何事かと思って顔をあげたら、カフェテリアの入り口付近に大内優芽が立っていた。同じ学部の友達と連れ立って昼食を食べにきたのか、彼女の周りには他にも三人の学生がいる。
大内優芽は入り口に置かれたディスプレイを見ながら、隣にいる男と話している。
俺とは違う別の男に無邪気に笑いかけている彼女は、すごく楽しそうだった。顔色が良くて元気そうなところを見ると、事故後の後遺症も特になかったんだろう。
山口と一緒にそばを通り過ぎるとき、大内優芽にちらっと視線を向けてみたけど、グループの仲間とのおしゃべりに夢中になっていた彼女は、俺に気付くことはなかった。
「あの子、ついこないだまで毎日琉駕のとこに来て、好き好きって言ってたのにな」
講義室に向かう途中、山口が憤ったようにそう言った。なんで山口が怒っているのかは全然わからないけど、山口が代わりに愚痴ってくれたおかげで、俺は彼女の態度にあまり落ち込まずに済んだ。
「俺につきまとうのにも飽きたんじゃない? もともと、夢で会ったとかおかしなこと言ってたし」
つきまとわれてずっと迷惑だったし。出会った頃からおかしなことばかり言う変な女だったし。
数ヶ月つきまとっても連絡先すら教えない俺に、事故をきっかけに見切りをつけたって言うならそれでもかまわない。
ただ……。