「リュウガ先輩、傘ないんですよね。山口先輩の代わりに、私がバイト先までお供します」
「なんで俺が傘ないとか、これからバイト行くとか知ってんの?」
ただ付き纏われるだけならともかく、話したはずのない俺の個人情報まで知っているとか怖すぎる。
にこにこ笑いかけてくる大内優芽のことを引き気味に見下ろしていると、彼女の視線が微妙に俺から逸れた。
振り向くと、講義室から出てきた山口が大内優芽にコソコソと手を振っていて。ああ、そういうことかと納得した。
「山口、こいつに連絡先教えた?」
じろっと睨むと、山口は「さあ? 俺、急ぐから。琉駕も急げよ。バイト17時からだろ」と素知らぬ顔で逃げていく。
「いつのまに、山口に連絡先聞いてたんだよ」
「リュウガ先輩が定食のトレーを返すために席を立った一瞬にこっそりと」
悪戯っぽく口角を引き上げる大内優芽の言葉に、ため息がこぼれた。
「山口、裏切ったな」
カフェテリアで昼ごはんを食べているときに、絶対教えるなとかなり念を押したのに。山口が講義中にラインでやりとりしていた相手は大内優芽だったんだろう。
山口が「雨が止むまで教室で待っていれば?」とか、「ノートを見せろ」とか俺を引き止めるようなことを言っていたのは、俺と大内優芽を鉢合わせさせるための時間稼ぎだ。