桜の花が咲いて華やぐ春の大学のキャンパス。
入り口の門から、希望に満ちた目をした新一年生たちが、次々とキャンパス内に入ってくる。
新入生の大半がたぶん俺よりひとつ年下。たったひとつしか違わないはずなのに、彼らは自分たち二年生よりも随分と幼く見える。
一年前は、俺もあんな感じだったんかな。
入学式後のガイダンスを受けるために大講堂に流れていく新入生たちを眺めながらなんとなく右耳のピアスは弄っていると、同じ経済学部の友人・山口が俺にA4サイズの紙の束をどっさり預けてきた。俺が両腕に抱えるようにして受け取ったのは、山口が入っている演劇サークルのチラシだ。
「はい。これ、琉駕のノルマな」
「え、俺の分多くね?」
「こういうのは顔のいいやつに多めに配ってもらうのが効率いいんだよ」
そう言って、山口がにっと笑う。自分の顔が決していいとは思わないけど、本人の意志に反してニヒルに見えてしまう山口の笑顔は、たしかにあまり新入生の勧誘向きではない。
明るめの茶髪に耳にピアスを開けた山口は、ちょっと目付きが悪くて見た目もヤンキーっぽいのに、演劇サークルに入ってまじめに小さな舞台なんかをやっている。と言っても、山口自身に演技力があるわけではない。このあいだ無理やりチケットを買わされて見に行った舞台では、セリフのない通行人の役をロボットみたいなぎこちない動きで務めていた。