「教会が?」
「ではなくて、この桜です。ここ、元は夏桜院っていう旧家のお屋敷があったとこなんですよ。あたし、この樹に護られてるようなもんですから、ここ大すきなんです」
ふわりと笑う李は、やはりものすごく可愛い女性だった。でも、そんな樹をお守りと言うなんて、李はその「かおういん」に関係しているのだろうか。ってか旧家? え、すご。
「あ、桜葉ちゃん。いいこと教えますよ」
来い来いと手招かれて、桜葉は李に近寄った。李が桜葉の耳元に口を寄せて、こそっとささやく。
「この教会、すごく素敵な場所です。愛を誓うにはうってつけですよ」
「……! りぃちゃん! 教え子に何言ってんの!」
「あたし、キューピッドさん得意ですから」
李は楽しそうに鼻歌を歌いながらくるりと踵を返した。
桜の古木の方を向いて、桜葉に背を向けてしまった。桜葉は目下進行中の問題であることにもつながるそのセリフに、なんと返していいかわからず顔を真っ赤にさせるだけだった。
「桜葉、何言われたんだ?」
「~~~、氷室くんには教えない!」
「……桜葉の意地悪」
「べっ、別にそんなんじゃないよ! りぃちゃんにからかわれたの!」
「なら教えてくれてもいいじゃん」
問答する二人をちらっと見て、李は唇に力を入れた。氷室のあの眼差し。夢で見てきたものとよく似ている。李の大切な桜の記憶たち。
――もう、逃がさないんだ。桜葉を腕から失った時の喪失感は、俺の時間を止めるほどだ。だから、この手は離さない。