「あの、離してもらえる?」
不審感を抱いて眉根を寄せると、彼女がなぜかパァーッと目を輝かせた。
「ああ、やっぱり。髪型が違うから遠目によくわからなかったけど、その表情と声は絶対にリュウガ先輩だ。リュウガ先輩、ゆるパーマも似合ってたけど、今のちょっと伸びた感じの髪型もかっこいいですね」
彼女がそう言って、嬉しそうに顔を綻ばせる。親しげに「リュウガ」と下の名前で呼んでくる彼女は俺のことを知っているみたいだった。
耳の下あたりで短めに切り揃えられたダークブラウンのボブヘアーに、二重で形の良い大きな目。可愛い系の美人だからどこかで会っていれば少しくらいは記憶に残っていてもよさそうなのに、俺のほうは彼女がどこの誰だかまったくわからない。
「ごめん。失礼を承知で聞くけど、君、俺の知り合いだっけ?」
「もちろんです」
彼女が笑顔で肯定するので、俺は脳みそを絞ってなんとか彼女の記憶を引き摺り出そうとした。だけどどれだけ考えてみても、彼女に見覚えがない。