「違うよ」
「じゃあ、なんで?」
「俺はただ、心配してるだけ。なんだかんだ言って、琉駕、毎日つきまとってくるあの子のことを本気で嫌がってなかっただろ。何言われてもにこにこして、多少のことじゃ凹まなさそうだったあの子が来なくなるなんて。琉駕がよっぽどひどいこと言ったのかなーって思って」
どうやら山口は、大内優芽がつきまとってこなくなった原因が俺にあると思っているらしい。
「俺は何も言ってないよ。向こうが俺のこと忘れちゃったってだけで」
最後に話したときの大内優芽の顔を思い浮かべて唇を歪めると、山口が「は?」と怪訝そうに首を傾げた。
「2週間前に事故に遭ったって話しただろ。そのときにあの子、頭を打って脳震盪起こしてたんだ。たぶんそれが原因で、大学に入学してから事故までの数ヶ月の記憶が消えたらしい」
「うそだろ」
「びっくりだよな。事故で記憶失くすとかほんとにあるんだなーって、俺もびっくり」
ハハッと空笑いする俺を、山口が茫然と見つめる。
「いや、笑いごとじゃないだろ」
「そう?」
俺は大内優芽からそう言われて、笑うしかなかったけどな。