「じゃあ、傘どうも」

 目の前の歩行者用の信号が青になるのを確かめてから、今度こそ傘を出る。

「リュウガ先輩、あの……」

 まだ俺を呼び止めようとする大内優芽を無視して横断歩道をコンビニ側に向かって走ると、彼女の声や気配はすぐに雨の音に掻き消された。

 結局濡れたな……。

 コンビニの軒先に避難すると、髪や顔についた水滴を軽く拭う。そうしたら、少し冷静な気持ちになった。

 大内優芽は傘を持っていない俺をバイト先まで送ってくれたのに。別れ際の俺は、彼女に嫌な態度をとってしまった。

 大内優芽が変な夢の妄想を語るのなんていつものことなのに。どうしてさっきはイライラして八つ当たりしてしまったんだろう。

 ため息を吐いて振り返ると、大内優芽がまだ横断歩道の向こうに立っていた。傘を持って茫然としていた彼女だったが、俺と目が合うと途端にパァッと表情を明るくする。