異界転生譚ゴースト・アンド・リリィ

前回のあらすじ

トルンペートの語る旅の思い出。
ハヴェノでのマテンステロとの再会、竜車での辺境への旅、結ばれた三人。
なんか長い……長くない?





「それで実際、どうなったんですかねえ!」

 …………あのさあ。
 職業差別とかはしたくないけど、そういう下世話な好奇心満たすためにやってるんなら、新聞記者の職業倫理というものを考えざるを得ないと思うよ、私は。

「急に温度感下げてきますねえ!?」
「ほら、これがウルウよ。ぞくぞくするわよね」
「あの冷たい目と平坦な声でたしなめられるとちょっと興奮しますよね」
「調教済み、というわけですねえ……!?」

 誤解を招くやつやめて。
 まったく。そういうプライベートなことは話す気はないよ。
 そりゃあ、そういう話題で盛り上がったり、自分の事情が他とどう違うのか気になる、比べてみたいとかいうのもわかるよ。私だって、まあ、あんなことになるって事前にわかってたら、そういう手引きとか欲しかったし……この三人だけだったら、そういう雑誌一緒に読んでワイワイやったりもするよ。
 でもこれ一般向けのやつでしょ。普通に男の人も読むやつ。若手冒険屋特集的な、冒険屋のイメージ向上させたいってやつ。それにさあ、下世話な話書くのはどうかと思うんだよね。そういうの冒険屋と関係ないじゃん。関心を引きやすい性の話題で雑に売り上げ伸ばそうっていうのはさあ。

「ややややや、普通に旅仲間のお三人が無事結ばれた感想とか苦労とかのお話が欲しかったんですけどねえ……冒険屋続けているうちに付き合ったりわかれたりの話は切実ですからねえ」

 …………なんかごめん。

「それはそれとして記事にはしないので(ねや)事情も知りたいですねえ! これは純粋に下世話な好奇心からなんですねえ!」

 このクソブン屋……!
 そういうのは無し!
 言わない!
 リリオとトルンペートも話したそうにしないの!

 まったく………………………まあ、あの、なんだ。
 すごかった……よ。

「はー……そういう誌面にのせられない顔するのやめてもらっていいですかねえ」
「ウルウって自分がえっちだってもっと自覚するべきですよね」
「かわいいかわいい言ってたら、最近かわいさは自覚してきたわよね。あざとい時がある」

 や! め! て!

 はー。もう。
 まあ、ね、そんなことがあって、ちょっと気まずかったし、ぎくしゃくもしたけど、関係がすっかり変わった……ってわけではなかったよ。
 急にこんなことになっちゃって、ひどいって思ったし、早すぎるとも思った。私たち、出会ってまだ半年とかだったし。でも、まあ、遅かれ早かれだったのかもしれないとは思うよ。大人として問題だと思うけど。でも成人年齢十四歳、平均寿命六十歳の国でいつまでも自分の国の常識引きずるのもなとは思うよ。言い訳だけど。
 なんていうのかな……もっとゆっくり育めたら、もっとちゃんとした感じだったのかなって思うけど、でも性急だったからこそ、いまみたいに落ち着いたのかなって感じもあるよ。

 そりゃあ、まあ、苦労とか、後悔とか、ないわけではないけど。
 ふたりとも思春期だから…………違う。待って。違うから。そういう…………そういうのではあったけど。やめて。いまはその話はしない。やめ! やめ!

 はあ。
 まあ、とにかくね。
 私たちは私たちで、いろんなラベルがついてる関係性に、また一つラベルが増えただけ。

 その後は、なんだっけ。
 いや、覚えてるよ。私は忘れないんだ。でも竜車の移動中の私って半分死んでるからな……。
 そうそう、モンテートに向かったんだ。対竜最終防衛線、モンテート。

「おお! 人界の守護者、辺境の鉄壁! 内地の人間の多くはそれより先には進まず、引き返すらしいですねえ」
「モンテート山は、そもそも臥竜山脈に比べれば丘陵(モンテート)みたいなもんだよなっていう諧謔(かいぎゃく)みたいな名づけであって、山としては普通に標高高いし険しい土地ですからね」
「飛竜なしでフロントまで行くとなると、尾根越えるか大きく迂回することになるから、慣れた隊商でもないと厳しいのよねえ」

 領内には平地もあるらしいけどね。でもかなり山がちな土地なのは確かだ。
 モンテート子爵の屋敷っていうか、山砦は、そんな標高高めの山にあった。
 標高高くて、しかも冬。竜車おりたくないレベルでクッソ寒いうえに空気薄いから、本気でお勧めできないスポットだね。

「若手の冒険屋も頑張ってるんですけど、熟練の冒険屋でもモンテート越えを経験したものは少ないですねえ」
天狗(ウルカ)でも山越えって厳しいもんなの?」
「ややや、地を這うひとよりは楽、といいたいですけどねえ……標高高くなるほど気流の影響が大きいので、里天狗(ウルカ)には厳しいですねえ。特に辺境は、気流がおかしいと聞きますしねえ」

 しれっと差別的な発言するけど、天狗(ウルカ)的言い回しであって悪意がないのがまたすごいよね……虫って言わなかっただけ穏当というか、土蜘蛛(ロンガクルルロ)はほんとに地を這う虫扱いされるらしいしな……。

 まあ、ほんと、私も竜車に揺られてるだけでも辛かったんだから、自分の足であの山を越えたいとは思わないね。

 それで、山賊の親分……みたいな子爵が出迎えてくれてね。
 出迎えてっていうか、待ち構えてっていうか。
 会うなりすごい剣幕で怒鳴られるんだよ。成人したばっかりのリリオを傷物にして! ってね。
 いや、わかるよ。とてもわかる。子爵さんはっていうか、辺境貴族ってみんな親戚みたいなもんで、年齢的にも、孫みたいな感じでかわいがってたらしいし。
 私も同じ立場だったら、おんなじように思っただろうし。

 でもさあ。
 その時の私、滅茶苦茶不機嫌でね……。
 いや、まあ、浮ついた気持ちもあったりしたよ。したさ。でもまあ、ただでさえ揺れる竜車が、山のそばでは気流が荒れてもっとひどくて。気持ち悪いし、寝不足で頭痛いし、お腹………も痛いし。
 で、怒鳴る男のひとって、だいぶ嫌いな方だったし。

 それでまあ、傷物にされたのはこっちだって怒鳴っちゃって。

「詳しく」

 寄るな乗り出すな興味を示すな。

 まあ、なに?
 私も、大人が子供に手を出すとか、最低最悪の所業だと思うし、そもそも子供、しかも女の子にそういう気持ちになれって難しいし、でも、まあ、なに? 雰囲気にのせられて……それでもまあ、私が手を出すのって駄目だよなって、いいわけだけどさ。
 だから……ほら、さあ。わかって聞いてるでしょそれ?
 うん。まあ……受け身、だったわけでさ。最後の方は、もう、いろいろわかんなくなってたけど…………少なくとも最初は、まあ。いや、私は結局、してない…………範囲に入ると思う。私から、は。あれがはじめてだったからよくわかんないけど。
 築地のマグロめいて、私は手出ししてない、よ。ということになってる。これは公式発表。

「ずいぶん活きのいいマグロでしたよねあだだだだだだッ!!」
「意外かもしれないけど(シモ)の話題に一番乗るのリリオなのよねえ」
「貴族のご令嬢って意外と下世話なんですねえ……」
「たぶんうちだけだから、内地のご令嬢相手にはやめときなさいよ」

 はあ。
 まあ、とにかくね。どっちかっていうと私が嫁で私が傷物にされた方でっていうのを伝えたら、土下座されちゃってね。私の肩書に「子爵に土下座させた女」が追加されちゃった瞬間だよ。返品したい。
 あの時は疲れと苦しみと痛みでかっとなっちゃったけど、大事なお嬢さんとそういうことした最低最悪の性犯罪者なので私の方がだいぶ悪いと思う……。

「ややややや、ウルウさん、だいぶいいところのお嬢さんなんですか?」
「なんかそうみたいなのよね。こいつのおくにじゃ二十歳が成人らしいわよ」
「ややや、だいぶ年増と思いますけどねえ」
「ちなみにこいつはこの前、二十七歳になったらしいわ」
「ややややや!? 見えませんねえ……!」

 それで和解して、はじめて飛竜の肉を食べさせてもらったり、山からわいてるとかいう温泉いただいたり、貴重な経験をさせてもらったよ。
 飛竜肉の味とかに関しては、あとでリリオにまとめてもらった方がいいんじゃないかな。語彙はともかく、すごくおいしそうに語ってくれると思うよ。

 それで終わったらいい観光だったんだけど、残念ながら辺境なんだよねえ……。
 恒例行事になっちゃった試合をさせられてさ。
 トルンペートが一等武装女中だっていうおばあちゃんと。
 リリオが子爵さんちの長男さんと。
 で、私がまた剣術指南役のご老人と。

 いやあ………まあ、詳しくは語らないけど、辺境は老人が強いねえ。
 お年寄りに暴力振るうのって普通に? 常識的な倫理観持ってたら難しいじゃん。でもこのご老人方は若者ぶん殴るのに手加減はあっても遠慮はないんだよね。いやまあ、それは戦う職業の人として当然なのかもだけど。
 でも拳が金属音立てるのはおかしいと思う。
 なんか魔力で強化してるとかいう話だったけど、一般冒険屋とか相手だったら、剣持ってても普通に素手で簡単に制圧されそうだったよね。
 ほんと、辺境は魔境だよねえ。

 でもまあ、そうやって力を見せるっていうのは、辺境では大事なことみたいでね。
 強いっていうのが大事なんじゃないよ。もちろん強いのは大事だけど。戦う意思とか、そういうのが大事なんだと思う。立ち向かう意志っていうのかな。
 いくら強くても、大事な時に立ち向かえないやつはダメなんだって。
 私は、まあ、ぎりぎり及第点なのかな。戦うのが嫌でも、格好いいところを見せたいって理由で戦えるなら、さ。

 まあ、結果として、かなり高価で貴重っぽいガチ物の結納品みたいなの贈られて、完全に囲い込まれた感じがしたよね。いや、まあ、逃げないっていうか逃げられないけどさ、もう。

 モンテートを過ぎてからは、竜車は地上を走るようになった。
 っていうのも、モンテートより奥地は気流がおかしくなって、飛竜でも高空を飛べなくなるんだって。特に臥竜山脈の近くとかね。無理やり飛べなくもないんだけど、そうなると竜車の方が持たないんだとか。
 まあ、私としては馬車に感覚の近い地上の旅の方が楽でいいんだけどね。まだ吐かないで済むし。

 とはいえ、空を飛ぶのと比べればやっぱり遅いから、ひとっとびってわけにはいかなくてね。
 途中で村によって宿を求めたりもしたよ。内地とはだいぶ作りが違うっていうか、北部あたりの感じが近いのかな、雪国仕様の村だった。半分以上雪に埋もれてて、だいぶわびしいっていうか、貧しいっていうか。
 いやまあ…………冬場で、雪に埋もれてるからそう見えるだけで、夏場の風景観たら、内地の農村とそんなに変わらないか、むしろ豊かでさえあるらしいけどね。冬がきつすぎるというか。毎年人が死ぬ冬らしいから……。
 メープルシロップの味がする虚無とか……。
 まあ、堅麺麭粥(グリアージョ)とか、オートミールとかも味なかったら虚無だし……内地の農村でも塩とかなかったらそんな感じだとは思う。

 ともあれ、苦労してたどり着いたのがフロント辺境伯領の最奥。
 臥竜山脈にある裂け目、竜の(あぎと)をふさぐ形で築かれた巨壁と、立派な御屋形。
 古代遺跡を一部流用しているっていうその要塞は、知る限り帝国で最も高い建造物だったね。《竜骸塔》も大きかったけど、あれだって小さく見えるほどだった。

「おお……伝説に聞く辺境の壁! 人界を守る守護の盾!」

 で、たどり着いた先で襲ってくるリリオパパ。

「おっとぉ?? 話が変わってきましたねえ?」

 リリオパパことアラバストロさんがヤンデレだって話はしたよね。
 愛が重いひとっていうか。重すぎるっていうか。まあ、私もひとのことは言えないんだけど。
 この人がねえ…………もう二度と出ていかないように、手足斬りおとしてお世話してあげるって言いながらマテンステロさんに襲い掛かってねえ……。

「ややややや……? そのひと辺境伯ですよねえ??」
「人界を守る守護者がその人なんですよね」
「完全に『君のためなら世界を敵に回しても構わない』感じだったわよね」

 いままでにも強い人たちはたくさん見てきたし、自分たちの未熟さも知ってきたけど、あれはもう…………怪獣大決戦だったね。そのレベルの人たちが本気で戦うとこうなるんだっていうか。戦ってるんだか耕してるんだかわかんないレベルで庭が破壊されてたし。

 まあ無事? マテンステロさんが勝ったっていうか、ほぼ相打ちみたいな感じだったけど。
 ふたりとも沈んじゃったからどうしようかってなってたら、リリオのお兄さん、ティグロ君が出迎えてくれてね。
 あとから復活してきたアラバストロさんとも色々話して、リリオの家族のことが知れて、ちょっと嬉しかったかな。
 リリオ的にはあんまり知りたくないこともいろいろ知っちゃったみたいだけど。

「まあ…………結構ショックでしたよね。でもまあ、帝都では乳父なる仕事が流行っているらしいですから、今日日はそこまで変ではないのかもしれません」

 急に頭混乱する情報お出ししてくるのやめて??
 まあリリオパッパのあれこれはさておき。

 前にメザーガが試験出してきたときの話したじゃん。リリオに危険な事させたくないから冒険屋にしたくないっていう。あれ、アラバストロさんも同じだったんだよね。まあ、親だもんね。わかるよ。
 でも、だからって、子供のやりたいことを、遊びはもういいよねってやめさせようとするのはどうかと思うよね。子供は子どもなりに真剣なんだから。

 私も辺境に毒されたのかなあ、なんて誰かのせいにはしたくないけど。
 じゃあ戦って決めなよって、焚きつけちゃってね。
 リリオはうまいことアラバスロトロさんを……説得。そうだね、説得できたけど、ちょっと悪いことしちゃったかもなって、思わないでもないよ。
 親はいつでも子供のことを思っている……とは限らないけど、でも、少なくともアラバストロさんは彼なりにリリオを思っていたし、リリオもリリオで、お父さんのことを思っていたわけで。
 いつかは巣立つために、ぶつかり合わなくちゃならなかったんだろうけどね。

「そのいつかが、あの時でよかったと私は思っていますよ」
「子供が親元から巣立とうっていうんだもの。穏当な方だったと思うわよ」

 そう言ってくれるならいいけどね。





用語解説

・モンテート(La Monteto)
 子爵領。険しい山岳地帯であり、人々は山に張り付くように街を築き暮らしている。
 臥龍山脈に向かって要塞が幾つも建てられ、対空兵器と飛竜乗りたちが、フロントで討ち漏らした飛竜たちを狩っている。

・フロント(La Fronto)
 辺境最奥、竜たちが彷徨い出る臥龍山脈の切れ目を監視し塞ぐ竜狩りたちの住まう土地。
 辺境伯領。
 極めて過酷な環境ではあるが、それでも辺境人たちはこの地に住み着き、人界を竜の脅威から護ってきた。