家に帰ると、美雪が、すぐにパソコンを開いた。
「咲ちゃん、これ見てや」
そこには、着物のデザインの写真と、着物柄のスカートやワンピースが写っている。
「これな、最近流行りの和柄の洋服ブランドのやねんけどな、少しだけ携わらせてもらってん」
「え?美雪、洋服作れんの?」
「違うよ、デザイナーの人とな、デザインを、元に、和柄の柄がより綺麗に見えるように、柄の位置とか、魅せ方を考えたりしててん」
「すごいやん」
思わず、目を丸くした私を見ながら、美雪が目を細めた。
「そこじゃなくてな、このブランド立ち上げたデザイナーさんが言うには、元は着物を解いてスカート作ったのが、始まりやねんて。着物リメイクって言うねん。でもさ、着物解けるんやったら、浴衣だって解けるんと違う?浴衣リメイクもあるってゆうてたし……」
「え?ちょっと、待って、それって……」
美雪が、パチンと指を鳴らした。
「そう!ばあちゃんの絞りの浴衣を解いて、シャツとズボンに作り替えるねん!咲ちゃんと私で!」
あの恥ずかしがり屋で、いつも私の後ろに隠れていた美雪が、とても頼もしく見えた。
「咲ちゃん、ミシン使えたよね?」
「うん、ばあちゃんが、元気な時に教えてもらった!座布団袋しか作った事ないけど」
「座布団も洋服も一緒や!」
私達は、顔を見合わせて、拳と拳を合わせてグータッチした。
それから、私達は、仕事が終われば、ばあちゃんの見舞いにいき、面会を1時間だけ早く切り上げるようにした。家に戻り、私の部屋でパソコンの検索画面を開いて、美雪と二人で浴衣リメイクについて調べる日が何日か続いた。
まず、手縫いかミシン縫いか。それによって、解き方も、解く時間も、生地の量も、変わってくる。
「結婚の時に、じいちゃんが買ってくれた、絞りの浴衣だったよね」
私は頷いた。おそらく、手縫いだ。
手縫いであれば、リッパーで、1時間もあれば、解そうだ。美雪が、YouTubeで浴衣リメイクの動画を流していく。二人で食い入るように眺めた。
「美雪、そのデザイナーの人に、型紙とか借りれる?あとLサイズのズボンの寸法も知りたいねんけど?」
「咲ちゃん、任せて。咲ちゃんがスムーズに縫えるように型紙貸して貰って、サイズも聞いとく」
美雪が唇を、持ち上げた。
「じゃあ、明日土曜日だし、まずは浴衣解こうか」
「うん、急がなきゃね、咲ちゃん、がんばろ」
そう、急がなきゃいけない。
私は、ばあちゃんが、またあの絞りの浴衣を着れるかと思うと、胸が高鳴る程に興奮していた。
次の日、私達は早起きすると、美雪と一緒にリッパーで絞りの浴衣を解いていく。
縫い目に沿わせて、一縫い目ずつ糸を切っていく。その作業を何千回か繰り返して、浴衣は、反物の姿に戻った。
糸屑を丁寧に取り除いてから、バケツに水を溜めて、丁寧に洗ってから、掌でぎゅっと絞って、物干し竿いっぱいに、ばあちゃんの絞りの浴衣生地を干していく。
「あー肩こった」
「ほんと、でも楽しみ」
私達は、青空の下でお日様の光を浴びながら、風に揺れる絞りの浴衣生地を、満足気に眺めた。
そこから、ばあちゃんの絞りの浴衣をリメイクする、浴衣パジャマ作りは早かった。生地にアイロンを掛けてから、美雪が型紙通りに生地を裁断する。
私が、ばあちゃんのミシンを借りて、縫い合わせて、ボタンホールをつけていく。ボタンを手縫いで5つ付ければ、あっという間にシャツが出来上がった。
「美雪、切れた?」
「うん、咲ちゃん、お願い」
ズボンも型紙通りに切られた生地にポケットを、一つだけつける。ばあちゃんが病室の鍵や小銭やらを入れられるように。
最後にウエストにゴムを通せば完成だ。
ウエストゴムを通して、端を縫い合わせた瞬間、
「できたー!」
「できたー!」
私たちの声は、見事に重なった。
「咲ちゃん、間に合ってよかったよね」
「うん、美雪のおかげ」
「それはお互い様でしょ」
私と美雪は、顔を見合わせて笑った。