「夢の中で知り合った」という怪しい女から逃げるか、焼肉を諦めるか。

 少し迷ったが、やっぱりただで焼き肉を食えるチャンスを逃すのは惜しいような気がして。俺は大急ぎで地面に散らばったチラシを拾った。

 踏み付けられて破れたり汚れたりしたものは避けて、なるべく状態の綺麗なものを選り分けていると、大内優芽がそばにきてしゃがむ。

「手伝います」

 そう言うと、俺と同じように、状態の綺麗なチラシだけを選り分けて集めてくれる。

「はい、これ」

「ああ、どーも」

 拾ったチラシを手渡してくる大内 優芽に軽く頭をさげると、彼女が「いえ、そもそも私のせいなので」と首を横に振る。

 さっきはおかしなことを言ってきたくせに。今の彼女の態度は案外まともだ。

「夢で会った」と言われたときにはビックリしたけど、そこまで変な子じゃないのかも。

「じゃあ、俺、チラシ配りに戻るから」

 そう言って離れようとすると、「あ、待ってください」と、大内優芽が肩にかけていた黒のトートバッグの中からスマホを取り出す。