「え。それって、絶対今じゃないとだめ?」
「できれば、今見せてほしいなぁって思って……」
「なんで? 山口もこれからサークル行くし、あんまり時間ないだろ。それに、山口、いつもそんなに真面目に講義のノート取ってないよな」
「そうだけど。たまには、真面目にノート取っとこうかなって……」
講義室の入り口をチラチラ気にしながら話す山口は、なんとなく歯切れが悪い。
講義中にうたた寝していたり、机の下でこっそりスマホをいじっていることも多い山口が、バイトに行こうとしている俺を引き止めてまでノートを見せてほしいなんて。なんか変だ。
「ノートだったらあとで写真撮ってラインしてやるよ」
「あー、でもさ……」
「悪い。傘買わなきゃだし、俺、もう行くな」
どうして山口が、今日に限って俺を引き止めたがるのかよくわからない。怪訝に思いながらも山口を振り切って講義室を出ると、廊下でびっくりするくらいにタイミング良く大内優芽と鉢合わせた。
「よかった! 間に合いましたね」
「は? なにが?」
驚いて目を見開く俺に、大内優芽が手に持った水色の傘を突き出してくる。