「だる……」
山口の背中を見送りながら小さな声でつぶやく。けれど、引き受けた以上何もしないわけにもいかないので、俺は大学の門のそばで本気のサークル勧誘をしている学生たちの中に混ざった。
「お願いしまーす」
通り過ぎて行く新入生たちにとりあえず笑顔でチラシを差し出してみるけど、俺の声量ややる気は当然体育会系の部活やサークルの学生たちに及ばない。
新入生ひとりひとりに声をかけて手渡しで受け取ってもらうという正攻法ではダメだ。チラシ配り開始10分でそのことを悟った俺は、まじめに一枚ずつ配るのはやめにして、他サークルの勧誘を受けて立ち止まっている新入生の手に複数枚のチラシを勝手に載せていく方式に切り替えた。
配り方はどうであれ、ノルマとして渡されたチラシを捌いてしまえばいいのだ。
「こっちもよろしくー」
他サークルの勧誘に気を取られている新入生たちの手に、どさくさに紛れて演劇サークルのチラシを滑り込ませていくと、500枚あったノルマが次々と減っていく。
この調子だと、全部はムリでも半分は捌けそうだ。
約束どおり、山口には焼き肉を奢ってもらわなければ。
焼き肉を目前にしてニヤリと唇の端を引き上げたとき、突然、チラシを持っていたほうの手首を横から誰かにガシッと鷲掴みにされた。