前回のあらすじ
トルンペートが語るヴォーストでの日々。
バナナワニとの戦い、冒険以外の日々、そして甘き声ドルチャ・コンソーロの脅威。
パフィストのキノコ狩り(死)はほんと最悪だったんだけど、まあそんなピンチのりこえてそんなに経たないうちに、キノコ狩りリベンジに行く私たちもたいがいだよね。
「肝が太くいらっしゃいますねえ」
まあ私たちっていうか、主にリリオだけどね。
リリオが、結局まともにキノコ狩りできてませんよね! って言いだして、そしたら事務所の先輩、ウールソさんがね、いいとこ知ってるって。まあウールソさんは隠しもしなかったけど、やっぱりこれも試験だったらしいよ。
メザーガがリリオを冒険屋にしたくないんだって。
まあメザーガだけじゃなくて、リリオのお父さんもそうで、ようは将来のある若い娘にやくざな仕事をさせたくない、するにしてももっといろいろ経験してからでも遅くはないだろうって。
だから、試練だ試験だって言って面倒ごと吹っ掛けて諦めさせようとしてたんだよ。ガルディストさんが地下水道に誘ったときのもそうだって。
さすがにパフィストのはやり過ぎだって言ってたけど。
まあ、さいわいというか、ウールソさんは人格者っていうか常識あるっていうか、試験って言っても理不尽なものじゃなかったよ。山の歩き方とか、山の幸の見つけ方とか、獣への対処とか……そういう実力的なものをサラッと確認した後は、個人面談。
「ウールソ氏は武の神の武僧とのことで……僧侶らしい試験ということでしょうかねえ」
かもね。
作麼生、説破ってやつ。
ふたりもそれぞれ色々聞かれたらしいけど、詳しくは知らない。
覚悟とか、決意とか、信念とか、そういうのは自分だけのものだと思うしね。
アドバイスとかも別にしてない。そういう試験だっていうの知らなかったのもあるし、知ってても特に忠告できることはなかったかな。それで落ちるようなら、もうすこしモラトリアム過ごしても私は全然問題なかったし。心構えをする時間なんていくらあってもいいでしょ。
私?
私はなんだったかな。覚えてないかな。
「こいつ一度見聞きしたこと忘れないのよ」
「完全記憶能力というやつですかねえ」
「絶対全部覚えてますよ。なんならその日の鍋に入ってたキノコまで覚えてますからね」
うっさい。
恥ずかしいから言わない。トルンペートはにやにやしないの。
石茸、黒喇叭茸、作茸、牡蠣茸、杏鮑菇、滑子。あと一夜茸はバター炒めにして私だけいただいた。
リリオが採ってきた毒キノコはよく知らない。
「あってます?」
「たぶんあってるわよ」
「ややややや、記者向きの能力ですねえ」
まあ、なんだっけ、な。
ふたりとの日々が楽しいから、ふたりがどうあれ私はついていくよみたいな。そんな話をね。
やめやめ。普通に恥ずかしい。なし。ここカットして。
「どう思われますかねえ?」
「かわいい」
「かわいい」
「書いてよいということみたいですねえ」
多数決は民主主義じゃないんだよなあ……!
ええい、まあいいや。
とにかく、ウールソさんとの面談を済ませたら、いよいよ大将だよ。
結局、リリオを冒険屋にしたくないのはメザーガの事情で、都合なんだよね。
だから他の冒険屋の試験を通っても、結局はメザーガの胸三寸っていうか。
でもまあ、協調性とか、心構えとか、探索の要領だとか、そういうのはまあ一応試験に合格してるわけで、メザーガもそのあたりにケチつけるのは無理筋なわけで。
じゃあ暴力で決めようぜっていうのが、ほんと蛮族だよね。文明人としてはちょっと信じられない。まあ冒険屋って暴力が商材なわけだから、仕方ないといえば仕方ないけど。
私たち三人が、それぞれ事務所の冒険屋と試合して、勝てたら認めてやるって話でさ。
まあ強くなけりゃ冒険屋なんてやってらんないから妥当と言えば妥当だけど、新人冒険屋に対して現役冒険屋ぶつけてくるのは普通に大人げないと思うよね。
あ、トルンペートの相手は現役じゃなかった。
一応冒険屋目指してる子なんだけど、普段は事務員してるクナーボっていう子。男の娘ってやつかな。
「男の娘?」
「私たちもよくわかっていないウルウ語録の一つですね」
「なんかこう、かわいくて女装してる男の子みたいな感じなのかしらね」
そのあたりの定義はもめにもめるから私は断言しない。細かく分類されるらしいんだよ、あの界隈。いやでもまあわかるはわかるよ、そのこだわりは。微妙な違いの方がなんかノイズになるんだよね。
なんだっけ。
そうそうクナーボ。まあ見習いっていうか、まだ冒険屋ではなかったんだけど、それでもメザーガの秘蔵っ子だね。私は弓使いって実際には見たことなかったんだけど、恐ろしくはやいんだよね。
トルンペートってナイフ投げとか、まあ手数で攻める投擲戦法するんだけど、一度に複数投げるナイフに対して、弓で迎撃する、できるっていうのは普通におかしいと思う。
トルンペートもトルンペートで矢を見てはじくっていうのは普通におかしいと思うけど。
ま、結局トルンペートが勝ったけどね。近接もできるんだから人が悪いよ。
「なんでこの人、自分のことでもないのに誇らしげなんですかねえ?」
「ふふん、うちのトルンペートはすごいでしょう」
「あっ、ご主人の方もですねえ」
「これが《三輪百合》よ」
「そしてなぜあなたも誇らしげなんですかねえ……?」
私の相手は長門……ナージャってひとでね。私より大きな女性は初めて見たかもしれない。
「ウルウさんもかなりの長身ですけれど……ちなみに実際の数字は?」
「えーと六呎と……」
一八〇ちょっとね。交易尺で一八〇ちょっと。
「ずいぶんと大きなちょっとですねえ……」
まあ、ナージャとの戦いは特筆すべきこともないよ。
クレイジーに刃物っていうか、戦闘狂が刃物振り回して迫ってくるのを、私がなんとか避けまくったってだけ。私のことはいいんだよ。どうでも。
リリオの話しよう。リリオの記事書くべき。私はどうでもいい。
リリオの相手はメザーガでね。
知ってると思うけど、メザーガはブランクハーラの血統なんだって。リリオのお母さんの従兄らしいから、ブランクハーラの血は濃いんじゃない?
「あの伝説の冒険屋一族ブランクハーラ……メザーガ氏の伝説もいまなお語られていますね」
あの人本当にすごい冒険屋だったんだなあ……胃痛と肩こりに悩んでるおっさんなのに。
まあ、でも実際強いひとだったよ。
リリオ相手にもさ、ここから一歩でも動かしたら勝ちにしてやるって言い放って。魔法も使わないでやるって。
調子乗ってるなーって思ったけど、そりゃ調子乗るわって実力だったよね。
リリオの必殺技もしれっとかわすんだもん。
「リリオさんの必殺技というと、噂に名高い《雷鳴一閃》ですねえ」
「おお! 私の必殺技が世に知られていますよ!」
「酒場で酔う度に話すので名前だけはみんな知ってるらしいですねえ」
「……嫌な知られ方ですねえ……」
間抜けな知られ方だけど、あれはほとんど落雷みたいな威力だから、人間相手には過剰火力なんだよね。
まあメザーガはしれっとかわしたっていうかはじいたっていうか。
あれ魔法使ってないんだよね? おかしくない? バグってない?
「あれ納得いかなかったですよねえ」
「理屈としちゃ、たぶんリリオが作った風精の道を剣先にまとった魔力で叩いて跳ね上げさせて、雷精の道筋をずらしたんだと思うわ」
「フムン? そう言われると簡単なような……」
「簡単なわけないでしょ。壊さないで、あくまで跳ね上げるだけ。しかも修復もされないように雷精が通る一瞬前に。理屈じゃ可能でも、実践するなんて頭おかしいわよ」
トルンペート解説でさらに化け物になったなあ、あのおっさん……。
まあ、それでもリリオは勝ったんだけどね。
「勝たせてもらったと言います……」
いいんだよ、勝ったで。メザーガだって実力試しっていうより、気構えの方が大事だったんだろうし。
圧倒的な実力差を見せつけたメザーガに、それでも食らいついていこうっていうリリオの覚悟の強さが決め手だったと思うよ。
「いいですねえ! 若手冒険屋の未熟ながらも熱心な感じが出ててすごくいいですねえ!」
まあ、そこらへんはいい感じに脚色してもらって。
それで、まあ、いい加減冒険屋としても認められたしってことで、成人の儀とやらの旅を再開したんだよね。もともとリリオの目的は、ああいや、冒険屋になるのも目的だったけど、旅自体のゴールは、リリオのお母さんの故郷を見に行くことだったんだよね。
だからまあ、メザーガの知り合いの船主さんを頼って、運河伝いに船で南下していったんだけど……。
「船じゃすぐ着いちゃうからある程度までで、あとは陸路を行こう、っていうとまあ旅情って感じはあるけど、ねえ……」
「半分くらいはそれでしたけれど、もう半分くらいはウルウが船酔いで死んでしまうので、仕方ないというか……」
中身が全部出ると思ったね。全部出ても足りなくて裏返るかと。
馬車の揺れとか、こう、がたがたっとかの揺れはまだ耐えられるんだよ。電車とか乗ってたわけだし。
でも船の、こう、ぐわぁんっていうか、大振りに揺さぶられると内臓が揺れるっていうか、ああいうのダメ。無理。まだ小舟の方がいい。あれもあれで気持ち悪くなるけど。
「まあ、船を降りたランタネーヨの町で勝手に流した灯篭流しも楽しかったし」
「それに、ボイにも出会えたので、旅も楽しくなりましたね」
そうそう。
メザーガが準備してくれてたらしくてね。
船主のオンチョさんが受け渡してくれたんだけど、ほら、いま私たちが乗ってる子の立派な馬車に、それを曳いてくれる大熊犬のボイ。この子ともそのときであったんだ。
この子に牽かれて、私たちはリリオのお母さんの故郷まで向かったんだね。
船の旅は早いけど、やっぱり旅の情緒で言えば馬車の旅がいいよね。船はダメ。くそ。死ぬ。無理。
「ウルウの語彙力がまた死んでますね」
「さんざん吐いたものねえ」
ボイにひかれて訪れた最初の町がムジコの町だった。
音楽の街で有名なんだってね。
「おお! 東部にムジコありと称される音楽都市ですねえ」
「でもあたしたちはあの町の音楽らしい音楽って聞いてないのよね」
「またいつか行ってみたいですねえ」
私たちが行ったときは、音楽のおの字もないようなしなび具合でね。
みんなもうすっかりくたびれ果ててて、ほとんど半死人みたいな人たちばっかりだった。
それっていうのも、夜な夜な響く不思議な音色のせいだったんだ。
音楽の街もさすがに夜はほどほどに静かだったらしいんだけど、そこに聞こえてくる奇妙な音色。不思議に思いながらも、音楽好きの町の人たちだから素直に聞き入ってたらしいんだけど、それが毎夜毎晩続くうちに、段々生気を吸われたみたいにみんな元気がなくなっていったんだとか。
「ややややや、不思議なこともあるものですねえ」
本当にね。
それで、宿のごはんもひどいもので、耐えきれなくなった私たちは元凶を探して解決しようってことで、町を駆け回って、音色の元を探したんだ。でも町中に反響するみたいな不思議な響き方だから、これがなかなかはかどらない。
「無駄に走り回っちゃいましたねえ、あの時は」
「もうちょっと目星はつけてから動くべきだったわね」
ってわけで、町のひととか、外から来た商人とかに話聞いて情報を集めたり。なにか起こるきっかけみたいなことがあったんじゃないかって役所にいって事件事故の記録をあたってみたり。
それで、奇妙な亡くなり方をした錬金術師の命日と、奇妙な音楽が鳴り始めた時期が一致することを見つけたんだ。
だから不動産屋で鍵を借りて、屋敷を調査しに行ったんだよね。
「あれは不思議なお屋敷でしたねえ」
「屋敷の幽霊とか不動産屋は言ってたわね」
「ややややや、屋敷の幽霊、ですか? 面妖な話ですねえ」
そう、面妖で、不思議な話だった。
屋敷は当然空き家で、誰もいなかったんだけど、まるで誰かが出迎えるみたいに、屋敷の扉は勝手に開くし、お茶屋や茶菓子も出てくる。
私たちがマナーを守ってお行儀よくしてたら、屋敷の幽霊、なのかな。彼なのか、彼女なのか、それはようやく満足してくれたみたいだった。
屋敷の主人が死んだのに、いつまでたっても喧しく騒ぐ街のひとに、悼む間くらいは静かにしてくれって……そういう感じだったのかな。妄想だけど。
「ややややや、妄想でも、そういう物語があったのかもしれないと思うと、しんみりしますねえ」
「結局、町の連中は何もわかんないまま始まって、なんもわかんないまま終わってんだから、なんかしっくり来てないのよね、あたしは」
「まあまあ、屋敷の幽霊も満足してくれたようですから、良かったじゃないですか」
あの時見つけたオルゴールは、いまもたまに聞いてるんだ。
もう何の効果もないけど……でも、いい曲なんだよ。
用語解説
・呎(Futo)
現地の慣用単位系の長さの単位。一呎は三百四・八ミリメートルに相当する。複数形は呎。近年では、公的には交易単位系の使用が定められているが、民間では古くからの慣用単位系がいまも幅を利かせている。
ところでヤード・ポンド法は滅ぼされねばならない。
『えっこのフォントサイズ指定のポイントって七十二分の一インチなんですか? どっから出てきたその数字』
・ランタネーヨ(La Lanternejo)
東部の運河町。運河に面して発展しており、特に目立つものはないが欠けたものもない、東部らしい東部の街。
夏には慰霊として川に提灯を流す祭りがあり、そのためにランタンの町、ランタネーヨの名前が付けられている。
・ムジコ(Muziko)
プラート男爵領にある音楽の町。
男爵の援助もあって音楽が非常に推奨されており、住民のほとんどは楽器を扱える。
トルンペートが語るヴォーストでの日々。
バナナワニとの戦い、冒険以外の日々、そして甘き声ドルチャ・コンソーロの脅威。
パフィストのキノコ狩り(死)はほんと最悪だったんだけど、まあそんなピンチのりこえてそんなに経たないうちに、キノコ狩りリベンジに行く私たちもたいがいだよね。
「肝が太くいらっしゃいますねえ」
まあ私たちっていうか、主にリリオだけどね。
リリオが、結局まともにキノコ狩りできてませんよね! って言いだして、そしたら事務所の先輩、ウールソさんがね、いいとこ知ってるって。まあウールソさんは隠しもしなかったけど、やっぱりこれも試験だったらしいよ。
メザーガがリリオを冒険屋にしたくないんだって。
まあメザーガだけじゃなくて、リリオのお父さんもそうで、ようは将来のある若い娘にやくざな仕事をさせたくない、するにしてももっといろいろ経験してからでも遅くはないだろうって。
だから、試練だ試験だって言って面倒ごと吹っ掛けて諦めさせようとしてたんだよ。ガルディストさんが地下水道に誘ったときのもそうだって。
さすがにパフィストのはやり過ぎだって言ってたけど。
まあ、さいわいというか、ウールソさんは人格者っていうか常識あるっていうか、試験って言っても理不尽なものじゃなかったよ。山の歩き方とか、山の幸の見つけ方とか、獣への対処とか……そういう実力的なものをサラッと確認した後は、個人面談。
「ウールソ氏は武の神の武僧とのことで……僧侶らしい試験ということでしょうかねえ」
かもね。
作麼生、説破ってやつ。
ふたりもそれぞれ色々聞かれたらしいけど、詳しくは知らない。
覚悟とか、決意とか、信念とか、そういうのは自分だけのものだと思うしね。
アドバイスとかも別にしてない。そういう試験だっていうの知らなかったのもあるし、知ってても特に忠告できることはなかったかな。それで落ちるようなら、もうすこしモラトリアム過ごしても私は全然問題なかったし。心構えをする時間なんていくらあってもいいでしょ。
私?
私はなんだったかな。覚えてないかな。
「こいつ一度見聞きしたこと忘れないのよ」
「完全記憶能力というやつですかねえ」
「絶対全部覚えてますよ。なんならその日の鍋に入ってたキノコまで覚えてますからね」
うっさい。
恥ずかしいから言わない。トルンペートはにやにやしないの。
石茸、黒喇叭茸、作茸、牡蠣茸、杏鮑菇、滑子。あと一夜茸はバター炒めにして私だけいただいた。
リリオが採ってきた毒キノコはよく知らない。
「あってます?」
「たぶんあってるわよ」
「ややややや、記者向きの能力ですねえ」
まあ、なんだっけ、な。
ふたりとの日々が楽しいから、ふたりがどうあれ私はついていくよみたいな。そんな話をね。
やめやめ。普通に恥ずかしい。なし。ここカットして。
「どう思われますかねえ?」
「かわいい」
「かわいい」
「書いてよいということみたいですねえ」
多数決は民主主義じゃないんだよなあ……!
ええい、まあいいや。
とにかく、ウールソさんとの面談を済ませたら、いよいよ大将だよ。
結局、リリオを冒険屋にしたくないのはメザーガの事情で、都合なんだよね。
だから他の冒険屋の試験を通っても、結局はメザーガの胸三寸っていうか。
でもまあ、協調性とか、心構えとか、探索の要領だとか、そういうのはまあ一応試験に合格してるわけで、メザーガもそのあたりにケチつけるのは無理筋なわけで。
じゃあ暴力で決めようぜっていうのが、ほんと蛮族だよね。文明人としてはちょっと信じられない。まあ冒険屋って暴力が商材なわけだから、仕方ないといえば仕方ないけど。
私たち三人が、それぞれ事務所の冒険屋と試合して、勝てたら認めてやるって話でさ。
まあ強くなけりゃ冒険屋なんてやってらんないから妥当と言えば妥当だけど、新人冒険屋に対して現役冒険屋ぶつけてくるのは普通に大人げないと思うよね。
あ、トルンペートの相手は現役じゃなかった。
一応冒険屋目指してる子なんだけど、普段は事務員してるクナーボっていう子。男の娘ってやつかな。
「男の娘?」
「私たちもよくわかっていないウルウ語録の一つですね」
「なんかこう、かわいくて女装してる男の子みたいな感じなのかしらね」
そのあたりの定義はもめにもめるから私は断言しない。細かく分類されるらしいんだよ、あの界隈。いやでもまあわかるはわかるよ、そのこだわりは。微妙な違いの方がなんかノイズになるんだよね。
なんだっけ。
そうそうクナーボ。まあ見習いっていうか、まだ冒険屋ではなかったんだけど、それでもメザーガの秘蔵っ子だね。私は弓使いって実際には見たことなかったんだけど、恐ろしくはやいんだよね。
トルンペートってナイフ投げとか、まあ手数で攻める投擲戦法するんだけど、一度に複数投げるナイフに対して、弓で迎撃する、できるっていうのは普通におかしいと思う。
トルンペートもトルンペートで矢を見てはじくっていうのは普通におかしいと思うけど。
ま、結局トルンペートが勝ったけどね。近接もできるんだから人が悪いよ。
「なんでこの人、自分のことでもないのに誇らしげなんですかねえ?」
「ふふん、うちのトルンペートはすごいでしょう」
「あっ、ご主人の方もですねえ」
「これが《三輪百合》よ」
「そしてなぜあなたも誇らしげなんですかねえ……?」
私の相手は長門……ナージャってひとでね。私より大きな女性は初めて見たかもしれない。
「ウルウさんもかなりの長身ですけれど……ちなみに実際の数字は?」
「えーと六呎と……」
一八〇ちょっとね。交易尺で一八〇ちょっと。
「ずいぶんと大きなちょっとですねえ……」
まあ、ナージャとの戦いは特筆すべきこともないよ。
クレイジーに刃物っていうか、戦闘狂が刃物振り回して迫ってくるのを、私がなんとか避けまくったってだけ。私のことはいいんだよ。どうでも。
リリオの話しよう。リリオの記事書くべき。私はどうでもいい。
リリオの相手はメザーガでね。
知ってると思うけど、メザーガはブランクハーラの血統なんだって。リリオのお母さんの従兄らしいから、ブランクハーラの血は濃いんじゃない?
「あの伝説の冒険屋一族ブランクハーラ……メザーガ氏の伝説もいまなお語られていますね」
あの人本当にすごい冒険屋だったんだなあ……胃痛と肩こりに悩んでるおっさんなのに。
まあ、でも実際強いひとだったよ。
リリオ相手にもさ、ここから一歩でも動かしたら勝ちにしてやるって言い放って。魔法も使わないでやるって。
調子乗ってるなーって思ったけど、そりゃ調子乗るわって実力だったよね。
リリオの必殺技もしれっとかわすんだもん。
「リリオさんの必殺技というと、噂に名高い《雷鳴一閃》ですねえ」
「おお! 私の必殺技が世に知られていますよ!」
「酒場で酔う度に話すので名前だけはみんな知ってるらしいですねえ」
「……嫌な知られ方ですねえ……」
間抜けな知られ方だけど、あれはほとんど落雷みたいな威力だから、人間相手には過剰火力なんだよね。
まあメザーガはしれっとかわしたっていうかはじいたっていうか。
あれ魔法使ってないんだよね? おかしくない? バグってない?
「あれ納得いかなかったですよねえ」
「理屈としちゃ、たぶんリリオが作った風精の道を剣先にまとった魔力で叩いて跳ね上げさせて、雷精の道筋をずらしたんだと思うわ」
「フムン? そう言われると簡単なような……」
「簡単なわけないでしょ。壊さないで、あくまで跳ね上げるだけ。しかも修復もされないように雷精が通る一瞬前に。理屈じゃ可能でも、実践するなんて頭おかしいわよ」
トルンペート解説でさらに化け物になったなあ、あのおっさん……。
まあ、それでもリリオは勝ったんだけどね。
「勝たせてもらったと言います……」
いいんだよ、勝ったで。メザーガだって実力試しっていうより、気構えの方が大事だったんだろうし。
圧倒的な実力差を見せつけたメザーガに、それでも食らいついていこうっていうリリオの覚悟の強さが決め手だったと思うよ。
「いいですねえ! 若手冒険屋の未熟ながらも熱心な感じが出ててすごくいいですねえ!」
まあ、そこらへんはいい感じに脚色してもらって。
それで、まあ、いい加減冒険屋としても認められたしってことで、成人の儀とやらの旅を再開したんだよね。もともとリリオの目的は、ああいや、冒険屋になるのも目的だったけど、旅自体のゴールは、リリオのお母さんの故郷を見に行くことだったんだよね。
だからまあ、メザーガの知り合いの船主さんを頼って、運河伝いに船で南下していったんだけど……。
「船じゃすぐ着いちゃうからある程度までで、あとは陸路を行こう、っていうとまあ旅情って感じはあるけど、ねえ……」
「半分くらいはそれでしたけれど、もう半分くらいはウルウが船酔いで死んでしまうので、仕方ないというか……」
中身が全部出ると思ったね。全部出ても足りなくて裏返るかと。
馬車の揺れとか、こう、がたがたっとかの揺れはまだ耐えられるんだよ。電車とか乗ってたわけだし。
でも船の、こう、ぐわぁんっていうか、大振りに揺さぶられると内臓が揺れるっていうか、ああいうのダメ。無理。まだ小舟の方がいい。あれもあれで気持ち悪くなるけど。
「まあ、船を降りたランタネーヨの町で勝手に流した灯篭流しも楽しかったし」
「それに、ボイにも出会えたので、旅も楽しくなりましたね」
そうそう。
メザーガが準備してくれてたらしくてね。
船主のオンチョさんが受け渡してくれたんだけど、ほら、いま私たちが乗ってる子の立派な馬車に、それを曳いてくれる大熊犬のボイ。この子ともそのときであったんだ。
この子に牽かれて、私たちはリリオのお母さんの故郷まで向かったんだね。
船の旅は早いけど、やっぱり旅の情緒で言えば馬車の旅がいいよね。船はダメ。くそ。死ぬ。無理。
「ウルウの語彙力がまた死んでますね」
「さんざん吐いたものねえ」
ボイにひかれて訪れた最初の町がムジコの町だった。
音楽の街で有名なんだってね。
「おお! 東部にムジコありと称される音楽都市ですねえ」
「でもあたしたちはあの町の音楽らしい音楽って聞いてないのよね」
「またいつか行ってみたいですねえ」
私たちが行ったときは、音楽のおの字もないようなしなび具合でね。
みんなもうすっかりくたびれ果ててて、ほとんど半死人みたいな人たちばっかりだった。
それっていうのも、夜な夜な響く不思議な音色のせいだったんだ。
音楽の街もさすがに夜はほどほどに静かだったらしいんだけど、そこに聞こえてくる奇妙な音色。不思議に思いながらも、音楽好きの町の人たちだから素直に聞き入ってたらしいんだけど、それが毎夜毎晩続くうちに、段々生気を吸われたみたいにみんな元気がなくなっていったんだとか。
「ややややや、不思議なこともあるものですねえ」
本当にね。
それで、宿のごはんもひどいもので、耐えきれなくなった私たちは元凶を探して解決しようってことで、町を駆け回って、音色の元を探したんだ。でも町中に反響するみたいな不思議な響き方だから、これがなかなかはかどらない。
「無駄に走り回っちゃいましたねえ、あの時は」
「もうちょっと目星はつけてから動くべきだったわね」
ってわけで、町のひととか、外から来た商人とかに話聞いて情報を集めたり。なにか起こるきっかけみたいなことがあったんじゃないかって役所にいって事件事故の記録をあたってみたり。
それで、奇妙な亡くなり方をした錬金術師の命日と、奇妙な音楽が鳴り始めた時期が一致することを見つけたんだ。
だから不動産屋で鍵を借りて、屋敷を調査しに行ったんだよね。
「あれは不思議なお屋敷でしたねえ」
「屋敷の幽霊とか不動産屋は言ってたわね」
「ややややや、屋敷の幽霊、ですか? 面妖な話ですねえ」
そう、面妖で、不思議な話だった。
屋敷は当然空き家で、誰もいなかったんだけど、まるで誰かが出迎えるみたいに、屋敷の扉は勝手に開くし、お茶屋や茶菓子も出てくる。
私たちがマナーを守ってお行儀よくしてたら、屋敷の幽霊、なのかな。彼なのか、彼女なのか、それはようやく満足してくれたみたいだった。
屋敷の主人が死んだのに、いつまでたっても喧しく騒ぐ街のひとに、悼む間くらいは静かにしてくれって……そういう感じだったのかな。妄想だけど。
「ややややや、妄想でも、そういう物語があったのかもしれないと思うと、しんみりしますねえ」
「結局、町の連中は何もわかんないまま始まって、なんもわかんないまま終わってんだから、なんかしっくり来てないのよね、あたしは」
「まあまあ、屋敷の幽霊も満足してくれたようですから、良かったじゃないですか」
あの時見つけたオルゴールは、いまもたまに聞いてるんだ。
もう何の効果もないけど……でも、いい曲なんだよ。
用語解説
・呎(Futo)
現地の慣用単位系の長さの単位。一呎は三百四・八ミリメートルに相当する。複数形は呎。近年では、公的には交易単位系の使用が定められているが、民間では古くからの慣用単位系がいまも幅を利かせている。
ところでヤード・ポンド法は滅ぼされねばならない。
『えっこのフォントサイズ指定のポイントって七十二分の一インチなんですか? どっから出てきたその数字』
・ランタネーヨ(La Lanternejo)
東部の運河町。運河に面して発展しており、特に目立つものはないが欠けたものもない、東部らしい東部の街。
夏には慰霊として川に提灯を流す祭りがあり、そのためにランタンの町、ランタネーヨの名前が付けられている。
・ムジコ(Muziko)
プラート男爵領にある音楽の町。
男爵の援助もあって音楽が非常に推奨されており、住民のほとんどは楽器を扱える。


