「今はいない。もしいたら、お前の傘には入ってない」
なんでわざわざこんなこと……。少し面倒に思いながらフォローの言葉を口にすると、暗い表情を浮かべていた大内優芽がパッと笑顔になった。
「それならよかったです」
この子、バカみたいに素直で単純だよな。
再び機嫌よさそうに歩き出す大内優芽の横顔を盗み見ながら、苦笑いする。同時に、俺のひとことがこんな簡単に彼女を一喜一憂させられるのかと思うと、なんだかそわそわとこそばゆい感じがした。
最初は付き纏われて煩わしく思っていた大内優芽の存在。「夢の中で出会った」という点だけはやっぱり理解できないけれど、毎日のように俺のところにやってきて伝えられる好意がホンモノだってことだけはわかるから、彼女のことを無碍にできない。
本気で嫌だったらハナから相手にしないし、今だって、嫌じゃないからこんなふうに彼女の傘でバイト先まで向かっている。
俺のほうこそ、こんなふうにどっちつかずのまま彼女に気を持たせてどうするつもりなんだろう。