ここに来るまでにどこかで頭をぶつけたのか、受験勉強のし過ぎで幻覚を見たのかはわからないが、この子の言ってることはかなりヤバい。
さらにヤバいのは、「夢の中です」と堂々と言ってのける大内優芽の純粋そうなキラキラした目が本気っぽいということだ。
もしかしてこの子、俺の知り合いを装ったストーカーとかじゃねーよな……。
見た目はちょっと可愛いけど、いきなり「夢で会った」なんておかしなことを言って近づいてくる女。怖すぎる……。
「残念だけど、俺は夢の中で君と会ったことはないかな。そもそも、夢はあんまり見ないほうだし」
「そうなんですか?」
「うん。それに、今サークル勧誘で忙しいから」
なんだか残念そうにしている大内 優芽から一歩、二歩と距離をとって逃げ出そうとすると、彼女が腰を屈めて足元に落ちていた演劇サークルのチラシを一枚拾いあげた。
「リュウガ先輩って、演劇サークルに入ってるんですか?」
「え、ああ、まあ……」
大内 優芽の質問を曖昧にごかましつつ、地面に散らばった演劇サークルのチラシをどう処理しようかと悩む。
山口から渡された500枚のノルマは既に半分近く配り終えていたとはいえ、大内 優芽のおかげで200枚以上のチラシが飛び散ってしまった。
少しは片付けておかないと、あとで入り口のほうに戻ってきた山口に踏み付けられて汚れた大量のチラシを発見されたらまずい。目付きの悪い怖い顔で睨まれて、焼き肉の話もパーだ。