「えっと、じゃあ、目玉焼きにはソースより醤油派の人!」

 座れなかったと思われる人が、お題を出す。

 そう、うちのクラスのなんでもバスケットはお題の内容が面白いのが特徴。私は確か前回、1回だけ座れなかったんだけど、そのときは皆のお題のハードルがあまりにも高すぎて思い浮かばず、少し困ってしまったな(結局は「今日、授業で寝た人」にした)。

 目玉焼きのお題でクラスの3分の2くらいの人が一斉に動き出す。私も参加してたら動くかな。何をかけても美味しいけど、やっぱり醤油。

 上から見るとみんなの動く姿がこんなふうに見えるんだ。テレビゲームを操作してるみたいな感じ。

「あ、空いてるよ!」

「えっ? どこどこ?」

「あそこだよ!」 
「あー!」

 まだ座っていなかった2人の勝負みたいだったが、惜しくも座れなかった1人が次のお題を出す。

「じゃあねー、んー」

 そうんなんだよね、このクラスのお題のハードル高いから悩むんだよね。うけを狙う人もいるし。でも、それがいいんだろう。

「成績全部5にしてほしい人!」

「もちろーん!」

「はーい!」

 これはもう「なんでもバスケット」って言ってもいい感じじゃないだろうか(「なんでもバスケット」って言うと全員が動くというルールである)。もちろん一人残らず皆が動いた。皆の位置が一瞬で変わる。

 座れなかったのは私の友達。この子、なんか甘いけど酸っぱい質問を出してきそう。

「誕生日に好きな人からハグのプレゼントが欲しい男子!」

 ほらー、やっぱきた。甘いけど、酸っぱい質問。このクラスは35人で男子は17人だけど、7人くらいが動いた。思ったより多いな、恥ずかしくて動かない人も多いと思ったけど。私は思わず青春だなーと感じてしまう。ハグのプレゼントか。

 でも、男子が意外と同じ場所にまとまって座っていたため、その子はまた座れず2連チャンでお題を出すことになった。きっとまたあんな感じの質問が来るんだろう。やってる側はドキドキだろうな。ここから見ててもドキドキしてるし。でも、見るの楽しい。

「えっー、またー。じゃあ、人が結構いるところで自分の彼氏か彼女に『キスしよ』って言われたらキスする人!」

 さっきよりもあれな質問がきた。どっからその質問、考えてるんだろうか。自分の頭をフル回転させても私にはきっと無理だろうな。少し手汗かいてきた。やってなくても胸がキュンキュンしてる証拠だろう。

 結果は3分の1くらいの人が動いた。そうだよね、これは結構勇気いるもんね。私なら仮にその状況になったとしても恥ずかしくて目も合わせられない気がする。

 私の友達は今回は無事に席に座ることができ、代わりにメガネをかけた男の子――学級委員の人が座れなかったみたいだ。へーこの人はしちゃうんだ。

「じゃあ、時間もあれなので最後ー!」

 担任の先生からそう声がかかる。先生も参加していたみたいで、今は央士くんの隣りに座っている。あ、央士くん!

「あ、次、央士座れなかったら罰ゲーム決定じゃん。秘密1つ告白ー!」

「やべー」

 央士くんの隣りにいた男子が楽しそうに、いじる感じで央士くんに話しかける。私のいない間にどうやら何回か座れなかったらしい。それで最もその回数が多い人が罰ゲームを受けることになってるんだろう。で、学級委員の子はどんな質問を出すんだろう。

「少しあれなお題になりますけど、最後なので……」

 さっきまでの空気とは変わる。私はなぜだか背筋がピンとなる。あれな質問? 辛い質問? になるんだろうか。皆の表情も急に石みたいになった。えっ?

「う、うん」

 学級委員の子が咳き込む。ん? なに、この感じ。

「――昨日に戻りたい人?」

 これがあれなお題なの? 私にはよくわからなかったけど、ゆっくりと皆が動いた。皆戻りたいの? 確かに昨日の漢字テストはいつもより難しくて点数が皆良くなかった感じだけど、それで戻りたいの? 戻ったら経験できない楽しいこともあるはずだよ?

 よくわからないけれど、全員が席を動く。最後に残ったのは――座れなかったのは央士くんだった。