「それ、誰かと間違えてない?」

 困り顔で指摘してやると、大内優芽は「いいえ」とキッパリと首を横に振った。

「私がリュウガ先輩のこと間違えるはずがありません。だって、毎晩のように会ってたんだから」

「毎、晩……?」

 絶対に人違いなはずなのに、話がなんだか変な方向に転がり始めた。

「そうです。一緒にランチを食べたり、デートだって何回かしたじゃないですか。大学のカフェテリアとか、この近くで」

 大内優芽がうっとりと夢見心地な目で俺を見てくる。初対面なはずなのに、彼女の俺を見る目には明らかに好意の色が乗っていた。

 身に覚えのない人命救助の相手と勘違いして好意を向けられたって困る。よくわからないけど、あまり深く関わらないほうがいいタイプかもしれない。

「大内さんのことを助けてくれた人、この大学の生徒なんだ? 見つかるといいね」

 ハハッと笑って後ずさろうとすると、大内優芽が「今、まさに会えてるじゃないですか」と興奮気味に俺の手首を握り直した。華奢に見えるのに、その握力はかなり強くて逃げられない。