じゃあ、どうして演劇サークルに入ったのかというと、ちょうど一年前の今の時期に演劇サークルのチラシ配りをしていたひとつ上の先輩が山口の好みドンピシャで、一目惚れしてしまったからだそうだ。

 不純な動機で演劇サークルに入った山口だったけれど、小さな頃から大工をしている父親のそばで作業を見ていたおかげで、手先はやたらと器用だった。

 一年の初め頃は、一目惚れした先輩の目に留まるために徹夜でリアルな小道具作ったり、大掛かりな舞台装置をひとりで設計・制作していて。俺もよく、講義の前や休み時間に試作品をいろいろと見せられた。

 舞台の道具作りに全力を注いで必死にアピールした結果、山口は見事に一目惚れした先輩を落とすことに成功し、現在その彼氏の座におさまっている。

 一度だけその美人な先輩と直接喋ったときに「山口のどこがよかったんですか?」と訊いてみたら、「なんか必死なとこがだんだん可愛く見えてきて」と彼女は苦笑していた。

 恋愛で気のない相手にあまりしつこくすると嫌われたりもするけど、山口の場合は熱意としつこさで粘り勝ちしたらしい。