大内優芽の話がほんとうに見た夢なのか妄想なのかはわからないけど、俺にとっては知らない男とのデートののろけ話を聞かされているのと等しく。少しも楽しくない話を延々と聞かされているあいだに、バイト先のコンビニが見えてきた。

「俺のバイト先、そこ」

 目の前の横断歩道の向こう側にあるコンビニを指差して傘から出ようとすると、大内優芽が「リュウガ先輩」と引き留めてくる。

「一緒にどこかに行こうって話、まだ返事もらってません。夢の中でしたみたいなデート、私としてくれますか?」

 にこっと無邪気に笑いかけてくる彼女に、俺はまた少しもやっとした。

 この子は、俺と《《夢の中でしたみたいなデート》》がしたいのか……。

 《《夢の中で》》。それは、出会ったときからずっと大内優芽に言われ続けている言葉だ。

 今さらその言葉の何に引っかかったのか。自分でもよくわからないけれどイラっとして眉間が寄った。

「夢の中で充分楽しんだんだろ。なのに、現実で俺とデートする必要ある?」

 低い声で言うと、大内優芽の顔がハッとしたように強張る。冷たい言い方をしてしまった自覚はあったけれど、フォローしたり訂正しようとは思わなかった。

 暢気に俺を誘ってくる大内優芽に対して、穏やかな気持ちでいられなかったから。