り出す。
ナイフを入れた瞬間ブシュ! と緑色の液体が飛び出しメイベルが悲鳴をあげて逃げていった。
男二人は腰は抜けている。
さて、内臓を火に投げ込んだら、芋虫の頭を落とし、ざっくりと切り分け串に刺す。
わりと硬い表皮に比べて、中身はゲル状の何かだったが一応形を保っている。
火に投げた内臓が香ばしい匂いを立てているのでたんぱく質だけは豊富。味は知らない。
ブヨブヨとする身に岩塩を粗く削っても見込みヌメリを落とす。
妙にドロドロとしていたのは表皮の裏側だけで、中はしっかりとした身が詰まっていた。
色は緑だけど……。
そこに山椒の葉を散らして香り付けすると、火から少し離してかける。
ジュウジュウと香ばしい音を立てているけど、再三言うが味は知らない……。
次にトカゲ。
コイツは皮も固いし、身もまるで革靴のようにかたい。
ナイフが中々通らないので酷く苦労した。
知れでもなんとか皮を剥ぐと、大きく腹を裂いて内臓を掻きだす。
「お、おい……どうみても噛み千切れないだろ、それ……」
勇者の割に軟弱な顎を持つジェイスは不満げだ。
「身は保存食よ」
「じゃ、じゃあ、」
ブチ。リズが何かを切り取る。
「ここは食べれるわ。多分ね」
過食できる部位としてこれほど適切なものはないだろう。
身の割にデッカイ肝臓。そして、まだ動いて見せる心臓だ。
それを半分に割り串に通して直火に当てる。
爬虫類の内臓は、やはり寄生虫の危険がある。硬そうな身は焚火の真ん中に入れて軽く灰を被せた。カリカリになるまで焼き締めれば保存食になるし、身を焦げて脆くなるだろう。
さて、残るところはネズミと毛虫。
ネズミはトカゲよりも楽に皮を剥ぐことができた。
あとは内臓を出して火に当てるだけ。
トカゲと違い内臓は食べれるほど取れないので全部火に投げた。
あとはトカゲの内臓と同じく直火に当て骨ごとじっくりと火に当てる。
毛虫は下処理として、フライパンの上にドサッと放り入れた。
ウゾウゾと熱にのた打ち回る毛虫。
メイベルがさっきから戻ってこない。
男性陣はさっきから腰が抜けて復帰不能……情けない奴ら───。
さて、どうかな? と覗き込めば思った通り毛が全部落ちている。
なので一度毛虫を板に戻すと、フライパン上の毛を掃除する。
そこに、ネズミの皮についていた油を塗り込み、もう一度毛虫を投入する。
今度はイイ感じに火が通り始めた。
何度か、じゃっじゃっ! とフライパンを躍らせ毛虫に満遍なく火を通す。
そこに、フライパンを揺すりながら岩塩を振り入れ、山椒の葉を細かく潰しながら入れていく。
毛虫が全部、身をキュっと丸めれば完成だ。
フライパンの素熱を取るため揺すりながら火から離すと皿代わりにデン! と地面に置く。
最後に積んだばかりにハーブをいくつか並べると──────「毛虫炒めのハーブ添え」完成。
さて、後は順繰りに───……。
まずは、灰の中から棒で卵を取り出せば───あ、できてる。
卵の殻が割れて中身が透けて見えている───ビジュアルはちょっと凄い……けど、匂いは中々オイリーな感じ。
「リザードマンのバロット」完成。
次は、お手軽簡単荒野料理、火から離せば───はい、完成。お好みで塩を振りかけて食うべ「ネズミとトカゲのモツ直火焼き」召し上がれ。
最後はこれ───……「巨大芋虫の串焼き山椒和え」。
火から離してクルクル回していたけど、いい感じに熱が通って身がギュッと引きしまっている。
色は緑だけど……。塩味はついているけど、足りないならお好みで。
「できたわよ」
はい。とネズミの串焼きをジェイスに押し付ける。
「お、おう……」
無茶苦茶ドン引きしている。
知った事じゃない。ここはお綺麗なホテルじゃないのよ。
「好きに取って食べて、量はあるはずよ」
リズはあとは知らんとばかりに、毛虫炒めに手を伸ばす。
イイ感じに焼き上がっており、香ばしい香りがする。
一つ手に取ってみて、頭を落として背を開き、腸取り除くとさて実食───……あ、うまいわね、これ。
意外とクセもなく、ちょっと口当たりがボソボソすることに目をつぶれば全然食える。
塩味がいい感じにあうのだ。
塩由来のしょっぱさの中にたんぱく質の甘味が加わり、ネズミのラードがよく馴染んでいる。
なんだろう…………。あ、半生の魚卵に近いかも。うん、イケルイケル。
リズはアルガスに冒険者としての知識を叩き込まれていたのでサバイバル技術も中々のものだ。
さすがに荒野を越えた経験こそないものの、もっと過酷な環境を彼と過ごしたこともある。
他国の砂漠地帯……。高山と雪の世界───……。どれもこれも苛酷な場所だったけど、アルガスと一緒ならどこでも平気だった。
あの人といれば、なにも怖くなかった……。
グスリと思わずしゃくりあげてしまう。
その雰囲気を気まずく思ったのかジェイスがバツが悪そうに焚火に向かい、ポリポリとネズミを齧っている。
ドン引きしていた癖に、空腹には抗えなかったのだろう。食ったら食ったで、「あ、うめぇ」とか言って喜んでいるし。
だが、頑なに虫には手を付けない。
リザードマンも同様。
「肉だけじゃ足りないわよ」
そう言って、不機嫌を隠しもせずにリズは芋虫の串焼きをザラディンに突きつける。
緑のビジュアルがすごい……。
「い、いいいいいいいいえ、えええええ、遠慮しておきます───あまりお腹が空いていないもので、」
グーーーーーギュルルルルル……。
お約束のタイミングで腹が鳴るザラディン。
毛虫の意外とおいしそうな匂いに空腹が刺激されたらしい。
その瞬間無言でがっしりと、串を掴む賢者殿。
じっと、芋虫の切り身を見ていたが恐る恐る口にして、チミッと噛み切ると、恐る恐る咀嚼する。
ムッチッムッチッ…………ごく。
「お、おい。どうだ?」
「げ、た、食べてる……味は?」
いつの間にか戻って来ていたメイベルも、顔を引き攣らせながらも興味津々だ。
ザラディンは全て飲みこみ、目をパチクリ。
「────────────……海老?」
ズルッ、とずっこけるジェイス&メイベル。
「う、うそつけ!」
「あ、ありえない!!」
だが、二人の意見など聞こえないかのように、ザラディンが今度はモリッと被り付く。
中々汁だくでボタボタボタ……と中身の水分が零れる。うん、緑……。
「あ、これ旨いわ。海老だわ、エビ」
お前マジかよ……みたいな目で見られるザラディンだったが、割とお気に召したらしく食べきる。
そして、ジェイス達が食べないようなので残りの身を食べようと───……がしり。
「待てよ」
「待ちなさいよ」
ジェイスとメイベルが殺気立った顔でザラディンを止める。
そして、芋虫の串焼きを引っ手繰るとガブリと一口──────「「……エビ?!」」
エビらしい……。
「「「……………………」」」
そして、三人とも顔を見合わせると恐る恐る他の料理にも手を伸ばし始めた。
「リザードマンのバロット」にトカゲのモツも恐る恐る口に運んでいる。
「あ、ダメだ。俺これダメ」
「あ、私好きかも───頂戴」
バロットの見た目のアレ差の割に意外と柔らかく食べやすいことに気を良くしたメイベルがゴリゴリとリザードマンの幼生を骨ごと齧る。
とはいえ、骨は柔らかく軟骨のような触感らしい。
ジェイスは代わりにトカゲのレバーをモリモリと食べている。
レバーは好みが分かれる味だろうがジェイスは割と平気なようだ。
「あ、これ普通のレバーとそう変わらないな。味が濃い分、コレうまいわ」
「では私はこれを───……ほう、」
モリモリとトカゲの心臓を頬張るザラディン。
「なんでしょうかね。……牛肉に近い味がします。旨いものですね」
最初のドン引きがどこへやら、結構モリモリと食べだすジェイス達。
口の周りと緑色に染めながらモッシャモッシャと頬張る頬張る。
しまいにはリズがもそもそと食べていた毛虫炒めにも手を伸ばし、まるで酒のつまみのようにしてアルコールを飲み交わしながら器用に食べ始めた。
実に現金な奴らである。
「いやー……虫も意外とうまいな!」
「ほんと、びっくりしたわ~。リズぅ、明日もお願いねー」
「これはこれは、知識が増えました。都に戻れば話のネタになりますね」
ぎゃはははははははは! と、笑いつつ、細工残った小刀で毛虫を処理しつつ食べる3人。
「………………───ねぇ、その小刀どうしたの? そんなの前使って無かったよね?」
ぎゃは──────……。
不意に静まり返る3人。
それを訝しがったリズは彼らの背嚢に手を伸ばすと、
「あ、何をするんですか!?」
手近にあったザラディンの物を取り、中を確認する、すると……。
「ちょ、ちょっとこれ……何よ!」
ガラガラガラと出てきたものは民族工芸品の様なものと──────耳。
「ち……」
それを取り出した瞬間、3人の纏う空気が変わる。
スゥと冷えた空気に、リズがビクリと竦むと、ジェイスがゆっくりと立ち上がる。
「なんだよリズ。耳がどうかしたのか? ん?」
ゆっくりとゆっくりと、
「───はは、これか? 討伐証明って奴だよ。知ってるだろ?」
ヒョイっと拾い上げた耳。褐色の笹耳───……。
「ダークエルフに出くわしたのさ。連中いきなり襲ってきやがってさ、返り討ちにしたんだけど、どうも犯罪者っぽかったからな。ギルドに討伐報告する義務があるからこうして持ってるのさ、な?」
メイベルとザラディンにも笑いかけ同意を求める。
「え~そーよー。私も仕留めたもん、ほらこれこれ」
「じ、ジェイス殿もたくさん持っておりますぞ」
鞄から取り出した乾燥した笹耳のネックレスを自慢げに見せるメイベル。
ザラディンも追笑して、それを裏付ける。
「は、犯罪者って……そ、そんなの、手配書でも見ないとわからないじゃない」
「ハッ! なぁに言ってんだよ。俺達が最初に襲われたんだぜ? 殺人未遂は犯罪さぁ、そうーだろぉ?」
ゲヒャハハハハハと下品な笑いで耳をポンポンとお手玉するジェイス。
「そうです、そうです! 王国警察法にも書かれておりますぞ」
「正当防衛よ、せーとぼーえー。んね、リぃズ?」
ニッコォと微笑みかけるメイベルに、目をあわせないザラディン。
な、なんなの。
一体何をしたの?
こ、荒野にだって……人はいる。
魔物とうまく共存する部族や、食い詰めた物が仕方なく暮らしていることもある。
凶悪な魔物を生態を知れば避けて通ることもできるのだ。
だから、ダークエルフだって…………。
襲われたからって──────そんな。
どう見ても、略奪したようにしか、見え……な───い。
「「「リズ」」」
ニコニコ笑う3人。
「「「リズ」」」
ゆっくりと迫る3人……。
「「「リズ」」」
──────気にするな。
余計な事は、
「見ない」
と、ジェイスが宣う。
「言わない」
と、メイベルが宣う。
「聞かない」
と、ザラディンが宣う。
それでいいじゃないか?
「「「な?」」」
コクリ、コクリと頷くしかできないリズ。
震える手を隠すのがやっとだった。
何かが、何かを………………。
こいつ等、何を?
何をしたの? 荒野の奥で───……!
荒野の脱出はもう間近……。リズは文明の痕跡を見つけていた。
廃村から続く、道の痕跡。
必ず人里に繋がる確かあ道の跡を……。
だが──────このまま街に向かって大丈夫なのだろうか?
リズがいなければ脱出不可能な荒野の奥で、彼らと一緒に街に向かって大丈夫なのだろうか?
一緒に…………行動して大丈夫なの?
ねぇ、教えてよアルガス。
守ってよアルガス……。
傍にいて──────アルガスっ!!
「ふーーー…………いい湯だ」
ギルドから出たアルガス達は、その足で町の中で居心地のいい宿屋に泊まっていた。
お値段はお手頃価格。
古びてはいるが、落ち着いた佇まいの老舗宿といったところだ。
もっとグレードの高い所もあるにはあるのだが、アルガスの庶民染みた感覚ではこういった───風呂と小さな部屋と、酒場兼食堂付きの宿くらいでいい。
なんというか、落ち着くのだ。
ほら、なんかボーイがいたり、白い服を着たシェフがいるような宿だと、かえって休める気がしないのですよ。
根が庶民なのです。はい。
そういえば……。
───バシャリと湯を顔に当てつつ思う。
「……それにしても、【重戦車】か───とんでもないな……」
街をあげて阻止しようとしていた軍団を、一撃の元に殲滅した天職……。
自分で感じただけでも、まさに最強だと思う。
───ただ、実感がない。
無我夢中で戦い、気付けば軍団を殲滅していたということ。
「───ギルドの連中に、詳しく聞かれなくてよかったかもしれんな」
あの圧倒的な力だ。
きっと快く思わない連中もいるだろうし、あるいは上手く取り入ろうとする連中も出てきそうだ。
ちなみに、詳細が聞かれなかったのは、ギルドがテンパっていたからだ。
なんせ、いきなり軍団全部のドロップ品が持ち込まれたのだ。
当然、地方の一ギルトでどうにかできる数ではない。
結局、ギルドの資金不足を理由にドロップ品の換金は断られてしまった。
少々納得がいかないものの、その代わりに「光の戦士たち」と、リズの行方を捜索してもらうことで、今日は引き上げた。
ジェイス達も、腐っても勇者の称号をもったSランクのパーティだ。
無名のパーティとは違い、とてつもなく目立つはず。
だから、探すのはそこまで困難ではないだろう。
きっと、体勢を立て直すためにどこかの街のギルドに顔を出すに決まっている。
ギルドは基本は個人経営でありながら、横の繋がりを強固に持つ特殊な商売の集合体だ。
その情報網に引っ掛かれば、すぐに居場所を特定できるだろう。
惜しむべくは、それまでジェイスにリズを預けなければならないこと。
それが無念でならない。
本当なら、すぐに荒野に駆けだしてアイツらを捜索したいが、闇雲に探しても見つかるとは思えない。
それくらいなら、どっしりと構えて行方を追う方がいい。
心配は心配だ。だが、荒野の奥地であっても、リズがいれば何とか脱出できるはずだ。
その程度の知識は、あの子に叩きこんだという自負がある。
けどな、
「───落とし前はつけてやるぞ、」
そうとも───俺とミィナを囮にし、卑怯にも逃げやがったクソ野郎ども!
「──────ジェぇぇえイスッッ!!」
バシャァァアン!!
湯に拳を叩きつけ、決意を新たにするアルガス。
※ ※
「ふぃー……いい湯だった。ミィナはもう上がったか───?」
宿の部屋に戻ると、ミィナの気配がない。
まだ風呂にいるのかと思ったが、ベッド脇に濡れたタオルが干してある。
ということは、一度部屋に戻っているのだろう。
「?? 酒──────なわけないしな」
オッサンの考えなら、風呂上りに一杯! ってやるところだが、女の子がそんなことをするはずもなし。
ずっと、奴隷小屋にいたらしいミィナが土地勘があるとも思えないので、一人でフラフラ出ていくとも考え辛い。
「……飯は、さっき滅茶苦茶食べたしな?」
風呂の前に、食堂で川魚の油浸しと、野菜の千切り、イノシシ肉のステーキに、大きなパン、そして羊ソーセージのコッテリシチューを食べたはず。
二人して腹がパンパンになるまで食べたから、またお腹が空いて食堂に行ったとも考え難い。
そもそも、勝手にどこかに行くような子でもないだろうし……。
部屋に併設されている、便桶を置いた狭い部屋(便所)にも人気はない。
おかしい──────。
「ミィ」
ヒュン!!!──────スカァン!
名前を呼ぼうとして瞬間、耳元を鋭い擦過音が駆け抜けていった。
く!?
反射的に床に伏せると、窓から身を隠した。
スカァアン! と、柱に突き立つ鋭い矢──────いや、これはボウガン用のボルト弾だ!
「ちぃ!」
暗殺者か!?
アルガスは身を隠したまま、素早く防具を身に纏う。
途中で買い揃えた新品の重装備だが、着こむのに時間がかかるのでチェインメイルと兜、そして、タワーシールドだけを装備すると、剣を腰に下げて部屋を飛び出した。
扉を開けた途端に、そこに待ち構えていた、追撃の刺客が襲い掛かる!
「ぐ───!!」
狭い場所での戦いを想定した短剣使いども。
黒い装束を身に纏い顔を隠している。
「このぉぉおッ!」
態勢の整っていないアルガスに、畳み掛けるつもりなのだ。
無言の刺客による、鋭い突きが廊下の左右から繰り出される。
しかも、身長さを活用した多段攻撃だ!
だが、
「舐めるなぁぁあ!」──ズガァァァアン!
右側の暗殺者には扉を思いっきり叩きつけ、シールドバッシュの要領で吹っ飛ばす。
そして、左側の暗殺者には本家本元のタワーシールドによるシールドバッシュだ!
ドガァァアアン!!
「ぐああ!」「ごほぅ!」
まとめて叩き伏せられた暗殺者が、ふっとび、何人かはヨロヨロと逃げ出す。
奴らは軽装だ。
それが故に、アルガスの一撃は内臓に響いたことだろう。
「逃がすか、この野郎!」
手近にいた連中の足を踏み砕き、まだ襲い掛かってくる連中を剣で貫いた。
ノロマと言われても、並みの冒険者よりも遥かに強いのがアルガスだ!
そのうち、宿の泊り客や主人が気付き俄かに周囲が騒がしくなる。
それに慌てたのか、無事だった連中が煙幕を投げつけ撤退に移り始めた。
「───っ!」
簡単に逃がすと思うなよ!!
状況から見て、ミィナはこいつ等に誘拐された可能性が高い!
最低でも、生け捕りにしないと───!!
「待てッ!!」
しかし、かなしいかな───。
アルガスの足は並み程度……!
軽装主体の暗殺者に追いつけるはずもなし。
あっという間に、闇の中に連中は消えてしまった。
「くそ!」
毒づくも、こうなっては仕方がない。
廊下で叩き伏せた連中が何人かいたはずだ。
「きゃーーーーーーー!!」
鋭い悲鳴に気付きアルガスが宿の駆け戻ると、そこには事切れた暗殺者の死体が山となっていた。
「ち…………自害しやがったのか」
どうやら、口を割るのを恐れて、自殺用の毒物を持ち込んでいたようだ。
実に徹底してやがる。
せめて正体でも───と、黒装束を剥ぐと、存外若い顔が出てきた。
全員頭部は反り上げられているが、皆顔や体のどこかに蠍の刺青を彫っている。
つまりコイツ等は───。
「やはり、暗殺者ギルド…………!」
第15話「喧嘩を売った奴ら」
多数のギルドが犇めく街の一画。
そこの倉庫街に、蠢く男達の姿があった。
「いひひひ……嬢ちゃん、覚悟しなぁ!」
厭らしい笑みを浮かべた小男が、ミィナの目の前でナイフをプラプラと揺らして脅している。
「ひぃぃ!」
お風呂に入ったあと、宿でのんびりしていたところを訳も分からぬまま誘拐されたミィナ。
彼女は、その幼い体を縄で拘束され、小さな檻に閉じ込められていた。
周囲には黒装束の男達や、小汚い恰好の男女が多数いてミィナを見下ろしている。
「───おいおい、本当にこの小汚いガキが、金貨10000枚も持ってるのか?」
「まったくだ……。どう見ても、銅貨すら持ってなさそうだぞ」
幾人かの男達は首を傾げている。
大枚叩いて雇われたものの、拍子抜けするほどあっけない任務だった。
「いや、俺は昼間見たぜ。こいつと、こいつの飼い主が魔石をばら蒔いてるところをな」
「ああ、それなら俺も見たぜ! ほらよ」
日中、門前で菓子を売るというシノギをしている柄の悪い露店商が、自慢気に魔石を見せる。
なるほど……本物だ。
「す、すげぇ」
「でけぇ……!」
「だろ? こんなのを、このガキ───いっぱい溜め込んでやがるぜ。うひひ」
それを聞いた全員が、ベロリと舌舐めずりしてミィナを見下ろす。
「で、でもよう。さすがに金貨10000枚は、ねーんじゃないか?」
ただし、中には疑い深い奴もいるが──。
「いーや、本当だ。……それどころかそのガキの異次元収納袋には魔石や魔物のドロップ品がまだまだ唸るほどあるぜ」
男たちの背後にあらわれた雇い主の言葉に、ひゅう♪ と口笛を吹く男達。
誰しも景気のいい話には心が躍るようだ。
「じゃあ、早速捌いてみるか?」
「ばーか。殺しちまったら異次元収納袋から取り出せないっつーの」
じゃあどうすんだよ? と、男達がやいのやいのと騒がしい。
「おら、ガキ!! さっさと出せッ! 出さないとブスっといっちまうぞー」
「いやぁぁあ!」
ナイフや短刀といった得物を、これ見よがしにチラつかせる男たち。
その物騒な男達の気配に当てられミィナが、ガクガクと震えている。
「ひゃはははは。ビビらせ過ぎなんだよ! 見ろ、小便ちびってやがるぜ」
「ぐひゃはははは! こりゃいい! もっとビビらせてやるぜ!」
うひゃははははは、と下品な男達が怯えるミィナをさらに脅していく。
もはや、アイテムを取り出すよりもその怯える様を楽しんでいるようだ。
一方で小汚ない男達とは違い、黒装束の男達は比較的無口だった。
小汚ない男達───盗賊や斥候などで構成される盗賊ギルドとは違い、黒装束の彼らは生粋の暗殺者だ。
専門職だけで構成された暗殺ギルドは、仕事にしか興味がない。
そして、彼らは仲間内でコソコソと話していた。
「(男を始末に行った連中が返り討ちにあった)」
「(勇者パーティにいたというのは、伊達じゃなさそうだ)」
「(頭領から追撃の指示があったので、上級暗殺者を差し向けたらしいが……)」
ボソボソと物騒極まりない話をしているが、どうやらアルガスに返り討ちにあった連中が報告に来たのだろう。
そして、さらに戦力を増強してアルガスの襲撃に向かったらしいと───。
「おい! 暗殺者ども! 話が違うぞ───アルガスの野郎はどうした! 奴の首はどこにあるってんだ!?」
薄暗い場所でヒソヒソと話す暗殺者どもが気にくわないのか、雇い主の男はランプを手にズンズンと歩くと、手近にいた暗殺者の胸倉をつかんだ。
まるで、子供のように重さを感じさせない暗殺者。
筋骨隆々の雇い主に掴みあげられた暗殺者は苦し気に唸るが、
「───落ち着け……。既に追撃は送った」
しわがれた声が背後から響き、慌てて振り向いた雇い主は思わずランプを取り落とす。
ガシャン! と割れたそこから漏れた油が一気に燃え、薄暗かった倉庫の中を明々と照らしだした。
そこに、雇い主ことあの筋骨隆々の冒険者ギルドのマスターの姿が、明々と照らし出される。
「───ほ、本当か? 聞けば返り討ちにあったそうじゃないか」
「ふん……。端た金しか寄越さんでよく言う……。空証文だったら貴様の首を貰うぞ」
ギルドマスターは昼間の意趣返しのため、大金をはたいて裏家業の物を雇っていた。
もちろん、空証文で……。
なんせギルドマスターの金はミィナが持っているのだ。
それを当てにしているのは火を見るより明らかだった。
「う……。か、金なら払うさ。だからさっさとアルガスの首を取ってこい」
「慌てるな───ノロマな重戦士の首くらいすぐに挙げてくれるわ……。我がギルド最高の使い手を送ったからな」
ニィ……と、黒装束の影の中で薄く笑うのは、暗殺者ギルドの頭領。
その顔をみて、ゾゾゾと背筋の凍る思いのギルドマスターだったが、同時に頼もしさを覚えていた。
「さ、最高の使い手──────そりゃ期待できる、」
そして、追笑するように汚い笑みを浮かべた時───。
ズッドォォォォォオオオオオン!!!
突如、倉庫の一画が吹っ飛んだ!!
第16話「対人戦闘開始(前編)」
「な、なんなんあな、なんだぁ?!」
「ぎゃああああ!! あじぃぃいい!!」
突然の爆発に、男達が慌てふためく。
「狼狽えるな!! 早く火を消せ、あとはガキを守れッ!」
そこに奥から飛び出してきた、細身の男が指揮を執り始める。
腕の刺青から盗賊ギルドの、上位のものだと分かる。
「か、かかかか、カシラぁ! ば、爆発が、爆発で、爆発した!」
「アホォ! 見ればわかる───魔法使いの強襲かもしれんぞ。早くガードを固めろッ」
カシラの指揮の元、ワタワタと動き始める盗賊ギルドの面々。
一方で比較的冷静だったのは、やはり黒装束の暗殺ギルドの手練れ達だろう。
雇い主であるギルドマスターの首根っこを掴んで素早く距離を取り、闇に身を沈める。
「───何が起こった?」
頭領と呼ばれた上位の暗殺者が、表で警戒していて負傷した部下に問うていた。
そいつは、外で運悪く爆発に巻き込まれ片腕を失っていた。
「わ、わかりません───な、何かが街からやって来て、突然倉庫が爆発したとしか……ぐふッ」
「ちっ!」
それきり事切れた部下を放り捨てると、
「───おい、貴様。他に、どこに声をかけた? アルガスとやらが魔法を使えるとは聞いていないぞ?」
今度は頭領が胸倉をつかんで、ギルドマスターを脅す。
彼の心中では、別勢力が攻撃を仕掛けてきたと思っているのだろう。
「し、知らん! そりゃ、保険くらいは打っているが……自分が巻き込まれるようなことを、するわけがないだろうが!」
それもそうだ。
「ふん! どうだか」
ギルドマスターを放り出すと、頭領は首をコキコキと鳴らす。
「ち……。まぁいい。どこのどいつか知らんが落とし前を付けてやる」
シュラン……! と鞘引く音を立て、頭領を始め居並ぶ暗殺者たちが毒に塗れた短剣を引き抜く。
「お、おい! それよりも、アルガスはどうするんだ?! おい、聞いてんのか?!」
「うるさい。お前の始末はあとだ。ま……安心しろ、アルガスは最高の暗殺者が───」
ドルドルドルドルドルドルドルドル……!
メリメリメリ───!!
突然変形し、音を立てて崩れていく倉庫の壁。
「な、なんだぁ?!」
「か、壁から離れろッ!」
そして、爆炎を潜り抜けて来た鉄の塊が、男達の前に乱入した。
バリバリ……メリメリ───ズズゥン!!
『──おい、最高の暗殺者ってのはこいつか?』
怒気を孕んだ声。
そのまま破壊の大音響が響いたかと思うと、死体をぶら下げた鉄の塊がついに全身を表す。
まるでパンでも引き千切るかのように、圧倒的なパワーでバリバリバリと、倉庫の壁を破って突撃してきた異形の化け物。
「うひゃあ!!」
その勢いに、暗殺者も盗賊たちも慌てて飛び退る。
「な、なんだぁ?!」
「ど、どこのバカが破城槌持ち出しやがった!」
「た、建物が崩壊するぞ?!」
しかし、騒ぎなど聞いてもいないかのようにギャラギャラギャラ! と、けたたましい騒音と共に巨大な鉄の塊が堂々と倉庫に乗り込んできた。
「あ、アルガスさん!!」
『よう。無事だったか!』
檻の格子に縋りつくミィナ。
彼女は、あの鉄の塊に向かって話しかけたらしいのだが……───アルガス?
アルガスだって?!
「あ、あの中にアルガスがいるだと?!」
頭領が呆気に取られていると、
『テメェがコイツらの上司か? 鬱陶しいからぶっ飛ばしてやったぜ』
アルガスが戦車砲をウィィンと動かすと、その上にぶら下がっていた全身穴だらけになって事切れた、ボロクズのようになった暗殺者がいた。
「な?! わ、ワシの手練れが?!」
その死体を見て驚愕に目を染める頭領。
『は? 手練れ?……とんだ雑魚だったぞ』
ボト……。
無造作に捨てられた手練れ(笑)はブチッと、アルガスに轢き潰され地面の染みになった。
「な、なんてことを!?」
あまりの出来事に、冷静沈着だったはずの頭領がブルブルと震えている。
よくよく見れば、ぶち破られた壁の向こうには暗殺者たちの死体が点々と───……。
どうやら、死体がここまで導いてきたようだ。
それにしたって、足の速いはずの暗殺者がこうも一方的に?
いや、そんなことはどうでもいい!!
「やってくれたな、アルガス! もう、依頼などどうでもいい! 我らの誇りのために貴様をズタズタにしてくれるわ!!」
───行けぇぇええ!!
頭領の合図を元に、一斉にアルガス───もとい、重戦車ティーガーⅠに殺到する暗殺者たち!
彼らはどこかに隙間があるはずと、短剣を手に次々に襲い掛かるが───。
『効くわけねぇだろ、ターーコ』
ガキガキガキィィイン!!
一斉に振り下ろされた短剣が全て防がれる。
「て、鉄だとぉ?!」
「か、硬い!」
必殺の一撃は全て防がれ、暗殺者どもの短剣がぶち折れる。
そして、
『───ミィナ伏せてろッ! 異次元収納袋《アイテムボックス》からドロップ品の盾を出して隠れるんだ!』
「は、はいです!!」
ニュウーと、異次元収納袋を展開したミィナが、オーガナイトの盾を取り出しその下に身を隠す。
その瞬間アルガスが叫んだ!
『Sマイン投射!! ぶっ飛べ、暗殺者ども!!』
ポンポンポンッポォン!!
軽い発射音とともに、車体の四隅にあった車外発射装置からSマインが発射された。
突然の爆音に警戒していた暗殺者達だったが、特に何も起こらないことに─────。
「な、なんだ?」
「ビビらせやがって!」
「単なる、こけおどしだ!!」
暗殺者たちの目の前には、中空に放出された小さな鉄の筒が───。
バババッバァァァアアン!!
──────炸裂した。
第16話「対人戦闘開始(後編)」
バババッバァァァアアン!!
中空で炸裂したSマインが、内部に仕込んでいた無数の子弾を周囲にぶちまけた!!
「ぎゃぁぁぁああ!!」
「うぎゃああああ!!」
「あーあーあーあー!」
一瞬にして全身を穴だらけになった暗殺者達。
直撃したものはボロボロの肉片となり、掠めただけで大量出血してのたうちまわる。
だが、ティーガー自身もその子弾を受けたというのに、傷一つない。
それどころか、跳ね返った子弾がまた周囲にぶちまけられ、倉庫の中にいたほとんどの者が負傷していた。
「ひぃぃいぃい!! 抜いて、抜いてぇぇえ!」
「目が、目がぁぁぁあ!!」
暗殺者ギルドの頭領ですら「行けぇえ!」の格好のまま、全身穴だらけになって死んでいた。
生き残ったのは僅かばかりの盗賊どもと、そのカシラ──────そして、ギルドマスターだった。
「ひぃぃぃい! ば、ばばば、化け物ぉ……!」
筋骨隆々の偉丈夫───ギルドマスターが、腰を抜かしていた。
『───よぉ。テメェ、見た顔じゃねぇか』
「あ、あああ、アルガスか?! なんで生きてる!? つ、つつつ、使えん暗殺者どもめ!!」
アワアワと腰を抜かしたギルドマスターが、ズリズリと逃げ出そうとする。
だが、それを見逃すアルガスではない!
『ほーう? やっぱり、お前が送り込んだ刺客か……。大方、金の回収を目論んでいたみたいだが。おう、ごら───冒険者ギルドのマスターがこんなことやっていいのか? ああん?』
ごらぁ?!
オラオラ口調で追い詰めていくが、ギルドマスターも諦めの悪い人物だったらしい。
「お、おい! 盗賊ども、さっさとガキを盾にしろ───」
「ふっざけんな! 何人死んだと思ってる! 端た金じゃ割に合わねぇ、このガキは俺達が代官に売り込んでやるぁ」
あっという間に見捨てられるギルドマスター。
そして、盗賊どもは檻ごと担いで逃げ去るところだった。
『お、おい、待てテメェら!!』
すかさず追撃しようとしたアルガスだが、ミィナに命中しそうで銃撃できない。
『くそ!!』
逡巡している隙に連中はスタコラサッサと逃げ出した。
大量の負傷者を放置して……。
「あ、あの野郎ども!! 俺を置き去りにしやがって───!」
『おう、ゴラ! 待てや!!』
ドルドルドルドルドルドル……!
エンジンを猛烈い空ぶかしして、アルガスは怒り心頭!
クソボケのギルドマスターに、ジリジリ迫ると、キャタピラで無残に轢断してやろうとする。
「ま、まっままっま、待てアルガス! お、俺を殺したらお尋ね者だぞッ! 街の代官だって黙ってはおらんぞ」
む……。
ピタリと止まるアルガス。
明らかにギルドマスターの方が犯罪者なのだが、奴の言うことにも一理ある。
こんなやつでも、一応街の名士だ。
そのギルドマスターが口を割ることなく、アルガスの手でブチ殺してしまえば真相の究明には程遠くなり、無残に死んだギルドマスターの死体が残るのみ。
事情が分からないものが見れば、アルガスの非にも見えるかもしれない。
「ぎひひひひ……! そうだ。それでいいんだよ! 代官にゃ高い税金と賄賂を納めてんだ、お前なんか鼻息ひとつで、ポンッだぜ!」
アルガスが動きを止めたことに気を良くしたギルドマスターは、厭らしく笑うと、よっこらせと立ち上がる。
懐から一枚の紙を引っ張り出すと、高々と指し示す。
…………なんだ、ありゃ?
───告、代官府!
アルガス・ハイデマン。この者、勇者殺しの容疑で追跡中。賞金は金貨500枚。生死問わず!───
『なんだそれは? お尋ね者───俺が?』
「そうとも!! これは明日にでも街中に張り出される高札よ! 代官殿に密告して、作ってもらったのさ!」
は?
なんで俺が勇者を殺す? 意味分からん。
っていうか、これ……ジェイスのことを言ってんだよな?
『………………ジェイスなら逃げたぞ? 軍団を放置して、街の反対にな。軍団に敵わないとみるや、尻尾をまいて───』
「知るか、そんなこと。ひひひ、保険をかけといてよかったぜ───。今頃、セリーナが代官府で準備している頃だ。そのうち、お前を捕縛しようと代官様が動きだすぞ! ついでに、あのガキを手土産にすれば代官様もお喜びに、───って、指ぃぃぃぃいい!!??」
ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
───プチッ。
「あーーーーーーーーーーー!!」
なんかムカついたので、キャタピラで足の指を引き潰してやったぜ。
っチ、それにしても街の代官まで抱き込んでやがるとは……。
しかも、ミィナを売るとはな───最初からそれが目当てか。
無駄に政治力のある奴は面倒くさい。
そう言えばここの代官は俗物で、街の民衆からスゲー嫌われていたな。
しかも、ロリコン………………。
軍団が迫っていると聞いても、代官は迎撃に向かうどころか、自分の財産を避難させるのに必死だったとかなんとか……。
ったく、どいつもこいつも腐ってやがる。
───まぁ、いい。
『だったら、代官の前で囀ってもらうぞ───そのあとでミィナを返してもらい、たっぷりとお礼参りさせてもらうからな!』
足の指を押さえて、ヒーヒー言っているギルドマスターを冷たく見下ろすアルガス。
容赦する気なんて、全く起きない。
ミィナを奪っておいて、そのうえ俺がお尋ね者とはな……。
どうやら街の御代官様も俺と戦争がしたいらしい。
いー度胸だ。
第17話「代官邸強襲ッ!」
代官の館にて、
「うふふふふ……お代官さまぁ、この話はホントでしてよ」
「うむむ……。それは、けしからん話だ! 明日と言わず、今夜にでも『触れ』を出すべきかもしれんな」
でっぷりと太った代官が、ワイン片手に真っ赤になった顔で適当なことをほざいている。
それを煽るように、セリーナは薄い扇情的な服で劣情を催させるように、代官に次々に酒を注いでいく。
しかし、代官はセリーナには全く興味なさそうにしている。
代わりに、盗賊ギルドどもが持ち込ん少女───部屋の隅で震えているミィナを、好色染みた目で見ていた。
「げぷッ……。ふーむ、勇者を殺したとなれば国家一級の犯罪ぞ。これはこの街だけに留めず、国に通報した方がいいな。どれ──」
代官は勇者殺害の話を鵜呑みにし、アルガスに懸賞金を付けた。
碌な裏付けもなしにである。
それもこれも日頃から賄賂に余念のないギルドマスターの話を信じたからだ───と、いうのは嘘で、もちろん出鱈目だと知っている。
それでもこの話に乗ったのは、セリーナの持ち込んだ金貨何千枚相当のドロップ品を貯め込んだポーターの話と、たった一人で軍団を倒したという、眉唾ものの話があったためだ。
しかも、眉唾でありながら真実だという。
それはもはや、旨味しかない儲け話だ。
代官は代官で思惑があり、ギルドマスターともどもを利用して、件のポーターも、例の手柄も独占してやろうと考えているのだ。
当然ながら、ポーターも手柄も何もギルドマスターどもにくれてやる必要などない。
うまく騙された振りをして、ポーターは脅して金を取り出し、ついでに味見する。
中々かわいい子で代官の好みだった。
そして、軍団を倒したという男は殺して存在を消した後に、手柄を代官の物にする。
と───そんな筋書きがあった。
だから、セリーナの胡散臭い話に乗った。
ついでに、アルガスを殺せば、勇者殺しを仕留めたという栄誉を国に持っていけば一石二鳥どころか、三鳥も四鳥もあり、当然ながら勲章ものだと皮算用していたのだ。
「く、国?! い、いえいえいえいえ! 待ってくださいよぉ、代官様!」
しな垂れかかるセリーナの体を受け止めながら、代官はやはり嘘だと看破した。
恐らく、アルガスという冒険者は勇者を殺していないのだろう。
国が本腰を入れて調査すれば、そんな嘘は一発でバレる。
だから、このギルドマスターの娘はこの街の代官権限までで止めたいのだ。
「ん~? どうしてだ? 待つ必要なんぞない、ほれ」
テーブルにある執事を呼ぶ手鈴をならそうと手を伸ばせば、セリーナがその豊満な体で押しとどめる。
「ま、まぁまぁ。まずはお酒でも飲んで、ね!」
なんとしてでも、国に通報されるわけにはいかないセリーナは必死だ。
色気で釣って、お酒で思考を鈍らせてと、あの手この手で阻もうとする。
そのうち代官も面倒になって来たのか、触れを早めに出すというところで一旦は落ち着いた。
(ふぅ……。危ない所だったわ。───パパぁ、早くアルガスを仕留めちゃってよ……。そうすりゃ賞金も総取り。ポーターの異次元収納袋の中身も全部私達の物になるんだから)
冷や汗まみれのセリーナはそっとため息をつく。
俗物で、スケベでロリコン。
嫌われ者の、悪徳代官の相手もしんどいものだ。
(まぁ、ここまで話が進めばあとは私達の勝ちよ! 見てなさい、アルガス……権力ってのはこうやって使うのよ)
使用人が、アルガスの手配書を大量に刷って街に持っていく姿を窓越しに眺めながらセリーヌは皮算用する。
うまく行けばギルドを拡大できるし、お金持ちになっていい男と結婚もできる。
そして、明るい未来があると─────。
「あら?…………何かしら?」
代官の館は街を一望できる小高い丘にある。
街全体が壁で覆われているため、代官邸自体にはちょっとした塀がある程度で、防御は薄い。
その代わり見通しは凄くいいのだ。
そして、夜の闇に沈む街の方から妙に黒々とした何かが…………。
「え? パパ?」
徐々に近づくそれが代官の館の明かりを受けてボンヤリと浮かび上がる。
そして、象のように長い鼻を持った馬車の先端には、脂汗を浮かべたギルドマスターが括りつけられていた。
「ぬぅ? どうした?」
酔っ払った代官が窓に近づき、セリーナとともに街の方を見下ろせば……。
「ありゃぁ、なんだ? お前の親父じゃないか?」
ガチャっと窓を開けると、眼下では屋敷の警備をしていた衛兵がバラバラと散発的に集合し、塀と門を挟んでギルドマスター達と向かい合う。
そして、衛兵たちが訝し気に問う声が代官の部屋まで届いてきた。
※ ※
「止れッ!!」
「何者だ! 恐れ多くもお代官様の館へ夜分に馬車で乗り込むとは、反逆罪で逮捕されても言い訳はできぬぞ!!」
衛兵たちは威圧的に槍を構えて、居丈高に詰問する。
「お、お代官さまぁぁぁあ!! 助けてください! コイツです! コイツがアルガスです!」
「何?」
「アルガスだって?」
驚いたのは衛兵たちだ。
なんせ、出たばかりの御触れでは勇者殺しの大悪党としてお尋ね者になった奴が忽然と目の前に現れたのだから、当然だろう。
しかも懸賞金付き、金貨500枚!!
大金だ!!
そして、馬車に拘束されているのは街の名士、ギルドマスターだった。
その言葉には重みがある。
そこに───。
「ぱ、パパぁ?」
「せ、セリーナか! 助けてくれ……! アルガスに捕まっているんだ! は、はやく助けてくれ!!」
長い鉄の棒のようなものにぶら下げられたギルドマスターは、憐れみを誘う声で叫び、ギュシギュシとロープを揺する。
筋骨隆々なのに、まぁなんと情けない姿か……。
「アルガスって、その中にいるの? 雇った連中はどうしたのよ?」
「バカ! 余計なことは言わなくていい! 早く助けろ!!」
窓を塀と門を挟んで親子でわいのわいの。
それを見ていた代官がニヤリと笑う。
日頃からギルドの報酬から賄賂を貰っている代官であったが、いっそギルドの権利を丸ごと欲しいと思っていたのだ。
その上、アルガス自らここにやってきた。
まるで鴨がネギを背負って、コンロと鍋付きで飛んできたようなものだ。
このまま、ギルドマスターを助けて恩を売り、今後も商売に噛ませるように仕向け、そしてアルガスは殺してその首を王都に送る。
そうすれば代官は英雄様だ。
もしかすると、領地のひとつも貰えるかもしれない。
田舎貴族の三男坊で冷飯を食わされた挙げ句、なんの旨味もない地方で代官をやらされるよりはよっぽど、いいと───。
「ぐふふふふ……」
そのことを思い、悪~~~い顔になる。
代官はでっぷりと太った脂肪を揺らしつつ、窓に近づくと言い放った。
「貴様がアルガスか! 馬車に籠って、街の名士を人質にするとは卑怯千万! 即刻ひっ捕らえて獄門にしてくれるわ!」
ムンッ……! と威圧感を出して朗々と語る。
だが、アルガスからの反応は意外なものだった。
『おいおい……。人の話も聞かないでいきなり犯罪者扱いか?』
「勇者殺しと交わす言葉などもたん! 貴様を討って国への忠誠を示すことが代官の職を預かったワシの務めだ!」
これでも、長年悪徳代官をやっているのだ。
当然、頭は悪くない。
『は……! くだらねぇな───俺はコイツに殺されかけたっていうのによ!』
「えええい! 黙れ黙れ! すぐさま捕らえて、その素っ首引っこ抜いてくれるわッ!」
代官の殺す発言に、部屋の隅で震えていたミィナがビックリして起き上がると、窓に駆け寄った。
「アルガスさん、逃げてぇぇええ!!」
『…………ミィナ?』
慌てたセリーナがミィナを拘束すると、部屋の奥に引っ張り込んでしまった。
『おいおい、どういうことだ? 俺の連れが何でそこにいる?? あ゛?』
アルガスの静かな怒気を感じて、さすがに代官も少し仰け反るも、そこはそれ。腐っても……───いや腐ってる悪徳代官だ。少々の脅しなどに屈するはずがない。
『よぉ、お代官ってのは、人様が世話してる子どもを誘拐する権利でもあるってのか? おい、何か言えや、ゴラぁ』
アルガスの正論にぐうの音も出ない代官は言った。
「か、構わん──衛兵! そいつを馬車から轢きずりだしてやれ、殺しても構わんぞ!
仕留めたものにはたんまり褒美をくれてやる!」
「「「おおお!!」」」
ワラワラと湧いて出てくる衛兵たち。
どいつもこいつも目を$マークにしていやがる。
ついでに言えば、全員ロクでもない連中ばかりだ。
『は。腐ってるな……。まったくどいつもこいつも……』
冒険者ギルドのマスターに、暗殺者ギルドや盗賊ギルド。
そして、悪徳代官。
ミィナがここにいるということは、常日頃から盗賊ギルドと取引があるのだろう。
代官の子飼い衛兵どももクズばっかりだ。
この街に来て、そこまで日は長くはないが、コイツ等の評判は最悪だった。
チンピラまがいの強盗はするわ、女子供に暴行を働くわ、リズをナンパしようとするわ、リズをストーカーしようとするわ、リズの風呂に侵入しようとするわ、とんでもないケシカラン連中ばかりだ。
そう言えば、どいつもこいつも顔に見覚えがある。
リズに手を出そうとした奴を追い返したことが何度かあったのだ。
当然、冒険者は自衛手段があるので自分の身は自分で守れる。
だが、この様子だと街の一般民衆はやられたい放題に違いない。
すげーーーーー嫌われている連中で、ついでにアルガスも嫌っていた。
もっとも、街から街に流れる冒険者稼業なので、立ち寄った街の事情には首を突っ込まない主義。
基本的に事を荒立てる気はないが、だが、今回は別だ。
アルガスをお尋ね者にして逮捕する気満々で、その上ミィナのことも狙ってやがる。
ギルドマスターとグルだっていうならミィナの異次元収納袋のことも聞いているんだろう。
そして、今まさにアルガスを殺そうとしている。
容赦???
───するわけねぇだろ!!
『おうおうおう、舐めた真似してくれんじゃんよ?! お? 「重戦車」舐めんなよ。ごらぁぁあああ!!』
第18話「重戦車は怒り狂うッ」
『「重戦車」舐めんな、ごらぁぁああ!』
カッ─────────!!
門を開けて群がってきた衛兵目掛けて、探照灯を思いっきり照射してやった。
夜間戦闘に使う戦車用のライトは滅茶苦茶明るい!
しかも光量を一切絞っていないので、まるで昼間になったかのような明るさだ。
「うわ! なんだ! め、目がぁぁあ」
「目が、目がぁぁあ……」
「ぐお! 照明魔法だと」
「くそ! 馬車の中に用心棒がいるぞ!」
まともにライトを直視した衛兵たちが、目を押さえて呻いている。
『よぉ、悪徳代官さまよぉ! ミィナを返してもらうぜ!』
一歩たりとも退かぬ気配のアルガスに、代官は口をあんぐりと開けたまま───。
「く、国の代理たる代官所に喧嘩を売るとは?! な、なんという愚か者だ!! ええぃ、出い! 出い!! 者ども、出会え、出会えぇぇえ!!」
代官は警備の兵だけでなく、館中の兵を強制招集。
その上、危急を告げる鐘を鳴らして街中の衛兵隊を呼び戻した。
カン、カン、カン、カン、カン、カン!!
闇に沈むベームスの街に鐘が響き渡る。
※ ※
「び、ビビってんじゃねぇ!! 突っ込め突っ込めぇぇえ!!」
探照灯を浴びて見の眩んでいる衛兵たちだったが、徐々に統制を取り戻し始めていた。
そして、館から出てきた警備兵は全員完全武装。衛兵隊謹製のハーフプレートアーマーに身を包んで、お揃いの紋章の入った盾付きの精鋭だ。
だが、後から来た連中に手柄を取られたくない門の警備兵は、目が眩んだまま遮二無二に槍を振り回す。
「おらおらおら!!」
「馬車だ! 馬を狙え! 幌の隙間から乗員を殺せぇぇえ!!」
うらー!
うらー!!
まるで子供の喧嘩のようにブンブンと槍を振り回すものだから、ギルドマスターに当たりそうで本人は木が気ではない。
「や、やめろ! 俺に当たる! やめろ!」
必死で懇願するギルドマスターだが、興奮した警備兵は一切聞き入れない。
鋭い切っ先でアルガスを貫こうと───ありもしない馬や幌を探して突きまくる。
「ありゃ? 馬がいねぇぞ?」
「何だこりゃ……鉄ぅ?!」
「くそ! 隙間だ! どっかに隙間があるはずだ!」
チクチクと刺されるのはギルドマスターばかり、カンカンと音がしても重戦車化したアルガスには一撃たりとも通りはしない!
「いで! あ、足ぃぃいい!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐギルドマスターを完全に無視して、アルガスは言い放った。
『はーい。一発は一発ね──────先に手ェ出したのはお前らだぜ』
「なろー!! 舐めやがって! 代官様の軍隊だぞこっちはぁぁあ!」
「殺せ殺せ! 金貨500枚の賞金首だぜぇ」
はッ……!!
『ヤル気で来たんだ。殺されても文句はいえねぇよな!』
ウィィィン……!
アルガスは砲塔を旋回し、砲を群がる衛兵に指向する。
「な、なんだぁ、こ、コイツ───動くぞ」
「へへ……怯えてやがるぜ、コイツぁよー」
『テメェらは万死に値する。リズにストーカーしやがったり、ウチの子を拐かしたりと───』
いっぺん、死ねッごるぁぁあ!!
「ざっけんな! 俺達ゃ天下の衛兵隊! 何をしても許されるんだよ!」
「そーだそーだ!! おらおらぁあ!」
ほう。
何をしても───か?
『───じゃあ、こいつにお伺い立てて見ろぉぉお!!』
7.92mm弾によぉぉお!!
主砲同軸機関銃発射ぁぁぁああ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
ズダダダダダダッダダダダダダダダダダ!
探照灯ごしにギラギラと輝く銃口!!
砲塔内に納められた機関銃、MG34が調子よく7.92mm弾を吐き出し、屑の衛兵どもを薙ぎ払っていく。
「うぎゃあああああ!!」
「うげぇぇぇえええ!!」
「ほぎゃあああああ!!」
バタバタと薙ぎ倒される衛兵たち。
アルガスは一切の容赦もなく、砲塔をグルグルと廻し、アホ衛兵どもを薙ぎ払っていく───。
「うわ! な。ま、魔法だと?!」
「まずい! 馬車に魔法使いが大量に乗ってるぞ!!」
「ひ、退け退け! 門扉を閉めろぉぉお!」
館から出撃してきた完全武装の兵どもが、慌てて門扉を閉めていく。
外にはまだ門の警備にいた連中が右往左往して逃げ惑っていたが、それすらも締め出す気だ。
「おい! 待ってくれ───助け」
バターン!!
『は。仲間を見捨てて逃走か? たいした軍隊だな? ええ、お代官様よ!』
門扉越しに窓を見上げれば、腰を抜かした代官が。
まさか反撃されるとは、思ってもみなかったのだろう。
しかも、門前の部隊は全滅。
「な、なんあななななんあ、なんということを! 国王より任命された代官に手を出すということが───」
『───悪徳代官を誅すことに何のお咎めがあるんだ?』
そうとも。
れっきとした理由がある───。
それでも王国がアルガスを捕縛するというなら、上等だ。
一発ぶん殴ってから、隣国にでも行ってやるさ。
リズとミィナさえいれば、この国にこだわる理由もない。
なんたって、元々は根なし草の冒険者だからな!
「ぬがーーーー! 誰が悪徳代官じゃあ! ええい! 何をしておる! 殺せ殺せぇぇえ!!」
見っとも無く分けき散らす代官。
だが、兵らは既に及び腰だった。
「お、おおお、お代官さま───あれは攻城兵器ですよ!」
「鉄の荷車だ! アルガスの野郎は、本気ですよ!」
槍が全く効かないことを見て、打つ手なしとばかりに兵が言い訳三昧。
「バッカモーーーーーーーン!! 武器庫を総浚いして、何か手を考えい!!」
バッキーーーン!
隊長格の衛兵をぶん殴って喝を入れると、代官はミィナを担いで部屋の奥にひっこんでしまった。
「やだぁ! 離してぇぇえ!!」
ミィナの悲痛な声だけが屋敷に響く──。
そして、それを聞いたアルガスが黙って見過ごすはずがない。
『───おうゴラ、待てや!!』
ギャラギャラギャラ!!
猛スピードで門扉に迫ると───……。
「ちょ──────俺がいるの忘れてるだろうぉぉおおお」
ギルドマスターの悲痛な叫びなど知った事かといわんばかりに──────!!
『突撃ぃぃぃいい!!』
「うわ! 来たぞッ!!」
「だ、だだだ、大丈夫だ! この門は鉄製──────」
バッカーーーーーーーーーン!!
『ティーガーⅠは700馬力だぁぁああ!』
ヒュンヒュンヒュン! と、ギルドマスター付きの鋼鉄製の門がすっ飛んでいき、豚のような悪徳代官の部屋にブッ刺さる!
ズッドォォォオオン!!
「ぶひぃぃぃいいい!!」
さすがに直撃はしなかったようだが、部屋がボロッボロ!!
ミィナを担いでナニしようとしてたんだか……。
ペッチャンコになったギルドマスターと、ションベンを漏らした悪徳代官。
『おうごら! 今すぐ行くからその汚ぇ面引っ提げて待ってろや!!』
第19話「討ち入りじゃーーー!」
『おう、ごらッ! 今すぐ行くから、その汚ぇ面引っ提げて待ってろや!!』
ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
履帯を激しく唸らせて、アルガスは代官の館に突っ込んだ!!
正面で盾を構えて槍を番えた連中がいようが知った事か!!
おらぁぁぁああああああ!
『───ティーガーⅠの装甲は100mmじゃぁぁああああああ!!』
ドッカーーーーーーーーーン!!
「ひーーでーーーぶーーー!?」
「あべしーーーーーーーー!?」
衛兵ごとぶっ飛ばして屋敷に突撃する。
そして、ズドーーン! と、冗談でも比喩でもなく屋敷が揺れたッ!!
『おらおら、どけどけーー!! ティーガーⅠのお通りじゃー!』
そして、戦車の巨体を引っ提げて屋敷の中に突っ込んだアルガスは、エンジンの馬力に任せてバリバリバリ! と走り回る。
「や、やめろぉぉお!!」
「逃げろぉぉおおおお!」
使用人や衛兵が泡を食って逃げ回る。
「アルガス?! あ、ああ、アンタねえ! や、やり過ぎよぉぉおお!」
どこに隠れていたのか、セリーナがボロボロの格好で逃げ惑っていた。
『何が、やり過ぎじゃボケ! お前らがぶん殴って来たんだろうが!!』
セリーナ目掛けて機関銃を乱射しようと指向する。
そのついでに、砲が壁をバリバリと破りながら屋敷の中で砲塔旋回!!
「うひゃあああ!! ちょ、ちょ、ちょぉぉおおおお!!」
セリーナが扉のドアを開けて逃げ回る。
それを追って砲塔もグールグル!! 屋敷をぶっ壊しまくる。
「い、いたぞ!」
「ば、バカ! 声が大きい!!」
その先に、でっかいボウガンを構えた衛兵の隊長や、ヤクザ者の盗賊ギルドの連中がいた。
連中は逃げようにも、アルガスが無茶苦茶暴れ回るものだから逃げ損ねてしまったようだ。
仕方無く迎撃に出たものの、バカのせいで敢えなく発見された。
どうやら、武器庫から色々持ち出してきたみたいだが──────。
「か、構えぇぇえ!!」
巻き上げ機で装填する、大型ボウガンを構える衛兵ども───。
「射てぇぇええ!!」
『───んなもん、効くかぁぁあああ!!』
ガシュン、ガシュン!!
と、大型ボウガンがぶっ放されアルガスに命中するも───ガン、ギン、ゴン、ガッキィィン!!
「ひえ?!」
「うそぉん!?」
衛兵隊長も盗賊どももビックリ仰天──。
つーか、ティーガーⅠ舐めんな!!
「どけどけ! コイツで仕留めてやるぁ!」
ここで、盗賊ギルドの親分格───カシラの登場だ!!
「さ、さっすがカシラぁぁあ!」
「痺れるぅ、憧れるぅ!!」
盗賊ギルドのカシラは、武器庫の奥にあった総鉄製のバカでっかいボウガンのお化け──────バリスタを持ち出してきた。
それを誇らしげに操作すると───!!
「賞金500枚は俺のもんだぁぁあああ!」
ドキュン!!!──────カァン♪
「───……あれれ?」
『…………はっはー。一発は一発だ』
装甲に傷もつかない……。
だけど、一発は一発。
さーて、と。
すぅぅ、
『───撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけじゃぁぁぁあああ!!』
発射!!
ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッッ!!!
室内ゆえ、くぐもった射撃音が無情に響く。
「「「うぎゃぁぁああ!!」」」
そして、射線にいた衛兵隊長も、盗賊ギルドの面々も、カシラごとまとめてミンチになる。
「ひぃぃぃいい!!」
そして、とっとと逃げればいいものを、暢気にボウガン戦を眺めていたセリーナが腰を抜かしている。
『───おうおうおう。よー、クソ受付嬢さんよ。ギルドに冒険者が来たらよぉ、言うことあんだろうが……!』
「ひは?!」
そうだ。
コイツは毎度毎度───人の顔見たら舌打ちするわ、露骨に嫌な顔するわ……。
『さん、はいッ───♪』
「ぎ、ギルドにようこそ───」
『───それが挨拶じゃ、ボケぇぇええ! 覚えとけ!!』
───蹂躙開始ッ!
ギャラギャラギャラギャラギャラ!!
「うぎゃああああああああああああ!!」
スッゴイ声を出して悲鳴に次ぐ悲鳴!!
うるさい声量だけで、充分魔物に太刀打ちできるだろう。
だが、死ね。
「──────うわーーーん。お嫁に行くまで、死にたくなーーーーーい!!」
『お前を嫁に欲しがる奴が、いるかぁぁぁあああ!!』───ボケぇぇえ!!
猛スピードで通過し、牽き殺す勢いで戦車の正面装甲でゴキーーーーン! と頭をぶん殴ってやると、履帯と履帯の間に上手く潜らせギリギリで轢き殺すのを勘弁してやった。
だが、鋼鉄の塊は数センチ上を駆け抜けていく様は恐怖に違いない。
アルガスが駆け抜けた後にはボロボロの部屋と、髪の毛が真っ白になり老婆のような有様になったセリーヌがいた。
「あへ、あへ、あへへへへ」
白目剥いて涎ダラダラ……。
どうやらよほどの恐怖で──────……南無。
『ふん……。そうやって笑顔でいろッ! 受付さんよぉぉおおお!』
第20話「ミィナ搭乗!!」
ふん……。そうやって笑顔でいろッ!
受付さんよぉぉおおお!
真っ白に燃え尽きたセリーナは放置。
ギルドマスターと盗賊ギルドはぶっ飛ばした!!
ならば──────……。
……次は、代官!!
そうして、アルガスは顔を上に向ける。
ボロッボロになった一階はほとんど更地だが、さすがにこの巨体では階段を上れない。
だが、分かる。
もう見ていた──────。
もう、見えているぞ!!
代官の部屋がどこで、ミィナがどこにいたのかをッ!
顔を向ければ砲塔の仰角が上がっていく。
そして、主砲同軸機銃を指向すると──。
『返してもらうぞ! 悪徳代官ッッ!!』
ドコココココココココココココココココココココココココッッ!!
激しいマズルフラッシュが闇に沈む屋敷の中でギラギラと輝き、明るく照らし出す。
そして、射線の先はアルガスが調整したがために、丸ーく銃痕が開いていく。
まるでミシンでも縫うかのように、ボコボコ! と、一周まわって穴が空いたかと思うと──────。
ドッカーーーーーーン!!!
と、底でも抜けたかのように床が抜け上階が落ちてきた。
そこに───……。
「ぶ、ぶひぃぃぃぃぃいいいい!!」
「きゃぁぁあぁぁぁあああああ!!」
ミィナを抱えたデブ代官が叫びながら落ちてきた……。
って、おい!
何でズボン履いてねぇんだよ、テメェ!!
「ぶひッ!!」
ベチャリと潰れるように落ちてきた代官。
その脂肪の上でバウンドしたミィナがポーンと、アルガスの上に着地する。
「ふぇ?」
『無事かミィナ……服がボロボロになっちまったな』
リズから貰った大き目のシャツはボロボロだった。
だけど、体にはどこにも傷一つない。
良かった──────……。
「ぐぶぶぶぶ……ぎ、ギザマァぁぁ!! こんなことをしていいと思ってるのかぁぁぁああ!!」
このワシを誰だと思っている────!!
「ワシはなぁああ!! このベームスの街を治める偉大なる、」
『悪徳代官だろ?』
「……悪徳代官さん」
ミィナとハモりつつ、首を傾げたミィナにちょっと笑ってしまったアルガス。
「んが! だ、だだだ、誰が悪徳代官だ! 誰がッ」
いや、お前だよ。
「ふん……! まぁいい! 今すぐ謝れば寛大なワシのことじゃ、許してやらんこともない───」
『───状況わかって言ってんのか? 手ぇ、震えてるぜ?』
どうやら虚勢を張っているだけのようだが、この状況で面と向かっているだけ中々の胆力だ。
「な、なんだと!? わ、ワシの寛大な処置を───」
ワナワナと震える代官に向かって、アルガスがちょっと近づく。
ギャラララ……!
「ぶひゃあああ!?」
鋼鉄の巨体がたてる騒音に、代官は腰を抜かして見っとも無く叫ぶ。
小便をジャバジャバと漏らして後退る。
「ひぃぃぃ!! よ、よせ! わ、ワシを殺したらとんでもないことになるぞ!! 王国が黙っておらんぞぉぉお」
……今さらかよ。
ここまでやってんだ、もう退くわけないだろうが。
「わ、わわわ、ワシを見逃せぇぇ! な? い、今なら、ゆ、許してやるから───」
『バーカ。うちの子に手を出しておいてタダで済むと───』
「「「お代官さまッ!!」」」
どたどたどた!!
トドメを刺そうとしたアルガスだが、そこに大勢の声が降り注ぐ。
見れば街の方から駆け戻ってきた衛兵の部隊らしい。
それに気づいた代官はニヤリと顔を歪めると、
「が、がははははははッ! この不届き者めが、誰が貴様なんぞ許すかッ!! 貴様は拷問の末、酷い最期をくれてやる! そして、そのガキは当面はワシのペットとして末永く飼ってやるぞぉぉお! ぐははははははは!」
あーらら。
見逃すとか言ってた割に手のひら、くる~が早いのね。
ま、どうでもええけど。
『───ミィナ。俺の中に入れ』
「う、うん!!」
ミィナは慣れた様子でキューポラを開放すると、中にスルスルと潜り込んだ。
彼女の気配が視察孔付近にあるのを感じる。
たぶん、外が気になるのだろう。
悪徳代官はこれ幸いとばかり、カサカサとゴキブリのような動きで兵らの集団潜り込んでいった。
「ぬーーー!! 貴様ら遅いぞ! やれ、ぶっ殺せ!! アルガスの首をとれぇぇえ!!」
「「「ハッ!!」」」
100人ばかりの徒党を組んだ代官小飼いの衛兵部隊。
全員完全武装はもとより、なかなか練度も高そうだ。
すぐに盾で亀甲隊形をつくると、代官を内部に保護し、長槍を盾の縁でしごき始めた。
後方には弓兵もいやがる。
「「「攻撃前進ッ!」」」
ざっざっざ!!
「ぐはははははははは! これが代官の権力じゃ! これだけの戦力が、ワシの手中に───」
───ズドォォォォオン!!!
ドカーーーーーーーーーン!!
「「「あぎゃあぁぁああああああ!!」」」
情け容赦のない、アルガスの一撃が衛兵部隊に直撃した……。
第21話「俺に装填しろぉぉお!」
───ズドォォォォオン!!!
ドカーーーーーーーーーン!!
「「「あぎゃあぁぁああああああ!!」」」
アルガスは皆まで聞かずに主砲発射。
兵の集団をぶっ飛ばした。
もちろん、密集している所のど真ん中に───。
ほとんどの兵が一瞬にして爆発四散した。
破片を喰らって呻いている兵も、いるにはいるがもはや戦力としては成していない。
運よく生き残った代官はケツに火がついて転げ回っている。
「ひぃぃぃい!! あちゃあちゃあちゃ!!
な、なんちゅうことをぉぉおお!!」
知るか。
こっちのセリフじゃ!!
『はッ。どうした? 権力とやらはその程度か?』
「な、なめおってぇぇえ!! わ、わわわ、ワシの兵はまだまだおるわぃ!! さささ、さっさと来いぃぃい!!」
なるほど、なるほど。
街の警備や外の見張りを、全部放り出して代官の部隊が急行中だ。
全軍集結!───って、ところか。
そういえば、街に入る時に延々と待たされた恨みもある。
賄賂も露骨に要求しやがるし、ミィナを厭らしい目でジロジロ見ていやがったし……。
あの行列は衛兵隊の仕事の怠慢のせい。あとは賄賂をせびったり、女性にセクハラしてたりと、余計な手間をかけるのが原因だ。
ゆえに代官も衛兵隊も嫌われているのだ。
通行税も高いしな……。
うーじゃうじゃと集まり始めた衛兵隊。
全部2、300人はいるだろうか?
よほど慌てて来たのか、槍だけって奴もいるけど──────。
「がははははははは! その魔法とて、そう連発はできまい! さぁ、いつまでもつかな? んがーーっはっはっは!」
ほう。
まだまだやる気か。
俺がただまんじりともせず「重戦車」のことを調べずにいたと思うのか?
ちゃーーーーんと、ヘルプで再装填のことも調べてある。
ティーガーⅠの主砲は強力無比だが単発だ。
再装填には装填手が必要となる。
そう……。
中に誰かが乗ることが前提なのだ。
『ミィナ。聞こえるか? そこにあるヘッドセット───……黒い半欠けの輪っかみたいなやつだ。そこについてる耳あてを付けろ』
「え? うん……」
車内はエンジン音で喧しい。
今でこそキューポラの出口付近にいるから声が届くが中に入るとその限りではない。
「つけたよ? 首輪みたいなのもするの?」
『そうだ。そいつの丸い所を喉に当たるように調整しろ』
「はーい」
喉頭マイクをも装備させると、ミィナの声がぐっと近くなった気がする。
アルガスの声も、ヘッドセットを通して聞こえていることだろう。
『いいかミィナ。これから再装填を指示する』
「再装填?」
ミィナがポカンとした顔をしている気配がする。
そりゃ、いきなり言われても分からんだろうからね。
『今から言うことをやってほしい。かなり力がいるけど、ポーターをやってるミィナならできる』
「う、うん! やってみる!」
よし。いい子だ───。
『まず、車内にある酒瓶のお化けみたいな、鉄の筒がいっぱいあるのが見えるか?』
「ん? うん……綺麗───」
ん? 綺麗……?
───砲弾、綺麗か……?
まぁ、子供の感性は分からん。
『そうだ。そこにある綺麗な筒の、先端がオレンジの奴を選んで手元に持ってきてくれ』
「う、うん!!」
信管の調整はアルガスでも出来るようだが、装填だけは自動では不可能らしい。
そして今、ミィナが「ヨイショ、ヨイショ……」と抱えているのが爆発する砲弾───88mm榴弾だ。
「も、持ったよ───」
『よし、それを近くにおいて、中にある煙臭い大きな筒の横に行ってくれ』
さっき一発撃ったので、主砲は実に硝煙臭いだろう。
ミィナが顔を顰めながら、言われた通りに横に立つ。
『そこに閉塞器の開放レバーがある……。それだ。勢いよく引け!』
「う、うん! きゃあ!」
ガション!! 砲尾が開き、硝煙を纏った空薬莢が排出。
───ガランガランガラン……!
そして、黒々とした砲の中が開放された。
『よくやった! 次はさっきの筒をその穴に押し込んでくれ。勢いよく───そうだ。そこにのせて』
ミィナが「うんうん!」と、唸りながら砲弾を運び上げ砲尾にセットする。
「よいっしょッ!! ふぅ……」
『よし! あとは拳を作って、殴るように綺麗な筒を押し込むんだ! 押し込んだらすぐに手を引け』
ミィナが可愛いお手てに拳を作る。
「こ、こう?」
『そうだ。押し込めッ! 装填してくれ、ミィナ!!』
───俺の穴に突っ込め!!
「は、はい!! えい!!」
ガッ───……ション!!
アルガスの感覚に、主砲弾が装填されたことが分かる。
幼女に突っ込まれているというのは、言葉面的に非常にヤバい気もするが───うん、気にしないでおこう。
ミィナが手を引いた瞬間、半自動装填機構がガシャン!! と激しくせり上がり、砲尾を閉塞した。
この時にモタモタしていると、指を食いちぎられるのだ。大変危険……。
『いいぞ!! あとは脇に逃げて、横にあるボタンを押したら、耳を塞いで口を大きく開けていろ!』
「うん!! あー……!!」
バン! と叩くように、装填手用の安全装置を解除したミィナ!
素直に口を開けて「あー……!」と、そして耳をヘッドセット越しに覆っている!!
よし!!
装填完了だ!!!
ウィィィィイン……と、悪徳代官目掛けて砲を指向する。
野郎はビクともしなくなったアルガスを見て、ゲラゲラと笑っていやがる。
アルガスが衛兵の大戦力に、ビビッて震えているとでも勘違いしているのだろう──。
そうとも───それは、大きな勘違いだ。
「ぐははははははは! どうした、どうした! ビビッて手も足も出んと見える! ぐはーっはっはっは!」
『ハッ。ティーガーⅠは無限装軌だ! 端っから、足なんざねぇよ!』
ウィィィィイン……!
ピタリ。
「んがーっはっはっは! もう、魔法も打ち止めと見える───! ワシのような権力者に逆らったことを思い知らせてやる!! やれぇい者ども!!」
えっちら、おっちら!
「はぁはぁはぁ! おう!!」
「ぜぇぜぇぜぇ! おらぁあ!!」
息も絶え絶えに丘をかけ上がってきた衛兵ども。
全員が到達すると、気勢をはる!
「「「ひゃっはー、ブッ殺だぜぇ!」」」
非番の者や、一番遠い壁の警備についていたものらは息も絶え絶え。
───それでも意気軒昂……のはず!
とくに街から小高い丘に急行した兵らは全員が疲れ切っていた。だが代官に逆らえば後が怖いので渋々───。
『兵士諸君──任務ご苦労、さようならッ』
───発射ッッ!!
「は! まだぬかすか、ワシの勝」
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「あべしーーーーーーーーー!!」」」
第22話「真夜中の追撃」
ドカーーーーーーーーーーーーーーン!!
「「「あべしーーーーーーーーー!!」」」
せっかく急行して来たというのに、兵らの大半は爆発四散。
ギュルギュルと、錐もみ状態で夜の空へとすっ飛んでいった。
代官はといえば、口をパカーと開けて茫然自失。
「──────は?」
え? なんぞ?……って顔してやがる。
「はぇ?」
……はぇ? じゃねぇ!!
『ミィナ、再装填───黄色の弾頭、榴弾だ』
「は、はい!」
そうだ!
俺の穴に、筒を突っ込めぇぇぇええ!!
「えーい!」
ガッショーーーーーーーン!! おぅふ!
「そ、装填完了」
『よし、よくやった!』
そして、アルガスは砲をさらに指向する!
未だ、続々と急行しつつある、悪徳代官の子飼いの私兵もどきの衛兵たちに!!
「な、なんか爆発したぞ?」
「はひーはひー……いいから早く行けぇ」
「ちくしょー。ナタリーちゃんとしっぽりしてたのに!」
代官の館で起こった事態など露知らず、取りあえずやってきましたとばかりの非番の兵士達。
あー、哀れ。
すまんな、ナタリーちゃん。
「ま、まさか……」
ダラダラと汗を流す悪徳代官。
「れ、連発できるの?」
『できますが、何か?』
そう言い切るアルガスに、代官が真っ青な顔で腰を抜かす。
「ぶ、ぶひぃぃぃい!! ひ、ひひひ、卑怯だぞ!! そ、そそそそ、そんな鉄の箱に入ってぇぇぇえ!!」
知るかボケッ。
子供を誘拐して、ズボン下ろしてた阿呆に言われる筋合いはない!!
「よ、よよよよ、よせ!! やめろぉぉぉおお!!」
ウィィィィイン……。ピタッ!
「「「到着しましたぁ、お代官さま!」」」
「ば、ばかもん! 刺激するなぁぁぁあ!」
『───発射ぁぁあッッ』
ズドンッッッ!!
ッドカーーーーーーーーーーーン!!
「「「ひでぶぅぅぅううううう!!」」」
「に、」
───逃げろぉぉぉぉおおおお!!
豚クソ悪徳代官が、ビョーーーーーンと飛び上がって真っ先に逃げ出す。
とは言っても、せっかくの援軍は真っ黒こげになって原型もない。
「ぶひぃぃぃぃいい!! やり過ぎだろぉぉぉおおお!!」
丘の下にはまだまだ兵の集団がいるが、その連中など目もくれずに、一目散───……って、速ーな!? あの走れる豚。
速い、速い、速い!!
───だけど……!
『……逃がすかよ! 落とし前をつけてやらぁぁあ!!』
「装填完了だよ!」
いい子だ。
『ミィナ! 装填手席について、どこかにしっかり掴まってろッ』
「はい!」
なんせ、今から真夜中の追いかけっこだ。
ドルルルルルン!!
アルガスはエンジンを全開にすると、探照灯の光を悪徳代官に指向し、捕捉した。
ビカビカと光る戦闘用のライトが、煌々と代官を照らし出す。
『《ヴィシュティキボン 》悪徳|代官、確認ッ──────戦車、前進ッ!』
ガリリリ……!!
履帯が、代官の屋敷前の地面を大きく抉る!
ギャギャギャ!!
ギャリリリリリリ!!
そして、弾かれたように全速前進ッッ!!
舗装路を時速40km/hで追撃を開始した。
「ぶひっ? ぶひひひっ?!」
もはや何を言っているのか分からない、悪徳代官どの。
ズボンはいつの間にかどこかに消えている。
だから、パンイチで走る走る!!
走るッ!!
はえーな、アイツ!!
『───うちの子を攫っておいて、タダで済むと思ってんのか、ごるぁぁあッ!!』
ギャラララララララララララララララ!!
ギャラギャラギャラギャラギャラギャラ!
激しい履帯音が響き渡り、あっという間に代官との差を縮めていく。
「ま、まて!!」
「止れ! その怪しい馬車ぁぁあ!」
その間にも衛兵どもが妨害するも、主砲同軸機関銃で薙ぎ払うッ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
「「「ぶべらぁぁぁあ!!」」」
あっという間に蹴散らされてもしつこく沸き続ける衛兵ども。
代官に、よほど人望があるのか、それともお仕置きが怖いのか───あるいは、全員バカなのか……。
「バカなのかな? 死ぬの?」
『そうだ。バカは死ねッ!』
ミィナが、砲についている照準を覗き込んでいる。
ツァイス製の照準鏡は、実に明るいことだろう。
「わぁ、いっぱいくるよー」
『ふん、戦車砲で一掃する。耳を塞げ』
「はーい♪」
ウィィィイイン────行進射、開始ッ!
発射ッ!!
ズドーーーーーーーーーーン!!
アルガスの精神直結の戦車砲の命中率たるや、凄まじく正確の一言!
「「「あんぎゃぁぁあああ!!」」」
そして、直撃を食らった小集団が木っ端みじんに吹っ飛んでいく。
それを見て、顔色が真っ青を通り越して真っ黒になった代官。
「ぶひゃ? ぶひゃはぁぁぁあああ!!」
やりすぎ? やめろ?───ってか?
は!
それは88mm戦車砲に聞いてみろぉぉおお!!
コイツをお前のケツぶちこんでから、要相談じゃ!
謝れ、ひれ伏せ、媚びてみろぉぉおお!
そうしたところで、
───だが許さん!
地獄の果てまで追ってくれるわッ!!
『再装填!』
「はーい!」
ガッション!!……はぁうあ!
ズドーーーーーン!!
『再装填!』
「はーい!」
ガッチョーーーーン!……効っくぅ!
ズドーーーーーーーン!!
『再装填!』
「うん♪」
ジャコーーーーーン!……ぁあぅ!
ズドーーーーーーーーーーーン!!
「「「「あーーーれーーーー……!」」」」
非番の衛兵、門についていた衛兵、とにかく悪徳代官の子飼いの兵が続々やってくるも、鎧袖一触!
全っ部ッ、ぶっ飛ばされていく。
そして、さすがにここまで大騒ぎをすれば住民も目覚める。
当たり前だ。
そのうちに、家々に火が灯りザワザワとし始めたベームスの街。
そこを、悪徳代官がパンツ一丁で、ブヒブヒと鳴きながら、ヒーヒー言いつつ逃げ回ているのだ。
さらに、普段から悪行三昧の嫌われものの衛兵どもが、
ドカーン! ドカーン!「あ~れ~?!」と、吹っ飛んでいる。
もうそれだけで、ピーン! と来た街の住民はこれ幸いとばかりに、家々から鎌やら斧やら箒やら……物騒な物を手に続々と集結。
そして、アルガスを追いかける─────わけではなく、衛兵たちを追い回し始めた。
「ちょ?!」
「何だお前ら───ぎゃ!」
「よ、よせ!! 我々は、お代官さまの、あぎゃ!!」
普段から溜まっていた衛兵たちへの不満がついに爆発!!
まるでクーデターでも起こったかのように、ついに街中で一斉蜂起が始まった!!
第23話「奥の手」
溜まりに溜まった鬱憤が大爆発!
ついに、街中で一斉蜂起が始まった。
「うぉぉおおおお!!」
「代官をぶっとばせぇ!」
「衛兵隊を追い出せぇええ!」
うおおおおおおお!
がおおおおおおお!
憤怒の表情の住民達。
それもそうだろう。
なんたって、この代官が来て以来、あり得ないほどの重税に、治安の悪化。
税金が使われるはずのインフラはボロボロで、衛兵隊どもは横暴三昧。
今まで、暴動が起こらなかったほうが不思議なくらいだ。
アルガスらは、流れの冒険者ゆえ街の事情にそこまで詳しくなかったものの。
実は、非常ーーーーーに、この街の公的権力は腐っていた。
だから、冒険者ギルドも腐るし、暗殺者ギルドや盗賊ギルドのような裏ギルドも蔓延るというもの。
なんせ、取り締まる衛兵隊が腐りきっているのだから……。
「いたぞ! 衛兵の一等兵だ!」
「殴れ、殴れぇ!!」
「いつも、食い逃げばっかりしやがって!」
おらおらおら!!
と、ボッコボコにぶん殴られ吊るしあげられる衛兵隊。
「ぎゃぁぁあ! や、やめてー!」
多勢に無勢。衛兵隊が追い回されている。
日頃から悪さばっかりしているツケがまわってきたらしい。
それもそのはず。
代官は、この街の出身にあらず。
王国の成金田舎貴族が小金をちらつかせて、官僚から代官のポストを買っただけなのだ。
しかも、貴族の家では次男坊だったらしい代官は手切れ同然に家から追い出され、小飼の兵だけ与えられて地方に放り出されたらしい。
ゆえに、代官も兵もこの街に対する愛着なんぞあるはずもなし。
奴らにあるのは、傍迷惑な向上心だけ。
狙いは、手柄をたてて王国に重鎮として取り立てられるか、そのポストを買う金を集めることに腐心していた。
それがために横暴で、スゲー嫌われていたのだ。
だから、今日は街の住民にとっては千載一遇のチャンス。
こんな日を虎視眈々と狙っていたわけで、その日がくれば躊躇などするわけがない。
「やれやれー!」
「代官を追い出せぇ!」
「ぶっ殺せぇぇえ!」
せめて、衛兵隊がこの街の出身なら多少は事情が変わったのだろうが……。
全員が全員、代官の貴族領からきた連中。
しかも、ゴロツキばっかし───。
そりゃ、地方に行く次男坊に良い人材を渡すわけもなし。
結果はご覧の通り。
まともな戦力を、アルガスによってぶっ飛ばされた衛兵たちには成す術もなかった。
さらに間の悪いことに、集結中のはずが代官が街中を迷走しているものだから、衛兵たちも分散してしまっていた。
代官を探して右往左往。
そこを怒り狂った住民たちに取り囲まれて、ボッコボコにされてしまったのだ。
「あだ! あだだだ!!」
「や、やめろぉぉぉおお!」
「ひぃ! ちょぉお、そんなの入らない!」
ぎゃあああああああああああああああ!!
代官の権威を嵩に着て、やりたい放題していた衛兵たちはここに壊滅。
そして、そのボスたる代官も、いまや小便まみれの汗だくの、汁だく状態で半死半生で逃げ惑うのみ。
そこを、強力な探照灯で煌々と照らしながら、アルガスがその巨体で迫る!!
『来ーーーーたーーーーぞーーーーー!!』
「ひぃぃぃいいいいいいい!!」
ドタドタドタ! と走れるデブこと、悪徳代官は必死で街を覆う城壁の傍まで駆けていくと、一際大きな街の門まで何とか到達した。
そこにいる衛兵にでも助けを求めるつもりなのだろうか?
だが、せっかく到達した門には、だーーーーーーれもいない。
それもそのはず。
全軍集結の合図に、みーーーーーーんな仕事をほっぽり出して代官の館に向かったのだから……。
「ぶひ。ぶひ。ぶひッ!!」
代官は、もはや人語を話してすらいない。
『はっはー! 年貢の納め時だな。覚悟はイイか、クソッたれが!』
「クソッたれがー♪」
ノリノリのミィナちゃん。
ニコニコ笑いながら、ヒョコっとキューポラから顔を出した彼女は、一転して真面目な顔で激怒プンプンしている。
「ぶひ、ぶひ!」
何言ってるのかわからん───。
「ぶひ、ぶひひひひひひひひひひひひ!!」
ひーーーーーひっひっひっひっひ!!
あ?
『何がおかしい? 頭でも狂って──……』
「バァカめ!! ここまでくればワシの勝ちよ!」
はぁ?
「お前みたいな低能は知らんし、知らされてもおらん! これは王国より任命された代官職にだけ知らされる機密事項───」
豚クソ悪徳代官がパンツの中から何やらゴソゴソと……。
ってどこに仕舞ってるんだよ。きったねーなー……!
「みよ! この輝きをッ!」
ホカホカ、しっとり。
妙な匂いと瘴気を纏っていそうな金属のプレートを、高々と掲げる悪徳代官。
だが、それは王家の紋章が刻まれており、何やら魔力を感じなくもない。
どうも、マジックアイテムの一種らしいが……。
それを代官は、誇らしげに街の城門の窪みにバンッ! と、はめ込むと、
突如、周囲がグラグラと揺れ始めた。
そして、城門がピシピシと音をたてたかと思うと───……。
「ぐおぉおおおおおおおおお!!」
城門が、いきなり咆哮した。
第24話「ティーガーⅠ vs ゴーレム(前編)」
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!
耳をつんざく、地より響く咆哮!
同時に大地が揺れ動く───。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
『なんっだ、ありゃぁ?』
宵闇に土埃が立ち、濛々した空間に突如として現れた巨大な化け物。
そいつが土埃が煙るの中、重戦車化したアルガスの探照灯を受け、闇の中に忽然と出現した。
いや、違う……。
違うともさ───そいつは、今までずっとそこにいたのだ。
常に街を見守り、いざとなれば身を挺して街を守る──────……。
ベームスの街、本物の守護者。
「んがーーーーっはっはっはっはっはっ! 見ろッ。これが王家信頼の証、王国の戦力の本懐───」
すぅぅ……。
「ゴーーーーーーーーーーレムである!!」
「うごぁぁっぁぁぁぁあああああああ!!」
咆哮するゴーレム。
奴は、今の今まで城門に擬態していたらしく、元々門があった場所にはポッカリと歪な穴が開いていた。
レンガや整形した石材を漆喰で塗り固めた、石の人造の化け物───……それが、ゴーレム!
『ほぉ、デッカク出たな……!』
「石のおじさんだぁ♪」
ミィナだけは、キャッキャとはしゃいでいる。
子供の───この子の美的感覚はよくわからん。
彼女の美的感覚的には、あれがカッコよく見えているのかもしれない。
「んがははははははははは! 不届き者め、余裕ぶっていられるのも今のうちよ、やれぃ───ゴーレム!!」
「ぎががががああああああああ!!」
ズン、ズンッ!
巨大な石の化け物───ゴーレムは、悪徳代官の言うことを聞くらしく、ズンズン! と、足音も重々しくアルガスに迫る。
「うごるるるるるるる!!」
その手前で身を屈めると、起動の衝撃でぶっ飛んだ街の門扉を手に立ち上がった。
『ほぅ! 武器を使うのか!』
ゴーレムが拾い上げたのは城門。
そこにあった、両側に観音開きで開く城門は、実はゴーレムの盾であり武器も兼ねていたらしい。
外部からの攻撃を防ぐために、スパイクをも取り付けられていた城門は───なるほど、かなり物騒な武器といえるだろう。
両手にその盾を構えると、ファイティングポーズをとるゴーレム。
完全に攻撃態勢だ。
そして、その姿をみて───タワーシールドを構えて肉壁に徹していたこともあるアルガスは、どこか懐かしむようにゴーレムを見た。
『────……今まで街を守っていたのか』
街の守護者。
人々を守る、意思なき孤高の人造モンスター。
ゴーレム。
「ぐはははははは! 今さら命乞いしたとて遅いわい! 行けぇ、ゴーレム!」
……こんな隠し玉があるから、軍団が迫ってきても逃げずにいて、念のため財産だけを避難させたわけか。
『───だったら、初めから使え!! こーゆーもんはよぉぉぉおお!!』
ギャラギャラギャラギャラ!!
アルガスは、迫りくるゴーレムから距離を取るため後退する。
そして、小手調べに同軸機関銃をぶっ放す!
『おらぁぁああ!!』
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!!
キンカンコンキーーーーーーーーン!!
『ほぉ! 7.92mm弾を防ぐか───やるじゃないか!』
耳障りな反跳音をたてて、弾き返される機銃弾。
あの門扉の盾───さしずめゲートシールドの装甲は伊達ではないらしい。
「ごがぁああああああああああああ!!」
アルガスの攻撃を跳ね返したゴーレムが高らかに咆哮する!!
「ぐはは!! ほざけッ、不届き者がぁぁあ! 今すぐ、その鉄の箱から引きずり出して、ゴーレムの染みに変えてく───」
はッ!
機銃弾ぐらいで偉そうに!
本命は、こっちもじゃぁぁああ!!
発射ぁぁぁぁああ!!
ズドンッッッッッッ!!
「ぶひッ?!」
ドッカーーーーーーーーーーーーーン!!
『ハッ! くたばれ、石っころ───……あん?』
モクモクと、黒煙立ち昇る中───直撃し、四散させたはずのゴーレムがのそりと起き上がりやがった。
悪徳代官はといえば、直撃を見て腰を抜かしやがったが、ゴーレムが無事なことを確認すると、ニヤァと顔を変化させる。
「ぐ、ぐははははははははは! 見たかぁぁあ、これが権力!! ワシの力じゃぁぁああ! いっけーーーーーゴーレムぅ!!」
いっけー! じゃねぇっつの!
『ち……。鉄板か───やるじゃねぇか、ゴーレムよぉ』
黒焦げが残る鉄板。
さすがに無傷とはいかなかったようだが、ちょっとした凹みがある程度で貫通には至らない。
「アルガスさん!! 前ぇぇえ!」
『ぬ?!』
ゴッキーーーーーン!!
『ぐおっ!?』「はぅ?!」
車体が揺られる衝撃に、アルガスは少し驚く。
見ればゴーレムが大股で踏み込み、門扉盾でアルガスをぶん殴ってきた!
ゴワワーーーン!! と衝撃が車体を貫き、中にいたミィナが大音響と振動で目を回しかけていた。
「はぅぅ……目がまわりゅぅ~」
『てめ! ごのッ!!』
反撃に移ろうとするも、ゴーレムは嵩にかかって攻めたてる。
「ごぁっ!! ごおあああああ!!」
ゴワン、ゴン、ガキィン!!
ガンガンガンッガンッガンッ!!
連打、連打、連打!!!
そして、両手の盾で挿むように、アイアンクローっぽい──────盾撃!!
ガッキーーーーーーーーーン!!
『ぐぅぅう……!』
「ぐわーーーっはっはっは! 手も足も出んと見る」
手も足も、ねぇっつってんだろ!
「役立たずの衛兵などどーでもええわい! やれ、トドメをさせ、ゴーーーーレム!」
「ごおあああああああああ!!」
ゴーレムが両手を高々と振り上げ、アルガスを叩き潰さんとする。
タッパはゴーレムの方が上なのだ!
だが………………、
「やれぃ!!」
「ごおああ!!」
ガッキーーーーーーーーーーーーーン!!
「ぐははははははは、……ん、なんだと?」
「ご、ごあ?」
ドルドルドルドルドルドルドル……。
重々しい重低音は変わらず、ティーガーⅠはゴーレムの渾身の一撃を受けてもビクともしなかった。
それどころか、ちょろっと装甲が禿げ、車外にあった探照灯とSマイン投射器のいくつかがひしゃげただけ───。
その装甲には凹みすらない……。
『てめぇ、舐めてんのかよぉぉ……。こっちはドイツ軍製の装甲板で、こいつの正面装甲は100mm!!』
そして、
『側面で80mm──────上と下も薄くっても25mmの分厚さじゃい!!!』
そうとも…………。
ティーガーⅠの、
『───重量は57t!! チンケな石の塊が、鉄板でぶん殴ったくらいで倒せると思ってんのかぁぁあああ!!』
やんのが、ごるぁ!!!
奥歯へし折ってガタガタ言わせんぞおるぅぅあさぁあああ!
そした、ティーガーⅠの反撃が始まる!!
第24話「ティーガーⅠ vs ゴーレム(後編)」
そうとも…………。
『───ティーガーⅠがなぁ、チンケな石の塊が鉄板でぶん殴ったくらいで、倒せると思ってんのかぁぁあああ!!』
おぅ、ごるぅぁあああ!?
「ひぃ!! ば、化け物めぇぇえ!! や、やれ! ゴーーーーーレムぅぅうう!! 奴をペチャンコにしろッ」
「ご、ごごご、ごおおあああああああ!!」
呆気に取られていたのも束の間、悪徳代官もゴーレムも気を取り直して追撃に移る。
もしかすると、アルガスの強がりだと思っているのかもしれない。
「───あぅぅ……たんこぶできたー……」
ウルウルと涙目で訴えるミィナ。
さすがに、車内の振動は結構なものだったのだろう。
『すまん。他にケガはないか?』
「だ、大丈夫です……」
スリスリとおでこをさするミィナ。
見れば、そこがプックリと赤くなっている。擦ってやりたいが、手も足もないので仕方がない……。
『痛い所を悪いが、再装填を頼む』
「了解ッ!」
涙目でも、アルガスに頼られるのは彼女にとって喜びでもあるらしい。
キッと顔を引き締めると、砲弾ラックに向かう。
『弾頭は黄色じゃないやつだ───……そう、それだ! 頭のてっぺんが黒い奴を装填してくれ』
「うん!」
うんしょ、うんしょ……!!
『急げ! 俺の穴にそれを突っ込めッ!』
「いれるよー!! えいっ!」
ガッショーーーーーン!!──おっふ!
「装填完了!!」
『よし! 伏せてろッ!!』
その間にもガンッガンッ! とゴーレムの連撃がアルガスを襲う。
だが、装甲に変形も生じなければ巨体が後退ることもない。
なんたって、こいつぁぁぁあ【重戦車】ティーガーⅠだ!!
がんがん!! ごかぁぁん!!
「ぐはははははは! どうじゃ、ワシのゴーレムは!! 平伏せ、下郎どもぉぉお!」
「ごおああああああ!!」
ゴッキィーーーーーン!!
スマッシュヒット───! といわんばかりに、両手を組んで手に持った門扉盾をこれでもかと叩きつけるゴーレム。
その騒音が街中に響き、衛兵を駆逐した住民がなんだなんだと集まり始めた。
そして、皆が見守る中ティーガーⅠに残っていた最後の探照灯が破壊され、周囲が薄闇に包まれる。
パリン……ぱきっ。
光源となるのは、門扉付近でたかれていた篝火と、起き始めた街の明かりのみ。
「お、おい! 見ろッ。も、門が動いている!」
「あ、見ろッ。あそこに、クソ代官がいやがるぞ!」
「捕まえろ! いや、ま、まま、待て───な、なんだあれは!!」
手に手に、得物をもって集結し始めた住民の姿を見て悪徳代官も少し後退る。
だが、巨大なゴーレムを見て住民が怯えている様子を見て、再び虚勢を取り戻したようだ。
「───なんじゃ貴様らぁ!! 武装して集合しおって……!! 騒乱罪で縛り首にしてくれるぞ!!」
その虚勢に住民も驚く。
そして、代官の命令を聞いているらしきゴーレムにも慄く───。
その目の前で、
ガッキーーーーーーーーン!! と威嚇するように、鉄の馬車を叩くゴーレムに住民が逃げ出そうとしたその時……!
ウィィィィイイン…………!
耳に心地よい駆動音がゴーレムの下から響いたかと思うと、街の明かりと、門前の篝火の照り返しを受けて鈍く光る鋼鉄の塊が鎌首をもたげた。
そして、
「ぐははははははははははは! どいつもこいつもワシの権威に恐れをなしておるわ! ぐわーっはっははは───」
弾種、『88mmPzGr39』装填ッ──────!
「ぐははははは! アルガスよ! 貴様の攻撃はワシのゴーレムには効かんッ!! 何度やっても無駄よ無駄!! 無ぅ駄ぁ!! ぐわーーっはっはっは!!」
ハッ、ほざけ。
すぅぅ、
『───発射ぁぁぁぁああ!!』
ズドォォンッ───!!
「無駄無駄、ぐわーっはっはっは───グハー!?」
ドッカーーーーーーーーーーーーン!!
─────……ァァン。
────……ァン。
───……ン。
──……。
と、大爆発のあと、ゴーレムが────。
「ご、ごあああぁぁぁ……」
ズンッッ、と膝をつき、
ガラァァァアン!……ガラァァァン! と、巨大な穴が開き貫通した門扉盾を取り落とし、
ズゥゥゥンン…………! と、地響きを立て、崩れ落ちた。
そのあとは、腹に開いた巨大な貫通孔からサラサラサラーーと、霞のように消え落ちていった……。
「…………んんん、なぁぁ……えええええ? あえ??」
茫然と立ちすくす、パンツ一丁の悪徳代官。
…………年貢の納め時だな。
第25話「二人の勝利」
カラン。
コロン……。
あっという間に風化していくゴーレム。
その目の前には、茫然と立ちすくす、パンツ一丁の悪徳代官。
一方で、アルガスは砲口から硝煙を棚引かせていた。
『チンケな鉄板で、88mm戦車砲の徹甲弾が防げるものかよ───』
「防げるもんかー♪」
キャッキャ! と、はしゃぐミィナ。
彼女からすれば、怪獣大戦争といったところだろうか。
一番の特等席から見て、それに貢献したとなれば誇らしいに違いない。
そして、おイタされそうになった悪人がパンツ一丁で茫然としていれば胸のすく思いだろう───。
「ちょ、え? 嘘……。お、起きろよゴーレム……」
ツンツンとボロボロの石の塊をつつく悪徳代官。
しかし、奴はまだ気付いていない───自分の置かれている境遇に……。
「お、おい。見たか───今の!」
「す、すげぇぇ……魔法でゴーレムを倒した!」
「鉄の馬車───……そして、小さな女の子?」
ヒソヒソと話し、遠巻きに眺める住民たち。
重戦車化したアルガスの正体を掴みかねているのだろう。
そこに、
「あ、ありゃ、ウチに泊まってる子だぞ?」
「お、ホントだ。ギルドで見たな───確か、勇者パーティ『光の戦士たち』の奴隷だっけ」
「じゃあ、あれってもしかして─────」
ん?
なんだ?
「「「『光の戦士たち』が悪徳代官を倒した───?!」」」
ざわざわ……。
ざわざわざわざわ……!!
「勇者が倒した!」
「圧政に立ち向かった!!」
「悪の代官を討ったぞ!!」
うおおお……。
うおおおおおおおおおお!!
「「「うぉぉぉおおおおおお!!」」」
ザワつく住民たち。
そして、ミィナの姿に気を許したのか少しづつ、少しづつ包囲を狭めていく住民。
狙いは当然──────……。
「な、なんじゃ貴様ら!! わ、ワシに近づくな!! 貴様らぁあーーーーー!!」
ゴーレムの破片を手にブンブンと振り回し住民を威嚇する代官。
しかし、事ここに至って住民が止まるはずもない。
すでに衛兵隊は討たれているのだ。
ここまでくれば、もはや代官を倒すしかないという状態なのだから当然である。
「お、おい!! 今まで街を治めてきたのはワシじゃぞ! その恩を知らんのか!!」
ガクガクと震える代官は後退り、重戦車化したアルガスの装甲にペタリと体を寄せる。
「息子が処刑された───重税と賄賂を払えないという理由で、だ」
「娘を手籠めにされた───初夜権というカビの生えた法律を無理矢理持ち出して……」
「店を奪われた───衛兵どもの溜り場にするために!」
「子供たちを返せ!! 何人連れていった─────もう、どこにもいないんだぞ!」
殺せ、
殺せ──────!!
殺せ、殺せ、殺せ!!
殺せぇぇぇぇえええええええええ!!
ワッワッワッ! と、沸き立つ民衆。
「ひぃぃぃいいいい!! ち、違う! わ、ワシは悪くない……ワシは悪くない!! ッッ─────ぁアルガぁぁぁぁああス!!」
あん?
「助けろ!! ワシを助けろッ!! 全部やる! 全部だ!! 財産も女も屋敷も全部やるッ!! だから、助けろぉぉおお!!」
………………いらね。
『……自業自得だ。俺は、基本他所の街の事情に首は突っ込まん。───今回は、お前が殴って来たからやり返しただけだ』
ギルドと結託し、俺を襲ってミィナを攫った───その借りを返しただけ。
手配書なんざ怖くはないが、迷惑千万!
あとは、お前の招いた種だろうが。
「そ、そんな!! おまえぇぇぇえええ! ぎゃああああああああ!!」
代官は住民に捕らえられ何処かへ引き摺られていく。
アルガスは、そんな代官の末路になんぞクソほども興味がわかなかった。
ただ、殴られたから、ぶん殴り返しただけ───。
……一発は一発だ。
赤の他人に黙って殴られてやるほど、俺も冒険者も、優しくないッつーの。
「いやー! それにしても、お嬢ちゃんの乗ってる馬車の中の人は強いな! 一体誰なんだい?」
初老の男性がティーガーⅠの車体に触れて感心している。
それをミィナはニコニコと見下ろし、
「アルガスさんだよ!! 重戦車のアルガスさん! とーーーーーっても強いんだよ!」
アルガス……。
アルガス?!
───アルガス!!!
「そうか───【重戦車】のアルガスか! 聞いたことあるような、ないような……」
「うん! てぃーがーⅠ──って言うの!」
アルガスは、ジェイス達と違って無名の冒険者だ。
とくに「光の戦士たち」の中核メンバーは自分たちの活躍こそ喧伝するものの、アルガスの名前がそこにあることはない。
せいぜい、ギルド職員が知っている程度だろう。
だから、住民が首を傾げても仕方がない。
だが、今夜を境にギルドだけでなく街中がアルガスを知るだろう。
『光の戦士たち』のアルガス──────……改め、重戦車アルガスの名を!
もっとも、アルガスにとって『光の戦士たち』の名前なんぞ、真っ平ごめんだが……。
一応、今もパーティのメンバーであることに違いはない。
リズの手がかりを掴むためにも、まだパーティを抜ける気はなかった。
「なるほど! アルガスさんか! いやー凄い人もいたものだ。まさか、あの代官を降すとは──────はい、お嬢ちゃん」
初老の男性は、ひとしきりアルガスを誉めると、足元に落ちていたカードのようなものをミィナに渡した。
「?……ありがとう??」
ミィナは不思議そうに受けとるそれ。
「ゴーレムのドロップ品だと思うよ。アルガスさんに渡してね」
「はーい♪」
初老の男性は満足そうに去っていく。
『なんだ、そりゃ?』
「ドロップ品だってー」
ふーん?
アルガスが興味なさそうにしていると、いつの間にか、アルガスの周囲に民衆が集まりだし、彼を取り囲んだ。
「アルガス!」
「アルガス!!」
アルガス、アルガス、アルガス!!
「「「アルガス! アルガス!!」」」
よっっっぽど、代官が嫌われていたのか、目の前で奴を降したアルガスの評判は鰻登りだ。
夜明け前だというのに街中がお祭り騒ぎ、やがて夜が白み始め、消えた門の先から太陽が顔を出し、朝焼けにティーガーⅠの車体が映える。
そこに、ミィナの語ったティーガーⅠの呼称が徐々に住民に伝わり始め、皆が口々に熱狂して語る。
そして、歌い、叫ぶ!!
「ティーガー!」
「ティーガー!!」
ティーガー、ティーガー、ティーガー!!
「「「ティーガー! ティーガー!!」」」
朝焼けに赤く輝くティーガーⅠ───そして、アルガスは人生で初めて浴びる喝采に戸惑うばかり。
肉壁としてパーティを守っても称賛されず、自分を認めてくれたのは親友の娘リズだけだったはず……。
だが、違う。
今は違う──────。
ミィナがいるし、リズもどこかにいる。
そして、鋼鉄の覇者ティーガーⅠとともにある。
そうか………………。
これが、勝利なのか……!
光の戦士たち3
その頃のジェイス一行。
カッ─────────!!
照りつける太陽。
足元から漂う悪臭。
そして、飢えと渇きと疲労でジェイス達は倒れる寸前だった。
「くそ…………吐きそうだ」
「ちょっと、ジェイス! 向こうで吐いてよッ!」
「おえぇぇぇえええ!」
ジェイスの代わりに、ザラディンが吐き戻した。
しかし、吐き戻されたのは水でも食料でもなく、ただの胃液。
あまりの渇きのため胃酸が逆流しているのだろう。
そして、
「お前が吐くんかぃ───おぇぇぇええええ……!」
結局ジェイスも貰いゲロをする。
「うわ、くっさ!」
あまりの悪臭にメイベルがドン引きする。
しかし、湿った足元のせいでうまく逃げられない。
周囲には水分が大量にあるというのに、飲めないのだ。
湿地帯に迷い込んだジェイス一行は照りつける太陽と、蒸発した湿地の悪臭に苛まれ進むことも戻ることも出来ずにいた。
「あーもぅ、いやッ!! ねー、帰ろうよぉぉお!」
メイベルが半べそになりながら、キーキーと喚く。
喋る元気すら失せた男性陣に比べると、まだまだ元気そうだ。
「ぉぇぇ……。か、帰るってどこに帰んだよ!」
「そうです……。むしろ帰り道が分かるなら、教えて欲しいものです」
おぇぇぇええ……。
「何言ってんのよ! ベームスの街に決まってるでしょ? 足跡をたどれば帰れるってばー!」
湿地帯に残る足跡を指さし、キーキーと騒ぐ。
「ばーか。そうやって何日も彷徨ってるだろうが!」
「そうですよ! それにベームスなんてとっくに……!」
男性陣の意見など聞く耳を持たないとばかりに、メイベルが「帰りたい、帰りたい!」と騒ぐ。
そこに、
「──────ベームスがどうしたの?」
「「「リズ?!」」」
疲れた表情のリズが、荷物を抱えて戻ってきていた。
「お、遅かったじゃないか!」
「どこまで行ってたのよ、このグズ! 田舎者ぉ!」
「は、はやく。何か食べ物を……!」
突然元気になり、やいのやいのと騒ぎだすパーティメンバーにウンザリとした様子も隠さず、
「───うるさいわね……。偵察と食料確保が短時間で終わるわけないでしょ!」
そう言って、ポイっと丸いものを3人に投げ渡す。
「な、なんです? これは……」
物知りザラディンが、しげしげと眺めている。
やや楕円を描き、白くてツルンとしている……。
「ここらのリザードマンの卵よ……孵化しかけだから、早く食べて」
そういったとたんに、ビクビクと卵が震えだした。
「ひぃ!!」
その衝撃に驚いたザラディンがボトンとそれを取り落とし、卵を割ってしまう。
「バ───!!」
「な、ななななな、なんてことをするんですか!」
「バカッ!! 何をしているの、貴重な食糧よ! なんてことする───は、こっちのセリフよ!」
リズは構わずザラディンに掴みかかり、問い詰める。
「人がどれだけ苦労してこれを集めたと思っているのよ!」
「リザードマンなんて、食えるわけがないでしょう!」
「そ、そうだ!」
「そ、そうよ!」
ザラディンの援護をするジェイスとメイベル。
二人は、卵を気持ち悪がってリズに突き返そうとする。
「あッそう、好きにして───」
リズはまともに取り合わず、卵を取り返すとそのうちに一つを割り、ちゅーちゅーと中身を吸い始めた。
よくよく見れば何やら緑色の物体が中で蠢いているが……。
「───ふぅ。……流石にこれは食えないけど、」
プッ。と、蠢くリザードマンの幼生を吐き捨てる。
「汁だけ吸えば、水分は取れるわよ」
そう言って、どうする───と目で訴えた。
「うげ……マジかよ」
「おえ。絶対無理」
ジェイスもメイベルも全身全霊をもって拒否する。
「あ、そう。それ以外に水分を取る方法なんてないわよ───今のところはね」
それだけ言うと、リズは3人には構わずスタスタと歩き去ってしまう。
「ちょ! どこいくんだよ!」
「ねぇ、水なら足元に一杯あんじゃん! これ飲もーよー!」
「そ、そうですぞ! もう、魔力もないのです! 水の生成をするより───」
くるり。
「一回だけ言うね」
笑顔のリズ。
だけど、目が笑っていない───……。
「───好きにすれば?」
ついてくるのも、水を飲むのも……全部好きにしろといっているのだ。
リズには彼らを助ける義理など、もはや何一つないのだ。
「ぐ……! ま、待てよ!」
「ちょ、先にいかないでよ! 待ってぇ」
「おいていくつもりですか? 恩人に対してなんて冷たい……!」
軍団から逃げおおせたことを恩に着せるジェイス達。
だが、その言葉を発せばリズからは氷よりも冷たい目を向けられる。
「……恨みはあっても、恩はないわ───」
それだけ言うと、もはや語らず黙々と歩き続けるリズ。
その足取りはしっかりしており、ちゃんと目的地があるように見える。
それを見て顔を見合わせるジェイス達。
どうしようか、と悩んでいるのだ。
ここに留まっても死を待つばかり。
一か八かで歩き出しても、どこに向かえばいいのか分からない。
人気の全くない荒野で、3人は途方に暮れてしまった。
「……ジェイス殿、ここはリズに従うのが得策かと」
「そ、そうよ。あの田舎者なら、こういった環境に詳しいはずだし」
「お、おう……そうだな。どのみち、湿地の上じゃ座ることもできやしねぇ」
ここに迷い込んでからずっと立ちっぱなしの3人。
いい加減くたびれて来たし、何か食べたい……。
目の前に落ちている割れた卵と、ウゾウゾと蠢くリザードマンの幼生をみて思わずゴクリと喉が鳴る。
さっきは拒否したが、それでも食えるならと……。
リズは食料を調達に行ったと言っていた。
そして偵察もしたと……。
なるほど、見れば───彼女の背嚢は膨らんでいる。
他にも食料を見つけたのかもしれない。
そして、あの足取り。
きっと手がかりをつかんだのだろう。
文明までの道のりを───。
「お、おい!! リズ待てよ!」
「私達も行くぅ」
「わ、私の知識が必要になるはずですぞー」
そうして、今更ながらドタバタとリズの後を追う3人。
だがそれを顧みないリズ。
黙々と歩く彼女の足取りは確かであったが、彼女の背中は酷く頼り無げに見えた……。
まるで迷子の子供のように───。
※ ※
湿地帯を抜けた先、乏しい植性と岩だらけの土地に差し掛かったジェイス一行。
リズを先頭に黙々と歩いているが、彼女を除く全員が疲労困憊し、息も絶え絶えとなっていた。
いや、リズとて平気ではない。
頬がやつれ、顔色も良くない。
肉体的にも、精神的にも、彼女も疲れ切っているのだ。
水もなければ、食料も乏しい。
休む場所もない……。
照りつける太陽に、顔中にたかる虫がまた余計に疲労を増やす。
だけど、今ここで倒れるわけにはいかない……。
アルガスを───……例え亡骸だけであったとしても、彼を見つけなければと───、それだけを心にリズは荒野の脱出を図っていた。
図らずとも、それがゆえにジェイス達がついてきているのだが、好きにすればいい。
本当なら助けてやる義理もないし、むしろ憎んですらいる……。
だけど、アルガスがいれば絶対に見捨てないだろうし、きっと嫌な目にあっても許してしまう。
それくらいに懐の大きな人で、優しい人───……。
彼が怒るとしたら、身内に手を出したものだけ。
昔、リズの両親がまだ健在だったころ。リズが見ず知らずの大人に誘拐されたことがあった。
あの時のアルガスのブチ切れ具合といったら……。
誘拐そのもの───その時のことは思い出したくもないが、でも一つだけいい思い出もあった。
大きな組織の絡む誘拐事件で、当時は誰もが絶望視していたらしいが、アルガスはリズの両親とともに奮起し、なんと組織の中まで突入し彼女を救い出してくれた。
狂戦士のごとく暴れ、千切っては投げ、千切っては投げ!
獅子奮迅の大暴れ───。
とても強かった……。
とてもカッコよかった……。
とても頼もしかった───。
あの時以来───リズはアルガスを見ている。
一人の男性として、父として、兄として───……アルガス・ハイデマンという、愛しい人として。
……結局は、当時のケガなどが元で両親は他界してしまったが、それでもアルガスがいてくれた。
さほど年は変わらないというのに、無理をして両親の代わりをしようと、リズを引き取ってくれた……。
嬉しかったし、同時に救われた思いでいた。
アルガスとともに過ごせることに、喜びすら感じていた……。
いたんだよ──────……アルガス。
リズの視界が滲む。
どうしても、アルガスが死んだという事実が認められなくて……。
寄り添ってくれたあの人が、たった一人で荒野の果てで死んだなんて認めたくなくて……。
でも、アルガスなら、こんな時メソメソすることを許さない。
冒険者として大成していた彼なら、まず目的を達成するために全力を尽くす。
だから…………リズもアルガスを見倣い。全力を尽くす!!
「うぉぉおい……リズぅ!」
「ど、どこに向かってるのよぉ」
「も、もう限界です……」
うるさい連中だ。
こうなったのは、自業自得だろうに。
鬱陶しそうに振り返ると、無言で前方を指さした。
リズにはとっくに見えている。
だが、疲労困憊の彼らは気付きもしていない。
「な、なんだ?」
「え。えええ! ジェイス、見て見て」
「む、村ですか?!」
突然色めき立つ面々。
人工物の発見に驚いているようだが、別に珍しくもない。
それにここは──────。
「は、早くいくぞ!」
「そうだね! いこいこ! きゃっほー!」
「まーた、湿気た村じゃないんですか~?」
ゲラゲラと笑いながら村に向かって元気いっぱい走り出す3人。
もうリズは用無しと言わんばかり。
(馬鹿ね……。見ればわかるでしょうに──そこは、)
全力疾走していく3人だが途中で気付いたらしく、足が止まる。
まるで絶望するようにガックシと……。
「そ、そんなぁ」
「え~! 廃村じゃん」
「あぁ、先日のようには、うまくは行きませんな……はは」
また?
先日───?
………………一体なんのことだろうか?
「り、リズ! こ、こんなもののために荒野を彷徨っていたのか?!」
「そうよ! 責任取りなさいよ! 無駄足じゃない!」
「そうです! 責任を取って、その背嚢に隠している食料を我々に───」
ふん。
馬鹿馬鹿しい。
これが勇者パーティ?
冗談じゃない……。
3人を完全に無視したリズは、スタスタと廃村に向かて進む。
この3バカは無駄足だと思っているようだが、大間違いだ。
「ちょっとまてよ!」「止りなさい!」「リズ!」
無視、無視。
鬱陶しいことこの上ない。
「「「リズぅ!!」」」
「うるさい」
冷たくあしらうとリズは、武器を抜いて廃村に向かう。
無人だとは思うが、一応警戒だ。
荒野と違い、遮蔽物が多すぎるし───なにより敵対者が潜んでいる可能性もある。
探知系スキルには何も引っ掛かっていないが、隠蔽スキル持ちがいた場合、それは意味をなさない。
こんな荒野の果てにそんな手練れがいるとは思えないが、警戒するに越したことはない。
慎重に慎重を重ねて進むが、どうやら杞憂で済んだようだ。
荒れ果てた家が数件並ぶだけで猫の子一匹いやしない。
いたらいたで、3バカが食らいつくだろうけど……。
「クリア──────ここは大丈夫よ」
一応教えておいてやる。
どうせ、何のあてのない連中。
何をおいても、リズに追従しようとするだろう。
「くそ! お前が偵察で見つけたのはこの程度の物か!」
「あったま来るわね~! 廃村でどうしようっての!」
「こんなところ、何も残っていませんよ!」
あーうるさい。
「別に、人がいることを期待していたわけじゃないわ」
そうとも、最初から廃村だとあたりを付けて来ている。
そもそも、周辺には人の手が入った痕跡が全くない。
それくらいわかる。
ここも廃村になってから随分と経つのだろう。
「なら、なんで!」
はぁ。
「───こんなところでも、人が暮らしていたことがある……つまり、」
「あ!!」
ここまで言ってようやくザラディンが気付いたようだ。
これで賢者……。本当か?
「水ですか!」
ようやく合点がいったという様子。
「えぇ、きっと水源がどこかにあるわ」
でなければ人は暮らせない。
持ち込んだ水だけで村を起こすなど正気の沙汰ではない。
どこかに飲める水源があって、それがためにここに暮らそうとした。……多分ね。
どっちにしても、まともな人間ではないでしょうけど……。
「そ、そうか! お、おい! メイベル、ザラディン───探すぞ」
「う、うん!」
「お、お任せください」
ふぅ。
水源はあの3バカに任せておこう。
こっちはコッチでやることがある。
リズは武器を納めると、淀みのない足取りで偵察に出かけた。
村があるということは──────必ず文明との接触……つまり道の痕跡があるはずだと。
そして、 夜───。
広大な荒野にも夜は来る。
リズの見つけた廃村にも、例外なく夜は訪れ、今はその闇を払おうと火が焚かれていた。
焚火に周辺の人影は3人。
ジェイス。
メイベル。
ザラディンの3バカ───勇者たちだ。
「いやー……一時はどうなる事かと思いました」
「まったくだ。リズを生かしといて正解だったな」
「ほーんと、下心丸出しのくせに、ファインプレーなんだから」
ゲラゲラと笑う彼らは、腹こそ減っていたが取りあえず水をたらふく飲み、一時的にも空腹を誤魔化していた。
何よりも誰よりも、渇きが本当に深刻だったのだ。
辛うじて持っていた鍋を使って水を沸かし、井戸からくみ上げたそれを回し飲みをしている。
少々苔臭いが、解毒魔法を使えるメイベルが毒見をした。
もっとも、毒見を買って出たわけでなく、我慢しきれなかったメイベルが勝手に飲んでしまっただけなのだが……。
巧妙な男性陣はといえば、実はそれをジッと見ていたりする。
メイベルが腹を押さえて暴れ出さないかと───……。
だが幸いにも毒の類は無さそうで、メイベルは元気にがぶ飲みしていた。
そうして、ようやく水を飲んだ一行は一息をついていた。
「いやー……やっぱ、あの村に残るべきだったな」
「えー……いやよ。こんな土地に住む土着民と暮らすなんて」
「都市にも住めぬ掃きだし者の、はみ出し者、そしてあぶれ者の類ですよ。───荒野に住もうなんて連中は」
違いない、とゲラゲラ笑うジェイス達。
戦利品として持ち出した、純度の高いアルコールを回し飲みし始める。
そして、気分良く自慢話をしている所に、
「何の話?」
リズが帰ってきた。
「───お、リズじゃねぇか!」
「あらら、遅かったわね~。水飲むぅ?」
「なんでもありませんよ。ちょっとした小噺です」
ふ~ん?
「それは?」
リズが興味をもったのはアルコールだ。
そんなものは、旅荷物になかったはず……───。
「え? あー……ざ、ザラディンのとっておきだよ」
「そ、そーそーそー! こういう時に飲もうと思ってたのよぉ!」
「え、えーえー! そうですとも。さ、リズ───あなたもいかがですか?」
急に眼をキョドキョドを泳がせ始め、挙動の怪しくなる3人。
わざとらしく酒を勧めてくるが、
「いらないわ。それより───火を借りるわね」
焚火の間に入ると、火にあたり体を温める。
荒野の夜は冷える。
「あー。リズ……そのぉ」
「わかってるわよ」
ふぅ……。
ジェイス達が、やたらと期待する様な目を向けてくる。
コイツらに尽くしてやる義理は毛ほどもないけど、アルガスを思うなら見捨てるわけにもいかない。
「ごめんねぇ、大感謝~!」
「いやはや、さすがの私も荒野の食料までの知識は……」
ゴチャゴチャうるさい3バカは放っておいて、リズは背嚢を開ける。
そこに確保した食料をいくつか見繕い、木の板に並べると簡単に調理していく。
「えっと、」
「げ、」
「そ、それは……」
リズの取り出したもの。
「虫よ。結構、おいしいらしいわ」
そう言って、ウゾウゾと動く大量の虫を3バカに見せてやった。
「「「ぎゃあああああああ!!」」」
※ ※
ぎゃあああああああああ!!
3人で抱き合い、リズから距離を取ってドン引きアピール。
「何をギャーギャー言ってんだか、いらなきゃ、食べなくていいわよ」
虫を初め、荒野で見つけた動植物。
そして、廃村あとで見つけたものを順繰りに並べていく。
巨大芋虫。(何の幼虫かは知らない)
大量の毛虫。(何の毛虫かは知らない)
でっかいトカゲ。(種類不明)
リザードマンの卵。(多分、上位種)
顔の長いネズミ。(何かいい臭いがする)
棘だらけの植物。(汁がネトネト)
西瓜みたいな実。(甘い香りがする)
廃村の畑あとで見つけた、筋だらけの芋。
ハーブ各種。
岩塩と、山椒の葉っぱ。
ま、こんなとこである。
「言っとくけど、確保できた食料はこれだけよ。今後獲れる保証もないから、えり好みしたら渡さないから」
さっそく、芋や西瓜に手を伸ばそうとしている3バカに睨みを入れる。
今は日持ちするものに手を出すわけにはいかない。
特に、植物類は数日はもつはずだ。
ならば、やはり足の速いものから───。
「マジでそれ食うのかよ」
「無理。絶対無理」
「せ、せめて火を通しましょうよ!」
滅茶苦茶怯んでいる3バカを無視して、リズは調理を始める。
廃村にフライパンがあってよかった……。
食材に祈りを捧げ───。
いざ調理開始。
では、 まず食材の下ごしらえだ。
簡単に調理するなら卵から。
無精卵ならよかったのだが、恐らく全部有精卵。
なかにはリザードマンが孵る寸前の物もあるだろう。
だからこれは蒸し焼きにする。
焚火の下に空洞を作り、大きな葉っぱで包んでおいて、灰を被せて火の下に。そのまましばらく放置。
次に芋虫だが、デッカイこいつは一匹でかなりの重量。
生でも食えるというが、寄生虫などの危険を考えると火を通した方が無難だ。
だから、まずは背を割って内臓を取り出す。
ナイフを入れた瞬間ブシュ! と緑色の液体が飛び出しメイベルが悲鳴をあげて逃げていった。
男二人は腰は抜けている。
さて、内臓を火に投げ込んだら、芋虫の頭を落とし、ざっくりと切り分け串に刺す。
わりと硬い表皮に比べて、中身はゲル状の何かだったが一応形を保っている。
火に投げた内臓が香ばしい匂いを立てているのでたんぱく質だけは豊富。味は知らない。
ブヨブヨとする身に岩塩を粗く削っても見込みヌメリを落とす。
妙にドロドロとしていたのは表皮の裏側だけで、中はしっかりとした身が詰まっていた。
色は緑だけど……。
そこに山椒の葉を散らして香り付けすると、火から少し離してかける。
ジュウジュウと香ばしい音を立てているけど、再三言うが味は知らない……。
次にトカゲ。
コイツは皮も固いし、身もまるで革靴のようにかたい。
ナイフが中々通らないので酷く苦労した。
知れでもなんとか皮を剥ぐと、大きく腹を裂いて内臓を掻きだす。
「お、おい……どうみても噛み千切れないだろ、それ……」
勇者の割に軟弱な顎を持つジェイスは不満げだ。
「身は保存食よ」
「じゃ、じゃあ、」
ブチ。リズが何かを切り取る。
「ここは食べれるわ。多分ね」
過食できる部位としてこれほど適切なものはないだろう。
身の割にデッカイ肝臓。そして、まだ動いて見せる心臓だ。
それを半分に割り串に通して直火に当てる。
爬虫類の内臓は、やはり寄生虫の危険がある。硬そうな身は焚火の真ん中に入れて軽く灰を被せた。カリカリになるまで焼き締めれば保存食になるし、身を焦げて脆くなるだろう。
さて、残るところはネズミと毛虫。
ネズミはトカゲよりも楽に皮を剥ぐことができた。
あとは内臓を出して火に当てるだけ。
トカゲと違い内臓は食べれるほど取れないので全部火に投げた。
あとはトカゲの内臓と同じく直火に当て骨ごとじっくりと火に当てる。
毛虫は下処理として、フライパンの上にドサッと放り入れた。
ウゾウゾと熱にのた打ち回る毛虫。
メイベルがさっきから戻ってこない。
男性陣はさっきから腰が抜けて復帰不能……情けない奴ら───。
さて、どうかな? と覗き込めば思った通り毛が全部落ちている。
なので一度毛虫を板に戻すと、フライパン上の毛を掃除する。
そこに、ネズミの皮についていた油を塗り込み、もう一度毛虫を投入する。
今度はイイ感じに火が通り始めた。
何度か、じゃっじゃっ! とフライパンを躍らせ毛虫に満遍なく火を通す。
そこに、フライパンを揺すりながら岩塩を振り入れ、山椒の葉を細かく潰しながら入れていく。
毛虫が全部、身をキュっと丸めれば完成だ。
フライパンの素熱を取るため揺すりながら火から離すと皿代わりにデン! と地面に置く。
最後に積んだばかりにハーブをいくつか並べると──────「毛虫炒めのハーブ添え」完成。
さて、後は順繰りに───……。
まずは、灰の中から棒で卵を取り出せば───あ、できてる。
卵の殻が割れて中身が透けて見えている───ビジュアルはちょっと凄い……けど、匂いは中々オイリーな感じ。
「リザードマンのバロット」完成。
次は、お手軽簡単荒野料理、火から離せば───はい、完成。お好みで塩を振りかけて食うべ「ネズミとトカゲのモツ直火焼き」召し上がれ。
最後はこれ───……「巨大芋虫の串焼き山椒和え」。
火から離してクルクル回していたけど、いい感じに熱が通って身がギュッと引きしまっている。
色は緑だけど……。塩味はついているけど、足りないならお好みで。
「できたわよ」
はい。とネズミの串焼きをジェイスに押し付ける。
「お、おう……」
無茶苦茶ドン引きしている。
知った事じゃない。ここはお綺麗なホテルじゃないのよ。
「好きに取って食べて、量はあるはずよ」
リズはあとは知らんとばかりに、毛虫炒めに手を伸ばす。
イイ感じに焼き上がっており、香ばしい香りがする。
一つ手に取ってみて、頭を落として背を開き、腸取り除くとさて実食───……あ、うまいわね、これ。
意外とクセもなく、ちょっと口当たりがボソボソすることに目をつぶれば全然食える。
塩味がいい感じにあうのだ。
塩由来のしょっぱさの中にたんぱく質の甘味が加わり、ネズミのラードがよく馴染んでいる。
なんだろう…………。あ、半生の魚卵に近いかも。うん、イケルイケル。
リズはアルガスに冒険者としての知識を叩き込まれていたのでサバイバル技術も中々のものだ。
さすがに荒野を越えた経験こそないものの、もっと過酷な環境を彼と過ごしたこともある。
他国の砂漠地帯……。高山と雪の世界───……。どれもこれも苛酷な場所だったけど、アルガスと一緒ならどこでも平気だった。
あの人といれば、なにも怖くなかった……。
グスリと思わずしゃくりあげてしまう。
その雰囲気を気まずく思ったのかジェイスがバツが悪そうに焚火に向かい、ポリポリとネズミを齧っている。
ドン引きしていた癖に、空腹には抗えなかったのだろう。食ったら食ったで、「あ、うめぇ」とか言って喜んでいるし。
だが、頑なに虫には手を付けない。
リザードマンも同様。
「肉だけじゃ足りないわよ」
そう言って、不機嫌を隠しもせずにリズは芋虫の串焼きをザラディンに突きつける。
緑のビジュアルがすごい……。
「い、いいいいいいいいえ、えええええ、遠慮しておきます───あまりお腹が空いていないもので、」
グーーーーーギュルルルルル……。
お約束のタイミングで腹が鳴るザラディン。
毛虫の意外とおいしそうな匂いに空腹が刺激されたらしい。
その瞬間無言でがっしりと、串を掴む賢者殿。
じっと、芋虫の切り身を見ていたが恐る恐る口にして、チミッと噛み切ると、恐る恐る咀嚼する。
ムッチッムッチッ…………ごく。
「お、おい。どうだ?」
「げ、た、食べてる……味は?」
いつの間にか戻って来ていたメイベルも、顔を引き攣らせながらも興味津々だ。
ザラディンは全て飲みこみ、目をパチクリ。
「────────────……海老?」
ズルッ、とずっこけるジェイス&メイベル。
「う、うそつけ!」
「あ、ありえない!!」
だが、二人の意見など聞こえないかのように、ザラディンが今度はモリッと被り付く。
中々汁だくでボタボタボタ……と中身の水分が零れる。うん、緑……。
「あ、これ旨いわ。海老だわ、エビ」
お前マジかよ……みたいな目で見られるザラディンだったが、割とお気に召したらしく食べきる。
そして、ジェイス達が食べないようなので残りの身を食べようと───……がしり。
「待てよ」
「待ちなさいよ」
ジェイスとメイベルが殺気立った顔でザラディンを止める。
そして、芋虫の串焼きを引っ手繰るとガブリと一口──────「「……エビ?!」」
エビらしい……。
「「「……………………」」」
そして、三人とも顔を見合わせると恐る恐る他の料理にも手を伸ばし始めた。
「リザードマンのバロット」にトカゲのモツも恐る恐る口に運んでいる。
「あ、ダメだ。俺これダメ」
「あ、私好きかも───頂戴」
バロットの見た目のアレ差の割に意外と柔らかく食べやすいことに気を良くしたメイベルがゴリゴリとリザードマンの幼生を骨ごと齧る。
とはいえ、骨は柔らかく軟骨のような触感らしい。
ジェイスは代わりにトカゲのレバーをモリモリと食べている。
レバーは好みが分かれる味だろうがジェイスは割と平気なようだ。
「あ、これ普通のレバーとそう変わらないな。味が濃い分、コレうまいわ」
「では私はこれを───……ほう、」
モリモリとトカゲの心臓を頬張るザラディン。
「なんでしょうかね。……牛肉に近い味がします。旨いものですね」
最初のドン引きがどこへやら、結構モリモリと食べだすジェイス達。
口の周りと緑色に染めながらモッシャモッシャと頬張る頬張る。
しまいにはリズがもそもそと食べていた毛虫炒めにも手を伸ばし、まるで酒のつまみのようにしてアルコールを飲み交わしながら器用に食べ始めた。
実に現金な奴らである。
「いやー……虫も意外とうまいな!」
「ほんと、びっくりしたわ~。リズぅ、明日もお願いねー」
「これはこれは、知識が増えました。都に戻れば話のネタになりますね」
ぎゃはははははははは! と、笑いつつ、細工残った小刀で毛虫を処理しつつ食べる3人。
「………………───ねぇ、その小刀どうしたの? そんなの前使って無かったよね?」
ぎゃは──────……。
不意に静まり返る3人。
それを訝しがったリズは彼らの背嚢に手を伸ばすと、
「あ、何をするんですか!?」
手近にあったザラディンの物を取り、中を確認する、すると……。
「ちょ、ちょっとこれ……何よ!」
ガラガラガラと出てきたものは民族工芸品の様なものと──────耳。
「ち……」
それを取り出した瞬間、3人の纏う空気が変わる。
スゥと冷えた空気に、リズがビクリと竦むと、ジェイスがゆっくりと立ち上がる。
「なんだよリズ。耳がどうかしたのか? ん?」
ゆっくりとゆっくりと、
「───はは、これか? 討伐証明って奴だよ。知ってるだろ?」
ヒョイっと拾い上げた耳。褐色の笹耳───……。
「ダークエルフに出くわしたのさ。連中いきなり襲ってきやがってさ、返り討ちにしたんだけど、どうも犯罪者っぽかったからな。ギルドに討伐報告する義務があるからこうして持ってるのさ、な?」
メイベルとザラディンにも笑いかけ同意を求める。
「え~そーよー。私も仕留めたもん、ほらこれこれ」
「じ、ジェイス殿もたくさん持っておりますぞ」
鞄から取り出した乾燥した笹耳のネックレスを自慢げに見せるメイベル。
ザラディンも追笑して、それを裏付ける。
「は、犯罪者って……そ、そんなの、手配書でも見ないとわからないじゃない」
「ハッ! なぁに言ってんだよ。俺達が最初に襲われたんだぜ? 殺人未遂は犯罪さぁ、そうーだろぉ?」
ゲヒャハハハハハと下品な笑いで耳をポンポンとお手玉するジェイス。
「そうです、そうです! 王国警察法にも書かれておりますぞ」
「正当防衛よ、せーとぼーえー。んね、リぃズ?」
ニッコォと微笑みかけるメイベルに、目をあわせないザラディン。
な、なんなの。
一体何をしたの?
こ、荒野にだって……人はいる。
魔物とうまく共存する部族や、食い詰めた物が仕方なく暮らしていることもある。
凶悪な魔物を生態を知れば避けて通ることもできるのだ。
だから、ダークエルフだって…………。
襲われたからって──────そんな。
どう見ても、略奪したようにしか、見え……な───い。
「「「リズ」」」
ニコニコ笑う3人。
「「「リズ」」」
ゆっくりと迫る3人……。
「「「リズ」」」
──────気にするな。
余計な事は、
「見ない」
と、ジェイスが宣う。
「言わない」
と、メイベルが宣う。
「聞かない」
と、ザラディンが宣う。
それでいいじゃないか?
「「「な?」」」
コクリ、コクリと頷くしかできないリズ。
震える手を隠すのがやっとだった。
何かが、何かを………………。
こいつ等、何を?
何をしたの? 荒野の奥で───……!
荒野の脱出はもう間近……。リズは文明の痕跡を見つけていた。
廃村から続く、道の痕跡。
必ず人里に繋がる確かあ道の跡を……。
だが──────このまま街に向かって大丈夫なのだろうか?
リズがいなければ脱出不可能な荒野の奥で、彼らと一緒に街に向かって大丈夫なのだろうか?
一緒に…………行動して大丈夫なの?
ねぇ、教えてよアルガス。
守ってよアルガス……。
傍にいて──────アルガスっ!!