「リュウガ先輩!」

 大声で俺の名前を呼んだかと思うと、大内優芽が横断歩道を渡ろうと一歩踏み出した。

 歩行者用の青信号はチカチカと点滅していて、彼女が横断歩道を渡りかけたのと同じタイミングで白い軽自動車が右折してくる。傘で視界を遮られている大内優芽は、真っ直ぐに俺をみていて軽自動車には気付いていなかった。

「優芽……?」

 ほとんど反射的に、俺の足が大内優芽に向かって駆け出す。

 急ブレーキをかけた軽自動車のタイヤが濡れた道路をキュキューッと擦る音が響き、自分の状況に気付いた大内優芽が横断歩道の途中で足を止めて立ちすくむ。

「優芽……!」

 夢中で手を伸ばした俺の顔のそばを、風に飛ばされた大内優芽のビニール傘が掠めていった。