最後に残った央士くんが椅子で囲まれた円の真ん中に、重い足取りで進んでいく。央士くんの秘密……少し気になるかも。でも、なぜかさっきよりも寒くなった。急に寒波が来たみたいに冷え込んだ。

「あ、う、うん……」

 どうしたんだろう央士くん。いつもと少し違う。

「俺は、俺は……昨日に戻りたい――」

 戻りたい? そんなに? どうして?

「――皆も知ってるように昨日の夕方、飲酒運転をしていた男が運転するトラックに轢かれて寄居絵奈が死んだ」

 ――えっ、私が死んだ?

 頭が追いつかない。なに、どういうこと?

 私、だってここに……。えっ?

 なんで、これは? なにが……。

「だから昨日に戻って絵奈を救いたい。でも、俺たちには到底できない」

 たしかに私はいつもと違う感じが起きたときからしていた。これは、じゃあ生きている私ではないの?

 昨日は確か――最後に覚えてるのは私の体から出る赤いもの。全身が痛かった自分。辛かった自分。少しだけ昨日の記憶が蘇る。

 私は死んでしまったのか。

 央士くんに告白する前に。

 少し、遅かった。

 でも、どうせ告白したところで彼に断られるなんだろう。だったらもう死んだことを悔やむことをしなくていいんじゃないんだろうか。

 もう、しょうがないからこれ以上考えずに受け入れたほうが早い。

「俺の秘密……」

 央士くんは噛みしめてた。わからなかった、なにを考えてるのか。央士くんが、そして自分自身が。

「――それは、俺は絵奈のことが好きだった」

 えっ? 君が私のことを? この私のことを?

 私も君もお互い好きだった……?

「私も好き……」

 央士くんにはこの声が届いていない。だって本当に小さな声で言ったから。それに――。

 私は泣いていた。

 嬉しかった。君は私のことが好きだったんだね。そして私も……。

「絵奈がいつも何かを頑張る姿に憧れた、好きだったんだ。絵奈に大変な仕事を頼んだときも嫌な顔ひとつせずその仕事を絵奈なりに頑張ってやってくれていた。そんな絵奈が……。その心が整って告白するつもりだった。でも、できなかった」

 私もできなかった。君に告白。もういないから、ここには。

「だから、今、君に告白する」
 
 央士くんが上をまっすぐ見上げた。央士くんには何かが見えているんだろう。

「絵奈、君は僕にとって言葉に表せない存在だ。どうか、心の中で結婚してください。どうか俺の気持ち届いてますように。君にこれが届いてたら俺はもう何もいらない。最後にありがとう、絵奈。君に逢えた人生、どんなことより忘れられないよ」

 私は心の中で、その言葉をいただいた。生きていない私が、その言葉をいただいたよ。

 もちろん。私も君と心の中で結婚したい。

 多分、今言ったことが指輪の代わりなんだろう。

 私が告白したかったよ。でも、君に越された。悔しいな。

 君が先に告白しようが、私が先に告白しようが央士くんが好きというのは変わりない。

 私の前に私にしか見えない光が見えた。ゆっくりと天国に送られてる気がする。さようなら、またね央士くん。私は天国に送られていく。

 どこかでまた会いたい。いや、もう心の中で結婚してるからいつでも会えるのか。

 そうだよね、央士くん。