前回のあらすじ
新進気鋭の若手冒険屋特集を組むという新聞記者トゥヤグラーモ。
彼女のインタビューが始まる。
メタ的なことを言えば書籍化にかこつけた総集編なのだ。なの。
いつか自分も冒険譚をなにかの形に残したい、とは常々考えていましたけれど、まさかこんなにも早くその機会が訪れるとは。
まあ、あくまでこれは私たちが新人冒険屋だからという企画での取材であって、私たちの活躍が確かなものとして世間に認められたというわけではないので、慢心しないように自重しなければなりませんね。それはそれとして、新進気鋭の若手冒険屋として期待の目がかけられているのは嬉しい限りですけれど。
…………まあ、トゥーヤーちゃんも漏らしていたように、若手の冒険屋が悪い方へと流れないようにいわば「善い子のお手本」として政府が流れを作ろうとしているのでしょうね。
冒険屋ってやっぱり、夢もあって浪漫もあって、という華やかな面は一部だけで、やくざな商売ではありますからね。暴力を商材としているからには、悪い方向へ傾いてしまえば犯罪者へまっしぐらです。なんなら善い冒険屋と悪い冒険屋、その両面を兼ね備えてしまっているようなものもいるでしょう。
騎士とかと一緒ですよ。自力救済という奴です。貧乏騎士と冒険屋の区別は難しいところがあります。
ともあれ、私たちの冒険についてのお話でしたね。
もちろん、喜んでさせていただきます。
「リリオさんは辺境伯のご令嬢ということで、いわば一番過酷な土地からの出発ですねえ」
過酷て。
いやまあ、過酷は過酷なんでしょうね、内地の方からすると。
貴族令嬢という言葉も、内地では全然意味が違ってくるというのもわかっています。物語なんかで言ういわゆるお姫様枠ですよね。知ってます。
私の場合は、兄が辺境伯を継いで、私の方は婚姻で関係を強化するような必要もないので、自由にしていいよという感じでした。というより、私が母の影響で子供のころから冒険屋に憧れていたので、父が折れたと言いますか。
「お父様は辺境伯閣下、お母様はあのブランクハーラとお聞きしていますねえ」
そうです、そうです。母は自分の冒険や、その中で見聞きしたお話を良くしてくれました。
その母が飛竜に丸のみにされてしまい、……んふふ、いえ、失礼、まあ亡くなったこともあって、成人の儀を機会に、母の故郷である南部のハヴェノを目指すことにしたんです。冒険屋としてね。
「成人の儀と言いますと、貴族の慣習という」
はい。諸国漫遊して世を知り民を知り、というやつですね。
辺境ではいまだに古い慣習を守っていますので、私も従者のトルンペートだけをおともに。
まあそのトルンペートも途中で撒いちゃったんですけど。
「えぇ……」
「あたしはまだあれ許してないわよ」
その節はすみませんでした。
ええ、まあ、トルンペートは良くしてくれたんですけれど、良くし過ぎてくれてダメになりそうだったので、途中で撒いて、ひとりで旅をしてやろうって突っ走っちゃったんですね。
それで境の森に踏み入ったんですけれど、まあ、調子に乗っていましたよね。
私は頑健ですし、辺境の地で野宿やらにも慣れているつもりでした。しかし慣れない気候に、慣れない土地、心身は休まらず、ひとりでいる心細さもあって、どんどんくたびれてしまいました。
いよいよダメかもというときに出会ったのが、ウルウです。
「お、ウルウさん登場ですねえ。どんな素敵な出会いだったんでしょうねえ!」
「素敵……?」
最初はウルウに気づかなかったんですよ。
さきほどトゥーヤーちゃんも体験したと思いますけれど、気配を絶つのがものすごーくうまいもので、全然気づかなかったんです。そこにいるのにまるで亡霊のように気配が薄くって。
なので私がひいこら言いながら森を歩いている後ろを、しれっと音もなくついてきてたんですね。
「えっ、急に怖い話になってませんかねえ……?」
「まあ普通に怖い話だと思う」
いま思うとかなり怪しい不審者ではあるんですけれど、ひとりで森を突っ切ろうとしてる私もたいがい不審でしたし、私がついてきてるのに気づいた後も、お互い変に声掛けられない状況でしたね。
でも、私が疲れてたら果物を摘んで枕元に置いてくれたりと、不器用ながらも気にかけてくれてたんですよ。
「いや普通に怖い話では……?」
「普通に怖い話だと思う」
「あたしもそう思う」
……………まあ、ともあれですね!
お互いに気づかないふりをしつつも、ちょっと奇妙な旅の仲間として進んでいくうちに現れたのが、やつです! あいつです! 熊木菟の襲撃ですね!
「おお! 危険な乙種魔獣ですね」
いまの私であればいい感じに勝負できると思うんですけれど、当時の私はまだ未熟で、疲労もしてましたし、何より咄嗟でした。ウルウを庇って攻撃を受けてしまい、あわやという危機に!
で、なんか起きたらウルウが倒してくれてました。すごいですね。
「そこを詳しく語って欲しいんですけどねえ!?」
「倒し方は企業秘密」
「まあいい感じに脚色しなさいよ」
「えぇ……」
そこでまあ、お互いに話し合って、私が頼み込んでついてきてもらえることになったんです。
ウルウは最初のうちは、結構辛辣というか厳しめだったんですけれどね、でも優しいひとなんですよ。
私が善き冒険屋を目指して頑張るなら、そうしているうちはついてきてくれると、そう言ってくれたんです。
今でも覚えています。
ウルウは言いました。「君がそうであるならば、君がそうであるうちは、君の寂しさを埋めてやるのも、やぶさかではない」
そのときのウルウの優しい微笑みに、一目ぼれしたといっていいでしょう。
「ははあ……ウルウさん、格好いいですからね。優しくそんなこと言われたらときめきますね」
「君、永遠にそれ擦るよねえ」
「あたしも見たかったわねえ。お願いしてもやってくんないのよこいつ」
「やだよ恥ずかしい」
「その恥ずかしいことしれっとやらかすのにねえ」
まあ、あの格好良くて美人で恥ずかしがり屋さんなウルウの姿は私の中だけの宝物ということで。
そんな風に最初はちょっと神秘的で不思議なウルウと旅していくうちにですね、段々ウルウのことがわかっていきました。潔癖症だったり。美味しいごはん食べるとちょっと微笑んだり。
野盗に襲われても、私ひとりとか、トルンペートとふたりとかだと、普通に斬ってしまうんですね。懸賞金とか目当てに生かして連れてくのも大変ですし。
でもウルウは、そういう理屈がわかってても、殺すまではしたくないっていうんです。私がぼっこぼこにした連中を介抱してやって、貧困のせいならって、お金を握らせて、更生してくれるようにって放してやるんですよ。
「はー…………それはまた、甘いと言いますか。それでまた野盗を繰り返してたら、ウルウさんのせいということでは?」
「まあ、そう言われても仕方ないとは思う。偽善だと思うし、実際は更生しなくて繰り返すっていうのは普通にあると思う」
「もしそうなったときは?」
「腹を切ってお詫びします……とまでは言えないけどね。殺さなかったことを責められるなら、この世の盗賊全員殺さないといけないし。単に私たちとのエンカウントがなかったことになる程度の話だよ」
「ははあ、甘いと思えば冷めてらっしゃる」
「うーん……まあ、なんていうか、あれだけ脅されてまだ野盗続けられるなら、それはもう天職だと思うしね」
「どんな脅しかただったやら……」
まあそのあたりも企業秘密ですね。
私も、あれを目の当たりにしてなお野盗を続けられたとは思いません。
まあそんな感じでようやくヴォーストにたどり着きました。
「北部の大都市、ヴォースト・デ・ドラーコですねえ」
ええ、ええ。
叔父のメザーガがそこで冒険屋事務所を構えていまして。
彼の事務所で冒険屋登録をしようと。
「《一の盾》のメザーガ氏ですねえ、ブランクハーラの血筋とお聞きしてますねえ」
「結構有名なんだね、メザーガ」
「あれで冒険屋界隈じゃあ名を残してんのよ」
メザーガ冒険屋事務所では、基本的な冒険屋としての仕事から叩き込まれました。メザーガとしては姪にあんまり危ない仕事してほしくなかったっていうのもあるみたいで、それこそどぶさらいとか、迷子の犬とか猫探しとか、小さなことだけれど労力はかかる、便利屋業ですよね、そういうのをさせられました。
実力はあるのに、ってくさりもしましたけど、ああいう地味な仕事をこなしたおかげで地に足の着いた冒険屋として常識を学べたと思います。
「地に足着いてるかな?」
「地に足着けてる連中に謝った方がいいわよね」
「お仲間のみなさんからは疑問の声も上がっておりますけれどねえ」
…………まあ、霹靂猫魚狩りとか、初心者冒険屋がやるには派手なことをしてたのは認めます。
でもあれは私というよりウルウですよ! ウルウがひとりで何十匹も仕留めたのが噂になったのがよくないですよ!
「何十匹もじゃない。三十八匹だよ」
「十分何十匹だと思いますけどねえ!?」
「それにリリオがバカでかいヌシを仕留めた方が大きいと思う」
「あんたらが霹靂猫魚の相場大崩れさせたのは変わんないわよ」
ま、まあそんなこともありましたね。
そうこうしてるうちに、ついにトルンペートに見つかってしまいました。
「確か境の森に入る前に撒いたとか」
「そうなのよ。こいつあたしに一服盛って縛り付けて置き去りにしやがったのよ」
「いつ聞いても徹底的だよねえ」
「まあ起きてすぐに抜け出して追いかけたけど」
「いつ聞いても妥当な逃げ方だったんだよねえ」
まっとうな手段でトルンペートを撒くのは無理でしたからねえ……。
まあ、そのあと私を追いかけて境の森の街道を突っ切ってヴォーストにたどり着いて、門で私が来てないことを確認してまた戻って、私とすれ違ってさまよって……なんて話を聞くとさすがに申し訳なくもなりました。
「連絡手段ないから、一度はぐれると詰むよね」
「まあ、来るのはわかってたんだからおとなしく待ってりゃよかったんだけどね、あたしも。メザーガに頼ればよかったわ」
「若さゆえの、という感じもしますねえ」
それで、トルンペートと合流したはいいんですけれど、私がしれっとウルウと冒険屋してるのを知ったトルンペートがそれはもう荒れまして。
「そりゃ荒れるわよ」
「最初は取り繕って言葉遣いも慇懃だったから、よけい怖かった」
「絶対怖がってなかったでしょあんた」
「うるさいちびだなあとは思ってた」
「あーん-たーねー!」
「出合いは最悪だったというわけですねえ」
ウルウもこの調子でからかうし、私は私で意固地になってしまって、トルンペートがじゃあ試してやるって、いろんな現場でウルウの実力を試そうとするんですよ。
鉄砲魚に鉄砲瓜……でもウルウがしれっと攻略しちゃうものだから、ついにトルンペートも我慢できなくなって、ウルウに一騎打ちを申し込んだんです。決闘ですよ。
ウルウは嫌がったんですけれど、トルンペートがウルウのことは信用できない、信用できない相手をお嬢様の隣にはいさせられない、って熱くなっちゃいまして。
「私のために争わないで! というやつですねえ」
いまでこそちょっとそんな気持ちもあったような気がしますけれど、私としてはふたりとも大事でしたから、どうしようっていう気持ちでしたね。
トルンペートがこれで満足してくれるなら、というか。
「ウルウさんが怪我するとか負けるとかは考えておられなかった?」
まったく。
トルンペートのことは知っていましたし、信じてもいましたけれど、ウルウは何というか、負けることだけはないというか。
でもだからこそどうなるんだろうか、どういう形で落ち着けられるんだろうかと困りました。そういうことはトルンペートに任せてしまっていたので。自分で考えるということをもうちょっと頑張らないとですね。
「まあ、河原での殴り合いみたいな感じだったよね」
「そんなさわやかな物語の決闘みたいな感じじゃなかったと思うけど……」
「でもそのあとともだちになったし」
「なったわねえ」
なんか急に距離近くなり過ぎじゃないですか、とは思いましたね。
私がいない間にどんなこと話して仲良くなったんですか?
「んー? ひみつ」
「ひみつよねー」
ほらぁ、こんなに仲いいんですよ。
「これ取材ってわかってますよねえ?」
用語解説
・成人の儀
貴族の子息・子女が成人すると、近隣の領地に旅に出すのが帝国の慣習である。
これは目的のひとつに他領のやり方を見て学ぶことがあり、またひとつに自領の不正などを見つけこれを報告し健全化を図ることがある。
その家によって、はっきりと成人の儀式であると明らかにして大々的に旅をするもの、立場を隠して一介の旅人として見て回るものなどがあり、リリオの場合はどちらかと言えば後者のようだ。
・ヴォースト
エージゲ子爵領ヴォースト。辺境領を除けば帝国最北東端の街。大きな川が街の真ん中を流れており、工場地区が存在する。正式にはヴォースト・デ・ドラーコ。臥龍山脈から続くやや低めの山々がせりだしてきており、これを竜の尾、ヴォースト・デ・ドラーコと呼ぶ。この山を見上げるようにふもとにできた街なので慣習的にヴォーストと呼ばれ、いまや正式名となっている。
新進気鋭の若手冒険屋特集を組むという新聞記者トゥヤグラーモ。
彼女のインタビューが始まる。
メタ的なことを言えば書籍化にかこつけた総集編なのだ。なの。
いつか自分も冒険譚をなにかの形に残したい、とは常々考えていましたけれど、まさかこんなにも早くその機会が訪れるとは。
まあ、あくまでこれは私たちが新人冒険屋だからという企画での取材であって、私たちの活躍が確かなものとして世間に認められたというわけではないので、慢心しないように自重しなければなりませんね。それはそれとして、新進気鋭の若手冒険屋として期待の目がかけられているのは嬉しい限りですけれど。
…………まあ、トゥーヤーちゃんも漏らしていたように、若手の冒険屋が悪い方へと流れないようにいわば「善い子のお手本」として政府が流れを作ろうとしているのでしょうね。
冒険屋ってやっぱり、夢もあって浪漫もあって、という華やかな面は一部だけで、やくざな商売ではありますからね。暴力を商材としているからには、悪い方向へ傾いてしまえば犯罪者へまっしぐらです。なんなら善い冒険屋と悪い冒険屋、その両面を兼ね備えてしまっているようなものもいるでしょう。
騎士とかと一緒ですよ。自力救済という奴です。貧乏騎士と冒険屋の区別は難しいところがあります。
ともあれ、私たちの冒険についてのお話でしたね。
もちろん、喜んでさせていただきます。
「リリオさんは辺境伯のご令嬢ということで、いわば一番過酷な土地からの出発ですねえ」
過酷て。
いやまあ、過酷は過酷なんでしょうね、内地の方からすると。
貴族令嬢という言葉も、内地では全然意味が違ってくるというのもわかっています。物語なんかで言ういわゆるお姫様枠ですよね。知ってます。
私の場合は、兄が辺境伯を継いで、私の方は婚姻で関係を強化するような必要もないので、自由にしていいよという感じでした。というより、私が母の影響で子供のころから冒険屋に憧れていたので、父が折れたと言いますか。
「お父様は辺境伯閣下、お母様はあのブランクハーラとお聞きしていますねえ」
そうです、そうです。母は自分の冒険や、その中で見聞きしたお話を良くしてくれました。
その母が飛竜に丸のみにされてしまい、……んふふ、いえ、失礼、まあ亡くなったこともあって、成人の儀を機会に、母の故郷である南部のハヴェノを目指すことにしたんです。冒険屋としてね。
「成人の儀と言いますと、貴族の慣習という」
はい。諸国漫遊して世を知り民を知り、というやつですね。
辺境ではいまだに古い慣習を守っていますので、私も従者のトルンペートだけをおともに。
まあそのトルンペートも途中で撒いちゃったんですけど。
「えぇ……」
「あたしはまだあれ許してないわよ」
その節はすみませんでした。
ええ、まあ、トルンペートは良くしてくれたんですけれど、良くし過ぎてくれてダメになりそうだったので、途中で撒いて、ひとりで旅をしてやろうって突っ走っちゃったんですね。
それで境の森に踏み入ったんですけれど、まあ、調子に乗っていましたよね。
私は頑健ですし、辺境の地で野宿やらにも慣れているつもりでした。しかし慣れない気候に、慣れない土地、心身は休まらず、ひとりでいる心細さもあって、どんどんくたびれてしまいました。
いよいよダメかもというときに出会ったのが、ウルウです。
「お、ウルウさん登場ですねえ。どんな素敵な出会いだったんでしょうねえ!」
「素敵……?」
最初はウルウに気づかなかったんですよ。
さきほどトゥーヤーちゃんも体験したと思いますけれど、気配を絶つのがものすごーくうまいもので、全然気づかなかったんです。そこにいるのにまるで亡霊のように気配が薄くって。
なので私がひいこら言いながら森を歩いている後ろを、しれっと音もなくついてきてたんですね。
「えっ、急に怖い話になってませんかねえ……?」
「まあ普通に怖い話だと思う」
いま思うとかなり怪しい不審者ではあるんですけれど、ひとりで森を突っ切ろうとしてる私もたいがい不審でしたし、私がついてきてるのに気づいた後も、お互い変に声掛けられない状況でしたね。
でも、私が疲れてたら果物を摘んで枕元に置いてくれたりと、不器用ながらも気にかけてくれてたんですよ。
「いや普通に怖い話では……?」
「普通に怖い話だと思う」
「あたしもそう思う」
……………まあ、ともあれですね!
お互いに気づかないふりをしつつも、ちょっと奇妙な旅の仲間として進んでいくうちに現れたのが、やつです! あいつです! 熊木菟の襲撃ですね!
「おお! 危険な乙種魔獣ですね」
いまの私であればいい感じに勝負できると思うんですけれど、当時の私はまだ未熟で、疲労もしてましたし、何より咄嗟でした。ウルウを庇って攻撃を受けてしまい、あわやという危機に!
で、なんか起きたらウルウが倒してくれてました。すごいですね。
「そこを詳しく語って欲しいんですけどねえ!?」
「倒し方は企業秘密」
「まあいい感じに脚色しなさいよ」
「えぇ……」
そこでまあ、お互いに話し合って、私が頼み込んでついてきてもらえることになったんです。
ウルウは最初のうちは、結構辛辣というか厳しめだったんですけれどね、でも優しいひとなんですよ。
私が善き冒険屋を目指して頑張るなら、そうしているうちはついてきてくれると、そう言ってくれたんです。
今でも覚えています。
ウルウは言いました。「君がそうであるならば、君がそうであるうちは、君の寂しさを埋めてやるのも、やぶさかではない」
そのときのウルウの優しい微笑みに、一目ぼれしたといっていいでしょう。
「ははあ……ウルウさん、格好いいですからね。優しくそんなこと言われたらときめきますね」
「君、永遠にそれ擦るよねえ」
「あたしも見たかったわねえ。お願いしてもやってくんないのよこいつ」
「やだよ恥ずかしい」
「その恥ずかしいことしれっとやらかすのにねえ」
まあ、あの格好良くて美人で恥ずかしがり屋さんなウルウの姿は私の中だけの宝物ということで。
そんな風に最初はちょっと神秘的で不思議なウルウと旅していくうちにですね、段々ウルウのことがわかっていきました。潔癖症だったり。美味しいごはん食べるとちょっと微笑んだり。
野盗に襲われても、私ひとりとか、トルンペートとふたりとかだと、普通に斬ってしまうんですね。懸賞金とか目当てに生かして連れてくのも大変ですし。
でもウルウは、そういう理屈がわかってても、殺すまではしたくないっていうんです。私がぼっこぼこにした連中を介抱してやって、貧困のせいならって、お金を握らせて、更生してくれるようにって放してやるんですよ。
「はー…………それはまた、甘いと言いますか。それでまた野盗を繰り返してたら、ウルウさんのせいということでは?」
「まあ、そう言われても仕方ないとは思う。偽善だと思うし、実際は更生しなくて繰り返すっていうのは普通にあると思う」
「もしそうなったときは?」
「腹を切ってお詫びします……とまでは言えないけどね。殺さなかったことを責められるなら、この世の盗賊全員殺さないといけないし。単に私たちとのエンカウントがなかったことになる程度の話だよ」
「ははあ、甘いと思えば冷めてらっしゃる」
「うーん……まあ、なんていうか、あれだけ脅されてまだ野盗続けられるなら、それはもう天職だと思うしね」
「どんな脅しかただったやら……」
まあそのあたりも企業秘密ですね。
私も、あれを目の当たりにしてなお野盗を続けられたとは思いません。
まあそんな感じでようやくヴォーストにたどり着きました。
「北部の大都市、ヴォースト・デ・ドラーコですねえ」
ええ、ええ。
叔父のメザーガがそこで冒険屋事務所を構えていまして。
彼の事務所で冒険屋登録をしようと。
「《一の盾》のメザーガ氏ですねえ、ブランクハーラの血筋とお聞きしてますねえ」
「結構有名なんだね、メザーガ」
「あれで冒険屋界隈じゃあ名を残してんのよ」
メザーガ冒険屋事務所では、基本的な冒険屋としての仕事から叩き込まれました。メザーガとしては姪にあんまり危ない仕事してほしくなかったっていうのもあるみたいで、それこそどぶさらいとか、迷子の犬とか猫探しとか、小さなことだけれど労力はかかる、便利屋業ですよね、そういうのをさせられました。
実力はあるのに、ってくさりもしましたけど、ああいう地味な仕事をこなしたおかげで地に足の着いた冒険屋として常識を学べたと思います。
「地に足着いてるかな?」
「地に足着けてる連中に謝った方がいいわよね」
「お仲間のみなさんからは疑問の声も上がっておりますけれどねえ」
…………まあ、霹靂猫魚狩りとか、初心者冒険屋がやるには派手なことをしてたのは認めます。
でもあれは私というよりウルウですよ! ウルウがひとりで何十匹も仕留めたのが噂になったのがよくないですよ!
「何十匹もじゃない。三十八匹だよ」
「十分何十匹だと思いますけどねえ!?」
「それにリリオがバカでかいヌシを仕留めた方が大きいと思う」
「あんたらが霹靂猫魚の相場大崩れさせたのは変わんないわよ」
ま、まあそんなこともありましたね。
そうこうしてるうちに、ついにトルンペートに見つかってしまいました。
「確か境の森に入る前に撒いたとか」
「そうなのよ。こいつあたしに一服盛って縛り付けて置き去りにしやがったのよ」
「いつ聞いても徹底的だよねえ」
「まあ起きてすぐに抜け出して追いかけたけど」
「いつ聞いても妥当な逃げ方だったんだよねえ」
まっとうな手段でトルンペートを撒くのは無理でしたからねえ……。
まあ、そのあと私を追いかけて境の森の街道を突っ切ってヴォーストにたどり着いて、門で私が来てないことを確認してまた戻って、私とすれ違ってさまよって……なんて話を聞くとさすがに申し訳なくもなりました。
「連絡手段ないから、一度はぐれると詰むよね」
「まあ、来るのはわかってたんだからおとなしく待ってりゃよかったんだけどね、あたしも。メザーガに頼ればよかったわ」
「若さゆえの、という感じもしますねえ」
それで、トルンペートと合流したはいいんですけれど、私がしれっとウルウと冒険屋してるのを知ったトルンペートがそれはもう荒れまして。
「そりゃ荒れるわよ」
「最初は取り繕って言葉遣いも慇懃だったから、よけい怖かった」
「絶対怖がってなかったでしょあんた」
「うるさいちびだなあとは思ってた」
「あーん-たーねー!」
「出合いは最悪だったというわけですねえ」
ウルウもこの調子でからかうし、私は私で意固地になってしまって、トルンペートがじゃあ試してやるって、いろんな現場でウルウの実力を試そうとするんですよ。
鉄砲魚に鉄砲瓜……でもウルウがしれっと攻略しちゃうものだから、ついにトルンペートも我慢できなくなって、ウルウに一騎打ちを申し込んだんです。決闘ですよ。
ウルウは嫌がったんですけれど、トルンペートがウルウのことは信用できない、信用できない相手をお嬢様の隣にはいさせられない、って熱くなっちゃいまして。
「私のために争わないで! というやつですねえ」
いまでこそちょっとそんな気持ちもあったような気がしますけれど、私としてはふたりとも大事でしたから、どうしようっていう気持ちでしたね。
トルンペートがこれで満足してくれるなら、というか。
「ウルウさんが怪我するとか負けるとかは考えておられなかった?」
まったく。
トルンペートのことは知っていましたし、信じてもいましたけれど、ウルウは何というか、負けることだけはないというか。
でもだからこそどうなるんだろうか、どういう形で落ち着けられるんだろうかと困りました。そういうことはトルンペートに任せてしまっていたので。自分で考えるということをもうちょっと頑張らないとですね。
「まあ、河原での殴り合いみたいな感じだったよね」
「そんなさわやかな物語の決闘みたいな感じじゃなかったと思うけど……」
「でもそのあとともだちになったし」
「なったわねえ」
なんか急に距離近くなり過ぎじゃないですか、とは思いましたね。
私がいない間にどんなこと話して仲良くなったんですか?
「んー? ひみつ」
「ひみつよねー」
ほらぁ、こんなに仲いいんですよ。
「これ取材ってわかってますよねえ?」
用語解説
・成人の儀
貴族の子息・子女が成人すると、近隣の領地に旅に出すのが帝国の慣習である。
これは目的のひとつに他領のやり方を見て学ぶことがあり、またひとつに自領の不正などを見つけこれを報告し健全化を図ることがある。
その家によって、はっきりと成人の儀式であると明らかにして大々的に旅をするもの、立場を隠して一介の旅人として見て回るものなどがあり、リリオの場合はどちらかと言えば後者のようだ。
・ヴォースト
エージゲ子爵領ヴォースト。辺境領を除けば帝国最北東端の街。大きな川が街の真ん中を流れており、工場地区が存在する。正式にはヴォースト・デ・ドラーコ。臥龍山脈から続くやや低めの山々がせりだしてきており、これを竜の尾、ヴォースト・デ・ドラーコと呼ぶ。この山を見上げるようにふもとにできた街なので慣習的にヴォーストと呼ばれ、いまや正式名となっている。


