その夜、山口は約束どおり、飲み放題付きで焼き肉を奢ってくれた。大学の近くにある店で焼き肉を美味しくいただいてしまった俺は、ますます山口にはほんとうのことが言えなくなってしまった。
山口にはこのまま事実を隠し通すしかないし、大内優芽とは今後顔を合わせないように気をつけるしかない。
さいわい、キャンパスは広いし、文学部だと言っていた大内優芽と経済学部の俺が遭遇することも滅多にないだろう。
そう思って、大内優芽の行動力を舐めていた。まさかこんなにも早く、俺を見つけて会いにくるなんて。
「チラシを全部配り切ったので、約束通り会いに来ました。今日こそ、連絡先を教えてくれますよね」
大内優芽がにこにこ笑顔で俺にスマホを見せてくる。
「考えるとは言ったけど、絶対に教えるとは言ってない。ていうか、俺、今日はもう帰るんだ。急用思い出したし。じゃあな」
笑顔の大内優芽から顔をそらして逃げようとすると、「ちょっと待ってください」と彼女が追いかけてくる。
「リュウガ先輩が帰るなら、私も帰ります。駅までご一緒させてください」
「は? なんで。サークル見学は?」
「見学は別に急がないし。私の目的は初めからリュウガ先輩なんで」
「なにそれ。怖ぇんだけど」
ボソリとつぶやいて歩く速度を上げると、大内優芽も俺に遅れまいとついてくる。