これまでのあらすじ
ネアカクソデカボイス馬鹿笑いウルウに続いて、溶けた猫系自堕落脱力トルンペートが誕生してしまった。
はたしてリリオはどう変わってしまうのか。
まあそこまで気にもならないかな……だいたいわかるし……。
ちゃん様の加護とかアイテムってやっぱろくでもないんだなあと思いながら、ワインの残りをグラスに注ぐ。まあ、これでも普通に時間制限つきだし取り返しがつくからちゃん様印としては良心的らしい。取り返しのつかないものを神殿で普通に売るんじゃないよ。
さて、どうやら性格を反転させる効果であるらしい謎ワイン。
私とトルンペートがやったんだから、リリオにも最後までやってもらおう。
小さい瓶だったし、ちょうどこのいっぱいで終わりだしね。
「うーん……ふたりの醜態を見た後だとちょっとひるみますね」
「醜態言うな」
「忘れなさいよ」
「無茶言わないでくださいよ。まあ、たぶん私も醜態をさらすのでおあいこということで」
醜態をさらしたっていう恥があるからついつんつんしちゃうけど、リリオもまたその醜態をさらすということで、実はちょっと興味津々ではある。トルンペートもしっかり服を着直しておすまし顔だけど、リリオがどんなことになるのかとそわそわしている。それでいいのか、忠誠心溢れる武装女中。
リリオはちょっと嫌そうな顔をしつつも、グラスを掴んで一息に飲み干してしまった。
ちろっと唇を舐めて、まあこんなものですよねと言う顔。味に関してはまあ、ほんと普通だった。普通過ぎて、これを食事中とかに盛られたら絶対気づかなかっただろう。
それでもちゃんと効果は出てて、お酒に強いリリオがすぐにぽわーっと赤くなって、ゆらゆら揺れ始める。
ここまでは私とトルンペートも一緒だったけど、この後はどうなるか。
「んん……んにゅ…………」
「さあどうな感じなのよリリオ。どう? どう?」
「トルンペート、忠誠心が口から出てるよ」
「おっと、じゅずる」
よだれたらしてるトルンペートはさておき、リリオはうつむいたままゆらゆら揺れるだけだった。
呼びかけにも、はっきりした声が返ってこない。リリオだけ酔いが強く出てる……ってわけでもないよね。ちょっと心配になって寄ってみたら、露骨に避けられた。
きょとんとして、伸ばしかけた手がさまよう。
「…………? ちょっと、リリオ?」
「……んや…………」
トルンペートが寄っても、やはりリリオは避けてしまった。もごもごしてて聞き取りづらかったけど、たぶん、やだって言ったのかな。トルンペートが固まっちゃったし。雑に扱われたり放置されたりは全然悦ぶけど、ガチで拒絶されることってなかったんだろうなあ。
まあ、かくいう私も避けられちゃったのでメンタルががりがり削れて自死? 自死? と脳裏でウルウちゃんが刃物持ちだしちゃったぞ。
「ウルウ、呼吸、呼吸するのよ。吸ったら吐くの。あんた吸ってばっかよ」
「はっ、ハァーッ! スゥーッ! ハァーッ!」
「力強い呼吸」
「危うく過呼吸になるところだった……」
私たち二人のメンタルに大ダメージを与えたリリオは、相変わらず俯いて、縮こまって、もじもじとしている。もじもじとしている?? 普段のリリオにそぐわないワードに脳が混乱する。
そう、リリオはもじもじとしていた。落ち着かない様子で手遊びしながら。
トルンペートが意を決して距離を詰め、横から髪をかき上げてやると、赤くなったリリオは嫌がるように身をよじるけど、弱々しい。普段なら嫌だったら押しのけたり、はたいたりくらいはするのに。
その目はうるんで、弱々しい吐息が漏れ出た。
「や、やだぁ……」
「な、なによ……なにが嫌だっていうのよ」
「やンたぁ……見んでねぇべさ……」
おくに言葉で弱々しく抗うリリオの姿はひどく哀れっぽかった。
小さな体は細かく震え、力なく、頼りなく、まるで雨に打たれる百合の花のようだった。
あるいははじめて病院に連れてこられてビビり散らしてる子犬のようだった。
「やだ…………えっちじゃない」
「トルンペート、ステイ、ステイ。離れようね。ほらっ」
「あっ、ちょっと、あんただって思うでしょ!?」
「いや、ちょっとわかんないかな……」
「えっちだって! 絶対えっち!」
「トルンペート、たまに壊れるよね……いまのリリオみても湧いてくるのは母性くらいでしょ」
「あたしのこれも母性よ!!」
「きみの母性、湿度が高いんだよなあ……」
暴れるトルンペートを抑え込んでぺいっと放り投げてたら、ちょん、と袖を引かれる。振り向いて見たら、おじおずと手を伸ばして、指先でいじらしく私の袖をつまむリリオの姿。なにこれかわいい。
「どうしたの、リリオ。もう怖くないよ?」
「ん……んに…………」
もじもじするリリオに、無理に聞き出しても逃げちゃいそうだなと、私はただ目線を合わせて待ってあげる。するとリリオはもじもじしながら私にちょっとずつ近づいて、耳元にこそこそ話をしてくれた。
「あの、ね……あの……」
「うん」
「ん、ん………」
「うん」
「……………だっこ」
「うん、いいよ」
がんばって言葉にしてくれたリリオを抱き上げて、膝の上にのせて抱きしめてあげる。リリオもまた遠慮しいしいぎゅうと抱き着いてくる。かわいい。いくら身長差があるとはいっても、密度の高い筋肉のせいか見た目以上にリリオは重い。でもこのくらいなら苦ではない。ちょっと膝の血流が死んで息が苦しくなるだけだ。ポカポカ子ども体温で優しい気持ちになるくらいだね。
「ふみゅ……」
「よしよし……いい子だね……」
なんか脳のダメなところがじゅんじゅわ刺激されてる気がする。
リリオを抱き上げると、ちょうど胸に顎が乗る感じ。それがちょうどいい枕になるのか、リリオはすこしまどろむように、こことよさげに目を閉じた。
子供出来たらこんな感じなのかなあってちょっと妄想してしまう。自分の子供を愛してあげる自信はないけど、でも、もしかしたら、ふたりと家庭をもって、ふたりの子供をあやすようなそんな日常もありなのかもしれない。内気で甘えん坊な子供……悪くない。
なんてポカポカと春の陽だまりのような想像に胸をときめかせていたら、トルンペートがジト目で横から見てくる。
「こら、ダメだよトルンペート。お姉ちゃんでしょ」
「あんたがどんな妄想に浸ってたのかは聞かないけど……リリオ、もう正気に戻ってるでしょ」
「えっ」
「なんで言うんですかトルンペート」
「えっ」
見下ろせば、あの内気で甘えん坊でもじもじと抱っこを求めてくるようなリリオちゃんはそこにはいなくて、愛されて育った満点笑顔の健康優良児が元気に私の胸を堪能しているところだった。
私はそれをポイッと放り捨てて「あいてっ」、フードをかぶって壁に向かう。恥だ。恥が私を殺そうとしている。
「ああっ、ほら、トルンペートがばらすからウルウがまた壁と一体化しようとしてるじゃないですか!」
「ほっといたらあんたずっと堪能してたでしょ。あたしもしたいわよ!」
「トルンペートはさっき抱き上げてもらってたじゃないですか、いっぱいに顔うずめてましたよね」
「あの時は脱力してて堪能とかじゃなかったのよ! それにしたいのはリリオを赤ちゃんみたいに抱っこしたいのよ!」
「ええ…………トルンペートは母性がちょっと足りないというか……」
「あんたよりはあるわよ!! ほら! 抱き着きなさいよ! そして吸いなさいよ!」
「母性じゃないのがはみ出てるんですよねえ」
キャンキャンと騒がしいふたりをおいて、私は壁と一体化する。
お酒も、変なジョークグッズも、やはりほどほどにしないといけない。
私たちは、と言うか少なくとも私は、理性と分別のある大人として、ふさわしいふるまいをしていかなくてはならないんだなあ、と人知れず決意するのだった。
それはそれとしてその晩はふたりを赤ちゃんにしたし私も赤ちゃんになった。
ひとは時に赤ちゃんにでもならなければやってらんねー時があるのだった。
ちょうど《おしゃぶり》もあることだし。
用語解説
・《おしゃぶり》
ゲーム内アイテム。頭部装備品。
完全な装飾目的のアイテムで、効果はなにもない。
恐ろしいことに、おしゃぶり以外の赤ちゃん装備も一通りそろう。
とあるゲーム実況者が常にこの装備でプレイし、失敗したりわからないことがある度に「仕方ねーだろ赤ちゃんなんだからよー」と繰り返し、一部で有名になった。
『これを渡しておこう。苦痛に耐えられぬ時くわえるがいい』
ネアカクソデカボイス馬鹿笑いウルウに続いて、溶けた猫系自堕落脱力トルンペートが誕生してしまった。
はたしてリリオはどう変わってしまうのか。
まあそこまで気にもならないかな……だいたいわかるし……。
ちゃん様の加護とかアイテムってやっぱろくでもないんだなあと思いながら、ワインの残りをグラスに注ぐ。まあ、これでも普通に時間制限つきだし取り返しがつくからちゃん様印としては良心的らしい。取り返しのつかないものを神殿で普通に売るんじゃないよ。
さて、どうやら性格を反転させる効果であるらしい謎ワイン。
私とトルンペートがやったんだから、リリオにも最後までやってもらおう。
小さい瓶だったし、ちょうどこのいっぱいで終わりだしね。
「うーん……ふたりの醜態を見た後だとちょっとひるみますね」
「醜態言うな」
「忘れなさいよ」
「無茶言わないでくださいよ。まあ、たぶん私も醜態をさらすのでおあいこということで」
醜態をさらしたっていう恥があるからついつんつんしちゃうけど、リリオもまたその醜態をさらすということで、実はちょっと興味津々ではある。トルンペートもしっかり服を着直しておすまし顔だけど、リリオがどんなことになるのかとそわそわしている。それでいいのか、忠誠心溢れる武装女中。
リリオはちょっと嫌そうな顔をしつつも、グラスを掴んで一息に飲み干してしまった。
ちろっと唇を舐めて、まあこんなものですよねと言う顔。味に関してはまあ、ほんと普通だった。普通過ぎて、これを食事中とかに盛られたら絶対気づかなかっただろう。
それでもちゃんと効果は出てて、お酒に強いリリオがすぐにぽわーっと赤くなって、ゆらゆら揺れ始める。
ここまでは私とトルンペートも一緒だったけど、この後はどうなるか。
「んん……んにゅ…………」
「さあどうな感じなのよリリオ。どう? どう?」
「トルンペート、忠誠心が口から出てるよ」
「おっと、じゅずる」
よだれたらしてるトルンペートはさておき、リリオはうつむいたままゆらゆら揺れるだけだった。
呼びかけにも、はっきりした声が返ってこない。リリオだけ酔いが強く出てる……ってわけでもないよね。ちょっと心配になって寄ってみたら、露骨に避けられた。
きょとんとして、伸ばしかけた手がさまよう。
「…………? ちょっと、リリオ?」
「……んや…………」
トルンペートが寄っても、やはりリリオは避けてしまった。もごもごしてて聞き取りづらかったけど、たぶん、やだって言ったのかな。トルンペートが固まっちゃったし。雑に扱われたり放置されたりは全然悦ぶけど、ガチで拒絶されることってなかったんだろうなあ。
まあ、かくいう私も避けられちゃったのでメンタルががりがり削れて自死? 自死? と脳裏でウルウちゃんが刃物持ちだしちゃったぞ。
「ウルウ、呼吸、呼吸するのよ。吸ったら吐くの。あんた吸ってばっかよ」
「はっ、ハァーッ! スゥーッ! ハァーッ!」
「力強い呼吸」
「危うく過呼吸になるところだった……」
私たち二人のメンタルに大ダメージを与えたリリオは、相変わらず俯いて、縮こまって、もじもじとしている。もじもじとしている?? 普段のリリオにそぐわないワードに脳が混乱する。
そう、リリオはもじもじとしていた。落ち着かない様子で手遊びしながら。
トルンペートが意を決して距離を詰め、横から髪をかき上げてやると、赤くなったリリオは嫌がるように身をよじるけど、弱々しい。普段なら嫌だったら押しのけたり、はたいたりくらいはするのに。
その目はうるんで、弱々しい吐息が漏れ出た。
「や、やだぁ……」
「な、なによ……なにが嫌だっていうのよ」
「やンたぁ……見んでねぇべさ……」
おくに言葉で弱々しく抗うリリオの姿はひどく哀れっぽかった。
小さな体は細かく震え、力なく、頼りなく、まるで雨に打たれる百合の花のようだった。
あるいははじめて病院に連れてこられてビビり散らしてる子犬のようだった。
「やだ…………えっちじゃない」
「トルンペート、ステイ、ステイ。離れようね。ほらっ」
「あっ、ちょっと、あんただって思うでしょ!?」
「いや、ちょっとわかんないかな……」
「えっちだって! 絶対えっち!」
「トルンペート、たまに壊れるよね……いまのリリオみても湧いてくるのは母性くらいでしょ」
「あたしのこれも母性よ!!」
「きみの母性、湿度が高いんだよなあ……」
暴れるトルンペートを抑え込んでぺいっと放り投げてたら、ちょん、と袖を引かれる。振り向いて見たら、おじおずと手を伸ばして、指先でいじらしく私の袖をつまむリリオの姿。なにこれかわいい。
「どうしたの、リリオ。もう怖くないよ?」
「ん……んに…………」
もじもじするリリオに、無理に聞き出しても逃げちゃいそうだなと、私はただ目線を合わせて待ってあげる。するとリリオはもじもじしながら私にちょっとずつ近づいて、耳元にこそこそ話をしてくれた。
「あの、ね……あの……」
「うん」
「ん、ん………」
「うん」
「……………だっこ」
「うん、いいよ」
がんばって言葉にしてくれたリリオを抱き上げて、膝の上にのせて抱きしめてあげる。リリオもまた遠慮しいしいぎゅうと抱き着いてくる。かわいい。いくら身長差があるとはいっても、密度の高い筋肉のせいか見た目以上にリリオは重い。でもこのくらいなら苦ではない。ちょっと膝の血流が死んで息が苦しくなるだけだ。ポカポカ子ども体温で優しい気持ちになるくらいだね。
「ふみゅ……」
「よしよし……いい子だね……」
なんか脳のダメなところがじゅんじゅわ刺激されてる気がする。
リリオを抱き上げると、ちょうど胸に顎が乗る感じ。それがちょうどいい枕になるのか、リリオはすこしまどろむように、こことよさげに目を閉じた。
子供出来たらこんな感じなのかなあってちょっと妄想してしまう。自分の子供を愛してあげる自信はないけど、でも、もしかしたら、ふたりと家庭をもって、ふたりの子供をあやすようなそんな日常もありなのかもしれない。内気で甘えん坊な子供……悪くない。
なんてポカポカと春の陽だまりのような想像に胸をときめかせていたら、トルンペートがジト目で横から見てくる。
「こら、ダメだよトルンペート。お姉ちゃんでしょ」
「あんたがどんな妄想に浸ってたのかは聞かないけど……リリオ、もう正気に戻ってるでしょ」
「えっ」
「なんで言うんですかトルンペート」
「えっ」
見下ろせば、あの内気で甘えん坊でもじもじと抱っこを求めてくるようなリリオちゃんはそこにはいなくて、愛されて育った満点笑顔の健康優良児が元気に私の胸を堪能しているところだった。
私はそれをポイッと放り捨てて「あいてっ」、フードをかぶって壁に向かう。恥だ。恥が私を殺そうとしている。
「ああっ、ほら、トルンペートがばらすからウルウがまた壁と一体化しようとしてるじゃないですか!」
「ほっといたらあんたずっと堪能してたでしょ。あたしもしたいわよ!」
「トルンペートはさっき抱き上げてもらってたじゃないですか、いっぱいに顔うずめてましたよね」
「あの時は脱力してて堪能とかじゃなかったのよ! それにしたいのはリリオを赤ちゃんみたいに抱っこしたいのよ!」
「ええ…………トルンペートは母性がちょっと足りないというか……」
「あんたよりはあるわよ!! ほら! 抱き着きなさいよ! そして吸いなさいよ!」
「母性じゃないのがはみ出てるんですよねえ」
キャンキャンと騒がしいふたりをおいて、私は壁と一体化する。
お酒も、変なジョークグッズも、やはりほどほどにしないといけない。
私たちは、と言うか少なくとも私は、理性と分別のある大人として、ふさわしいふるまいをしていかなくてはならないんだなあ、と人知れず決意するのだった。
それはそれとしてその晩はふたりを赤ちゃんにしたし私も赤ちゃんになった。
ひとは時に赤ちゃんにでもならなければやってらんねー時があるのだった。
ちょうど《おしゃぶり》もあることだし。
用語解説
・《おしゃぶり》
ゲーム内アイテム。頭部装備品。
完全な装飾目的のアイテムで、効果はなにもない。
恐ろしいことに、おしゃぶり以外の赤ちゃん装備も一通りそろう。
とあるゲーム実況者が常にこの装備でプレイし、失敗したりわからないことがある度に「仕方ねーだろ赤ちゃんなんだからよー」と繰り返し、一部で有名になった。
『これを渡しておこう。苦痛に耐えられぬ時くわえるがいい』


