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バイト先まで向かう道中、大内優芽はいつも以上にご機嫌だった。
「こうやってふたりでひとつの傘に入って歩いてると、わたし達付き合ってるみたいですね」
俺を気遣って少し高い位置で傘を持った彼女が、嬉しそうにこちらを見上げて笑いかけてくる。
「ちょっと傘に入れてもらったくらいで、勝手に付き合ってることにされたら困るんだけど」
「それは誰かに誤解されたらって意味ですか? 今さらこんなこと聞くのもおかしいですけど、リュウガ先輩って彼女とか……、もしくは好きな人とかいます?」
ついさっきまで、付き合ってるみたいだとか言ってヘラヘラ笑っていたくせに、大内優芽が急に不安そうに訊いてくるから思わず吹き出しそうになる。
入学してから一ヶ月近くも俺に付き纏って「夢で会った」とか「好きだ」とか散々言ってきたくせに。もし俺に恋人や好きな人がいたら、どうするつもりなんだろう。
「もし俺に、好きな子いたらどうすんの?」
興味本位で聞いてみたら、大内優芽から笑顔が消えた。
「リュウガ先輩に会えたことが嬉しくて、そこまで考えていませんでした。好きな人、いるんですか?」
急に小さくなった大内優芽の声が、雨の音に混じってぼそぼそと聞こえてくる。俺の反応を窺うように見上げる彼女の黒目がちの大きな瞳は不安そうに揺れていた。
いつもヘラヘラとつきまとってくる大内優芽をほんの少しからかってやるだけのつもりだったのに。そんな本気で返してこられたら困る。