「変なこと言ってごめんなさい。夢で見たあなたにドキドキしてたとか、妄想もいいとこだし。こんなこと言われたら引きますよね」

 黙り込んでしまった俺を見て、大内優芽がきゅっと口角を引き上げる。不器用に笑顔を見せようとする彼女だったけれど、目の下にうっすらと溜まった涙を少しも隠せていなかった。

「ごめんなさい。変なこと言ってるって自分でもわかってるけど、どうしても悲しい気持ちが治りません。あなたが、私以外の人と一緒にいるのを見るのは嫌です。私があなたの隣にいられないのも嫌。こんなこと言われても迷惑だってわかってるけど、毎日あなたの夢を見ているうちに、あなたが好きになりました」

 大内優芽が泣きそうな目をして、震える声で、初対面のときと似たようなわけのわからない告白をしてくる。

 一方的に告白してきて、好き勝手につきまとったあげく、俺のことなんて全部忘れたくせに。

 また、「夢の中で好きになった」なんて、相変わらず変な女だ。散々人のことを振り回しておいて勝手すぎる。

 だけど俺は、そんな彼女のことが初めからずっと嫌いじゃない。

 ふと見ると、歩行者用の青信号がまた点滅し始めていた。この信号を見送ればバイトは微妙に遅刻。店長には怒られるだろうけど、そのときは謝り倒すしかない。

 横断歩道に踏み出していた足を後ろに下げると、俺はズボンのポケットに入れたスマホをつかんで引っ張り出した。