異界転生譚ゴースト・アンド・リリィ書籍③巻発売中!
書籍ネタバレ感想などは活動報告や作者マシュマロなどにどうぞ。
前回のあらすじ
くちゃい。
おとぎ話の魔女が鍋でなにか煮こんでても、ここまで鬼気迫る感じではないと思う。
場所を移して水はけのよい川辺にて。
ウルウがいつものどらむかん風呂の一式を構築して、一心不乱に火の調整をしていた。
私たちも毎日お世話になるこのどらむかん風呂、ウルウの執念が毎回の面倒くさい設置をかなえているけど、それでもやっぱり大変は大変なので、いままでに何度も改修が施されてて、いまや気が向いたらすぐに設置して十分以内にお風呂に入れるようになっていた。
本体であるどらむかんは巨大な金属缶で、だいたい三呎ないくらい。そんなにおっきくはないわ。精々腰くらいの高さ。
ちびっちゃいリリオと小柄なあたしが、ぎゅっとつめて二人一緒に入れるくらい。ウルウとリリオだったら、ぎゅうっと抱きしめあれば、なんとか入れるかも。ウルウ一人でもちょっと窮屈そうだものね。
最初はこれを石で組んだ竈の上に置いて火にかけてたんだけど、不安定で危ない、いちいちかまど組むのも大変ってことで、ウルウが鍛冶屋に頼んで金属の脚を付けた。がっちりとした幅広の脚に、やわめの地面なら食い込む爪もついてる。地面に釘を打って固定するための穴もついてる。
それで、これはあたしが気づいたんだけど、火が外側に飛び出ると出入りの時に足が焼けちゃうから、片方だけ金属の覆いをつけた。反対側は火の調整のためにもあけてるから、出入りするときは、ちゃんと降り口を確かめないといけない。
それからリリオからは高さも問題だって意見が出た。
ウルウからするとちょっとちっちゃかったなっていう感じらしいけど、ちびのリリオと小柄なあたしからすると、入るときに苦労するのよ。
そんなに大きくないとは言っても、腰くらいの高さはあるし、足の分だけもうちょっと高くなってるから、ひょいと上がり込むってわけにはいかない。
だから、折り畳みできる脚立も用意した。濡れた足でも大丈夫なように、滑り止め付きだ。
中に入るときは、湯舟っていうか、このどらむかんのふちを掴んで入るんだけど、以外にもふちは熱くならない。お鍋みたいに火にかけてるけど、お鍋よりも大きいから、上の方までは熱くならない。なっても、お湯の温度以上には、熱くならない。
御屋形で使うような大鍋も、いくらぐつぐつ煮立てていたって、鍋肌は燃えている火ほどは熱くならない。それが、心地よく浸かれる程度の湯しか沸かしてないってんなら、なるほどそりゃ熱くもならないわよ。
まあ、なんでかウルウがいちばんおもしろがってたけど。
ふちは熱くない、でもじゃあ火にかけられてる底はすごく熱いんじゃなかろうかって、まあ、それはそうなのよ。もちろん。なにも考えずにはいると、火傷するわね。
だからウルウは、踏んでも大丈夫なように、ちょうどの大きさになるように木の板を切って、これを沈めた。最初は単純だったそれも段々立派になってきて、沈めやすいように、お湯が抜ける隙間ができるようにして板材を組み合わせたり、底だけじゃなくて、横のほうも、下はそれなりに熱いから、ある程度の高さまで板で壁を作ったり。
面倒な後処理も、下のほうに水抜き用の蛇口も取り付けたことで、だいぶやりやすくなったわ。これに護謨引きの呎でいくらってお高い管つなげて、水場に流せるのよ。
これの加工費も結構したけど、みんな喜んでお金を出したわ。なにが面倒って湯を捨てるのが一番大変だったもの……手桶とか鍋とかでかきだして……大鍋にためたら遠くに捨てに行って……。
適当に近くに捨てると、流れずたまっちゃうから、本当面倒で……。
ウルウのインチキ《自在蔵》で丸ごと運べないかしらって言ったこともあるんだけどね、あいつ、大真面目に考えて、「これをこぼさずにここに突っ込めればあるいは……」とか言いはじめるんだけど、そりゃ無理でしょ。いくらリリオだって、中身の入ったどらむかんを傾けずに持ち上げるのは無理よ。
でもお湯だけなら、ここに注げば……とかも悩んでたんだけど、言い出した本人の顔がもう嫌そうなのよ。あたしだって、いくらでもものが入って、しかも個別に取り出せるって言っても、入浴後のお湯を荷物入れに注ぎたくはないし、その案はなかったことになった。
ウルウの妙な執念から始まったどらむかん風呂だけど、いまやあたしたち全員があれこれと意見を出し合って改良された、すばらしい一点物に仕上がってる。
これに、ウルウが買い貯めた温泉の水精晶で湯をためて、火にかけてちょうどいい湯温を保てば完璧だ。
その完璧なお風呂が、いまこのとき、汚物の洗浄に使用される。
「……………」
「なによ、あんたまだ改良点あるの?」
「いや……ここまで凝るくらいなら、普通にもっと大きな湯船作ってもよかったかもなって……」
「あー……まあ、ウルウなら持ち運べますしねえ……」
「大理石のクソデカ湯舟でも持ち運べるものねえ……」
これだけ手をかけて改良してきたどらむかん風呂も、所詮は野営用の、基本一人入浴用の湯舟。
みんなで入れないし、それどころか手足も伸ばせないし、たまにやけどするし、多少便利になったとはいえいまだに後片付けは面倒だし。
それでも、ここまで手をかけてきたのもあって、あたしたちは何度かこんな思いにとらわれながらも、どらむかん風呂を使い続けている。
奇妙な愛着と、慣れ親しんだ習慣と、そして、でっかい風呂になったらそのぶん片付けるのも面倒くさいんだろうなあという切実な思いから……。
さて、ウルウがどらむかん風呂を設置して準備が整った頃には、パールさんの食事も済んだ。
あたしたちはどらむかん風呂のまわりに竿を立て、毛布をあいだに広げて目隠しを作り、パールさんを丸洗いすることにした。
ウルウはパールさんをどらむかんに放り込むようなことはせず、大きなたらいを用意して、そこに湯を注いだ。
「なんでたらい?」
「これは経験則なんだけどね」
「フムン」
「汚れたお湯はすぐに取り換えた方が早くきれいになる」
ウルウのなにやら複雑な感情のこもった一言。
ちらりとリリオを見ると、「たははー」と笑っている。そういえば洗ってない犬の匂いがするリリオを丸洗いしたって言ってたわね。それはまた、切実な経験だろう。
あたしはこのときちょっと大げさじゃないかと思ってたんだけど、パールさんの橙色のつなぎを脱がそうとしたらなんかぬちゃっとしめったものを引きはがすような感触がして、速やかに認識を検めた。前を寛げた瞬間、一瞬気が遠くなるような、甘ったるさや酸っぱさやすえたようなにおいや生臭さやその他を混然とさせた空気が広がって、せき込む。目と喉にくる。鼻も。
くらくらしてそのままパールさんの胸元に沈みそうになったところで、ウルウの手ががっしりとあたしの首根っこを掴んで引き上げ、厚手の布で鼻から下を包んで覆ってくれた。
「い、意識が……」
「手袋もしよう。臭いが取れなくなるかもしれない」
「頼りになり過ぎる……!」
あたしたちはウルウの指導の下、鼻と口元だけじゃなく、髪もしっかりと三角巾で守り、汚れてもいい、というか率直に言って捨てていいぼろを着て、厚手の革手袋を履いて作業に取り掛かった。
そう、それはもう作業だった。
たらいに座らせたパールさんにお湯をざぶざぶと惜しみなくかけて、ぎちぎちと頑固な脂その他で固まった髪をほぐしていく。抜け毛が落ち切らずまとわりついていたのか、いままさに引っこ抜かれたのかはわかんないけど、信じられない量の抜け毛がごっそりとれる。
あたしはお湯をかけながら、油汚れってお湯じゃないと落ちないのよね、ってなんとなく思う。人間洗ってて皿洗いと同じ感想が出るとは思わなかった。
ウルウが用意してくれた大鍋に、パールさんの服を放り込んで、熱めのお湯をかけまわし、ざっくりと汚れやほこり、ごみを落とす。そうしたら一度湯を捨て、改めてきれいなお湯を注ぎ直して、浸す。そして薪に火をつけ、煮始める。もう生地がどうのなんて言ってられない。傷むとかそういう話ではなくこの服はもう終わってる。まず煮沸する。石鹸も遠慮なく削って入れる。
あたしがそうして服の鍋を見ている間、ウルウはパールさん本体を洗い始めた。服もたいがいやばかったけど、本体は相当ヤバイ。温度が高くなったことで、例の甘ったるい酸っぱい生臭いにおいが立ち上り、厚手の布も貫通してきて、ちょっとくらくらする。
命の危機を感じてるのか呼吸と動悸が乱れてやばい。死ぬ寸前は気持ちよくなるとかいう与太話が頭をよぎる。
ウルウは最初、とにかくお湯をかけた。ほこりやごみといったものをとにかく流していく。頭からざぶざぶと何度もかけ、がしがしと手櫛で髪をほぐす。
「石鹸使わないの?」
「この後たくさん使う。いまはまず表面の『層』を落とさないと」
「そっか……いま使っても、肝心の汚れまでたどり着いてないから……」
あたしたちは人間を洗う話をしている。
ある程度ごみが取れて、表面に張り付いていた完全天然素材由来の『層』がお湯でふやかされてべりべりと落ちていく。垢って層になるのね……。
ウルウが無心でわきの下などにも湯をかけていくと、また濃密なにおいがまきあがる。においがたまるところだものね……。
やがて石鹸をたっぷり使い、刷子で肌をこすりはじめるウルウ。ボロボロと垢が出る。本当の肌の色はかなり白かったのねって思うくらいに、汚れが落ちる。毛も落ちる。どこの毛とは言わないけど、なんか縮れてがびがびした毛が変な汚れと一緒に落ちていく。
あたしはくらくらしながらも鍋の湯を取り換え、火ばさみと掃除用の刷子を使って湯中の服を洗っていく。大き目のごみとか汚れがだいたい取れたら、あたしはにおいを吸わないように口で呼吸を整える。
それでもくらりときそうになりながら、歌うように言葉に力を乗せる。
「【さあさあんたら寄っといで。茶渋に汚れに食べ残し、みんな余さず持っていけ。綺麗になったあかつきにゃ、駄賃の一つもやるからね】」
お湯も石鹸も惜しまず使うから、当然浄化の術も惜しみなく使う。
とんとこ拍子をとってお鍋のふちを叩いてやれば、水が震えて、踊って、洗濯ものの繊維に潜り込んでついばむように、汚れを取っていく。
いつもなら、石鹸なんかなくたって、これひとつできれいになるのに、今日は手ごわい。立ち上る湯気は信じられないくらい濃密なにおいがして、度々意識が飛びそうになる。
それでも、湯を変えるたびに、それは着実に落ち着いていった。
あたしたちが奮闘してる間、リリオは遊んでいたわけじゃなかった。
あたしとウルウが惜しみなく使い続けるお湯が途切れないよう、どらむかんに追加の温泉水精晶を砕き入れ、火加減を見て、そしてその合間に三頭の蜜熊蜂の相手をしてた。
「この蜜熊蜂というのはこのあたりの固有種の熊だそうです。大きさは大型犬くらいですけれど……おおっ、熊らしく力強いですね。じゃれつく感じですけど、見た目よりだいぶ強いです。六つ足ですけれど、前の四本は器用で作業にも使えて、後ろ足二本で歩くことも多いようです」
「小さいけど熊……なんだね」
「熊も大小さまざまですね。この子たちは熊とも蜜蜂ともいえる蟲獣です。十頭から最大五十頭未満の群れを作り、巣は作りませんが、自然の洞窟や、他の動物の作った巣穴を利用することはあるようです」
「社会性がある……ってほどでもないのか。単に近くで暮らしてる感じかな」
「そうですね、そのほうが身を守りやすい、という程度でしょう。草食動物の群れなどと似ていますね。実際、基本の食性は草食で、大型の花や果実、昆虫類なんかを食べてるとか。また他の蜂の作る蜜も好物のようで、人里近くで群れが大きくなると、養蜂家や農家を狙って獣害が問題になるとか。あ、ひとは襲いません。でも花とか果実とか、野菜とか、巣箱も食べちゃうので」
「追い払える程度、ではあるのかな」
「村の人たちのいうところによれば、そのようです。力が強いとはいえ、身体は小さいですし、軽いですから。積極的に攻撃してくるような性質でもないと」
リリオの仕事は、お湯足しと、パールさんを心配して寄って来ようとする蜜熊蜂たちを遠ざけることと、そしてあたしたちの意識が飛ばないように延々とおしゃべりを流していることだ。いまはパールさんや村人から聞いたという蜜熊蜂の生態に関して。
あたしも適度に気がまぎれるし、リリオの声に弱いウルウには特に効き目があるようだった。
リリオは抱き上げた蜜熊蜂に刷子をかけてやりながら解説を続ける。
「えーと、あとはなんでしたっけ……基本的には森の奥のほうで暮らしている生き物で、群れが大きくなりすぎるとか、餌が不足するとか、天敵に追われるとかでもないと、あんまり人里までは出てこないようですね」
「今回はどれかな……パールさんに懐いただけかもだけど」
「野生動物ですし、そう簡単に懐くものでもないらしいですけれどね。それからえー……モフモフして、かわいいですね。わりときれい好きのようで、嫌なにおいもしません。ちょっと甘いような、蜂蜜みたいなにおいがします」
「フムン。確かに、ぬいぐるみみたいだ」
「この子たちはだいぶひと慣れして、手から餌も食べますね」
「あっ」
ふわふわもこもこの生き物にちょっと微笑んだウルウだったけど、リリオの差しだした人参にぱかりと口が横に開くのを見て、そっと目を伏せた。まあ、そうなのよね。こいつ、蟲獣だもの……。
ふわふわした黄色と黒の体毛がぬいぐるみみたいだけど、言ってみればこいつ体毛で覆われた巨大な蜜蜂なのよね。かわいいは、かわいい。愛玩動物としてほしがる人もたぶん結構いるだろう。それはそれとして、虫の特徴もあるから、ウルウがなんとも言えない顔してる。
ともあれ、だ。
リリオが三頭の蜜熊蜂を転がしている間に、あたしたちはなんとかパールさんを洗いあげた。
そのころにはすっかり日が傾いて、夕日が影を落とし、あたしたちは角灯をいくつか点さなきゃならなかった。
初夏の夕方は、ぬれねずみで佇むにはちょっと涼し過ぎる。
あたしたちは洗われ過ぎてすっかりぐったりしてしまったパールさんをふたりがかりで抱き起し、毛巾で拭き上げ、仕上げに風の術でさっぱりと乾燥させてやった。
先に洗い終えて、火にあてて乾かしていた服にも、内から外から風を吹き込んで柔らかく仕上げてやる。
服を着せてやるあいだも、パールさんはおとなしいものだった。大人しすぎるくらいだった。もう完全に介護慣れしていた。無私の愛を注がれる無垢な赤子でもここまで無防備にはなるまいというくらいだった。またぐらや尻の穴を洗われているときでさえぽややんとしているのは大物とかそういう話ではないとは思うけど。
洗われ慣れてる愛玩犬とか、たまにこういう感じになるとは聞く。
さて。
全身を数時間かけて丸洗いされ、元より数段鮮やかな橙色を見せるつなぎを着込んだパールさんは、だいぶしっかりしたように見えた。顔つきもなんだかさっぱりして晴れやかな感じもする。
あたしたちが旅の中で厳選し改良し続けてきたりんすだの化粧水だの乳液だのも惜しげなく使ったから、だいぶ人間らしくなったといってもいい。
猫背で、ぽややんとした情けない笑い方をしていて、頼りないのは変わらないけど、不思議と先刻までのような妙な庇護欲はそこまで感じない。
蜜熊蜂たちも、においがすっかり変わってしまったせいか、落ち着かない様子で近寄ったり離れたり、触覚を擦りつけるようにしてにおいをかいだりして、なんとかパールさんだというのはわかったようだ。
蜜熊蜂が嗅ぎとれたように、わずかに甘ったるいような、パールさん自身のにおいもかすかにするけど、《三輪百合》謹製の「さっぱり香りで心安らぐしりーず・初夏」の効果はなかなかのもので、こんなに野暮ったいのになんかさっぱりとした感じの香りになっている。
まあ、あれだけのにおいの塊を洗いあげたのだから、その落差のせいという気もするけど。
さすがに長時間の入浴で疲れ切ってはいるようだけど、お腹を満たして休んだらちゃんと自分の脚で立てているあたり、野歩きに慣れているのは確かなんだろう。
「さて、さっぱりしたところで、改めてご挨拶と行きましょう。私は冒険屋のリリオ。こちらは私の一党《三輪百合》のふたりです」
「トルンペートよ。リリオの武装女中でもあるわ」
「ウルウと言います。いきなり丸洗いしてごめんなさい。どうしても無理だったので」
「あんたのそれは謝ってんのかなんなのか……」
「いえいえぇ、おかげさまでさっぱりしたのですぅ。パール、と申しますぅ」
パールさんはなんともぽややんとした、独特の間でそう名乗った。
「それで、パールさんはなんでまた行き倒れなんてしてたのかしら?」
「いやはやぁ、もっと早く帰ってくるつもりだったんですけれどぉ、ついついこう……夢中になってしまってですねぇ」
「はあ、夢中になってしまったんですねえ」
「そうなんですよぉ。はあぁ……こんなことがあるんだぁ、おもしろいなぁ、ってぇ……」
「そう、なんですねぇ……」
要領を得ないぽややんとした話を根気強く聴取したところ、緊張感のない気の抜けた声で語られたのは、わりと緊張しなければならない大ごとの予感だった。
「フムン……つまり、予定通り森の奥に生態調査に行ったところ、最近村に出没する大型の熊の痕跡を発見して、ついつい深入りしてしまった結果、予定を大幅に超過してしまい、気づいたらお腹が減り過ぎて動けなくなり、蜜熊蜂たちに引きずられて帰ってきた、と」
「そうなんですよぉ」
「たったこれだけを聞き出すのに三十分かかったんだけど?」
「だいぶ気が長くなったわよねえ、あたしたちも」
その大型の熊の名は、羆蜂。
本来単独で行動するはずの肉食の熊が、群れをなし巣作りをはじめているというのが、流れの学者パールのもたらした一大事だった。
「言うタイミングいくらでもなかった?」
それはそう。
用語解説
・どらむかん風呂
・巨大な金属の筒
もとはゲーム内アイテム《ドラム缶(輸送用)》をDIYしたもの。
特別な効果はなく、液体系のアイテムを大量に収納するためのアイテム。なお(輸送用)とあることからわかるように、《ドラム缶(戦闘用)》ももちろん別にある。
『不思議な話でな。なぜか時々押したくなる時がある。妙に懐かしく感じる時がな』
・蜜熊蜂(Ursoabelo)
ミツクマバチ。東部固有種。大型の蜜蜂。小型の熊。
黄色と黒の体毛に覆われた六肢生物で、大型犬程度の大きさ。羽はない。
花・果実・樹液などを主に食べ、昆虫類も食べる。数頭から五十頭未満で集まり、餌を分け合ったり巣穴を分け合ったり緩やかな群れを形成する。
パールに懐いた三頭はそれぞれロレンツォ、ロレイン、ラングストロスと名付けられ、きちんと自分の名前を認識して聞き分けることができる。かしこい。なおパール本人は見分けがついていない。かしこくない。
書籍ネタバレ感想などは活動報告や作者マシュマロなどにどうぞ。
前回のあらすじ
くちゃい。
おとぎ話の魔女が鍋でなにか煮こんでても、ここまで鬼気迫る感じではないと思う。
場所を移して水はけのよい川辺にて。
ウルウがいつものどらむかん風呂の一式を構築して、一心不乱に火の調整をしていた。
私たちも毎日お世話になるこのどらむかん風呂、ウルウの執念が毎回の面倒くさい設置をかなえているけど、それでもやっぱり大変は大変なので、いままでに何度も改修が施されてて、いまや気が向いたらすぐに設置して十分以内にお風呂に入れるようになっていた。
本体であるどらむかんは巨大な金属缶で、だいたい三呎ないくらい。そんなにおっきくはないわ。精々腰くらいの高さ。
ちびっちゃいリリオと小柄なあたしが、ぎゅっとつめて二人一緒に入れるくらい。ウルウとリリオだったら、ぎゅうっと抱きしめあれば、なんとか入れるかも。ウルウ一人でもちょっと窮屈そうだものね。
最初はこれを石で組んだ竈の上に置いて火にかけてたんだけど、不安定で危ない、いちいちかまど組むのも大変ってことで、ウルウが鍛冶屋に頼んで金属の脚を付けた。がっちりとした幅広の脚に、やわめの地面なら食い込む爪もついてる。地面に釘を打って固定するための穴もついてる。
それで、これはあたしが気づいたんだけど、火が外側に飛び出ると出入りの時に足が焼けちゃうから、片方だけ金属の覆いをつけた。反対側は火の調整のためにもあけてるから、出入りするときは、ちゃんと降り口を確かめないといけない。
それからリリオからは高さも問題だって意見が出た。
ウルウからするとちょっとちっちゃかったなっていう感じらしいけど、ちびのリリオと小柄なあたしからすると、入るときに苦労するのよ。
そんなに大きくないとは言っても、腰くらいの高さはあるし、足の分だけもうちょっと高くなってるから、ひょいと上がり込むってわけにはいかない。
だから、折り畳みできる脚立も用意した。濡れた足でも大丈夫なように、滑り止め付きだ。
中に入るときは、湯舟っていうか、このどらむかんのふちを掴んで入るんだけど、以外にもふちは熱くならない。お鍋みたいに火にかけてるけど、お鍋よりも大きいから、上の方までは熱くならない。なっても、お湯の温度以上には、熱くならない。
御屋形で使うような大鍋も、いくらぐつぐつ煮立てていたって、鍋肌は燃えている火ほどは熱くならない。それが、心地よく浸かれる程度の湯しか沸かしてないってんなら、なるほどそりゃ熱くもならないわよ。
まあ、なんでかウルウがいちばんおもしろがってたけど。
ふちは熱くない、でもじゃあ火にかけられてる底はすごく熱いんじゃなかろうかって、まあ、それはそうなのよ。もちろん。なにも考えずにはいると、火傷するわね。
だからウルウは、踏んでも大丈夫なように、ちょうどの大きさになるように木の板を切って、これを沈めた。最初は単純だったそれも段々立派になってきて、沈めやすいように、お湯が抜ける隙間ができるようにして板材を組み合わせたり、底だけじゃなくて、横のほうも、下はそれなりに熱いから、ある程度の高さまで板で壁を作ったり。
面倒な後処理も、下のほうに水抜き用の蛇口も取り付けたことで、だいぶやりやすくなったわ。これに護謨引きの呎でいくらってお高い管つなげて、水場に流せるのよ。
これの加工費も結構したけど、みんな喜んでお金を出したわ。なにが面倒って湯を捨てるのが一番大変だったもの……手桶とか鍋とかでかきだして……大鍋にためたら遠くに捨てに行って……。
適当に近くに捨てると、流れずたまっちゃうから、本当面倒で……。
ウルウのインチキ《自在蔵》で丸ごと運べないかしらって言ったこともあるんだけどね、あいつ、大真面目に考えて、「これをこぼさずにここに突っ込めればあるいは……」とか言いはじめるんだけど、そりゃ無理でしょ。いくらリリオだって、中身の入ったどらむかんを傾けずに持ち上げるのは無理よ。
でもお湯だけなら、ここに注げば……とかも悩んでたんだけど、言い出した本人の顔がもう嫌そうなのよ。あたしだって、いくらでもものが入って、しかも個別に取り出せるって言っても、入浴後のお湯を荷物入れに注ぎたくはないし、その案はなかったことになった。
ウルウの妙な執念から始まったどらむかん風呂だけど、いまやあたしたち全員があれこれと意見を出し合って改良された、すばらしい一点物に仕上がってる。
これに、ウルウが買い貯めた温泉の水精晶で湯をためて、火にかけてちょうどいい湯温を保てば完璧だ。
その完璧なお風呂が、いまこのとき、汚物の洗浄に使用される。
「……………」
「なによ、あんたまだ改良点あるの?」
「いや……ここまで凝るくらいなら、普通にもっと大きな湯船作ってもよかったかもなって……」
「あー……まあ、ウルウなら持ち運べますしねえ……」
「大理石のクソデカ湯舟でも持ち運べるものねえ……」
これだけ手をかけて改良してきたどらむかん風呂も、所詮は野営用の、基本一人入浴用の湯舟。
みんなで入れないし、それどころか手足も伸ばせないし、たまにやけどするし、多少便利になったとはいえいまだに後片付けは面倒だし。
それでも、ここまで手をかけてきたのもあって、あたしたちは何度かこんな思いにとらわれながらも、どらむかん風呂を使い続けている。
奇妙な愛着と、慣れ親しんだ習慣と、そして、でっかい風呂になったらそのぶん片付けるのも面倒くさいんだろうなあという切実な思いから……。
さて、ウルウがどらむかん風呂を設置して準備が整った頃には、パールさんの食事も済んだ。
あたしたちはどらむかん風呂のまわりに竿を立て、毛布をあいだに広げて目隠しを作り、パールさんを丸洗いすることにした。
ウルウはパールさんをどらむかんに放り込むようなことはせず、大きなたらいを用意して、そこに湯を注いだ。
「なんでたらい?」
「これは経験則なんだけどね」
「フムン」
「汚れたお湯はすぐに取り換えた方が早くきれいになる」
ウルウのなにやら複雑な感情のこもった一言。
ちらりとリリオを見ると、「たははー」と笑っている。そういえば洗ってない犬の匂いがするリリオを丸洗いしたって言ってたわね。それはまた、切実な経験だろう。
あたしはこのときちょっと大げさじゃないかと思ってたんだけど、パールさんの橙色のつなぎを脱がそうとしたらなんかぬちゃっとしめったものを引きはがすような感触がして、速やかに認識を検めた。前を寛げた瞬間、一瞬気が遠くなるような、甘ったるさや酸っぱさやすえたようなにおいや生臭さやその他を混然とさせた空気が広がって、せき込む。目と喉にくる。鼻も。
くらくらしてそのままパールさんの胸元に沈みそうになったところで、ウルウの手ががっしりとあたしの首根っこを掴んで引き上げ、厚手の布で鼻から下を包んで覆ってくれた。
「い、意識が……」
「手袋もしよう。臭いが取れなくなるかもしれない」
「頼りになり過ぎる……!」
あたしたちはウルウの指導の下、鼻と口元だけじゃなく、髪もしっかりと三角巾で守り、汚れてもいい、というか率直に言って捨てていいぼろを着て、厚手の革手袋を履いて作業に取り掛かった。
そう、それはもう作業だった。
たらいに座らせたパールさんにお湯をざぶざぶと惜しみなくかけて、ぎちぎちと頑固な脂その他で固まった髪をほぐしていく。抜け毛が落ち切らずまとわりついていたのか、いままさに引っこ抜かれたのかはわかんないけど、信じられない量の抜け毛がごっそりとれる。
あたしはお湯をかけながら、油汚れってお湯じゃないと落ちないのよね、ってなんとなく思う。人間洗ってて皿洗いと同じ感想が出るとは思わなかった。
ウルウが用意してくれた大鍋に、パールさんの服を放り込んで、熱めのお湯をかけまわし、ざっくりと汚れやほこり、ごみを落とす。そうしたら一度湯を捨て、改めてきれいなお湯を注ぎ直して、浸す。そして薪に火をつけ、煮始める。もう生地がどうのなんて言ってられない。傷むとかそういう話ではなくこの服はもう終わってる。まず煮沸する。石鹸も遠慮なく削って入れる。
あたしがそうして服の鍋を見ている間、ウルウはパールさん本体を洗い始めた。服もたいがいやばかったけど、本体は相当ヤバイ。温度が高くなったことで、例の甘ったるい酸っぱい生臭いにおいが立ち上り、厚手の布も貫通してきて、ちょっとくらくらする。
命の危機を感じてるのか呼吸と動悸が乱れてやばい。死ぬ寸前は気持ちよくなるとかいう与太話が頭をよぎる。
ウルウは最初、とにかくお湯をかけた。ほこりやごみといったものをとにかく流していく。頭からざぶざぶと何度もかけ、がしがしと手櫛で髪をほぐす。
「石鹸使わないの?」
「この後たくさん使う。いまはまず表面の『層』を落とさないと」
「そっか……いま使っても、肝心の汚れまでたどり着いてないから……」
あたしたちは人間を洗う話をしている。
ある程度ごみが取れて、表面に張り付いていた完全天然素材由来の『層』がお湯でふやかされてべりべりと落ちていく。垢って層になるのね……。
ウルウが無心でわきの下などにも湯をかけていくと、また濃密なにおいがまきあがる。においがたまるところだものね……。
やがて石鹸をたっぷり使い、刷子で肌をこすりはじめるウルウ。ボロボロと垢が出る。本当の肌の色はかなり白かったのねって思うくらいに、汚れが落ちる。毛も落ちる。どこの毛とは言わないけど、なんか縮れてがびがびした毛が変な汚れと一緒に落ちていく。
あたしはくらくらしながらも鍋の湯を取り換え、火ばさみと掃除用の刷子を使って湯中の服を洗っていく。大き目のごみとか汚れがだいたい取れたら、あたしはにおいを吸わないように口で呼吸を整える。
それでもくらりときそうになりながら、歌うように言葉に力を乗せる。
「【さあさあんたら寄っといで。茶渋に汚れに食べ残し、みんな余さず持っていけ。綺麗になったあかつきにゃ、駄賃の一つもやるからね】」
お湯も石鹸も惜しまず使うから、当然浄化の術も惜しみなく使う。
とんとこ拍子をとってお鍋のふちを叩いてやれば、水が震えて、踊って、洗濯ものの繊維に潜り込んでついばむように、汚れを取っていく。
いつもなら、石鹸なんかなくたって、これひとつできれいになるのに、今日は手ごわい。立ち上る湯気は信じられないくらい濃密なにおいがして、度々意識が飛びそうになる。
それでも、湯を変えるたびに、それは着実に落ち着いていった。
あたしたちが奮闘してる間、リリオは遊んでいたわけじゃなかった。
あたしとウルウが惜しみなく使い続けるお湯が途切れないよう、どらむかんに追加の温泉水精晶を砕き入れ、火加減を見て、そしてその合間に三頭の蜜熊蜂の相手をしてた。
「この蜜熊蜂というのはこのあたりの固有種の熊だそうです。大きさは大型犬くらいですけれど……おおっ、熊らしく力強いですね。じゃれつく感じですけど、見た目よりだいぶ強いです。六つ足ですけれど、前の四本は器用で作業にも使えて、後ろ足二本で歩くことも多いようです」
「小さいけど熊……なんだね」
「熊も大小さまざまですね。この子たちは熊とも蜜蜂ともいえる蟲獣です。十頭から最大五十頭未満の群れを作り、巣は作りませんが、自然の洞窟や、他の動物の作った巣穴を利用することはあるようです」
「社会性がある……ってほどでもないのか。単に近くで暮らしてる感じかな」
「そうですね、そのほうが身を守りやすい、という程度でしょう。草食動物の群れなどと似ていますね。実際、基本の食性は草食で、大型の花や果実、昆虫類なんかを食べてるとか。また他の蜂の作る蜜も好物のようで、人里近くで群れが大きくなると、養蜂家や農家を狙って獣害が問題になるとか。あ、ひとは襲いません。でも花とか果実とか、野菜とか、巣箱も食べちゃうので」
「追い払える程度、ではあるのかな」
「村の人たちのいうところによれば、そのようです。力が強いとはいえ、身体は小さいですし、軽いですから。積極的に攻撃してくるような性質でもないと」
リリオの仕事は、お湯足しと、パールさんを心配して寄って来ようとする蜜熊蜂たちを遠ざけることと、そしてあたしたちの意識が飛ばないように延々とおしゃべりを流していることだ。いまはパールさんや村人から聞いたという蜜熊蜂の生態に関して。
あたしも適度に気がまぎれるし、リリオの声に弱いウルウには特に効き目があるようだった。
リリオは抱き上げた蜜熊蜂に刷子をかけてやりながら解説を続ける。
「えーと、あとはなんでしたっけ……基本的には森の奥のほうで暮らしている生き物で、群れが大きくなりすぎるとか、餌が不足するとか、天敵に追われるとかでもないと、あんまり人里までは出てこないようですね」
「今回はどれかな……パールさんに懐いただけかもだけど」
「野生動物ですし、そう簡単に懐くものでもないらしいですけれどね。それからえー……モフモフして、かわいいですね。わりときれい好きのようで、嫌なにおいもしません。ちょっと甘いような、蜂蜜みたいなにおいがします」
「フムン。確かに、ぬいぐるみみたいだ」
「この子たちはだいぶひと慣れして、手から餌も食べますね」
「あっ」
ふわふわもこもこの生き物にちょっと微笑んだウルウだったけど、リリオの差しだした人参にぱかりと口が横に開くのを見て、そっと目を伏せた。まあ、そうなのよね。こいつ、蟲獣だもの……。
ふわふわした黄色と黒の体毛がぬいぐるみみたいだけど、言ってみればこいつ体毛で覆われた巨大な蜜蜂なのよね。かわいいは、かわいい。愛玩動物としてほしがる人もたぶん結構いるだろう。それはそれとして、虫の特徴もあるから、ウルウがなんとも言えない顔してる。
ともあれ、だ。
リリオが三頭の蜜熊蜂を転がしている間に、あたしたちはなんとかパールさんを洗いあげた。
そのころにはすっかり日が傾いて、夕日が影を落とし、あたしたちは角灯をいくつか点さなきゃならなかった。
初夏の夕方は、ぬれねずみで佇むにはちょっと涼し過ぎる。
あたしたちは洗われ過ぎてすっかりぐったりしてしまったパールさんをふたりがかりで抱き起し、毛巾で拭き上げ、仕上げに風の術でさっぱりと乾燥させてやった。
先に洗い終えて、火にあてて乾かしていた服にも、内から外から風を吹き込んで柔らかく仕上げてやる。
服を着せてやるあいだも、パールさんはおとなしいものだった。大人しすぎるくらいだった。もう完全に介護慣れしていた。無私の愛を注がれる無垢な赤子でもここまで無防備にはなるまいというくらいだった。またぐらや尻の穴を洗われているときでさえぽややんとしているのは大物とかそういう話ではないとは思うけど。
洗われ慣れてる愛玩犬とか、たまにこういう感じになるとは聞く。
さて。
全身を数時間かけて丸洗いされ、元より数段鮮やかな橙色を見せるつなぎを着込んだパールさんは、だいぶしっかりしたように見えた。顔つきもなんだかさっぱりして晴れやかな感じもする。
あたしたちが旅の中で厳選し改良し続けてきたりんすだの化粧水だの乳液だのも惜しげなく使ったから、だいぶ人間らしくなったといってもいい。
猫背で、ぽややんとした情けない笑い方をしていて、頼りないのは変わらないけど、不思議と先刻までのような妙な庇護欲はそこまで感じない。
蜜熊蜂たちも、においがすっかり変わってしまったせいか、落ち着かない様子で近寄ったり離れたり、触覚を擦りつけるようにしてにおいをかいだりして、なんとかパールさんだというのはわかったようだ。
蜜熊蜂が嗅ぎとれたように、わずかに甘ったるいような、パールさん自身のにおいもかすかにするけど、《三輪百合》謹製の「さっぱり香りで心安らぐしりーず・初夏」の効果はなかなかのもので、こんなに野暮ったいのになんかさっぱりとした感じの香りになっている。
まあ、あれだけのにおいの塊を洗いあげたのだから、その落差のせいという気もするけど。
さすがに長時間の入浴で疲れ切ってはいるようだけど、お腹を満たして休んだらちゃんと自分の脚で立てているあたり、野歩きに慣れているのは確かなんだろう。
「さて、さっぱりしたところで、改めてご挨拶と行きましょう。私は冒険屋のリリオ。こちらは私の一党《三輪百合》のふたりです」
「トルンペートよ。リリオの武装女中でもあるわ」
「ウルウと言います。いきなり丸洗いしてごめんなさい。どうしても無理だったので」
「あんたのそれは謝ってんのかなんなのか……」
「いえいえぇ、おかげさまでさっぱりしたのですぅ。パール、と申しますぅ」
パールさんはなんともぽややんとした、独特の間でそう名乗った。
「それで、パールさんはなんでまた行き倒れなんてしてたのかしら?」
「いやはやぁ、もっと早く帰ってくるつもりだったんですけれどぉ、ついついこう……夢中になってしまってですねぇ」
「はあ、夢中になってしまったんですねえ」
「そうなんですよぉ。はあぁ……こんなことがあるんだぁ、おもしろいなぁ、ってぇ……」
「そう、なんですねぇ……」
要領を得ないぽややんとした話を根気強く聴取したところ、緊張感のない気の抜けた声で語られたのは、わりと緊張しなければならない大ごとの予感だった。
「フムン……つまり、予定通り森の奥に生態調査に行ったところ、最近村に出没する大型の熊の痕跡を発見して、ついつい深入りしてしまった結果、予定を大幅に超過してしまい、気づいたらお腹が減り過ぎて動けなくなり、蜜熊蜂たちに引きずられて帰ってきた、と」
「そうなんですよぉ」
「たったこれだけを聞き出すのに三十分かかったんだけど?」
「だいぶ気が長くなったわよねえ、あたしたちも」
その大型の熊の名は、羆蜂。
本来単独で行動するはずの肉食の熊が、群れをなし巣作りをはじめているというのが、流れの学者パールのもたらした一大事だった。
「言うタイミングいくらでもなかった?」
それはそう。
用語解説
・どらむかん風呂
・巨大な金属の筒
もとはゲーム内アイテム《ドラム缶(輸送用)》をDIYしたもの。
特別な効果はなく、液体系のアイテムを大量に収納するためのアイテム。なお(輸送用)とあることからわかるように、《ドラム缶(戦闘用)》ももちろん別にある。
『不思議な話でな。なぜか時々押したくなる時がある。妙に懐かしく感じる時がな』
・蜜熊蜂(Ursoabelo)
ミツクマバチ。東部固有種。大型の蜜蜂。小型の熊。
黄色と黒の体毛に覆われた六肢生物で、大型犬程度の大きさ。羽はない。
花・果実・樹液などを主に食べ、昆虫類も食べる。数頭から五十頭未満で集まり、餌を分け合ったり巣穴を分け合ったり緩やかな群れを形成する。
パールに懐いた三頭はそれぞれロレンツォ、ロレイン、ラングストロスと名付けられ、きちんと自分の名前を認識して聞き分けることができる。かしこい。なおパール本人は見分けがついていない。かしこくない。


