大内優芽につきまとわれる前までは、女の子が自分に好意を持ってくれていると感じるとほわほわと浮かれた気分になっていたのに、西田さんに対しては驚くほど何も感じなかった。
後日誘われることになるであろう飲み会も、本音を言えばあまり乗り気になれない。だけどバイトの予定を細かく聞かれたし、誘われたら参加するしかないんだろう。
面倒だな。
女の子からの誘いを憂鬱に感じるのは初めてだ。
ため息を吐いたとき、バイト先のコンビニが見えてきた。
二週間前に、事故に遭いかけた大内優芽を助けた横断歩道。あのときのことを思い出して、道路の向こう側にあるコンビニをぼんやり見つめていると、青信号がチカチカと点滅し始める。
俺は何を立ち止まっているんだろう。渡らなきゃ。
点滅信号に急かされて駆け出そうとしたとき、「リュウガ先輩!」と後ろからリュックを引っ張られた。急に背中が重たくなって、ひっくりそうになるのを踵でぎゅっと踏ん張る。
点滅していた青信号は赤に変わって、信号待ちをしていた車がゆっくりと左右に流れ始める。その動きを右左と視線で追いながら、俺は暴れ出しそうになる心臓を落ち着かせるために深呼吸した。