俺の話を聞いたあと、山口は表情をなくして無言になった。怖い顔をした山口とともに静かに食事を済ませると、俺たちは午後の講義に出るためにどちらからともなく席を立った。

「琉駕、今日バイト?」

 なんとなく気まずくなってしまった空気を和らげるように、山口が普段通りを装って話しかけてくる。

「うん、さっきシフト変更の連絡がきて、予定よりもちょっと早めに入ることになった。次の授業終わったら、すぐ出る」

「ふーん。あ、来週の舞台の日はバイト入れんなよ」

「わかってるよ」

 来週の日曜日には、山口が入っている演劇サークルの舞台がある。新入生勧誘のために配ったチラシで宣伝していた、山口の彼女が主演を務める舞台だ。俺はもう随分と前に、そのチケットを山口から二枚分強制購入させられていた。

「二枚も買わせて誰と行けって言うんだよ」と、俺が財布から渋々チケット代3000円を支払うところを見ていた大内優芽は、「私がご一緒しましょうか」なんて、にこにこ笑ってたけど。そんな話も、もちろん忘れてるんだろうな。

 うつむいて頬を引き攣らせていると、山口が「あ」と、つぶやく。