やっと俺が本気で迷惑がっていることが伝わったか。

 黙り込んでしまった大内優芽から顔を背けて離れようとすると、彼女が俺のTシャツの裾をつかんでて引っ張ってきた。

「待って、リュウガ先輩」 

 あれだけ言ってまだ引き止めてくるとか、どんだけメンタル強いんだ。

 眉をしかめて振り向くと、大内優芽がやけに真っ直ぐな目で俺を見上げてくる。

 おかしなことを言ってくる変な女なのに。できるかぎり関わり合いを持ちたくないのに。

 黒目がちの純粋そうな瞳にジッと見つめられて、不覚にも俺の心臓がドクンと大きく脈打つ。大内優芽は変な女だけど、黙っていれば見た目は可愛い系の美人なのだ。

「なに? まだ何か用があるなら、本気で学生課に……」

「困らせてごめんなさい」

 胸に過る動揺を抑えるように眉間にぎゅっと力を入れると、大内優芽が眉尻を下げて困ったように微笑んだ。その表情が一瞬泣き顔に見えてドキッとする。

 つきまとわれて迷惑だし、できれば彼女を遠ざけたいけど、泣かせようとまで思っていたわけじゃない。


「わかってもらえればそれでいいよ。俺、もう帰るし」

 大内優芽につかまれているTシャツを引っ張る。

 だけど彼女は、くっきりとシワが寄るくらい力強さで俺のTシャツを握りしめて離してくれなかった。