僕は学校を抜け出した。


先生は怒るだろう。母は卒倒するかもしれない。
少しのやんちゃだと、微笑む父の姿が脳裏に浮かんだ。


冷たい風は灯台と僕の身体を縫って吹きすさぶ。


僕はさざめく海に涙を落とした。


「……ヨアケ」


返事はない。僕らの間には、気が遠くなるほどの時間と距離と静寂があった。


「僕は、思ったことを言葉にするのが苦手だ。言葉を紡ぐことを、苦しいと思ってしまう。何もかも分からなくなって、どうしようもなく辛いと感じる」


だから君に伝えたいことも上手く話せない、と続けようとして、代わりに嗚咽が漏れた。


こんな時でさえ、僕は自分の想いを伝えられない。
伝えたくても、伝わらない。


僕はいつも不思議に思う。


言葉はいつだって、僕の傍を通り過ぎてしまうんだ。


一人ぼっちの君の孤独に、どうすれば寄り添えるだろう。
彼方の君に、僕は何ができるだろう。