前回のあらすじ
リリオの語る旅の思い出。
トルンペートの昇格試験、オーロラを見に行ったこと、そして旅の再開。
結構話したわねえ。
これでも一年経ってないのよ、あたしたち。
リリオと一緒に辺境を出たのが初夏。雪解けの後。
境の森の手前で撒かれてる間に、ウルウとリリオが合流して、あたしもなんとかリリオを見つけ出して。
そこから、まあ、もう少しで一年ってところよね。あと四半年もしないうちじゃないかしら。つまりあたしたちは四分の三年しか一緒にいないのよ。
「八か月くらいかなあ……その間に喧嘩して、友達になって、あちこち旅して、ご両親にも挨拶して……全然そんな気しないけど、かなり駆け足だよね」
「毎日が濃密だったからでしょうか、もう七年くらいは旅しているような気持ちでしたね」
「なにその微妙に具体的な数字……」
まあ、実際あたしたちが、その、なに?
結ばれた…………のって、実質半年くらいのことだものね。体感では二年くらいに感じてたけど。
「だから何さその具体的な数字……」
「半年にしろ二年にしろ、偶然出会った相手と婚約にまでたどり着くにしてはかなり短期間ですよね」
「ややややや? お三人方はもう結婚されているのでは?」
実質結婚してるって言っていいと思うわよ。っていうか籍は入れてるのよ。
でも結婚式はまだしてないのよ。ウルウがささやかでもいいから式挙げたいってかわいらしいこと言うから、絶対するけど、まだ予定は立ってないわねえ。
「婚前交渉は捗ってあだだだだだだだッ!!!」
「ウルウさんの照れ隠しは殺意と似ていますねえ……」
さっきも言ったけど、籍自体は入れてるのよ。婚姻届けも御屋形様に届け出て。神殿にも納めてるわ。三人婚は珍しいから、受理にちょっと時間かかったけど。だから書類上はちゃんと結婚してるのよ。でも気持ちの上では、まだ落ち着いた感じじゃないわよね。
「やはり届けはおくにのフロントに?」
「そうですね。式も実家で挙げた方が楽ですし。ただまあ、お客様を招くのが大変なので、披露宴は内地でしてもいいかな、とは考えていますね。なんなら披露宴なんて何回してもいいものですし」
「私はお金もかかるしそんなに派手にしなくていいとは言うんだけど、うち、なんだかんだお金はあるから、ふたりとも張り切っててね」
これだからウルウは。
あのねえ、あんたのその控えめなところは美徳ではあるけど、世の中には大々的に派手にやらなきゃいけないこともあるの。
結婚式も披露宴も、あたしたちが結ばれたってことを世間に知らせて、世間に認めてもらう、祝福してもらうっていう大事なことなのよ?
このでっかくてかわいいのがあたしたちの嫁だから、手を出したらわかってるなっていう、そういう儀式なのよ?
「なんか後半違う気もする」
「でも実際そういう面はありますよ。結婚式を神殿で挙げるのは、神前で誓い合うということの意味の大きさがあるんですから」
「まあこの世界、ほんとに神様いるからねえ……」
まあ、そんな感じで結婚式挙げたいねっていう気持ちはあるんだけど、なにしろあたしたちってまだ若いし、旅だって続けたいし、まだ一年も一緒にいないんだからもっと仲深めたいし、準備に時間のかかる式とか披露宴のために腰落ち着けるのもねーってわけよ。
あたしたちが互いに互いの嫁なんだってことは、自分たち自身が一番わかってるんだから、それで十分。旅をすっかり楽しんで、友達とかも増やして、それから盛大に式挙げる予定よ。未定だけど。
「ややややや、そのときにはぜひともお呼びいただきたいですねえ!」
「ええ、考えておきますよ。新聞記者としてより、寫眞家としてお招きしたいですけれど」
「お任せください! 一面を飾るよい寫眞にしあげますねえ!」
「なんかスキャンダル記事みたいになりそうな予感……」
まあ、新婚旅行と言えば新婚旅行、婚前旅行と言えば婚前旅行、ウルウ風に言えばもらとりあむを楽しんで、あたしたちは東部の旅を始めたわ。
でもねえ、旅っていいことばかりってわけにはいかないじゃない?
あたしたちも気を付けてはいるし、他の冒険屋と比べても、特別に準備が悪かったとかそういうことはないと思うわ。
でもああいうのって、なにが悪いってわけでもないじゃない。
しいて言うなら、運が悪かったっていうか。
ええっと、あれはどのあたりだったかしらね。まあ、東部の森の中よ。もうほとんど山道だったかしらね。
あたしたちは一応地図を見ながら進んでたけど、まあ天狗のあんたにゃわかんないかもしれないけど、地図ってそんなに信用できるものでもなくてね。あたしたちの読み取り方も悪かったんでしょうけど。
そう、道を間違えたのよ。本当なら大き目の街道を進んできはずだったのに、舗装どころか轍の跡も怪しいような山道にはいっちゃって。
そこで引き返してもよかったんだけど、まあ道があるからにはどこかに通じるし、地図によれば森を突っ切れそうだったし、途中に村もあるみたいだったから、そのまま。
そもそもあたしたちの旅って結構行き当たりばったりだからね。
とりあえず行ってみましょってなって。
まあ悪かったって言えば、その判断が悪かったかもしれないわね。
村までの道すがら、あたしたちは……あたしとリリオは謎の熱病に倒れたわ。
「ややややや! 窮地らしい窮地がやっと!」
「いやまあ、窮地らしい窮地が本当になかったのはなんだか申し訳ないんですけれど」
「単純な暴力で解決できるなら、リリオたちってピンチにならないからね」
ほんと辛かったんだから喜ばれると腹立つけど……まあ、そうね。物語にはそういう窮地が大事よね。
ただ、問題はあたしもリリオもそれ以降ずっと熱にうかされて意識がもうろうとしてたから、詳しいことはわかんないのよね。
「ややややや、本当に窮地も窮地だったんですねえ」
「本当にね。ふたりとも倒れちゃったから、私が二人の看病して、ボイにも助けてもらって馬車を進めていったんだけど、ついにはそのボイも倒れちゃって」
「ウルウさんは大丈夫だったんですねえ」
「うん、まあ、体質っていうかね……」
まあよくわかんないけど、ウルウが頑張って村まで連れて行ってくれて、気が付いたら熱がひいて、熱病に侵されていた村も助かってたってわけよ。めでたしめでたし。
「やややややぁ……大変結構なことなんですけど、そこのところもっと詳しくですねえ……」
「二人は本当に意識もうろうとしてたからなにもわかってないよ。そして私も詳しく話す気はない。だって話したら取材に行くでしょ」
「ややや、それは、まあ、はい」
「あの村はまだ大変なんだ。周辺地域もごたごたしてるし、畑や家畜も台無し、元気になったとはいっても熱がひいただけで、なくなったものは返ってこないんだ。そんな大変な時に部外者が顔を出したって迷惑なだけだよ。だから、場所は伏す。落ち着いてきたら、そのうち村の人たちが自分たちで発信し始めるだろうさ」
「やややややぁ……そうまで言われますと、無理には聞けませんけどねえ……」
まあ、あたしたちがどうにかなっても、いざというときはウルウだけでもなんとかしてくれるってわかったのはいいことだったわ。ウルウって能力は優れてるけど、常識に疎かったり、自分から何かしたりってあんまりしないから、ちょっと不安だったのよね。
「できないわけじゃないよ。やらないだけで」
「うーん、自慢にならないようなことを自慢げに言いますね」
まあ、なんとか回復したあたしたちは、また旅をつづけたんだけど、やっぱり熱病の影響もあってか、疲れてたのよ。そういうことにしましょ。
「そうではなかったといわんばかりなんですけどねえ……」
気にしないで。
あたしたちは道中に空き家を見つけたわ。もう誰も住んでなくて、自由にしていいよって放置されてる、そういうたぐいの空き家よ。たまにあるわね。
あたしたちはちょっと中を検めて、見た目はぼろだけど掃除すればまだまだ使えそうだってわかってね。せっかくだからちょっとここで休んでいこうじゃないって、そういうことになったわ。そういうことにしとくわ。
「ややややや……ちょくちょく気になりますねえ」
いろいろあるのよ。気にしないで。あたしだって言えるところをいろいろ考えて話してんだから。
えーっと…………なんだっけ。
そうね、えー…………ほら、ウルウがきれい好きなのよ。潔癖ってくらい。それで、掃除するなら徹底的にしようってことで隅から隅まできれいに磨き上げてね。それで疲れて、しばらくここに逗留してこうじゃないかって、そういうことにした……でいいわよね。
「はい、いいと思いますよ」
「私としてはこの件自体をなかったことにして欲しいんだけど……」
「いえいえ、これも大事な思い出ですよ、ウルウ」
疲れてた……んでしょうね。あたしたちも、ウルウも。
だからまあ、思ってたよりも長逗留しちゃったけど、悪くはなかったわね。
あたしたちがついこの間熱病で苦しんでたのが、やっぱり気にはなってたんでしょうね。ゆっくり休めるようにって色々気を遣ってくれて、ごはん用意してくれたり、お風呂掃除してくれたり。
ほら、あの前掛け、かわいかったわよね。少女趣味っていうか。それがはちきれそうになってるんだからすごかったわよホント。
「ウルウ、たまにでいいですからまたあれつけませんか?」
「エプロンのこと? 絶っっっっっ対嫌だけど」
「だいぶ強めに拒否られてしまいました」
「ああいうのは『うわキツ』っていうんだよ」
「わかりますよ、それは『かわいい』の言い換えですね!」
「恣意的な認知の歪みがあるな……」
まあ、ああいう穏やかな暮らしっていうかね。日がな一日ゆっくり過ごして、庭先眺めたり、ボイと戯れたり。そういう生活も悪くないって思うわ。でも、あたしたちまだ若いのよ。そんな年寄りみたいな暮らしはまだまだ先のことでいいわ。
将来、もう旅はいいなってなって、三人でどこかに腰を据えることになったら、ああいうのも考えないでもない、くらいかしらね。
あたしたち若いのよ! いろいろやってみなきゃ!
「私はもう二十七なんだけどなあ……」
「ウルウ、何歳になっても結局上の世代からは『まだまだ若い』って言われるものらしいですよ」
「こっちでもその悪習あるんだねえ……」
あれはあれで新婚生活っぽくてよかったのは確かなんだけどね。
でもま、やっぱり旅してる方があたしたちらしいもの。
それで、確かウルウが気になっているっていう《竜骸塔》を目指したのよ。
「ややややや、《竜骸塔》! 帝都でもいま話題になっていますねえ!」
「ああ、やっぱりあれほどのことがありましたから、噂も広まりますよね」
「君たちの中でどういう認識になってるのか割と気になるんだよね」
《竜骸塔》って森の奥にあるのよ。
地竜を倒したはいいけど運び出すのが難しかったから、そこでさばいて骨で塔を建てたとか、魔術の研究をしていくうえで近隣住民の反対があるから人里離れたところにしたとか、まあいろいろ噂はあるけど、とにかく、他になんにもない森の奥。
あたしたちは《竜骸塔》の手前の村までやってきたんだけど…………そこでも疫病が流行ってたのよ。
「ややや、疫病ですか? それはまだ聞いてない話ですねえ」
「まあそちらは《塔》の話題と比べると目立たないですよね」
あたしたちが村についたころ、付近は感染症が流行してるってんで封鎖されちゃったのよ。東部風邪とかいう流行り病でね。予防接種すれば大事にはならないらしいんだけど、流行り病は怖いわよね。
風邪なんて言うから甘く見るかもしんないけど、子供とか年寄りは死ぬこともあるし、若い連中だってともすればこじらせてひどい後遺症だって残るかもしれないってんだから。
その感染拡大が早めに分かったからってお医者様方がやってきて、これ以上広がらないように検疫隔離しますってね、そういうことらしいのよ。
あたしたちもその検疫隔離とか言うのにまきこまれちゃって、宿からあんまり離れられないで、村の中で一週間くらい過ごす羽目になったのよ。
まあ、その間の宿泊費とか飲食代は向こう持ちだったから、悪くはなかったけどね。
近くのため池で釣りとかはできたし、同じように窮屈に感じてたらしい村の子供と遊んだりね。
ウルウはその間ずっと宿に引きこもってたけど。
「見つかると面倒そうだったからね……あ、この話はあんまり詳しく書かない方がいいと思うよ。政府機関の処置だったから、えーと、そう、書くとまずいことあるかもしれないし」
「ややや、そんなことがあったんですねえ……気を付けます」
それで、《竜骸塔》なんだけど…………なんだっけ。
見に行った……いや、行ってないわよね。そうそう、結局見に行けなかったのよ。
《塔》にはたくさんの魔術師たちが住んでるし、そこに迂闊に感染病を持ち込んでもよくないからとか、なんか、そんな感じだったかしら。
ちょっと残念だったけど、まあ、またくればいいわよねって、あたしたちは次の目的地目指していったんだけど……。
「確か、次の街についたころでしたね。宿で寝ていたら恐ろしく大きな音がして、町の人がみんな驚いて外に出てきていました」
「窓ガラス使ってる家も多かったのに、衝撃で割れちゃって大変だったよね」
それなりに離れてたってのに地震でも起きたみたいな衝撃だったんだから、いやあ、無理に観光に行かずに帰ってよかったわよね。
「ややや、つ、つまりそれが?」
「そう、あとで新聞とかをにぎわせた《竜骸塔》大爆発事件ですね」
「まるで事前に用意してたかのようにスムーズに新聞が出回ったよねえ……」
あれはほんと驚いたわよ。
夜でもわかるほどもうもうと煙が立って、まるでキノコみたいだった。
相当な衝撃だったみたいで、《塔》を中心に森の木が薙ぎ払われたみたいになって、そこになにがあったのかさえもう誰にも分らないくらいに綺麗に吹っ飛んでいたんですって。いまじゃもう雨水がたまってため池みたいになってるとか。
あの村の人たちも、どうかしらね。全く無事だったとは考えづらいけど……。
新聞じゃあ、隕石が落ちたんじゃないかとか言ってたわね。さしもの最強魔術師集団も、隕石は防げずか、みたいな記事読んだわよ。
そりゃあ、空のかなたから巨大な岩の塊が落ちてきて、気づくよりも先に押しつぶしたうえで爆発なんかしたら、誰だってどうしようもないわよね。
あたしたちがもしまだ呑気に《竜骸塔》見物しようとうろうろしてたら、巻き添えになってたかもしれない。
ほんと、運がよかったわ。
「…………まあ、っていうのが公式見解で、公式発表だよ」
「ややや、なにやら意味深な物言いをされますねえ」
「ウルウは普段からそういうところありますよ」
「私がそういうやつみたいなの風評被害も甚だしいんだけど」
ま、そんなことがあって、今度は穏やかに楽しめるところに行こうかって旅してるのがいまよ。
用語解説
・あの前掛け
ゲーム内アイテム。正式名称 《まごころエプロン》。
ゲーム内イベントである料理大会で入手できる。
これを装備すると、料理系アイテム作成の成功率に上昇補正がかかる。
『料理は愛! 私の! 愛が! 食べられないっていうの!?』
・《竜骸塔》(La Fuorto de Mortadrako)
帝国東部エルデーロの森(La Erdelo)に所在する歴史ある魔術師養成所。
地竜の遺骸を建材にして建造したとされるが、内部の詳細は部外者には秘匿されており、不明な点が多い。
この地竜は塔の開祖らが討ち取ったものであると伝えられ、伝承通りであれば最大五十メートルを超えていたとされるが、文書により大きく異なり正確性は疑わしい。
事実であれば伝説上でも数値の証言がおおむね一致している最大個体ラボリストターゴの二十五メートルをゆうに超えている。
おそらく塔全体の外観から必要な建材を推測して逆算した数値と思われる。
・《竜骸塔》大爆発事件
魔術師の聖地である《竜骸塔》が突如大爆発を起こし周囲数百メートルが跡形もなく吹き飛んだ事件。
詳細は判明していないが、当初考えられていた大規模魔術実験の失敗の線は薄く、爆発直前に空をかける光の筋のようなものが見られたという証言があり、隕石の衝突によるものではないかと考えられている。
爆心地付近は不明の瘴気を帯びており、長期間の滞在は原因不明の衰弱死を招くとして現在封鎖されている。
リリオの語る旅の思い出。
トルンペートの昇格試験、オーロラを見に行ったこと、そして旅の再開。
結構話したわねえ。
これでも一年経ってないのよ、あたしたち。
リリオと一緒に辺境を出たのが初夏。雪解けの後。
境の森の手前で撒かれてる間に、ウルウとリリオが合流して、あたしもなんとかリリオを見つけ出して。
そこから、まあ、もう少しで一年ってところよね。あと四半年もしないうちじゃないかしら。つまりあたしたちは四分の三年しか一緒にいないのよ。
「八か月くらいかなあ……その間に喧嘩して、友達になって、あちこち旅して、ご両親にも挨拶して……全然そんな気しないけど、かなり駆け足だよね」
「毎日が濃密だったからでしょうか、もう七年くらいは旅しているような気持ちでしたね」
「なにその微妙に具体的な数字……」
まあ、実際あたしたちが、その、なに?
結ばれた…………のって、実質半年くらいのことだものね。体感では二年くらいに感じてたけど。
「だから何さその具体的な数字……」
「半年にしろ二年にしろ、偶然出会った相手と婚約にまでたどり着くにしてはかなり短期間ですよね」
「ややややや? お三人方はもう結婚されているのでは?」
実質結婚してるって言っていいと思うわよ。っていうか籍は入れてるのよ。
でも結婚式はまだしてないのよ。ウルウがささやかでもいいから式挙げたいってかわいらしいこと言うから、絶対するけど、まだ予定は立ってないわねえ。
「婚前交渉は捗ってあだだだだだだだッ!!!」
「ウルウさんの照れ隠しは殺意と似ていますねえ……」
さっきも言ったけど、籍自体は入れてるのよ。婚姻届けも御屋形様に届け出て。神殿にも納めてるわ。三人婚は珍しいから、受理にちょっと時間かかったけど。だから書類上はちゃんと結婚してるのよ。でも気持ちの上では、まだ落ち着いた感じじゃないわよね。
「やはり届けはおくにのフロントに?」
「そうですね。式も実家で挙げた方が楽ですし。ただまあ、お客様を招くのが大変なので、披露宴は内地でしてもいいかな、とは考えていますね。なんなら披露宴なんて何回してもいいものですし」
「私はお金もかかるしそんなに派手にしなくていいとは言うんだけど、うち、なんだかんだお金はあるから、ふたりとも張り切っててね」
これだからウルウは。
あのねえ、あんたのその控えめなところは美徳ではあるけど、世の中には大々的に派手にやらなきゃいけないこともあるの。
結婚式も披露宴も、あたしたちが結ばれたってことを世間に知らせて、世間に認めてもらう、祝福してもらうっていう大事なことなのよ?
このでっかくてかわいいのがあたしたちの嫁だから、手を出したらわかってるなっていう、そういう儀式なのよ?
「なんか後半違う気もする」
「でも実際そういう面はありますよ。結婚式を神殿で挙げるのは、神前で誓い合うということの意味の大きさがあるんですから」
「まあこの世界、ほんとに神様いるからねえ……」
まあ、そんな感じで結婚式挙げたいねっていう気持ちはあるんだけど、なにしろあたしたちってまだ若いし、旅だって続けたいし、まだ一年も一緒にいないんだからもっと仲深めたいし、準備に時間のかかる式とか披露宴のために腰落ち着けるのもねーってわけよ。
あたしたちが互いに互いの嫁なんだってことは、自分たち自身が一番わかってるんだから、それで十分。旅をすっかり楽しんで、友達とかも増やして、それから盛大に式挙げる予定よ。未定だけど。
「ややややや、そのときにはぜひともお呼びいただきたいですねえ!」
「ええ、考えておきますよ。新聞記者としてより、寫眞家としてお招きしたいですけれど」
「お任せください! 一面を飾るよい寫眞にしあげますねえ!」
「なんかスキャンダル記事みたいになりそうな予感……」
まあ、新婚旅行と言えば新婚旅行、婚前旅行と言えば婚前旅行、ウルウ風に言えばもらとりあむを楽しんで、あたしたちは東部の旅を始めたわ。
でもねえ、旅っていいことばかりってわけにはいかないじゃない?
あたしたちも気を付けてはいるし、他の冒険屋と比べても、特別に準備が悪かったとかそういうことはないと思うわ。
でもああいうのって、なにが悪いってわけでもないじゃない。
しいて言うなら、運が悪かったっていうか。
ええっと、あれはどのあたりだったかしらね。まあ、東部の森の中よ。もうほとんど山道だったかしらね。
あたしたちは一応地図を見ながら進んでたけど、まあ天狗のあんたにゃわかんないかもしれないけど、地図ってそんなに信用できるものでもなくてね。あたしたちの読み取り方も悪かったんでしょうけど。
そう、道を間違えたのよ。本当なら大き目の街道を進んできはずだったのに、舗装どころか轍の跡も怪しいような山道にはいっちゃって。
そこで引き返してもよかったんだけど、まあ道があるからにはどこかに通じるし、地図によれば森を突っ切れそうだったし、途中に村もあるみたいだったから、そのまま。
そもそもあたしたちの旅って結構行き当たりばったりだからね。
とりあえず行ってみましょってなって。
まあ悪かったって言えば、その判断が悪かったかもしれないわね。
村までの道すがら、あたしたちは……あたしとリリオは謎の熱病に倒れたわ。
「ややややや! 窮地らしい窮地がやっと!」
「いやまあ、窮地らしい窮地が本当になかったのはなんだか申し訳ないんですけれど」
「単純な暴力で解決できるなら、リリオたちってピンチにならないからね」
ほんと辛かったんだから喜ばれると腹立つけど……まあ、そうね。物語にはそういう窮地が大事よね。
ただ、問題はあたしもリリオもそれ以降ずっと熱にうかされて意識がもうろうとしてたから、詳しいことはわかんないのよね。
「ややややや、本当に窮地も窮地だったんですねえ」
「本当にね。ふたりとも倒れちゃったから、私が二人の看病して、ボイにも助けてもらって馬車を進めていったんだけど、ついにはそのボイも倒れちゃって」
「ウルウさんは大丈夫だったんですねえ」
「うん、まあ、体質っていうかね……」
まあよくわかんないけど、ウルウが頑張って村まで連れて行ってくれて、気が付いたら熱がひいて、熱病に侵されていた村も助かってたってわけよ。めでたしめでたし。
「やややややぁ……大変結構なことなんですけど、そこのところもっと詳しくですねえ……」
「二人は本当に意識もうろうとしてたからなにもわかってないよ。そして私も詳しく話す気はない。だって話したら取材に行くでしょ」
「ややや、それは、まあ、はい」
「あの村はまだ大変なんだ。周辺地域もごたごたしてるし、畑や家畜も台無し、元気になったとはいっても熱がひいただけで、なくなったものは返ってこないんだ。そんな大変な時に部外者が顔を出したって迷惑なだけだよ。だから、場所は伏す。落ち着いてきたら、そのうち村の人たちが自分たちで発信し始めるだろうさ」
「やややややぁ……そうまで言われますと、無理には聞けませんけどねえ……」
まあ、あたしたちがどうにかなっても、いざというときはウルウだけでもなんとかしてくれるってわかったのはいいことだったわ。ウルウって能力は優れてるけど、常識に疎かったり、自分から何かしたりってあんまりしないから、ちょっと不安だったのよね。
「できないわけじゃないよ。やらないだけで」
「うーん、自慢にならないようなことを自慢げに言いますね」
まあ、なんとか回復したあたしたちは、また旅をつづけたんだけど、やっぱり熱病の影響もあってか、疲れてたのよ。そういうことにしましょ。
「そうではなかったといわんばかりなんですけどねえ……」
気にしないで。
あたしたちは道中に空き家を見つけたわ。もう誰も住んでなくて、自由にしていいよって放置されてる、そういうたぐいの空き家よ。たまにあるわね。
あたしたちはちょっと中を検めて、見た目はぼろだけど掃除すればまだまだ使えそうだってわかってね。せっかくだからちょっとここで休んでいこうじゃないって、そういうことになったわ。そういうことにしとくわ。
「ややややや……ちょくちょく気になりますねえ」
いろいろあるのよ。気にしないで。あたしだって言えるところをいろいろ考えて話してんだから。
えーっと…………なんだっけ。
そうね、えー…………ほら、ウルウがきれい好きなのよ。潔癖ってくらい。それで、掃除するなら徹底的にしようってことで隅から隅まできれいに磨き上げてね。それで疲れて、しばらくここに逗留してこうじゃないかって、そういうことにした……でいいわよね。
「はい、いいと思いますよ」
「私としてはこの件自体をなかったことにして欲しいんだけど……」
「いえいえ、これも大事な思い出ですよ、ウルウ」
疲れてた……んでしょうね。あたしたちも、ウルウも。
だからまあ、思ってたよりも長逗留しちゃったけど、悪くはなかったわね。
あたしたちがついこの間熱病で苦しんでたのが、やっぱり気にはなってたんでしょうね。ゆっくり休めるようにって色々気を遣ってくれて、ごはん用意してくれたり、お風呂掃除してくれたり。
ほら、あの前掛け、かわいかったわよね。少女趣味っていうか。それがはちきれそうになってるんだからすごかったわよホント。
「ウルウ、たまにでいいですからまたあれつけませんか?」
「エプロンのこと? 絶っっっっっ対嫌だけど」
「だいぶ強めに拒否られてしまいました」
「ああいうのは『うわキツ』っていうんだよ」
「わかりますよ、それは『かわいい』の言い換えですね!」
「恣意的な認知の歪みがあるな……」
まあ、ああいう穏やかな暮らしっていうかね。日がな一日ゆっくり過ごして、庭先眺めたり、ボイと戯れたり。そういう生活も悪くないって思うわ。でも、あたしたちまだ若いのよ。そんな年寄りみたいな暮らしはまだまだ先のことでいいわ。
将来、もう旅はいいなってなって、三人でどこかに腰を据えることになったら、ああいうのも考えないでもない、くらいかしらね。
あたしたち若いのよ! いろいろやってみなきゃ!
「私はもう二十七なんだけどなあ……」
「ウルウ、何歳になっても結局上の世代からは『まだまだ若い』って言われるものらしいですよ」
「こっちでもその悪習あるんだねえ……」
あれはあれで新婚生活っぽくてよかったのは確かなんだけどね。
でもま、やっぱり旅してる方があたしたちらしいもの。
それで、確かウルウが気になっているっていう《竜骸塔》を目指したのよ。
「ややややや、《竜骸塔》! 帝都でもいま話題になっていますねえ!」
「ああ、やっぱりあれほどのことがありましたから、噂も広まりますよね」
「君たちの中でどういう認識になってるのか割と気になるんだよね」
《竜骸塔》って森の奥にあるのよ。
地竜を倒したはいいけど運び出すのが難しかったから、そこでさばいて骨で塔を建てたとか、魔術の研究をしていくうえで近隣住民の反対があるから人里離れたところにしたとか、まあいろいろ噂はあるけど、とにかく、他になんにもない森の奥。
あたしたちは《竜骸塔》の手前の村までやってきたんだけど…………そこでも疫病が流行ってたのよ。
「ややや、疫病ですか? それはまだ聞いてない話ですねえ」
「まあそちらは《塔》の話題と比べると目立たないですよね」
あたしたちが村についたころ、付近は感染症が流行してるってんで封鎖されちゃったのよ。東部風邪とかいう流行り病でね。予防接種すれば大事にはならないらしいんだけど、流行り病は怖いわよね。
風邪なんて言うから甘く見るかもしんないけど、子供とか年寄りは死ぬこともあるし、若い連中だってともすればこじらせてひどい後遺症だって残るかもしれないってんだから。
その感染拡大が早めに分かったからってお医者様方がやってきて、これ以上広がらないように検疫隔離しますってね、そういうことらしいのよ。
あたしたちもその検疫隔離とか言うのにまきこまれちゃって、宿からあんまり離れられないで、村の中で一週間くらい過ごす羽目になったのよ。
まあ、その間の宿泊費とか飲食代は向こう持ちだったから、悪くはなかったけどね。
近くのため池で釣りとかはできたし、同じように窮屈に感じてたらしい村の子供と遊んだりね。
ウルウはその間ずっと宿に引きこもってたけど。
「見つかると面倒そうだったからね……あ、この話はあんまり詳しく書かない方がいいと思うよ。政府機関の処置だったから、えーと、そう、書くとまずいことあるかもしれないし」
「ややや、そんなことがあったんですねえ……気を付けます」
それで、《竜骸塔》なんだけど…………なんだっけ。
見に行った……いや、行ってないわよね。そうそう、結局見に行けなかったのよ。
《塔》にはたくさんの魔術師たちが住んでるし、そこに迂闊に感染病を持ち込んでもよくないからとか、なんか、そんな感じだったかしら。
ちょっと残念だったけど、まあ、またくればいいわよねって、あたしたちは次の目的地目指していったんだけど……。
「確か、次の街についたころでしたね。宿で寝ていたら恐ろしく大きな音がして、町の人がみんな驚いて外に出てきていました」
「窓ガラス使ってる家も多かったのに、衝撃で割れちゃって大変だったよね」
それなりに離れてたってのに地震でも起きたみたいな衝撃だったんだから、いやあ、無理に観光に行かずに帰ってよかったわよね。
「ややや、つ、つまりそれが?」
「そう、あとで新聞とかをにぎわせた《竜骸塔》大爆発事件ですね」
「まるで事前に用意してたかのようにスムーズに新聞が出回ったよねえ……」
あれはほんと驚いたわよ。
夜でもわかるほどもうもうと煙が立って、まるでキノコみたいだった。
相当な衝撃だったみたいで、《塔》を中心に森の木が薙ぎ払われたみたいになって、そこになにがあったのかさえもう誰にも分らないくらいに綺麗に吹っ飛んでいたんですって。いまじゃもう雨水がたまってため池みたいになってるとか。
あの村の人たちも、どうかしらね。全く無事だったとは考えづらいけど……。
新聞じゃあ、隕石が落ちたんじゃないかとか言ってたわね。さしもの最強魔術師集団も、隕石は防げずか、みたいな記事読んだわよ。
そりゃあ、空のかなたから巨大な岩の塊が落ちてきて、気づくよりも先に押しつぶしたうえで爆発なんかしたら、誰だってどうしようもないわよね。
あたしたちがもしまだ呑気に《竜骸塔》見物しようとうろうろしてたら、巻き添えになってたかもしれない。
ほんと、運がよかったわ。
「…………まあ、っていうのが公式見解で、公式発表だよ」
「ややや、なにやら意味深な物言いをされますねえ」
「ウルウは普段からそういうところありますよ」
「私がそういうやつみたいなの風評被害も甚だしいんだけど」
ま、そんなことがあって、今度は穏やかに楽しめるところに行こうかって旅してるのがいまよ。
用語解説
・あの前掛け
ゲーム内アイテム。正式名称 《まごころエプロン》。
ゲーム内イベントである料理大会で入手できる。
これを装備すると、料理系アイテム作成の成功率に上昇補正がかかる。
『料理は愛! 私の! 愛が! 食べられないっていうの!?』
・《竜骸塔》(La Fuorto de Mortadrako)
帝国東部エルデーロの森(La Erdelo)に所在する歴史ある魔術師養成所。
地竜の遺骸を建材にして建造したとされるが、内部の詳細は部外者には秘匿されており、不明な点が多い。
この地竜は塔の開祖らが討ち取ったものであると伝えられ、伝承通りであれば最大五十メートルを超えていたとされるが、文書により大きく異なり正確性は疑わしい。
事実であれば伝説上でも数値の証言がおおむね一致している最大個体ラボリストターゴの二十五メートルをゆうに超えている。
おそらく塔全体の外観から必要な建材を推測して逆算した数値と思われる。
・《竜骸塔》大爆発事件
魔術師の聖地である《竜骸塔》が突如大爆発を起こし周囲数百メートルが跡形もなく吹き飛んだ事件。
詳細は判明していないが、当初考えられていた大規模魔術実験の失敗の線は薄く、爆発直前に空をかける光の筋のようなものが見られたという証言があり、隕石の衝突によるものではないかと考えられている。
爆心地付近は不明の瘴気を帯びており、長期間の滞在は原因不明の衰弱死を招くとして現在封鎖されている。


