「じゃあ、もう行くから」

 大内優芽から顔をそらして横断歩道を渡ろうとしたそのとき。

「だったらどうして、私はあなたのことがこんなに気になるんでしょうか」

 一歩踏み出した俺の背中に、大内優芽が声を震わせながら訴えかけてきた。

 ドキリとして振り返ると、彼女が今にも泣きそうな顔で俺を見てくる。

「事故のあとから、よく夢を見ます。あなたが出てくる夢です」

「夢……?」

 ため息をこぼすようにつぶやくと、大内優芽がロングスカートの生地を両手でギュッと握って頷いた。

「カフェテリアで一緒にごはんを食べたりとか、図書館で資料を探すあなたの後ろをくっついて回ってたりとか。夢に見るのは、なんてことない日常の風景ばかりなんですけど……。あなたが隣にいるだけで、私の心臓は夢だと思えないくらいにリアルに心臓がドキドキしてします。あなたの隣にいられるだけで、嬉しくて楽しくて。朝になって目が醒めると、あなたのことを何も知らない現実を突きつけられて泣きたくなります」

「いや、何言ってんの……」

 大内優芽の話に、胸がぎゅうっと痛くなる。彼女が見た夢の内容は、記憶を忘れてしまう前の俺と彼女の日常そのものだったから。