「いい加減、離せって。伸びる」
俺の話を分かってくれたんじゃないのか。大内優芽の矛盾する行動に若干苛立っていると、彼女が一度きゅっと噛み締めてから唇を開いた。
「ごめんなさい。リュウガ先輩には、私の話なんてきっと意味不明ですよね」
「だから、初めからずっとそう言ってる……」
「夢の中で助けてくれたリュウガ先輩は、かっこいい私のヒーローでした。この半年の間、夢の中に何度も出てきてくれたリュウガ先輩に、私は本気で恋してたんです」
大内優芽が、真面目な顔付でまたわけのわからないことを言い出す。
「私、半年前まで、自分の人生も将来もどうでもよかったんです。だけど、大学生になった自分がリュウガ先輩と過ごす夢を見ているうちに、ちゃんと考えようって思えるようになりました。この大学を受験しようと決めてホームページを見たら、講堂やカフェテリアが夢で見たのと同じで驚きました。さすがにリュウガ先輩までは実在しないだろうと思ってたから、二週間前に現実で巡り会えたときはほんとうに嬉しくてびっくりしたんです」
「ちょっと待って。夢がどうとかって話はあんたの作り話だろ。俺の話、分かってくれたんじゃなかったのかよ」
「はい。あの夢を見ていたのは私だけで、現実のリュウガ先輩には何も共有されていないんだなということが改めてよくわかりました。でも私が半年間ずっと見てきた夢は嘘なんかじゃないし、何かの暗示だったと思うんです」
「は?」
「どうせ夢の中でも片想いだったんです。だからこれから、リアルのリュウガ先輩に好きになってもらえるように頑張ります」
大内優芽が、俺のTシャツの裾をきつく握りしめて宣言する。
にこっと笑いかけてくる彼女は、俺が心配しなくても心折れてなんかいなかったし、諦めてもいなかった。