「夢の中でも思ってましたよ。リュウガ先輩がいれば、何でもオッケーだって。夢の中でも、こんなふうに雨の中を一緒に歩いているときに似たようなこと言ったかも」
「ふーん」
大内優芽は、夢の中のセリフを無意識に再現しただけなのか。そう思ったら、少しモヤッとした。
大内優芽に合わせてゆっくりと進めていた歩調を速めると、「リュウガ先輩?」と彼女が慌てて早足になる。
彼女が俺と離れないように必死についてきているのがわかるのに、胸のモヤモヤが晴れなくて優しい気持ちになれない。それなのに、彼女は俺の態度がおかしいことに気付いているのかいないのか、笑顔で話しかけてきた。
「リュウガ先輩。今度、どこかに一緒に遊びに行きませんか?」
「どこかって?」
「えーっと、じゃあ。映画とか」
「それも、夢の中で一緒に行ったの?」
モヤモヤとした気持ちで訊ねる俺に、大内優芽が無邪気に笑う。
「行きましたよ。夢で見た映画の内容はぼんやりしててあんまり覚えてないんですけど、そのあとオシャレなカフェに寄ってケーキを食べました。デートみたいで楽しかったです」
「ふーん、そう」
「そのあと、ふたりでいろんなお店を回ったりして。雑貨屋さんでリュウガ先輩が私にピアスを選んでくれました。あ、これはふつうに自分で買ったやつですけどね」
大内優芽がそう言って、耳元で揺れるピアスに触る。彼女はそのあとも、ずっと嬉しそうに夢の中の俺とのデートの内容を語ってくれたけど。あたりまえだが、どの話も俺には全くピンとこない。