後ろからリュックをつかんで引き留めてきたのが誰なのか。声を聞いた瞬間からわかっている。
「なんでここにいんの?」
ゆっくりと振り向くと、そこには予想通り大内優芽が立っていて。俺と目が合うなり、気まずそうに視線をそらした。
「ごめんなさい。大学の校舎を出たところで、リュウガ先輩が女の子とふたりで歩いているところを偶然見かけたんです。一緒にいた人が誰なのかすごく気になって。先輩に声をかけようかどうか迷ってるうちに、ここまで着いてきてしまいました……」
大内優芽が顔を赤くしながら、ぼそぼそと小さな声で説明する。それを聞いて、ドキッとした。
「もしかして、事故の前のこと何か思い出した……、とか?」
ドキドキしながら訊ねる俺に、大内優芽は静かに首を横に振った。
「いえ、事故の前のことは覚えてません。あなたのことも」
申し訳なさそうにそう言われて、期待に膨らんだ胸がしぼむ。
「あ、そう」
大内優芽から期待した反応が返ってこなかったことに、俺は少しがっかりしていた。眉をしかめて不機嫌な顔になる俺を、彼女が困り顔で見上げてくる。
どうしてこの子は、俺のことなんて覚えてないくせにわざわざ追いかけてきたんだろう。思わせぶりな態度に、なんだかイライラする。