「ごめん。悪いけど、俺、やっぱり君のこと思い出せない」

「そうですか……。私、半年ほど前に事故に遭いかけたところをリュウガ先輩に助けてもらったんですけど」

 しょんぼりと眉尻を下げた大内優芽の言葉に、「え、事故?」と驚く。

「はい。私、いろいろあって、高校の後半からあんまり学校に行けてなかったんです。全部どうでもよくなって、もう死んでもいいやって毎日思ってて。そんなときに、車に轢かれそうになった私をリュウガ先輩が助けてくれました」

 目を輝かせて少し興奮気味に語る大内優芽の前で、俺は控えめに首を傾げた。

 そんな衝撃的な出会い方をしたなら忘れるはずがないのに。彼女の話に全く身に覚えがない。

 彼女は、たまたま同じ名前だった別の誰かと俺を勘違いしているんじゃないだろうか。