「リュウガ先輩……?」
不意打ちでつかまれたことに驚いて、演劇サークルのチラシが全部、俺の手から離れて地面に散らばる。
そばにいた他サークルの学生たちが一瞬びっくりしたようにこっちを見たけれど、みんな自分たちの仕事に忙しいらしい。気の毒そうな目で見てはくるものの、地面に散らばったチラシを誰も拾おうとはしてくれない。
新入生たちがら歩く通路の方に散らばったチラシは、次々とキャンパスに入ってくる新入生たちに無惨にも踏みつけられていく。
その惨状を見て俺が心配になったのは、今年の演劇サークルに何人の新入生を勧誘できるかでも、山口のカノジョが主演する舞台の客入りでもなく、約束どおり焼き肉を奢ってもらえるだろうかということだった。
「やばいな」
ボソリとつぶやいて視線を左斜め前に移すと、真新しい黒のスーツ着た女子学生と目が合う。
俺が今、焼き肉を奢ってもらえるかどうかの瀬戸際に立たされているのは、横からいきなり飛び出してきた彼女が原因だ。それなのに、彼女は大きな真ん丸の目で俺をじっと見つめるだけで、チラシのことを謝らないばかりか、俺の手首をガッチリとつかんで離そうとしない。
なんだ、この子。新入生だと思うけど、なんか不気味。