2週間前の雨の日。大内優芽は信号の変わりかけた横断歩道を俺のほうに向かって駆け出してきた。
そこへ、交差点を右折した軽自動車が横断歩道に勢いよく侵入してきて。反射的に道路に飛び出した俺は、大内優芽が軽自動車に轢かれる寸前に彼女のことを助けた。
交差点に突っ込んできた軽自動車の運転手は40代手前くらいの女性で、路肩に車を停めたあと、すぐに俺たちの元に来てくれた。警察と救急車を呼んでくれて、事故後の対応も誠実だった。
車を避けてふたりで道路に転がるようにして倒れたときに大内優芽はコンクリートで頭をぶつけたらしく、一瞬気を失った彼女は、救急車が来るまで無表情でずっとぼんやりとしていた。
彼女の様子が気にはなったが、俺はやってきた警察に事故の状況を説明したり、バイト先に事情を説明したりするので忙しくて。安静にできる場所に彼女を座らせたまま、ゆっくり話ができなかった。
事故のあと、大内優芽は念のため病院で検査を受けることになり、腕に擦り傷を負った俺も病院で治療を受けた。
別々に診察を受けたあと、待合室にいた俺に声をかけてきたのは大内優芽の母親だった。
彼女を助けたことを感謝されて、後日きちんとお礼をしたいからと連絡先を聞かれた。彼女のお母さんに差し出された手帳に、俺は少し迷って携帯番号を書いた。
ラインのIDを書こうとペンを握った俺の脳裏にふっと大内優芽の顔がよぎって。それは、次に大学で会ったときに直接彼女に教えようと決めた。そうすれば、彼女が嬉しそうに笑う顔が見られるような気がしたから。
だけど……。