──と言っても、畑はテントの目と鼻の先なんだけど。
川からテントに戻ってくるときに少し収穫したので数は少ないけどしっかりとした実はなっているし、何よりここでは珍しい青々とした葉っぱは健在だ。
「…………」
ララノはただでさえ大きな目を見開いて、呆然と立ちすくんでいた。
「大丈夫?」
「……はっ!?」
僕の声でララノの尻尾がピョコンと立った。
「すっ、すみません……驚きのあまり茫然自失になっていました」
「あはは、驚いちゃうよね」
呪われた地では植物が育つ事自体ありえないんだし。
「あの、畑によって野菜の実り方が違うように見えるんですけれど、瘴気の影響なんですか?」
「ああ、それね。こっちの畝は成長速度を上げてるんだけど、他の畝は普通の成長速度で育ててるんだ」
「成長……速度?」
「あ〜、ええっと……」
どうしよう。
これ以上説明するとなると、僕の付与魔法のことを教える必要がある。
噂を広めたくないからできれば他言したくないんだけど、ひとりで生活しているララノになら問題ないか。
「実は付与魔法って加護を持っているんだけど、身体能力を強化したり刃物の切れ味を上げたり、植物の成長速度を上げたりできる魔法なんだ」
「……ふぇい?」
驚きのあまり、思わず変な声が出ちゃったらしい。
ララノは顔を赤くして両手で口元を押さえた。
「す、すみません、どうぞ続けてください……」
「う、うん」
気を取り直して続ける。
「専門的に言えば、『第一属性』から『第三属性』まで能力を付与することができる。この短剣とか畑の野菜とかね」
「……冗談ですよね?」
首をかしげるララノ。
まぁ、そういう反応になるよな。
「じゃあ、ちょっと試してみようか」
説明するより見てもらったほうが早い。
備蓄テントから持ってきたトウモロコシの種に「生命力強化」と「俊敏力強化」、「免疫力強化」を付与して収穫が終わった畝に植える。
桶に貯めた畑用の水を撒いて、しばし待つ。
ララノが不思議そうに畑と僕を交互に見ている。
「ええっと、これは何を──」
「あ、ほら見て。芽が出てきた」
「……っ!?」
早速、種を植えたところから小さな芽がポコっと生えてきた。
そこからまるで倍速映像を見ているかのように、芽が大きく成長していく。
「う、ウソ!? もう実がついてきた!? というか、そもそも呪われた地で芽が出るはずが……」
「わかる。不思議だよね。でも、僕の付与魔法を使えば、本当に瘴気が降りた呪われた地でも美味しい野菜が作れるんだ」
「そっ……む」
ララノは何か反論しようとしていたが、目の前の光景を否定する言葉が思いつかなかったのか、ぐっと飲み込んだ。
「信じられません……けど、信じるしかないですね」
「ありがとう。信じてくれて嬉しい」
「でも、どうして畑によって付与魔法の効果を変えているんですか?」
「え?」
「すぐに作れるんでしたら、全部そうしたほうが楽じゃないですか?」
「いや、全部すぐ作れちゃったら楽しめないじゃない?」
「……楽しむ?」
「のんびり作物を育てながらスローライフを楽しむ。そのために僕はここに来たんだ」
「…………」
ララノはしばらくポカンとしていた。
「呪われた地で、野菜を作ってスローライフ」
「そ。良いでしょ?」
「……ふふふっ。良いですね。そんなことを思いつくなんて、ちょっと普通じゃないですけれど」
「自分でも変な部類の人間だって思ってるから否定はしないよ」
つい、ララノにつられて笑ってしまった。
「あの、私も作業をお手伝いしてもいいですか?」
「もちろんいいよ。……あ、でも、体は大丈夫なの?」
「はい。美味しい野菜のおかげですっかり元気になりました。これも付与魔法のおかげですかね?」
「そう言えば、心なしか顔色も良くなってるね」
服はボロボロのままだけど、やつれている感じはなくなり、肌の血色も良くなっている。
種に免疫付与をかけていたから、その効果が出たのかな?
院では「付与魔法を使って呪われた地で作物を育てる」という所だけを研究していた。だから、作物が瘴気に犯された人体に及ぼす影響までは調べきれていなかった。
これはちょっと興味深いな。
でもまぁ、何にしても元気になってくれてよかった。
川からテントに戻ってくるときに少し収穫したので数は少ないけどしっかりとした実はなっているし、何よりここでは珍しい青々とした葉っぱは健在だ。
「…………」
ララノはただでさえ大きな目を見開いて、呆然と立ちすくんでいた。
「大丈夫?」
「……はっ!?」
僕の声でララノの尻尾がピョコンと立った。
「すっ、すみません……驚きのあまり茫然自失になっていました」
「あはは、驚いちゃうよね」
呪われた地では植物が育つ事自体ありえないんだし。
「あの、畑によって野菜の実り方が違うように見えるんですけれど、瘴気の影響なんですか?」
「ああ、それね。こっちの畝は成長速度を上げてるんだけど、他の畝は普通の成長速度で育ててるんだ」
「成長……速度?」
「あ〜、ええっと……」
どうしよう。
これ以上説明するとなると、僕の付与魔法のことを教える必要がある。
噂を広めたくないからできれば他言したくないんだけど、ひとりで生活しているララノになら問題ないか。
「実は付与魔法って加護を持っているんだけど、身体能力を強化したり刃物の切れ味を上げたり、植物の成長速度を上げたりできる魔法なんだ」
「……ふぇい?」
驚きのあまり、思わず変な声が出ちゃったらしい。
ララノは顔を赤くして両手で口元を押さえた。
「す、すみません、どうぞ続けてください……」
「う、うん」
気を取り直して続ける。
「専門的に言えば、『第一属性』から『第三属性』まで能力を付与することができる。この短剣とか畑の野菜とかね」
「……冗談ですよね?」
首をかしげるララノ。
まぁ、そういう反応になるよな。
「じゃあ、ちょっと試してみようか」
説明するより見てもらったほうが早い。
備蓄テントから持ってきたトウモロコシの種に「生命力強化」と「俊敏力強化」、「免疫力強化」を付与して収穫が終わった畝に植える。
桶に貯めた畑用の水を撒いて、しばし待つ。
ララノが不思議そうに畑と僕を交互に見ている。
「ええっと、これは何を──」
「あ、ほら見て。芽が出てきた」
「……っ!?」
早速、種を植えたところから小さな芽がポコっと生えてきた。
そこからまるで倍速映像を見ているかのように、芽が大きく成長していく。
「う、ウソ!? もう実がついてきた!? というか、そもそも呪われた地で芽が出るはずが……」
「わかる。不思議だよね。でも、僕の付与魔法を使えば、本当に瘴気が降りた呪われた地でも美味しい野菜が作れるんだ」
「そっ……む」
ララノは何か反論しようとしていたが、目の前の光景を否定する言葉が思いつかなかったのか、ぐっと飲み込んだ。
「信じられません……けど、信じるしかないですね」
「ありがとう。信じてくれて嬉しい」
「でも、どうして畑によって付与魔法の効果を変えているんですか?」
「え?」
「すぐに作れるんでしたら、全部そうしたほうが楽じゃないですか?」
「いや、全部すぐ作れちゃったら楽しめないじゃない?」
「……楽しむ?」
「のんびり作物を育てながらスローライフを楽しむ。そのために僕はここに来たんだ」
「…………」
ララノはしばらくポカンとしていた。
「呪われた地で、野菜を作ってスローライフ」
「そ。良いでしょ?」
「……ふふふっ。良いですね。そんなことを思いつくなんて、ちょっと普通じゃないですけれど」
「自分でも変な部類の人間だって思ってるから否定はしないよ」
つい、ララノにつられて笑ってしまった。
「あの、私も作業をお手伝いしてもいいですか?」
「もちろんいいよ。……あ、でも、体は大丈夫なの?」
「はい。美味しい野菜のおかげですっかり元気になりました。これも付与魔法のおかげですかね?」
「そう言えば、心なしか顔色も良くなってるね」
服はボロボロのままだけど、やつれている感じはなくなり、肌の血色も良くなっている。
種に免疫付与をかけていたから、その効果が出たのかな?
院では「付与魔法を使って呪われた地で作物を育てる」という所だけを研究していた。だから、作物が瘴気に犯された人体に及ぼす影響までは調べきれていなかった。
これはちょっと興味深いな。
でもまぁ、何にしても元気になってくれてよかった。