つい二週間前まで俺のことを真っ直ぐに見つめていた純粋そうなキラキラした瞳や、いつ会っても楽しそうだった無邪気な笑顔をもう近くで見られないのかと思うと少し淋しい。
なにか忘れ物をしているみたいな。自分の中の何かが欠けてしまったみたいな。そんな気がする。
あの子がそばに来るたびに不機嫌に眉間をしかめていたくせに。いなくなるとぽっかりと心に穴が開いたような気持ちになるくらいにはちゃんと、俺はあの子に絆されていた。
俺と出会ったのが夢の中だという話だって、彼女がその《設定》を貫き続けるならそれでもいいかなと思い始めていた。
信号の変わりかけた横断歩道を俺に向かって真っすぐに駆けてきたあの子を助けた二週間前のあの日。あの子の名前を初めて呼んで、気が付いた。
毎日のように目の前に現れて、「好きだ」と無償の好意を伝えてくる大内優芽のことを俺も好きになっていて。彼女が嬉しそうに話す夢の中の知らないリュウガ先輩に、無意識で嫉妬してたんだって。
だから事故のあとに大内優芽に会ったら、ちゃんと連絡先を交換して、俺のほうから遊びに誘おうと思っていた。
大内優芽が《夢の中》でした映画デートの再現ではなくて、俺と彼女がふたりで初めて行く場所に行きたかった。
だけどそれはもう、現実にはならない。
初めから最後まで、大内優芽が好きだったのは夢の中の《リュウガ先輩》だった。
大内優芽の記憶からも消し去られてしまった俺は、もう、彼女のトクベツじゃない。