事故から数日後に再会した大内優芽は、待ち合わせ場所のカフェテリアにやってきた俺に他人行儀に話しかけてきた。

「リュウガ先輩……、ですか?」

 上目遣いに、自信なさげな顔でそう言われたときは何の冗談かと思った。

「あの、私、大学に入ってから事故に遭うまでのことをよく覚えてなくて。私とリュウガ先輩は、どういう関係だったんでしょうか」

 だけど、母親に持たされたという焼き菓子を俺に渡しながら訊ねてくる大内優芽の目は真剣そのもので。冗談を言っているふうではなかった。

「私、事故に遭いかけたところをリュウガ先輩に助けてもらったんですよ。夢の中で」

 初めて会ったときにそう言っていた大内優芽は、現実に起きた事故で全部忘れてしまっていた。

 俺のことも、妄想みたいな夢の話も。まるで、夢から醒めたみたいに。

 それ以来、大内優芽は俺につきまとってこなくなった。

 大学の中にいて、彼女と顔を合わさない日は一度だってなかったのに。事故以降は、彼女がどこで何をしているのかわからない。

 あまりに姿を見かけないから、もしかしたら彼女の存在自体が俺の夢だったんじゃないかと思うほどだ。