「山口先輩は、私に借りがあるからって連絡先を教えてくれたんですよ」

「借りって?」

「演劇サークルのチラシのことです。山口先輩は、入学ガイダンスの日にリュウガ先輩が撒き散らしたチラシを私が代わりに配ったことを知ってます」

「は? なんで?」

「最初に演劇サークルにリュウガ先輩のことを探しに行ったときに、うっかり話しちゃいました」

「それ、結構前のことだよな」

「そうですね」

 にこにこ笑う大内優芽の前で、額を押さえる。まさか山口に、俺がちゃんとチラシを配ってないことがバレてたなんて。焼き肉を奢ってもらった手前、明日からちょっと気まずい。

 考えていると、大内優芽が俺の腕をつかんだ。

「そんなに気にしなくていいと思いますよ。私に連絡先を教えたことで貸し借りゼロだって言ってたので」

「山口が?」

「そうです。それより、ここからリュウガ先輩のバイト先までどれくらいですか?」

「10分くらいだけど」

「だったらまだ余裕ありますね。行きましょう」

 大内優芽が純粋そうな目で俺を見上げて、唇を弓状にしならせる。

 山口のこともあってか、俺はなんとなく彼女の笑顔に逆らうことができず。腕を引っ張られるようにして、彼女と校舎の外に出た。