※このお話は、書籍三巻でちょっぴり描写の増えたガルディストのセリフのみで進行します。
書籍三巻を読んでいなくても「男女逆転種族の中で『女装』して『女勝り』な苦労性若作りおじさん」という概念が理解できれば特に問題ありませんが、書籍をお読みのうえでご覧いただくとより一層お楽しみいただけることと思います。
なお、ガルディストが誰だったか覚えていない方は本編第三章の内容を、概念が理解できない方は姉弟作「異界転生譚シールド・アンド・マジック」でヘキをおさらいしておくと飲み込みやすいかもしれません。
本当は書籍の特典SSにしようと思っていましたが、書き終えた後に「WEB版読者ですらついてこれない可能性があるのに……?」と正気に戻ったため差し替えとなりました。WEB版読者の皆様には正気を捨ててお付き合いいただければさいわいです。
よしなに。
お?
おーっす。なんていったか……そうそう、「(任意の名前)」だ。
今日も朝から犬探しかい? 新入りは大変だねえ。
まあでも新入りはそういう雑用からってのがお決まりってもんさ。いきなり華々しい活躍ってのはな、なかなかできるもんじゃないし、するもんでもない。
ええ? 俺かい?
そりゃあ、おっさんだって若いころは犬探しとかしてたもんさ。
犬探しだとか、どぶさらいだとか………………したような……してないような………。
いやまあ、おっさんはほら、メザーガに引き抜かれて冒険屋はじめたくちだからな。そういう下積みはなあ、まあ、なかったかもしれんな。
いや、うらやむ話でもないんだ。そりゃあ、若いお前さんからすると犬探しだのどぶさらいだので青春をすり潰してる気持ちにもなるかもしれんが、そういう経験があるかどうかってのは、後々活きてくるもんさ。
町中を駆け回れば土地鑑もついてくるし、体力もつく。生き物のあつかいを覚えりゃあ、他所で別の生き物を相手にしたときにも役立つ。
たぶんな。
しかたないだろ。俺はやったことないからな。
いやあ……だってなあ。俺はもともと冒険屋なんぞやるつもりはなかったんだ。だからって別にやりたいことがあったわけでもないが……ああ、うん。知ってんのな。読んだのか? あの、メザーガの自伝。ああそう……それでこの事務所に……そりゃまた、なんというか、だな。
あいつも大枚はたいて書いてもらったから、読み物としちゃそりゃ悪くないかもしれんが……。
いや、まあ、間違ってはいないな。そうだ。まあちょっぴりメザーガの野郎が正義漢みたいに描かれてるが、おおむねそんな感じだな。
土蜘蛛社会に馴染めず、男だからって箱入りに育てられるのが気に喰わんで、まあ、なんだ。悪さしてたのさ。悪ガキだった。不良だったのさ。
…………いや知ってんのかい!
夢こわすかと思ってぼかした意味がなかったな……まあ、そうだよ。ありゃ犯罪だったさ。売春だの盗みだの美人局だの、まあ非力な男でも困らん商売だったな。
人族の男ってのは、なんでかね、土蜘蛛の女より男の方が魅力的みたいでな。性別の役割っつうか、そのあたりが逆転してるからな。突っ込もうと思えば突っ込めるし、まあ、手も足も多いから、人族じゃできん遊びもできるしな。
…………変な目で見るない。
まあ、そりゃ金のためだけにそんなことしても楽しくはないから、俺のほうでも楽しむ努力はしてたけどよ。もっぱら稼ぎは盗みのほうだよ。ちょいと楽しくおしゃべりして、酒に一服盛ってやって、財布だけいただき。まあケチな小悪党だったな。
そうそう、それでさすがに顔が割れちまって、そろそろヤサを変えるかってころに、メザーガが来やがった。
ありゃあ、十六、七のころだったかね。ってことはもう二十年も前か。俺もおっさんになるわけだよ。へっ、よせやい、おっさんをおだててもなんにも出やしねえぞ。
あいつの自伝じゃなんかこう、酒場で一服盛ってきた俺に説教垂れて改心させたとかそんな感じだっただろう。違うのかって、そりゃ違うね。全然違う。あいつも後ろめたいことくらいは隠すさ。
なんか腹立ってきたな。よし、聞け、聞けよ若者。
もとはと言えば俺の常連だよ。俺の常連の人族のじいさんがいてだな。金払いはいいし、年だからってはやく済むからいい客だったな。指はいささかねちっこかったが……。
気になるか? まあそこは本題じゃねえんだ。
その常連がなかなか盛り場に出てこねえな、いい客でもいねえかなってさがしてたら、あいつだよ。メザーガだ。あいつ俺の常連にコナかけてやがったんだ。常連も悪くねえって顔しやがる。あいつ俺みたいな細っこいのがかわいいとか言ってたくせに、メザーガにまんざらでもねえ顔してたんだぞ!
まあ、当時のメザーガも、十……八くらいか? まあ紅顔の美少年っていうにゃあちょいとトウが立ってたが、あいつ、顔がいいだろ。あの頃はひげも薄かったしな。南部風の色っぽい肌色に、ちょいと危うい気配のする若者ってなあ……まあ、ありゃ魔性だよな。いまでも? まあ、いまでも釣ろうと思えば釣れるだろ。
俺は自分の顔の良さを知ってるし、手練手管も磨いてたがよ、あいつ、あの野郎は、天然なんだよなあ。顔もいいし、それも知ってるけどよ、その売り方ってのはその場その場で変幻自在さ。相手の反応見てよ、どういうのが受けるかってのを雰囲気で察してなんとなーく繰り出してきやがるんだ。野郎は剣の応用だなんだというが、そんな淫蕩な剣法があってたまるかよ。
それで、まあ客を取られたなって踵をかえしゃあよかったんだが、野郎、こっちに気づいて、笑いやがったのさ。常連もまあ、俺に気づいて気まずい顔するんだよ。お前、この野郎、気づかねえ振りしたら流してやったものを、ばっちり目があっちまったらお前、なあ?
それで常連挟んでああだこうだ言い合ってたらよ、常連のほうが、じゃあ二人一緒にとか言い出すわけだよ。いやまったく助平な爺だった。立ちも悪い癖に欲は衰えやがらねえ。
それでどうしたかっていったらよ、傑作だったね。
俺とメザーガはお互い目を合わせてよ、それで通じちまった。この悪党が、ってな。なんだかんだと嫌がるそぶり見せて、常連に値を吊り上げさせてやってよ。
あんときはいい稼ぎになるとほくほく顔だったんだがよ。
ところがなあ、結局はまあ、あれが運の尽きだったな。
宿にしけこんで、さあお楽しみってころに、ぬうっと御坊が顔を出したのさ。
ウールソだよ、ウールソの御坊だ。当時はまだ三十ばかりで、脂ののった強面の大男さ。獣化程度はぼちぼちたあいえ、熊の獣人だぜ? それがむっつりのっそり部屋に上がり込んでくるんだから、そりゃあびびったもんさ。
御坊もいまじゃあ好々爺でございみたいな顔してるがよ、あの頃はまあ、おっかねえ人だったぜ。顔がよ。いっつも眉間にしわ寄ってて、笑う時も牙むき出しだもんな。
俺もびびったし、常連なんかまあ、声にもならねえ悲鳴を上げてよ。男子供じゃねえんだからよって。ちょいとおかしいくらいだった。
メザーガはひとりケロッとしてて、悪びれもせずに薄っぺらい謝罪なんか言いやがる。「悪い、悪い。路銀をスッちまったんでな。手早く稼ごうと思ってだな」「稼ぎ方にケチをつけるつもりはないが……臭うぞ」とかなんとかよ。
メザーガはあれで好きもん……なんて吹聴するもんでもねえか、まあ、楽しんで働く男だったから、まあ全然そんなつもりはなかったし、御坊だってどっちかといやあ呆れてる具合だったんだがな。
常連が、すっかりびびっちまって、「美人局か!」っつってな、裸んぼのまんま、手近なものだけひっつかんで逃げちまってよ。
どうすんだよ、今夜のアガリがパアじゃねえかって。
それで、もめてるうちに衛兵が来ちまったんだよなあ。
え? そりゃ、そうだよ。自伝に書けるわけねえだろ。なんだったか……俺を改心させた後は、心機一転新たな町へ……みたいな感じだったか? へっ、そんな静かな旅立ちじゃあなかったな。
俺も俺でいい加減悪さが過ぎて、手配書が回ってたみたいでよ。もう町にはいられなかった。
メザーガはメザーガで、闇賭場でいざこざおこして、二、三人切ってきたってんだよ。あいつ、その足で平和的に金稼ごうとしてやにさがった爺に声かけてんだよ。コワ過ぎんだろその倫理観。
御坊は御坊で、メザーガとつるむ前に随分な狼藉してたみてえでよ。あのあたりじゃ賞金付きのお尋ね者だったとかよ。
なしくずしみてえに三人で町から逃げる羽目になってなあ……。
ってか、俺は喧嘩なんかからっきしだったからな。御坊の背中にしがみついて、嵐みてえに暴れまわるのになんとかついてったってえ具合さ。
それで、逃げて、逃げて……町から離れて、山小屋を見つけてよ。とりあえずここで休もうぜってなってな。御坊が適当に戸を突き破ろうとしやがるもんだから、風が吹き込むだろうがってよ、俺がまあ、鍵をちょいちょいしてな。
やらなきゃよかったといまは思うぜ。あれで手先の器用さを見込まれてな、ほとんど無理やり俺はメザーガの一党に仲間入りってわけだ。
慣れねえ喧嘩も教え込まれるわ、体力作りだとか言って一日中走らされるわ、盗賊のアジトに忍び込んで鍵を開け続けたり、見つかって大立ち回りする羽目になったり……よく生きてたな俺。
ご褒美でもありゃよかったんだがね。あいつらは人使いが荒いぜまったく。メザーガとたまに路銀稼ぎすることはあったが、無駄に体力あるから俺のほうが持たねえ。御坊はご立派だが、これまた俺のほうが持たねえ。
そんなだから、俺は早々に分別ってもんがついてな、メザーガの野郎を止めることのほうが増えていったもんさ。
いや、若かったなあ……。
おっと、すまんな、なんだか幻滅させちまったか……あ? むしろ興奮する? 脳がべきべきになる? お前さん、もうちょっとこう、なあ……。
よせよせ、俺ぁもうおっさんだぜ。そりゃいい加減独り身も寂しいがよ……。
やめとけやめとけ。いくら若いっつっても、お前さんはまだまだ鼻たれの未熟もんだ。せめて一晩はもつくらいに鍛えてくれんとな……。
ま、精々頑張りな。おっさんは適当にぷらついて、一杯ひっかけてくらあ。
用語解説
・ガルディスト・ブルエーヂョ(Gardisto Blueĝo)
土蜘蛛。地潜氏族。男性。三十七歳。野伏。メザーガを筆頭とする冒険屋一党《一の盾》の渉外担当。若々しい見た目と服装、軽薄に見える態度だが、問題児ばかりの一党の中では常識人で苦労人。その見た目の良さを活かした交渉をしてこなかったわけではないが、どちらかというと若いころのメザーガをたしなめて止める方が多かった。正直もう引退したい。
書籍三巻を読んでいなくても「男女逆転種族の中で『女装』して『女勝り』な苦労性若作りおじさん」という概念が理解できれば特に問題ありませんが、書籍をお読みのうえでご覧いただくとより一層お楽しみいただけることと思います。
なお、ガルディストが誰だったか覚えていない方は本編第三章の内容を、概念が理解できない方は姉弟作「異界転生譚シールド・アンド・マジック」でヘキをおさらいしておくと飲み込みやすいかもしれません。
本当は書籍の特典SSにしようと思っていましたが、書き終えた後に「WEB版読者ですらついてこれない可能性があるのに……?」と正気に戻ったため差し替えとなりました。WEB版読者の皆様には正気を捨ててお付き合いいただければさいわいです。
よしなに。
お?
おーっす。なんていったか……そうそう、「(任意の名前)」だ。
今日も朝から犬探しかい? 新入りは大変だねえ。
まあでも新入りはそういう雑用からってのがお決まりってもんさ。いきなり華々しい活躍ってのはな、なかなかできるもんじゃないし、するもんでもない。
ええ? 俺かい?
そりゃあ、おっさんだって若いころは犬探しとかしてたもんさ。
犬探しだとか、どぶさらいだとか………………したような……してないような………。
いやまあ、おっさんはほら、メザーガに引き抜かれて冒険屋はじめたくちだからな。そういう下積みはなあ、まあ、なかったかもしれんな。
いや、うらやむ話でもないんだ。そりゃあ、若いお前さんからすると犬探しだのどぶさらいだので青春をすり潰してる気持ちにもなるかもしれんが、そういう経験があるかどうかってのは、後々活きてくるもんさ。
町中を駆け回れば土地鑑もついてくるし、体力もつく。生き物のあつかいを覚えりゃあ、他所で別の生き物を相手にしたときにも役立つ。
たぶんな。
しかたないだろ。俺はやったことないからな。
いやあ……だってなあ。俺はもともと冒険屋なんぞやるつもりはなかったんだ。だからって別にやりたいことがあったわけでもないが……ああ、うん。知ってんのな。読んだのか? あの、メザーガの自伝。ああそう……それでこの事務所に……そりゃまた、なんというか、だな。
あいつも大枚はたいて書いてもらったから、読み物としちゃそりゃ悪くないかもしれんが……。
いや、まあ、間違ってはいないな。そうだ。まあちょっぴりメザーガの野郎が正義漢みたいに描かれてるが、おおむねそんな感じだな。
土蜘蛛社会に馴染めず、男だからって箱入りに育てられるのが気に喰わんで、まあ、なんだ。悪さしてたのさ。悪ガキだった。不良だったのさ。
…………いや知ってんのかい!
夢こわすかと思ってぼかした意味がなかったな……まあ、そうだよ。ありゃ犯罪だったさ。売春だの盗みだの美人局だの、まあ非力な男でも困らん商売だったな。
人族の男ってのは、なんでかね、土蜘蛛の女より男の方が魅力的みたいでな。性別の役割っつうか、そのあたりが逆転してるからな。突っ込もうと思えば突っ込めるし、まあ、手も足も多いから、人族じゃできん遊びもできるしな。
…………変な目で見るない。
まあ、そりゃ金のためだけにそんなことしても楽しくはないから、俺のほうでも楽しむ努力はしてたけどよ。もっぱら稼ぎは盗みのほうだよ。ちょいと楽しくおしゃべりして、酒に一服盛ってやって、財布だけいただき。まあケチな小悪党だったな。
そうそう、それでさすがに顔が割れちまって、そろそろヤサを変えるかってころに、メザーガが来やがった。
ありゃあ、十六、七のころだったかね。ってことはもう二十年も前か。俺もおっさんになるわけだよ。へっ、よせやい、おっさんをおだててもなんにも出やしねえぞ。
あいつの自伝じゃなんかこう、酒場で一服盛ってきた俺に説教垂れて改心させたとかそんな感じだっただろう。違うのかって、そりゃ違うね。全然違う。あいつも後ろめたいことくらいは隠すさ。
なんか腹立ってきたな。よし、聞け、聞けよ若者。
もとはと言えば俺の常連だよ。俺の常連の人族のじいさんがいてだな。金払いはいいし、年だからってはやく済むからいい客だったな。指はいささかねちっこかったが……。
気になるか? まあそこは本題じゃねえんだ。
その常連がなかなか盛り場に出てこねえな、いい客でもいねえかなってさがしてたら、あいつだよ。メザーガだ。あいつ俺の常連にコナかけてやがったんだ。常連も悪くねえって顔しやがる。あいつ俺みたいな細っこいのがかわいいとか言ってたくせに、メザーガにまんざらでもねえ顔してたんだぞ!
まあ、当時のメザーガも、十……八くらいか? まあ紅顔の美少年っていうにゃあちょいとトウが立ってたが、あいつ、顔がいいだろ。あの頃はひげも薄かったしな。南部風の色っぽい肌色に、ちょいと危うい気配のする若者ってなあ……まあ、ありゃ魔性だよな。いまでも? まあ、いまでも釣ろうと思えば釣れるだろ。
俺は自分の顔の良さを知ってるし、手練手管も磨いてたがよ、あいつ、あの野郎は、天然なんだよなあ。顔もいいし、それも知ってるけどよ、その売り方ってのはその場その場で変幻自在さ。相手の反応見てよ、どういうのが受けるかってのを雰囲気で察してなんとなーく繰り出してきやがるんだ。野郎は剣の応用だなんだというが、そんな淫蕩な剣法があってたまるかよ。
それで、まあ客を取られたなって踵をかえしゃあよかったんだが、野郎、こっちに気づいて、笑いやがったのさ。常連もまあ、俺に気づいて気まずい顔するんだよ。お前、この野郎、気づかねえ振りしたら流してやったものを、ばっちり目があっちまったらお前、なあ?
それで常連挟んでああだこうだ言い合ってたらよ、常連のほうが、じゃあ二人一緒にとか言い出すわけだよ。いやまったく助平な爺だった。立ちも悪い癖に欲は衰えやがらねえ。
それでどうしたかっていったらよ、傑作だったね。
俺とメザーガはお互い目を合わせてよ、それで通じちまった。この悪党が、ってな。なんだかんだと嫌がるそぶり見せて、常連に値を吊り上げさせてやってよ。
あんときはいい稼ぎになるとほくほく顔だったんだがよ。
ところがなあ、結局はまあ、あれが運の尽きだったな。
宿にしけこんで、さあお楽しみってころに、ぬうっと御坊が顔を出したのさ。
ウールソだよ、ウールソの御坊だ。当時はまだ三十ばかりで、脂ののった強面の大男さ。獣化程度はぼちぼちたあいえ、熊の獣人だぜ? それがむっつりのっそり部屋に上がり込んでくるんだから、そりゃあびびったもんさ。
御坊もいまじゃあ好々爺でございみたいな顔してるがよ、あの頃はまあ、おっかねえ人だったぜ。顔がよ。いっつも眉間にしわ寄ってて、笑う時も牙むき出しだもんな。
俺もびびったし、常連なんかまあ、声にもならねえ悲鳴を上げてよ。男子供じゃねえんだからよって。ちょいとおかしいくらいだった。
メザーガはひとりケロッとしてて、悪びれもせずに薄っぺらい謝罪なんか言いやがる。「悪い、悪い。路銀をスッちまったんでな。手早く稼ごうと思ってだな」「稼ぎ方にケチをつけるつもりはないが……臭うぞ」とかなんとかよ。
メザーガはあれで好きもん……なんて吹聴するもんでもねえか、まあ、楽しんで働く男だったから、まあ全然そんなつもりはなかったし、御坊だってどっちかといやあ呆れてる具合だったんだがな。
常連が、すっかりびびっちまって、「美人局か!」っつってな、裸んぼのまんま、手近なものだけひっつかんで逃げちまってよ。
どうすんだよ、今夜のアガリがパアじゃねえかって。
それで、もめてるうちに衛兵が来ちまったんだよなあ。
え? そりゃ、そうだよ。自伝に書けるわけねえだろ。なんだったか……俺を改心させた後は、心機一転新たな町へ……みたいな感じだったか? へっ、そんな静かな旅立ちじゃあなかったな。
俺も俺でいい加減悪さが過ぎて、手配書が回ってたみたいでよ。もう町にはいられなかった。
メザーガはメザーガで、闇賭場でいざこざおこして、二、三人切ってきたってんだよ。あいつ、その足で平和的に金稼ごうとしてやにさがった爺に声かけてんだよ。コワ過ぎんだろその倫理観。
御坊は御坊で、メザーガとつるむ前に随分な狼藉してたみてえでよ。あのあたりじゃ賞金付きのお尋ね者だったとかよ。
なしくずしみてえに三人で町から逃げる羽目になってなあ……。
ってか、俺は喧嘩なんかからっきしだったからな。御坊の背中にしがみついて、嵐みてえに暴れまわるのになんとかついてったってえ具合さ。
それで、逃げて、逃げて……町から離れて、山小屋を見つけてよ。とりあえずここで休もうぜってなってな。御坊が適当に戸を突き破ろうとしやがるもんだから、風が吹き込むだろうがってよ、俺がまあ、鍵をちょいちょいしてな。
やらなきゃよかったといまは思うぜ。あれで手先の器用さを見込まれてな、ほとんど無理やり俺はメザーガの一党に仲間入りってわけだ。
慣れねえ喧嘩も教え込まれるわ、体力作りだとか言って一日中走らされるわ、盗賊のアジトに忍び込んで鍵を開け続けたり、見つかって大立ち回りする羽目になったり……よく生きてたな俺。
ご褒美でもありゃよかったんだがね。あいつらは人使いが荒いぜまったく。メザーガとたまに路銀稼ぎすることはあったが、無駄に体力あるから俺のほうが持たねえ。御坊はご立派だが、これまた俺のほうが持たねえ。
そんなだから、俺は早々に分別ってもんがついてな、メザーガの野郎を止めることのほうが増えていったもんさ。
いや、若かったなあ……。
おっと、すまんな、なんだか幻滅させちまったか……あ? むしろ興奮する? 脳がべきべきになる? お前さん、もうちょっとこう、なあ……。
よせよせ、俺ぁもうおっさんだぜ。そりゃいい加減独り身も寂しいがよ……。
やめとけやめとけ。いくら若いっつっても、お前さんはまだまだ鼻たれの未熟もんだ。せめて一晩はもつくらいに鍛えてくれんとな……。
ま、精々頑張りな。おっさんは適当にぷらついて、一杯ひっかけてくらあ。
用語解説
・ガルディスト・ブルエーヂョ(Gardisto Blueĝo)
土蜘蛛。地潜氏族。男性。三十七歳。野伏。メザーガを筆頭とする冒険屋一党《一の盾》の渉外担当。若々しい見た目と服装、軽薄に見える態度だが、問題児ばかりの一党の中では常識人で苦労人。その見た目の良さを活かした交渉をしてこなかったわけではないが、どちらかというと若いころのメザーガをたしなめて止める方が多かった。正直もう引退したい。


