授業のあと、バイトに向かうために山口より先に席を立つと、講義室を出たところで同じ学部の西田さんに呼び止められた。

 一年生の頃から同じ講義をとっていることが多くて、席が近ければ話す。だけど、特別仲がいいわけでもない。そんな彼女が、「桐島くん、ちょっといいかな」と改まった様子で声をかけてきたから不思議に思った。

「うん、少しなら。俺、これからバイト行かなきゃいけなくて」

「あ、そうなんだ……」

 講義室の掛け時計でちらっと時間を確かめながらそう言うと、西田さんが躊躇うように一歩身を引いた。

「長くなりそうな話? 急ぎじゃなければ、明日の昼休みとかにゆっくり話聞くけど」

「あ、ううん。全然長い話じゃないんだ。実はね、近々学部の何人かで飲みに行かないって話が出てて。お酒飲めるメンバーに声かけて回ってるんだ。桐島くんも飲めるよね。だから、よかったらどうかなーって」

 西田さんが少し顔を赤くしながら、早口で俺に誘いかけてくる。

 ふと見ると、少し離れたところから、西田さんの友達が俺のことを誘う彼女の様子をにやけ顔で見ていて。なんとなく、彼女が俺を飲み会に誘ってきた意図を察した。