「琉駕のノルマは500枚な。俺はあっちのほうで配るから、お前は一番人がたくさん通る入り口付近でよろしく」

 早足で歩き去ろうとする山口の手元を見ると、チラシの枚数があきらかに俺に与えられたノルマよりも少ない。

「ちょ、待て。いくらなんでも、500は無理だろ」

「琉駕が笑顔振り撒いて渡せば、大半の女子がもらってくれるって。新入生勧誘ももちろんだけど、チラシに載せてるユウミさん主演の次の舞台、マジで最高だから。なるべく観客集めたいんだ」

 アウトドアサークルに入っている俺が今日の演劇サークルのチラシ配りに駆り出されることになったのは、山口がカノジョの主演する舞台にひとりでも多くの観客を呼び込みたいからだ。

《新学期に演劇サークルの新入生勧誘のビラ配り手伝ってくれない? 半分捌けたら焼き肉奢る》

 山口からそんなメッセージをもらったのはちょうど二日前。春休みに遊びすぎて金欠だった俺は、焼き肉につられて山口の頼みを二つ返事で受け入れた。

 メッセージをもらったときは、演劇サークルのビラ配りなんて楽勝だと思ったけど……。半分捌けたら、の半分が250枚もあるとは思わなかった。

「もしも全部捌けたら、焼肉に飲み放もつける!」
「はあ?」

 大学の中でもそこまで知名度のない演劇サークルのチラシを入学ガイダンスが始まるまでの残り30分で500枚も捌くなんて。正直、厳しいと思う。

 顔をしかめる俺に向かって「グッドラック」と親指を立てると、山口は自分の持ち場に駆けていった。