「あー、もう。だから呼ぶなって言ったのに……!」
浦部に愚痴ったところで、もう遅い。
大内優芽が新入生の輪を抜け出して、俺のほうに近付いてくる。走って逃げようとしたら、浦部のあとから部室に入ってこようとしていた別のサークルの仲間に通り道を塞がれて。俺はあっけなく彼女につかまった。
「やっと会えましたね、リュウガ先輩」
大内優芽が、嬉しそうに頬を紅潮させてにこりと笑いかけてくる。
「ああ、うん。ていうか、どうしてここが……?」
大内優芽と顔を合わせるのは入学ガイダンスの日以来、二週間ぶりだ。
「演劇サークルに行ったら、山口さんって方がリュウガ先輩はアウトドアサークルにいるって教えてくれたんです。友達の彼女の主演舞台のために、わざわざ演劇サークルメンバーのフリをしてサークル勧誘を手伝ってたなんて。リュウガ先輩ってすごく友達思いなんですね」
いったい山口は、大内優芽にどんな話をしたんだろう……。
焼き肉目当てで演劇サークルのチラシ配りを手伝っただけの俺のことを、大内優芽が純粋そうなキラキラした目で見つめてくる。
「リュウガ先輩との約束通り、拾ったチラシは学部の子たちにも協力してもらって全部配りましたよ」
続けて彼女からそんな報告を受けた俺は、「あ、そう……」と、思わず顔を引き攣らせた。